閑話2
シオン達が帝国でノームを助けてから暫く経ってからの事だった。
この世界では情報伝達に時間が掛かる。電話などがないからだ。1番早いとされる伝達方法は、鳥系の使い魔などによる伝書鳩であった。
各地に点在している各国の密偵から、ガイヤ帝国にも四大精霊のノームが現れた事が伝わったのはそれなりに時間が経っていた。
「なんだと!?ガイヤ帝国にも四大精霊が現れた!!!?」
この知らせに1番動揺したのは、アーデン法王国であった。大陸全土に信者を抱えており、正義の女神アストライアを頂点に、その女神の使いである四大精霊も重要視されている為である。本来であれば、総本山であるアーデン法王国にこそ、顕現されるべきであるという思いがあるのだ。
「何故だ!?何故、我が法王国に顕現されないのだ!?」
動揺する者に声を掛ける者が現れた。
「動揺してはいけません。全ては女神様の御導きに異議を唱えてはなりませんよ」
穏和かな雰囲気の初老の男性が入ってきた。
「こ、これは教皇猊下!申し訳ございません!」
慌てて膝を付いた者は司祭の職に就く者であった。
「いいのです。全ては神の与える試練だと思いなさい」
「はっ!」
「女神様の御使いである四大精霊様が他国に顕現されたのは遺憾ではありますが、今まで現れなかった四大精霊様が今の時代に現れた。それは、我々の祈りに応えてくれたからに違いありません」
その言葉にその場にいた者達は再度、頭を下げた。
「しかし─」
次の言葉に衝撃が走る!
「しかし、四大精霊様と契約を結んだと言う少女………帝国で『緑の聖女』と名乗っているそうです。それはいけません。ええ、『聖女』と名乗って良いのは我が国で『聖女認定』を受けた者でなくてはいけません。『偽物』は正さねば………ね?」
穏和かな表情の教皇は雰囲気を一転させ、その場にいる者は畏縮した。
「司祭よ。王国に抗議の手紙を送りなさい。そして緑の聖女と名乗る少女の引渡し要求をするのです」
司祭は素早く首を縦に振り、教皇の威圧から逃れようと急いで部屋から出ていった。そして部屋に残った伝令の者に言った。
「………もし、王国が少女の引渡しを拒否した場合は『聖戦』も辞さないと圧力を掛けなさい。司祭が抗議文を届けると同時に、国境に聖堂聖騎士団を派遣します」
!?
法王国にも、多数の騎士団が存在する。国境を守る騎士団や、魔物に対処する騎士団などなどだ。そして、聖堂聖騎士団とは他国へ遠征する他国侵攻騎士団である。帝国とのイザコザに派遣される事がしばしばあったが、本格的な侵攻作戦など久しくなかった。
伝令係りは驚愕し、教皇を見上げる。
「安心しなさい。無慈悲な殺生は女神様のご意志に背きます。あくまでも圧力を掛けるだけです」
教皇の言葉に胸を撫で下ろし、伝令もその場を後にした。そして、誰もいなくなった部屋で教皇は呟いた。
「…………忌々しい。先代からの調略がここ1年で全て覆されている。まさか帝国まで御破算になるとはのぅ」
帝国の皇帝は傑物である。こちらの調略にも気付き対処していたが、不作の飢饉続きで貴族達に付け入るスキが出来たため、少しずつ腐敗させていたのだ。
そう、かつての王国と同じ事を帝国でもしていたのだ。
「しかし、四大精霊を従えている少女を我が国へ招き、法王国の『教育』(洗脳)を施せば、それ以上の成果となろう」
かつて報告を怠り、教皇まで情報が届かなかった為に、対応が遅れてしまった王国方面の責任者を処分し、再度別の者を王国や各国に放っていた。
今回の素早い対応はそのお陰と言えるだろう。
こうして大陸は激動の時代を迎えようとしていた。
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亜人連合国にて─
「今度は帝国で四大精霊のノーム様まで顕現されたか………」
四大精霊とは久しく目撃情報がなく、長寿のエルフでさえ、見たことのある者は少なくなっていた。
「何が起きているというのだ?」
密偵からの報告では、まさかとは思ったが帝国が四大精霊のウンディーネを招く事に成功したと聞いた時は恐怖したものだ。帝国に力を貸すのかもと………
「しかし、ウンディーネ様が他の四大精霊を探しているというのは僥倖だった。すぐに親書を王国へ送ろう!」
これで枯れてきている世界樹の原因と、姿を消した四大精霊シルフィードの行方もわかるかも知れない。
亜人連合の上層部達は希望を見つけたとばかりに吉報を待つのだった。
まさか、戦争間近な情勢とは夢にも思わずに─
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