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【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!  作者: はづも
第二章

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1 別々の道、のはずだった。

 時は過ぎ、カレンは20歳に。

 幼い頃は大変仲のよかったジョンズワートとも、今では、社交の場で会った時に軽く挨拶を交わす程度の関係だ。

 公爵家の人間につけられた傷のあるカレンであったが、幸い、それなりの数の縁談が持ち込まれていた。

 ジョンズワートと距離を取っているから、他の男性も動きやすいのだろう。

 ホーネージュ王国では、20を超える頃には婚約をしている貴族が多い。

 だから、カレンもそろそろと考えて動いていた。



 ジョンズワートの方はといえば、23歳になったというのに未だ婚約も結婚もしていない。

 それも仕方がないのかもしれない。

 2年ほど前、ジョンズワートの父が病気で亡くなった。

 ある程度の準備期間はあったものの、彼は若くして公爵の地位に就いてしまったのである。

 あまりの忙しさや疲労に、悲しみ。相手を決める余裕などなかったのだろう。

 だが、最近は少し落ち着いてきたようだ。

 彼と懇意にしているという噂のサラも、公爵家に勤め続けている。

 ジョンズワートは、このままサラと結婚するのではないかと、カレンは思っていた。


 サラは男爵家の生まれで、ジョンズワートの妹の侍女。

 家柄を考えれば不釣り合いかもしれないが、彼女は父を亡くしたジョンズワートを懸命に支えた人なのだと、カレンは聞いていた。

 ジョンズワートが大変な目に遭っていると知っていたのに、彼を放置したカレンとは大違いだ。

 ジョンズワートには、サラがいる。だから、カレンはもう必要ない。

 彼との結婚を望んだこともあったし、婚約を申し込まれたこともあった。

 あれから8年。カレンとジョンズワートは、それぞれ別の道を歩むのだ。




「とはいえ……。結婚相手を決めるとは、難しいものですね」


 立派なレディとなったカレンは、ふう、と少しばかり大げさにため息をついた。

 12歳の頃と比べても身長はあまり伸びなかったが、身体つきは女性らしく変化した。

 腰まで届く亜麻色の髪もよく手入れされ、幼少期と変わらぬ美しさを誇っている。

 緑の瞳は、憂鬱気に伏せられて。

 白を基調に、オレンジ色もあしらわれたドレスは彼女によく似合っている。

 大抵の男性は、どうしたのですか、とついつい声をかけたくなることだろう。

 そんなカレンのそばにいるのは男性のチェストリーだが、彼は「はは」と笑うのみ。


「お嬢の理想が高すぎるんじゃありませんか」

「うっ……」


 果てには、こんなことまで言ってくる始末だ。

 チェストリーの言葉に、カレンはぎくっとしてしまった。

 正直なところ、自身でも覚えがあるのだ。

 今まで、何人もの男性との縁談が持ち上がった。

 けれど、しっくりくる人がいなくて。誰とも関係が進まず、話は立ち消えた。

 理由はわかっていた。


「幼い頃にあんな人を知ってしまったら、仕方がない。そうは思いませんか……!」

「本当に仲良かったですからねー」


 ジョンズワートの存在……いや、彼との思い出である。

 カレンの中で、ジョンズワートは婚約や結婚相手の候補からは外れている。

 しかし、思い出までは消えてくれない。

 どんなに素敵な男性と話しても。ジョンズワートと同じ、公爵家の人が相手でも。

 ジョンズワートがくれた優しさや温かな思い出がチラついて、一歩先へ踏み出せないのである。


「過去形で言わないでください!」

「実際、過去じゃないですか」

「それは、そうですが……」

 

 ジョンズワートは既に大切な人を見つけているというのに。カレンはこのザマだった。

 しかし、思い出は思い出。過去は過去。カレンだって、未来へ進まなければいけない。


 そんなカレンであったが、一人だけ、一緒にいるとなんだか安心できる人がいた。

 その男性との話は、まだ消えていない。


「…………そう、ですよね。いつまでも過去ばかり見ていないで、先へ進まなければ、いけませんね」


 カレンは、その男性との縁談を進めることに、少し前向きになった。

 



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