表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!  作者: はづも
気まぐれ番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/77

母の日番外編 ショーンの大冒険

 ホーネージュ王国には、いわゆるマザーズデイがある。

 母となった女性に、子や夫が感謝を伝える日だ。

 デュライト公爵家の使用人に可愛がられるショーンは、その存在を誰かから教えてもらったようで。


「あのね、わとしゃ。おかーしゃんに、プレゼント、したいの」


 と、ジョンズワートに相談をした。

 その日は天気がよかったため、カレン、ジョンズワート、ショーンの三人で公爵邸の庭で遊んでいた。

 しかしショーンは、カレンには来ないでと言い、ジョンズワートだけを近くに呼び、こそこそ話をする。

 おかあしゃはダメ! こないで! と言われたが、カレンがそれを気にする様子はなく。

 二人で内緒話をするほど仲良くなれたのね、と、ずっと会えていなかった父息子を微笑ましく見守った。


 ジョンズワートは、超がつくほど真剣な息子の話に耳を傾けた。

 母の日の存在を、使用人に教えてもらった。

 自分もお母さんにプレゼントがしたい。

 贈りものを探すから、ジョンズワートにも手伝って欲しい。

 びっくりさせたいから、カレンには内緒で行う。

 たどたどしい言葉で、精一杯に。ショーンは、そういった内容をジョンズワートに伝えた。

 うんうんと話を聞いていたジョンズワート。彼の答えは、もちろん。


「わかったよ。ショーン。一緒に、母さんへの贈り物を探そう」


 だった。


 それから数日後。

 マザーズデイ前日。

 ジョンズワートは、この日のために仕事を調整し、長めの休憩時間を掴み取っていた。

 ショーンとともに、カレンへの贈り物を探すためである。

 行先は、デュライト公爵邸の庭だ。

 街へ出て既製品を探すことも考えたが、ショーンが庭で探す気だったこと、自身が過去に葉っぱや貝殻をカレンに贈っていたことをふまえ、庭を探索することにした。

 今日は男二人で探検をするから、とカレンには説明し、おっきいのとちっちゃいのは玄関の前に立つ。

 かくして、ショーンの大冒険は始まった。


 ショーンが公爵邸の庭で遊ぶことも、庭で見つけた花などをカレンに贈ることもよくあるが、今日は、気合の入り方が違う。

 なんせ、マザーズデイ前日だ。

 今日のショーンは、いつもと似たような贈り物では満足しない。

 ふんすふんすと鼻息も荒く歩くショーンに、ジョンズワートはぴったりくっついて進む。

 二人の邪魔をしない程度の距離から、使用人もついてきている。


 公爵邸の庭は広い。この場所で生まれ育ち、とっくに成人しているジョンズワートだってそう思うのだ。

 まだ幼いショーンの視点から見える景色は、広大なものだろう。

 事実、ショーンはまだこの家の庭を踏破していない。

 いつもなら、あまり奥へ行く前に遊ぶ時間が終わってしまうのだが、ジョンズワートは、今日はショーンが満足するまで付き合うつもりだった。

 ショーンは、花や葉っぱを吟味しながらも、どんどん奥へ進んでいく。

 途中で入手したバラは、ジョンズワートが持っている。

 ショーンが見つけ選んだバラだけでも十分な気がするが、今日のショーンはそれだけでは満足しない。


「おかあしゃに、すごいのあげるの」


 そう言うショーンは、キリっとしていた。

 母さんのことが大好きなんだなあ、いい子だなあ、とジョンズワートはしみじみとしたものだった。


 ちなみに、贈りものをいれるためのカゴや、休憩用の飲み物もジョンズワートが運んでいる。

 今日の公爵様は、息子の荷物持ちだった。

 使用人に任せ、自分は手ぶらにすることもできるが、少しでも父親らしいことがしたかった。

 流石に全ての荷物を持つことはできなかったため、追加の飲み物やおやつは使用人に持たせてある。


 まだまだ張り切るショーン。

 休憩を挟みながらも、彼らはデュライト公爵邸の庭の端に近い場所まで到達した。

 ジョンズワートが抱き上げてしまえばもっと早く移動できたが、ショーンはそれを拒否した。

 自分の足で歩き、周囲を見回して、母への贈り物を探したかったのだ。

 木々の間を通ったり、地面に落ちた木の実を吟味したりもしたため、ショーンの服は汚れ、髪も少々乱れている。

 そんな、満身創痍にも見えるショーンの青い瞳を釘付けにしたのは、赤い木の実。

 ショーンは、この木の実を食卓で見たことがあった。

――食べられる、のでは?

