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04  駒田ファイル(3)


和泉さんに、町の不動産屋さんの赤井不動産の所に行ってもらって、鍵を預かって来てもらいました。


鍵を受け取った私は、退社時間より1時間早めですが、秘書の駒田さんと一緒に物件を見に行くことにしました。


ふふふ。やはり彼女の息子さんを預けている保育園から近かったです。


先ずは彼女と一緒に売り物件の家の中の確認をします。

中々綺麗です。これなら、少しの掃除で済みそうです。


お庭も雑草もなく、きちんと手入れされてたのが分かります。


「よし、ざっと各部屋を見たので今日はこれで帰りましょう」

私が玄関の鍵を掛けていると、駒田さんも時計を気にしながら頷く。

「えーと、駒田さんは今日は会社に帰らずにこのまま直帰しなさい。今から帰ったのでは保育所のお迎えに間に合わないじゃない」


「え・・・?」

駒田さんが呆けています。


「せっかく、保育園の近くにいるのだから、このままお迎えに行ってはいかが?」


駒田さんの目があたふたしています。どうやら、本当にこのまま帰っていもいいのか考えあぐねているようです。

このまま放っておくと私と一緒に帰社しそうなので、私は彼女の息子さんがいる保育園に歩きだしました。


「あ、ああの、その」

戸惑う駒田さんをよそに、私は足早に保育園に向かいます。

昨日熱を出しているのだから、今日は少しでも早く家でゆっくりさせて上げたい。そう思うと私の足は恐ろしく早足になってきました。


光が丘保育園に着くと、駒田さんが追い付くまで園内を見ていました。

ピアノのレッスンをしている子供と遊んでいる子供の二つのグループが見えます。

そのピアノのレッスンをしている子供の中で一人心細そうに俯いている子供が見えました。


他の子供さんはすらすら弾いているけれど、その子供だけ度々手が止まっています。


でも、その子がこちらを見ると満面の笑みで笑っています。

私を見て微笑んでくれているの?

と喜びかけましたが、その子は私の隣にきた駒田さんに手を振っていたのです。


そりゃそうでしょう。


少し鼻からフッと息が漏れました。


「すみません。ここまで城山課長に来て頂いて。今日はピアノのレッスンの日ではなかったのにずれたのかしら?」

駒田さんが焦っています。

せっかく来たのに帰れないのかしら?

でも、とっても気になった事がある。

私は駒田さんに無理を言って息子さんと一緒に帰らせて欲しいとお願いしました。


「せっかくここまで来たのだから早く、お迎えに行ってください。(一緒に帰りたいな、お願いします) 私はここで待っています。(何時間でも待ってるわ)」


駒田さんはピアノの先生に言いにくそうに理由を言って、息子さんと一緒に保育園を出てきました。


「では、帰りましょう」


「え? でも、駅はこっちではないですよ?」


「ええ、分かっています。駒田さんの家の途中まで一緒に帰ります。大事な話がありますので!」


駒田さんは急に元気がなくなりました。これはお疲れなのでしょうか? それとも他に? 先ずは話です。


「ねえ? お名前はなんて言うの?」

私が男の子に質問をすると、少しかぶるくらいで、駒田さんが反応しました。

「息子に関係ありません。言いたいことがあるのなら、私に仰って下さい。息子を使うなんて卑怯です」


「・・・?何を言っているのか分かりませんが、息子さんに用事があるのです。少し聞いてて下さい。ではもう一度お名前を教えて下さい?」

もう一度息子さんに向き直って名前を聞きます。


「僕の名前は駒田春人(こまだはると)です」


「よく言えたわね。偉いわ。所で春人君はピアノが好きと嫌いで言ったらどっち?」


「う~ん・・あんまり好きじゃない」

やはり嫌いだったのね?私はすかさず理由を聞く。

「それはどうして?」


「あのね、みんなお家で練習してくるから上手なの。でもお家で出来ないからへたっぴなの。だから、一人だけ違うのを弾いているの」

「え?そうなの?」

駒田さんが春人君の前にしゃがんで聞いた。


「うん。だから、僕ピアノきらい」


駒田さんは呆然としている。


「保育園の園長の娘さんが週2でピアノを教えてくれるから、春人にやりたいかと聞いたらやりたいって言ったんです。それに、保育園の方も遊んでピアノに触れ合う感じなので気軽にしてみて下さいって言われたのに・・」


「子供のやる気は変わりますよ。それに、あなたが会社を早退する日を総合すると必ず火曜日に集中してますよね? これは火曜日にピアノに行きたくない春人君がお熱を出してしまうからではないかしら?」


「そんな・・ピアノで熱を出すほど嫌がっていたなんて・・・私母親失格だわ。全然気がつかなかった」

春人君に抱きつき涙を流す駒田さん。このままではいけない。

親子二人を傷つけたまま放置しては、今日私は眠れなくなってしまうわ。


「母親失格だなんて、言わないで下さい。私も昔息子にバイオリンを習わせていたのですが、途中からそのレッスンの日に限って熱を出すようになってしまって、ママ友に理由を教えてもらって分かったんですよ」

駒田さんは、なぜか私を初めてみる人の様な目で見ています。不思議に思いながらも話を続けました。


「春人君は練習も出来なくて辛かったのね? よく辛抱したわ。でもやめたいのなら、辞めてもいいわよね?駒田さん?」


「ここで、簡単に辞めさせてもいいのかしら? 何でもすぐに放り出す子に育たないか心配だわ」


「大丈夫よ。熱を出すくらいに頑張れる子はきちんとギブアップすることを教えてあげたほうがいいわよ」


そうなのだ、言い出せない子は心に溜めていくから、ギブアップを言える環境を作って上げる方がいいのだ。


私の言葉を聞いて決意したのか、駒田さんが、明るい声で春人君に聞いた。


「はる、ピアノやめちゃう?」


春人君の顔が明るくなる。

「うん、その時間、けんと君と遊びたい」


「分かったわ。じゃあ、ピアノのレッスンは断っておくわね」

駒田さんがなにかを吹っ切れた顔だったので、私は安堵しました。

春人君の元気な笑顔と駒田さんの微笑む姿に私まで嬉しくなりました。さぁ、私の出番はここまでね。


「駒田さん、私の今日の業務は終了しました。では明日」


私は踵を返して駅方向に歩いていきました。


城山仁美です。

今日は可愛いピアノが聞けて、心が洗われました。

挽き肉が安かったので、ピーマンの肉詰め。大根とかにかまとキュウリのサラダ。豆腐と長ネギの味噌汁にしました。

子供が小さい時、ピーマンの肉詰めをするとピーマンを食べてくれたのを思い出しました。

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