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07  式森ファイル(2)


私、式森加音は、佐原開発株式会社に入社して、始めは開発営業2課に配属された。

でも、営業成績は一向に上がらず、一年後に仲介営業部の2課に配属された。


ここでも、3ヶ月売れずにみんなのお荷物になっていた。

4か月目で漸く小さいマンションが売れた時はホッとした。


でも次の月はまた全く売れなかった。そんな時に2課の課長の江坂課長にお茶を入れて欲しいと言われて給湯室に行くと後ろから付いてきていた江坂課長にお尻を触られた。

そして、言われた言葉が『お前のいいところはお尻だけだな』だった。

私は大急ぎで逃げ出したが、誰も見ていないところで、軽く触られるようになった。


最後に胸を揉まれて、逃げ出してから、会社に行けなくなった。誰にも相談出来ずにそのまま辞表をだした。そして休んでいたら、辞令で再生課に転属されていた。


やる気も起きず再び辞表を提出しようと再生課に来たら、他にも人がいた。

そうだセクハラ課長もいない。ここからやり直そうと思ったがやはり、物件は売れなかった。


売れないのは、物件と時期が悪かったのだと自分を慰めていた。

そして、何もしないで時間だけが過ぎていった。


再生課とは名ばかりで、退職を促そうと色んな上司がやってきた。

そして、城山課長がやってきた。


城山課長は独特の雰囲気で怖かった。セクハラの次はパワハラに遭うのではと怖かった。


私には顧客名簿はいらないと言われ、売れない私に、または辞める私に不必要なものだといわれたのだと思っていた。


でも城山課長は本当に私の長所と短所を見抜いていて、どうしたら良いのか考えてくれていた。


私のお客様が素直で優しい人ばかりだと城山課長に言われて、初めて気付いた。


城山課長の元で本当に一からやり直そうと思った。


そんな矢先だった。

朝のエレベーターはいつもながら、混んでいた。


その時に私のお尻に何かが当たっている。

違う。触られている。

私はガタガタと震えだした。


耳元でざらざらした嫌な声がする。

「まだこの会社にいたのか? 今度また給湯室に来いよ」


江坂課長がニヤッと笑う。

私はそのまま何も言えずにいた。


「私のかわいい子供(部下)に何をされているのですか?」

城山課長がぬっと現れた。


城山課長が、江坂課長の顔の間近の壁をグーパンチで殴る。


「後で貴方に誓約書を書いてもらうために貴方の営業部に行きます。何時ごろならいらっしゃいますか?」

城山課長がゴミクズでも見るような目で、江坂課長を見下ろしている

「俺は営業で忙しいんだ。何時なんて約束・・」

「許さない。私はあなたを絶対に許さない。私から逃げられませんよ。何時ならいらっしゃいますか?」


「・・・」

江坂課長は無様に見開いた目と口を震わせている。

「ああ、そうだわ。このまま一緒に行けばいいのね」


城山課長は真顔でも怖いが、本当に怒っている顔はこんなにも怖いのだと私は改めて思った。


そして、再生課がある3階で降りることなく、城山課長はそのままエレベーターに乗ったまま江坂課長と一緒に行ってしまった。


私は城山課長が帰ってくるのをドア付近で待っていた。

出社してきた大俵君が、私の出社を喜んでくれたが私はそれどころではなかった。


すぐに、駒田さんが出社したので、駒田さんに事情を話していると城山課長がドアを開けて入ってきた。


私をチラッと見ると「式森さん、部屋に来てください」とニヤッと笑う。


ああ、今でこそ分かるが城山課長、今のそれは微笑みですね

きっと私が朝の江坂課長のセクハラで落ち込んでいると思い微笑んで下さったのですね。でも、微笑みとはほど遠いです。


すみません。分かっているのに怖かったです。


大俵君が「言いたいことガツンと言ってやれ」と言ってくれたが彼はまだ勘違いしている。

彼にも城山課長の事を説明してあげないといけないわ。


私は後で説明しようと決めて、城山課長の課長室にはいる。


城山課長の机に、江坂課長の名前が書かれた誓約書が置かれていた。

『今後一切、式森加音には触れません。他の女子社員にも一切触りません。  江坂重夫』


「これで、大丈夫よ。もし約束を破れば社会的制裁を加えられるもの。もうバカな真似はしないでしょう。式森さんはこれからは堂々と社内を歩いて欲しい」


私は誓約書を見つめていた。

そして、瞬きと同時に涙が溢れた。そうだ、漸く私は悔し気持ちを分かってくれる人に出会えた喜びと自由になった安堵で涙が出たのだ。


目の前の城山課長が私を救ってくれたんだ。


今までの非礼に対するお詫びと、お礼を言おうとしたら、明らかに城山課長の態度がおかしい。

顔が硬直して睨んでいる?

