1ミリも野球知らないけどDHになりました
放課後。
あたし達はVR BASEBALL ONLINEへログインしていた。
転送されたのは、初心者サーバーの練習フィールド。
青空。
白線。
芝生。
そして遠くのフェンスには、
【最近ボールが飛んできます。ご注意ください】
という看板が増えていた。
絶対あたしのせいだ。
「わぁぁぁ……!」
その時。
隣で栞が感動したような声を漏らした。
「ほんとに……ほんとに一緒にログインしてる……!」
なんか泣きそうになってる。
そんなに?
栞はきらきらした目でグラウンドを見回していた。
初心者装備のあたし達と違って、栞だけちゃんとしたユニフォームを着ている。
胸元には『SHIORI』の文字。
ガチ勢感がすごい。
「じゃ、じゃあまず!」
栞が勢いよく振り返る。
「ポジション決めよう!」
「ぽじしょん?」
「またそこからなの!?」
栞が頭を抱えた。
「え、だって知らないし……」
「役割分担だよ役割分担!」
「あーなるほど」
それなら分かる。
栞は深呼吸して気を取り直した。
「えっと……まず二人のステータス確認していい?」
「あ、うん」
空中ウィンドウが開く。
まず翼。
【風見翼】
筋力:1
脚力:154
ミート:9
守備:11
捕球:8
称号:流星
栞が固まった。
「脚力154……?」
「いっぱい走った!」
「怖……」
栞がドン引きしている。
でも次の瞬間には、目を輝かせた。
「いや、でもこれなら……!」
「?」
「翼ちゃんセンターできるよ!」
「せんたー?」
「いっぱい走るポジション!」
「やる!!!!」
即決だった。
翼は嬉しそうにグラウンドを走り始める。
速い。
速すぎる。
もう点になってる。
「うわぁ……ほんとに守備範囲全部カバーできそう……」
栞が若干引きながら呟いた。
次。
あたし。
【桜庭百花】
筋力:168
脚力:1
ミート:5
守備:1
捕球:1
称号:ジャイアン、万本素振り、バット依存症
栞が無言になった。
「えっと?」
「……」
「栞?」
「なにこれ」
怖い顔しないで。
栞は震える指でステータスを指差した。
「なんで筋力だけこんな高いの!?」
「いっぱいバット振った!」
「怖いよぉ!!」
なんで!?
頑張ったじゃん!
栞は頭を抱えながらブツブツ呟き始める。
「守備壊滅……捕球最低値……脚力終わってる……でも筋力だけ異常……」
「なんか悪口多くない?」
「でも打球速度は絶対やばい……」
栞がハッと顔を上げた。
「百花ちゃんDHね!」
「でぃーえいち?」
「打つだけでいいポジション!」
「最高じゃん」
守備しなくていいらしい。
野球って初心者に優しいな。
「栞ちゃんはどんなステータスなの?」
きっとやりこんでるからすごいんだろうなー。
「え、私……? こんな感じだけど」
【神崎栞】
筋力:32
脚力:52
ミート:63
守備:62
捕球:70
称号:器用貧乏
えっと.......
「「なんか地味」」
「二人がおかしいだけだから!」
もう!と栞が頬を膨らませる。
「私はセカンドやるね!」
栞が胸を張る。
「「せかんど?」」
「ですよねー!!」
栞の悲鳴がグラウンドに響いた。
セカンドってなんだ?おじさんがよく持ってるカバン?
その後。
三人で軽くバッティング練習することになった。
まず翼。
ピッチングマシン素人君2号がヘロヘロの球を投げる。
カキィン!!
ボールが転がる。
その瞬間。
ドンッ!!
翼が消えた。
「速っ!?」
一瞬で一塁到達。
さらに二塁へ。
「翼ちゃん待って待って! 練習だから!」
「えっ!?」
急停止。
ズザザザザザッ!!
盛大に転がってフェンスへ突っ込む。
ドゴォン!!
「あいたぁ……」
「だから止まってって言ったのに……」
次は栞。
カンッ。
綺麗な流し打ち。
一塁へと走る動きもスムーズ。
「おお……なんか野球っぽい」
「野球だよ!?」
最後。
あたし。
栞が念押しする。
「百花ちゃん、軽くね?」
「分かってる分かってる」
バットを構える。
ボールが来る。
軽く。
軽く当てる。
ブォォォォォン!!!!
ドゴォォォン!!!!
打球が遥か彼方へ消し飛んだ。
数秒後。
遠くのフェンスが爆発した。
「軽くって言ったよね!?」
「軽くだよ!?」
「どこが!?」
翼がきゃっきゃ笑っている。
周囲で練習していたプレイヤー達が避難を始めていた。
ひどくない?
でも。
三人で騒いでるこの時間は。
なんだか、ちょっとだけ楽しかった。
栞がぽつりと呟く。
「……チームって、いいね」
その顔は、少しだけ嬉しそうだった。




