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11 従者は、願う。このきっかけを、掴み取ってくれと。

 いくつかの店をまわったら、喫茶店で一休み。

 一言に喫茶店といっても、それなりの身分の者しか入れないような高級店だ。

 オープンスペースもあるが、希望すれば個室に通してもらえる。

 どうも、ジョンズワートがカレンに贈る菓子はここで購入することが多いようで。

 来店するとすぐに店主が出てきて、名乗ってもいないのにカレンたちを公爵夫妻として扱った。

 当然のように、カレンとジョンズワートは個室へ通される。

 二人に気を遣ったのか、同行していた護衛は部屋に入らず、扉の前に立つだけに留めた。

 その護衛というのは……チェストリーだったりする。今回は二人の馬車を操る御者も務めている。

 他の店にいたときも、彼はデュライト公爵夫妻に気を遣い、離れた位置で待機していた。


 普段はカレン、チェストリー、アーティの三人で外出することが多いから、チェストリーはカレンの話し相手にもなっていた。

 けれど、今回は。

 二人が距離を縮めるいい機会に、自分が出張って邪魔をするわけにはいかないと思い、なるべく彼らの視界に入らないよう動いていた。

 護衛として警戒はしているものの……正直なところを言えば、少し退屈だった。

 デュライト公爵夫妻とは最低限の会話しかせず、午後いっぱい連れ回されるのである。

 しかし、両想いのはずなのにどうしてか上手くいかない二人が、ようやくきっかけを掴んだのだ。

 黙って、離れて、静かについていくぐらい、この「デート」が持つ意味を考えれば、なんてことはなかった。



 扉の前で、チェストリーは小さくため息をつく。

 10代の頃のカレンとジョンズワートは、誰がどう見たって両想いだった。

 それが、どうしてか拗れてしまって、疎遠になって。

 チェストリーは、二人が離れてしまったことを残念に思っていた。

 カレンが結婚を考える年齢になった頃だって、チェストリーの目には、彼女はジョンズワートのことが忘れられず、数多舞い込む縁談を白紙にしていたように見えた。

 離れていた頃のジョンズワートがどう過ごしていたのかは、チェストリーにはわからなかったが。

 カレンに結婚を申し込んできたと知ったとき、ああ、あの人もお嬢と同じだったんだ、忘れられないままだったんだ、と感じた。

 

 二人の婚約期間中、カレンにこう言われたことがある。


「8年も経ったのにずっと私を好きだったなんて、無理がありますよね?」


 流石のチェストリーも、ずばずばと「いや貴女もそうでしょう」「ずっと心にジョンズワート様がいたじゃないですか」「それと同じでは?」とまでは言えず。


「何年も続く想いというものも、あると思いますよ。……俺も、そういう人を知っていますしね」


 と返すに留めた。




 結婚後のジョンズワートはカレンを大事にしているが、どこか遠慮気味で。

 カレンも自分を大切に扱ってくれるジョンズワートに応え、公爵家の奥様としての役割を果たそうとしているが、嫁入りしてからは表情が曇りがち。

 表面上は妻を大事にする夫と、奥様として頑張る妻という微笑ましい二人だが、カレンを曇らせるなにかがあることは、チェストリーも感じ取っていた。

 深い事情までは聞けないが……二人の寝室が別なことも知っている。

 カレンの外出時、護衛を務めるのは自分だから、もちろん、ジョンズワートが滅多にカレンに同行しないことも知っていた。


 今も昔も、二人は両想い。

 なのにどうしてか噛み合わない。すれ違う。夫婦として寄り添うことができない。

 二人とも、不器用で、臆病で。本当に必要な一歩を踏み出すのが、苦手なのかもしれない。

 でも、今回は。カレンから「一緒に」と言い、ジョンズワートがそれに応えてカレンをデートに連れ出したと聞いている。

 チェストリーは、期待していた。

 これが、二人の関係がよい方向に変わるきっかけになるのではと。


「上手くいってくれよ……」


 幼い頃からの二人を知るチェストリーは、二人がいる個室の前に待機しながら、そう願った。


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