聞き耳を立てる
そいつは肩を落としていた。
「どうしたものかなぁ」
「そんなに悩んだところで何かいいことがあるのかい。そんなに悩む暇があればさっさと家に帰って全部忘れることだな。」
「いやしかし、目の前で車に跳ねられちゃあたまったもんじゃない」
「最近は物騒になってきたんだ、そんなもんさ。時代かねぇ、あんたも気を付けることだ。」
夜風が会話の間を流れている
「多すぎやしないかねぇ、ここらじゃ顔見知りももうあんたぐらいなもんさ、嫌になるね」
「嫌になるったってあんたには家があるじゃないか、俺は逃げちまったからなぁ」
「家があるったって、そこに帰っても口も聞かない女が一人いるだけさ」
「飯を用意して待ってくれてるだけありがたいじゃないか」
「アイツにも愛想つかされてんのかねぇ、この前毒を盛られてたよ」
「ほぉ、よく生きてたなぁ、それでもウチの前のよりはましだわなぁ」
「あんたのとこの人は、ありゃ運が悪かったね、暴力を振るうよな奴だなんて、初めはわからねぇからなぁ」
「それでも愛してたんだがなぁ」
「右目が潰されちまったのにかい?」
「そりゃあ、その頃にはこっちだって殺してやろうと思ってたさ」
「物騒な世の中だねぇ」
「あんたそろそろ帰ったほうがいいんじゃないのかい」
「いやぁ、もう少し居ようと思ってたんだがね」
「そろそろ雨がふりそうだ、早く帰った方がいい」
「じゃあそうさせてもらうよ、明日も会えるかい」
「わからんなぁ死んでるかもしれねぇなぁ」
「あんたまだ14だろ、まだまだこれからだよ」
「そりゃあ17までは生きたいねぇ」
「そりゃまた長生きなこった。じゃあな」
「じゃあ」
そう言うとそいつは尻尾をふりながら帰っていった。