私、睨まれているの?


あっ、違う。これは私が泣いているから、焦っているんだ。

それで、とっても心配してくれているんだ。


なんて分かりにくい表情なのだろう。でも、とても私にかけてくれている愛情を感じることが出きる。

その時、課長室のドアの外が騒がしいと感じた次の瞬間、ドアが開いた。

そして、大俵君が泣いている私を見て大いに勘違いしたようだ。

「城山課長が式森さんを泣かせたんだな?」

「そうですね。そういう事になるのでしょうか?」


私は城山課長の受け答えの違和感に初めて気が付いた。

この人って、言葉に含まれるニュアンス的な物を汲み取らないで、そのままの言葉を受けとるんだ。


大俵君がこれ以上逆上しないように、私は大声で二人の会話を遮った。

「大俵君、違います。私は今城山課長に感謝して泣いているのです」

「「え?」」

なぜか大俵君と同時に城山課長の声が重なる。

さらに二人同時に

「そうなの?」

「そうなのですか?」


大俵君は疑問に思うのは分かる。だけど、なぜ城山課長が分からないのかが不思議だった。

だって、今の流れでは城山課長に感謝しかないはずでしょう?


二人同時に説明をしなければならない事に不安を感じた時に、ナイスなタイミングで駒田さんが入ってきてくれました。


「城山課長には私から説明をしますので、式森さんは大俵君に説明をお願いします」


駒田さんの的確な判断に救われた私は、課長室から出て大俵君に事情を説明した。


大俵君は半信半疑だったが、一応は納得してくれた。

駒田さんの説明の後、私の謝罪とお礼の機会がなくなってしまった。


それはすぐに仲介営業部の松本部長に呼ばれたからだ。


私と大俵君が仲介営業部に入ると、ザワザワしていた部内がピタッと静かになる。


「二人ともごめんね。こっちに来てくれるかな?」

松本部長に呼ばれ、部内を見渡せる位置にある大きなデスクに座っている部長のそばに行く。


「先ずは式森さん、長い間江坂の件すまなかった。彼はここにはもういないよ。頭を冷やしてもらう期間を作ったからね」

松本部長が頭を下げる。

「あの、その・・」

ここで頭を下げられると私が居たたまれない。そう思ったとき、近くの女子社員が声をかけてくれた。

「私も江坂課長にずっと言葉でセクハラを受けていたの。他の子も我慢している子は沢山いたわ。今回勇気を出して言ってくれてありがとう」

部内の空気が暖かいのはそのせいだったのか。

私にいつも冷たい所だとずっと思っていたけど、本当は違ったのね


「私は何にもしていません。城山課長がしてくれたんです」

この仲介営業部で肩肘張らずに話せる日がくるなんて、思わなかった。やっとここで普通に呼吸が出きた。


「この前オープンハウスをした物件の担当は君たちだから、この書類を引き継いでもらおうと呼んだんだ。後はよろしくね。それと式森さん。君さえ良かったらもう一度ここで営業をしないかい?」


松本部長の提案に驚いたけれど、私の決意は、早かった。

「私、もう少し城山課長の下で勉強しながら働きたいんです。折角の申し出なのにすみません」


ここに戻るなんて本当にありがたい申し出だけど、私には城山課長の下でもっと色んな事を学びたかった。それに、漸く城山課長の事が分かったのにそこから離れたくなかった。


「そうだろうね。また、気が変わったらいつでもおいで」

松本部長の優しい言葉に頭を下げて、私と大俵君は中古物件の資料をもらって、私達の再生課に帰った。



城山仁美です。

今日は、ロールキャベツ。マカロニサラダ。ほうれん草とツナ炒め。

毎日、献立を考えていると思うんです。なぜ家族に「何が食べたい?」と聞くと「何でもいい」と返事が帰ってくるのでしょうか? 本当に何でもいいの?


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