05 駒田ファイル(4)
視点がコロコロ変わります。
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上記のマークで変わるので、気を付けて下さい。読み辛くてすみません。
( ´-ω-)
私、駒田明美は、城山課長と別れて家路を息子と二人で帰っているのですが、ふと足を止めて振り返りました。
既に城山課長の姿はありません。
あの早歩きは、きっと大急ぎで帰られたのでしょう。
私は城山課長の事を、物凄く勘違いしていたのかも知れません。
私の息子の事なんて知らないだろうと思っていたけれど、きちんとわかってくれていました。
私は先程まで、城山課長は私を会社から辞めさせたくて、色々行動をしているとばかり思っていました。
春人のお迎えに行った時、課長が息子を見て鼻で笑ったような気がしたのです。だから、息子に話し掛けた時は、息子に私の事を何か吹き込むつもりなのだと焦りました。しかし、そうではありませんでした。
春人が保育園で辛そうにしていたのを分かって、その解決方法を私に示してくれたのです。
ここで、漸く私は城山課長が息子の熱の事をどこかで聞いて、急いで息子の保育園と病院の近くの物件を探して来てくれたのだと分かったのです。
そして、今日も少しでも早く帰れるように物件を見に連れてきてくれたのだと理解できました。
私を元気付ける為に息子さんの話をしてくれて、和ませてくれました。
うん? あれ・・?
城山課長ってお子さんいらしたのね?
つまり旦那さんもいるのよね?
再生課のみんなが、城山課長は未だ独身だろうって言ってたけど、それも違うのね。
城山課長に付いては、色々と誤解している事が多いのかも知れません。
もしかしたら、城山課長は本当にこの課を再生しようとしているのではないだろうか?
この見捨てられた再生課を・・
私は無謀な挑戦をしようとしている城山課長のお手伝いをしたいなと思い始めました。
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おはようございます。城山仁美です。
次の日に机の上には、出来上がったチラシが置かれていました。
有野さんのこだわりの強い傑作が、間取りの随所に見て取れます。
和室の畳の畳数以外にも、きちんと床の間や違い棚まで立体的に書かれていて一目見て分かるようになっています。
他の人たちも凄く頑張ってくれたのが分かります。
現地の地図も見出しもレイアウトもバッチリです。
社長にこのチラシをメールで送るとすぐに、OKの返事が来ました。
さあて、輪転機でどんどんチラシを刷りましょう!
数千枚のチラシはあっという間に刷れます。
そのチラシを紐で括るのを大俵さんにお願いすると、妙な顔で頷きながらそれでもどんどん括ってくれました。
元会計課の高橋さんは、新聞屋さんにお支払するお金を計算してくれています。
なんて言うチームワークでしょう。良い感じだわ。先ずはこの物件で再生課の一歩を踏み出してみましょう。私は久しぶりにテンションが上がってきました。
よーし、これで再生課の皆さんが前向きになってくれたら・・・
どうしましょう!!!
もしこの物件が売れなかったら皆さん落ち込むのではないでしょうか!!
これは大変ですわ。これほど頑張っていらっしゃるのにうまくいかなかったら・・・大変です。なんとかしなくてはなりません。
私は物件の下見をもう一度行い、日曜日までに打開策を立てることにしました。
輪転機で500枚余分に刷り、前日に半分を配りに行きました。
それから、大俵さんの顧客名簿と式森さんの顧客名簿を見せて貰いました。
その中から、式森さんのお客様で小さなお子様が2人いる若いご夫婦に目をつけました。
その方はマンションを探しているようですが、お子様が暴れてもいいように一階を探しているとメモがある。
式森さんをすぐに呼びます。
「式森さん、ちょっとよろしいかしら」
課長部屋から顔だけ出して、手招きで式森さんを呼びます。
なんだか、胃カメラの検査の順番待ちで呼ばれたような意味不明の顔で式森さんは立ち上がり、私の部屋に入って来ます。
「あなたの顧客名簿を見ました。この方に日曜日のオープンハウスを見に来て貰うように連絡して下さい」
「あの、この佐々木様ご夫妻はマンションをお探しなんです。一軒家は考えていないと思います」
式森さんは私に佐々木さんとの間に入って欲しくないようで、顧客名簿をバタンと閉じてしましました。
「あなたの言いたい事は分かりました。しかし、あなたにはこのファイルは必要ないのかも知れません」
私はファイルに書かれている情報ばかりを気にして、書かれていないお客様の情報をしっかりと見極めて欲しいと思いました。
しかし、それを言う前に式森さんは顔をひきつらせて「そうですね。もう辞めさせられる私にはお客様の情報なんて要りませんよね」と再生課から出ていってしましました。
『辞めさせられる』ってどういう事なのでしょう?
