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09  有野ファイル(2)


今回のモデルハウスの土地は50坪。それに4~5人家族用の戸建てを建築する。


有野さんは私達の意見を聞いて、みんなで仲良く暮らせる家の間取りを考えている。


「やはり、主婦としては絶対にパントリーが欲しい」(駒田さん)


「私はウォーキングクローゼット欲しいわ」(式森さん)


「年を取ると畳の部屋が欲しいですね」(和泉さん)


「・・・」

和泉さんって何歳なのかしら?


「動線はきっちり分けて欲しいです」(私)


床下収納がほしい、洗面所にも収納を、ペアガラスがいい、それなら2重サッシは? 趣味の釣具を玄関に入れたい。


有野さんはそれぞれの勝手な意見を楽しそうに聞いている。


「主婦のパワーが凄くて、ついつい奥さまが喜びそうな間取りになってしまった。ちょっと旦那さんや子供の喜びそうな仕組みを考えます」

有野さんがノリノリで設計を始めました。


何だか小さい子供が喜んでパズルをしている時の様に、目を輝かせています。

熱心な横顔をみていたら、またもや私の心配症がムクムクと沸き上がってきました。


そうだったわ。有野さんのパソコンをいじって、パワーポイントの順番をめちゃくちゃにしたり、資料を捨てた犯人がまだいるんだ。


急に不安に苛まれた私は、設計部のフロアーに来ていました。

そしてどうしていいのか分からず、その付近をウロウロと徘徊しているだけで時間が過ぎました。


ここで、立ってても犯人が分かるはずもなく、すごすごと廊下を歩いていると、仲介営業部の松本部長に会いました。


「今回のモデルハウス、有野君も参加すると聞いたよ。頑張って欲しいね」

思いがけず、松本部長からの応援に私は驚きました。


「うちの有野と仕事された事があるのですか?」


「アァ、何度かあるよ。お客様の意見を良く聞いてくれて、アドバイスも的確にしてくれて助かっていたんだよ。だから、本当に今度は頑張って欲しいね」


「あああありがとうございます!うちの子をそんなに思ってくれる方がいたなんてあの子の励みになります。そうだ! 後で有野を連れて仲介営業部に行かせてもらっていいですか?」

私はうちの部署の者を褒めてもらった喜びでうっかりと『うちの子』と言ってしまった事に気が付かなかった。


「いいですよ。私達に役立てる事があるならなんでも言って下さい」

松本部長は私の圧に押されながら、快諾してくれた。


ならば、早速有野さんを連れて行かなければと、早足で再生課に戻り有野さんの腕を引っ張って仲介営業部にやってきた。


「ははは、早かったですね」

と松本部長に言われてしまった。


「すみません、お言葉に甘えて来てしましました。お仕事中にすみません。皆さんが営業中にお客様から間取りとか色んな要望を聞いていると思うんですけど、それを聞かせて頂きたいのでよろしくお願いします」

私が頭を下げると、有野さんも慌てて頭を下げた。


「・・・」

ちょっと皆さんが躊躇っていると、松本部長がアシストしてくれました。

「おいおい、今度の戸建て物件は俺たちも営業するんだぞ。いいモデルハウスが建ったらお前達も営業しやすいだろう?」


この言葉を皮切りに、皆さんがお客様によく言われる要望や苦情をどんどん教えてくれました。


有野さんは目を輝かせて聞いています。

やはり、彼はお客様側に寄り添う事の出きる人でした。


彼の間取りや設計が他の設計士に見劣りするわけがない。

設計や建築の事は私には分かりません。私に出きる限りの事をしましょう。


ふんっすと鼻息荒く、私は設計部のフロアーに向かいます。


ちょうど掃除業者の方がいます。

その方にお願いして、その大きな業務用ダストカーの中に隠れて設計部の部屋に侵入した。


じっと聞いていたが、彼らはたわいもない話しをしているだけだった。


「そう言えば、有野も今度のモデルハウス、参加するんだよな」

顔は見えないが若い男の声よね?

私はもっと聞き耳を立てる。


「あいつ、もうまともな家の設計出来ないんじゃないの?」

「だって再生課だぜ。もう帰って来れないだろう。ははは」


ムムムムカつくわ。

うちの子の悪口なんて、今すぐ出ていって怒鳴ってやりたい。

っっでも、我慢よ。


「また、あいつん時にプロジェクター映んないようにしとく? 再生課のプレゼンって最後だろ。じゃあ、簡単だな」


清掃業者のおばさんが、私に合図をして、業務用ダストカーを部屋の外に出してくれた。


私はごみが服や頭にゴミがくっついているのもかまわずに、大股で廊下を肩をいからせて歩く。

腹が立つ。腹が立つ。

この怒りこのままにはしないわ。


再生課に戻った。

ごみまみれの私に一同引いているが、私は気が付かない。

頭から何かが爆発しそうな程怒っていた。


駒田さんが遠巻きにみている人達に促されて言いに来た。


「あの、城山課長・・・尋常じゃないくらいに顔が怖いです・・」


なんと、それほどまでに顔が怖いなんて・・・と、ここで漸く我に返る。


「皆さん怖がらせてしまってすみません。高橋さんにお願いがあります」

名指しされた高橋さんはなぜか逃げ出して部屋から出ていってしまいました。


私の顔、そんなにこわかったですか?