 まだ幼いながらに、ショーンはそう感じ取り、じっと木の実を見つめた。


「ショーン、木苺が気になるのかい?」

「わとしゃ、これ、たべれる?」

「そのはずだけど……。一応、確認してみようか」


 ジョンズワートは使用人に声をかけ、庭師を呼び出す。

 ちょうど近くにいたようで、庭師はすぐにやってきた。


「こちらの木の実は、食べることができますよ。そのまま生食もできますし、タルトやケーキ、ジャムにしても美味しくいただけます。葉もハーブティーとして活用できます」

「タルト、ケーキ?」


 ショーンの言葉に、庭師は優しい表情で頷く。


「ええ」

「はっぱは……? えっと……」

「ハーブティー。お茶にすることができます」

「おちゃ……!」


 ショーンの深い青色の瞳がぱあっと輝いた。


「わとしゃ! これ、タルトとおちゃにする!」


 興奮した様子で、瞳をキラキラとさせるショーン。

 彼の中で、カレンへの贈り物が決定したようだ。

 ジョンズワートも賛成し、庭師に収穫の仕方を教わる。

 庭師はお茶にするのに必要な葉の量なども伝え、愛らしい幼子と主人に会釈をしてから、仕事に戻っていく。

 ショーンとジョンズワートの、収穫タイムが始まった。


 収穫は、ジョンズワートがサポートをしつつ、主にショーンが行った。

 怪我でもしないかと心配でたまらなかったが、これはショーンが母に贈るもの。

 ジョンズワートがでしゃばりすぎるのも、よくないだろう。

 ショーンが満足する頃には、カゴは木苺と葉っぱでいっぱいになっていた。


「おかあしゃ、よろこぶ?」

「もちろん。絶対に喜んでくれるよ」

「うん!」


 帰路は、荷物は使用人に預け、ジョンズワートがショーンを抱いて運んだ。

 今日の大冒険で疲れたようで、ショーンは父の腕の中でうとうとしている。

 眠たそうにしながらも、ショーンは明日に控えたマザーズデイについて話している。


「あのね、きいちご、タルトにするの。……わとしゃ、つくれる?」

「……僕が?」

「わとしゃ、つくって」

「……わかった。タルト作りは僕に任せて」


 ジョンズワートの返事は、少し遅れた。

 次期公爵として育てられ、早くに父を亡くして若くして公爵となった彼。

 料理の経験……それもお菓子を作ったことなど、ほとんどなかった。

 たしかに、3歳のショーンがタルトを作ることはできないだろう。

 カレンにタルトを食べてもらうには、誰かに調理を頼むしかない。

 そこまではジョンズワートもわかっていたのだが、まさか、自分に託されるとは。

 ショーンの気持ちを考えてみれば、一緒に冒険をしたジョンズワートに頼みたくなるのも、わかる気がした。


「大役だな……」


 すうすうと寝息をたてるショーンの背に手を添えながら、ジョンズワートはそう呟いた。



***



 翌日、ショーンとジョンズワートに呼び出されたカレンの前には、木苺のタルト、ハーブティーが並んでいた。

 

「おかあしゃ、いつもありがと!」

「カレン。僕らからの、感謝の気持ちだよ」

「! そっか、今日はマザーズデイ……! ありがとう、二人とも」


 心からの笑顔を見せるカレンに、ショーンがバラの花束を手渡す。


「ショーンが選んだバラだよ。ハーブティーに使われてる葉とタルトの木苺も、ショーンが収穫したんだ」

「まあ……!」


 ジョンズワートの言葉に、カレンの緑の瞳が驚きに開かれる。

 まだ幼い息子からの、とびきりのプレゼント。

 この子には、親の勝手で苦労させてしまったというのに、こんなにも優しく元気に育ってくれた。

 ショーンが健やかに育ってくれたことと、そんな息子からのプレゼントが、嬉しくてたまらなくて。


「ありがとう。ありがとう、ショーン。母さん、すごく嬉しい」

「おかあしゃ……?」


 カレンは、息子を抱きしめながらぽろぽろと涙をこぼした。

 ショーンはきょとんとしていたが、嬉しい、という言葉を聞き、笑顔を見せた。

 

「あのね、タルトはね、わとしゃがつくったの!」

「ワート様が?」

「うん。教わりながら作ったんだけど、初めてだったから、ちょっと不格好になってしまったけれど……」


 ショーンを抱きしめたままのカレンが、ジョンズワートを見上げる。

 ジョンズワートは、照れたように頬をかいた。

 たしかに、屋敷の料理人が作るものに比べれば、見た目は劣るだろう。

 しかし、未経験に近い人間が教わりながら作ったものだとは、思えない出来だった。

 ジョンズワートは、基本的に器用なのである。


「……ありがとうございます。ワート様。二人の気持ち、本当に嬉しいです。……タルトとお茶、みんなで一緒にいただきましょう?」


 ジョンズワートが作ったタルトが使用人の手で切り分けられ、それぞれの皿にのせられた。

 ショーンにハーブティーはまだ早かったようで、彼にはフルーツジュースが用意された。

 テーブルの真ん中には、ショーンが選んだバラが飾られ、タルトとハーブティー、ジュースが三人に行き渡る。

 親子三人の、穏やかな時間が流れていく。

 両親に「美味しい」「とてもきれいなバラ」と褒められ、ショーンは大層誇らしげだ。

 公爵邸の庭を舞台としたショーンの大冒険は、大きな成果をあげたのだった。







新作の年上婚約者、書籍化進行中です!

https://ncode.syosetu.com/n9089id/

こちらのweb版もお楽しみいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず、仲良くしている『家族』の様子が見られて、微笑んでしまいます。 [一言] ショーンの次の子達(つまり、弟妹)に纏わるエピソードも、読みたい。 ワート様、色々張り切って細くなりそう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