誰かに辞めろと言われているのでしょうか?
それは一体誰なのでしょうか?
彼女に近付く人を調べて見ないといけません。
外に出ていった式森さんを駒田さんが、私に口パクで『任せて』と言って後を追いかけて行きました。
駒田さんには、式森さんの事情が分かっているようなので、ここはお任せする事にしました。
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式森です。
城山課長に現実を突きつけられて再生課から逃げ出したところです。
「待って、式森さん」
私の後を全速力で走ってくる駒田さんに私はかなり驚きました。
だって、秘書の駒田さんは大人しい感じでいつも微笑んでいるような感じの女性だったのに、今日は手の振りも足の上げ方も激しいのです。
「私の事は放っておいて下さい。この会社にはもう私の居場所なんて無いも同然です」
「ハーハー。そんな事はないです。私もこの会社に居場所がなくて、辞めようかと思っていたんです。でも、城山課長が私の辛い事を一緒に考えてくれて支えてくれました。城山課長は私達が考えているような方ではないと・・・・ぜーぜー思います」
私は駒田さんの言葉に唖然としました。
城山課長が支えてくれるですって?
何を言っているのかと、私は急に走るのをストップして振り返りました。
「駒田さんはいつから城山課長の手先になったのですか? さっきの私が言われた言葉を聞いていないからそんな事が言えるんです」
私は腹立たしい思いを駒田さんにぶつけました。
「確かに解りにくいんです。城山課長って。でも、きっと式森さんんのことだって色々考えて行動してくれている筈なんです」
駒田さんが偉く食い下がってくるのが不自然で余計に怪しく思う。
「城山課長にもう顧客ファイルは私に必要ないって言われたんですよ。それってもう営業に戻れないってことでしょう?」
そうだ、そう城山課長に念押しされたんだ。
私は悔しさと悲しさが一緒くたにになって泣きそうだったけど、我慢した。
「待って、待って。式森さんは初めの会話を忘れています。城山課長はお客さんに連絡しなさいって言ったんですよね? それは城山課長がその方がお客さんになる人だと気付いたからだと思います」
駒田さんの言葉にハッとした。そうだお客様に連絡を取れと言ったのは城山課長だ。でも、お客様のご希望とは違う物件を見せて失望させようと画策している可能性だってあるじゃない。
そうだわ、騙されないわ。
この会社に入って覚えたのは、優しい言葉の裏には何かが潜んでいるという事だわ。
「駒田さん、私はそんな簡単にはもう騙されませんよ」
私は駒田さんから逃げるように、言ってから全速力で走りさりました。
もう駒田さんは追いかけてはこない。駒田さんとの年齢差は7歳。若い私においつけなかった。
安心していたが迂闊にも同じ部署だということを忘れていた。
私はどんな顔をして部屋に帰ればよっかたのかと考えていました。
部署に帰ると駒田さんは秘書室の椅子に座って業務をこなしています。もう私の事を説得するのは諦めたようでした。
ホッとしたのもつかの間で、城山課長が課長室から出てきて私を一睨みしてそのまま部屋から出ていった。
城山仁美です。
今日は回鍋肉。蓮根とベーコン炒め。茄子の味噌汁。アサリの酒蒸しです。
あさりの砂抜きを失敗して、少し砂が残ってしまいました。
トホホです。