ビックリしましたがすぐに全力で追って自販機前で捕まえました。


「なんですか?」

高橋さんは私に切れ気味に言います。しかもまだ逃げ出しそうです。

「なんですかってこちらの台詞ですよ。なんで逃げたのですか?こちらの方が驚きましたよ」


「大体今の流れから想像すると、会社のお金で何かを買いたいって事でしょう?だから逃げたんです」

まさにその通りです。買いたい物があるんです。でもこの流れ的には

物凄くいいにくいわ~・・・

でも、覚悟を決めて・・


「折り入ってご相談したいのです。この我が再生課用のプロジェクターを買いたいんです」


「ムリムリ無理です。この部署で使えるお金はそう多くないんですよ。分かっていますか?」


「分かっています。無理ならレンタルでもいいです。今度のプレゼンの時に使いたいんです」

私は高橋さんに頼み込みました。

もう一押しだ。

更に高橋さんにお願いをします。

「このプレゼンには有野さんのこれからの大事な一歩が踏み出せるかどうかなんです」


「・・・会社のがあるから、それは無駄遣いです」


高橋さんの一言で、さっさと立ち去ってしまった。


いつからいたのか、髪をカールさせたキラキラ女子社員が私に話しかけてきた。

「ふふふ、彼女は固くて会社のお金をそう簡単には出したりしませんよ。必要経費も必要か不要なのかも判断出来ない人なんです。そもそも融通が効かないから、再生課に行ったんですもの。何を言ったって無理ですよ」


キラキラ女子は面白いものを見たと言う感じで去っていった。


高橋さんが再生課に来た理由は、融通が効かないという点以外になにかありそうだわ。

彼女も頑なで頑張り屋さんで、でもちょっと脆そうな所が危ういのよね。


ちゃんと見てあげないと、心がポッキリと折れてしまいそうなタイプなのよ。


う~ん。高橋さんの心配を始めたが、今は有野さんのプレゼンをしっかりと最後まで成功させる事が私の任務よ。


私の頭の中でロッキーのテーマ曲が流れ出す。

あの設計部の卑怯者を叩きのめすのよ。

徹底的にやってやるわ!

自販機の前で拳を高く上げる。


しまった。


人の注目を浴びていたわ。


走って再生課に戻る。そして、そのまま、課長室に入る。


あー・・恥ずかしかった・・


有野さんのプレゼンを邪魔する人達から守らないといけない。

プロジェクターをいじられたり、資料をなくされたり、今有野さんが精魂込めて考えている設計を横取りされるかも知れない・・・


ダメだわ・・心配が尽きない・・


コンコン


「はい、どーぞぉ・・・」

力なく返事する私に、入ってきた駒田さんがため息をつく。


「やっぱり、また悩んでいますね?」


なぜ、分かったの?と顔を上げて駒田さんを見ると、式森さんも一緒に腕を組んで困った顔をしています。


「いいですか? 城山課長の顔は分かりにくいんです。だから、困った時は困っていると相談してください」

式森さんにしては、いつになく強い口調です。


「すみません」

私はシュンとなる。


「怒っているのではないんですよ。城山課長にも私達を頼って欲しいと思っているんです」

式森さんが、赤い顔の膨れっ面で訴えてくる。


うっ。こんなに、他の人が私を心配してくれるのは初めての事だわ。

なんだか気持ちがほわほわしてしまう。

そうか、私・・・今嬉しいのね。


誰かに相談するなんて事なかったから、ちょっとこわごわだけど、話始める。


「設計部の人達の陰謀を聞いたんです。それで、何とか有野さんの設計や発表を守って成功させたいんです」


私が詳しい事を話すと式森さんも、駒田さんも一緒に怒りを露に設計部の理不尽な行為に対抗心を燃やしてくれた。


頼もしいわ。


駒田さんがすぐに、高橋さんを呼んできて、もう一度事情をはなしてくれた。


私の拙い話とは違って、駒田さんの話には説得力があり、高橋さんも今度こそは分かって頂けたと思ったのに、結果はダメでした。


「高橋さんが会社のお金を出せないと言うのなら、仕方ないでしょう。諦めます」


私が高橋さんから距離を取ると、少し悩んでいた高橋さんが「レンタルなら・・」

と譲歩してくれた。


「ありがとう。高橋さん。きっと有野さんの事とか部署のお金とか色々な事を考えてくれたんだよね? 本当にありがとう」


高橋さんの手を取って、私と駒田さんと式森さんの4人で跳ねた。


高橋さんは困ったような恥ずかしいような顔で照れていた。


それから、有野さんの設計を守る為に高橋さんが自ら提案し、レンタルの防犯カメラと金庫を用意しますと言ってくれた。


高橋さん・・ちょっと自棄になっていませんか?

私の心配をよそに、3人で盛り上がっている。

うん。まぁ、楽しそうだからいいか。再生課のお金もなんとかなるだろう。


設計部の野郎共!


来るなら来い!


返り討ちにしてやるわ!!!



城山仁美です。今日は全身ごみまみれになりました。

お風呂に早く入りたいです。

今日はトンテキ。ポテトサラダ。漬け物は沢庵。それと豆腐とワカメの味噌汁。

トンテキはニンニクをいっぱい入れちゃいます。元気が出ますよ。

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