意外な訪問者!(挿絵あり)
とある一室にて─
「おいっ!いたか!?」
「いや、いない!」
「あの置き手紙は本当なのか!?」
大騒ぎの原因は、とある人物が失踪した事にある。
「どうだ!?いたか?」
ある人物が入って来たことで騒音がピタッと止まった。
「申し訳ありません!どこにもいらっしゃいません!」
深々と頭を下げる一同に、軽くため息を吐いた。
「急に、『帝位』を委譲すると言って居なくなるとは…………あのバカ親父が!!!」
この人物が放つ殺気に、周りの人々は冷や汗を流しながら頭を下げる事しか出来ないのであった。
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ザップーン!!!
ワイワイ
ガヤガヤ
「うむ、ここがシルクード領か。まさか、魔境の森に近い辺境がここまで栄えているとはのぅ?」
シルクード領に新しく建設された港に着いた人物が呟いた。
「おや、貴方も噂を聞いて来た口ですかな?」
ちょうど降りた先にいた商人が話し掛けてきた。
「まぁそうだな。貴公も初めてなのか?」
「いえ、私はこれで2度目ですね。海向こうの自由貿易都市から仕入れに来たんですよ。シルクード領は素晴らしい所ですよ!珍しい物が溢れ返っています。特に最近できた温泉街はとても良いです!ぜひ1度行ってみてください」
「そうか、情報感謝する」
饒舌に話す商人からシルクード領の詳しい情報を得て、港を散策しようと歩き出した。どうやら港から街まで少し距離があるようだ。
見廻りながら少し歩くと看板があり、港から街へ向かう定期馬車が出ていることに驚いた。
『なるほど。港から自領に向かう定期便の馬車を出す事で、人の移動を効率的に行っているのか。商人には嬉しいサービスだな』
民の事を考えたサービスに感心しつつ、馬車に乗りシルクード領の中心に向かうと─
「なんだ!?この発展した街は!?」
王都や大都市にひけを取らない建造物と人の数に驚いた。
「こんなに発展しているとは………ウンディーネの事が無くとも、もっと周辺国の情報を探らせるべきじゃったな」
紙での報告と実際に見て体験するとでは大違いである。そこへ─
「へいっ!らっしゃい!らっしゃい!」
可愛い、威勢の良い声が聞こえてきた。
視線を向けると、屋台で小さな少女が食べ物?を焼いていた。
「うむ、威勢が良いな!お嬢ちゃん。たこ焼き?それは食べ物か?1つ貰おう!」
「あんがとう!『お爺さん』!」
我らがヒロインであるシオンは、シルクード領の御当地料理を作ろうと、新作の『たこ焼』の実演販売を行っていたのだ!
そこに、渦中の人物が通ったと言う事である!
(ご都合主義?知りません。ただの偶然です)
「ほぅ?丸い食べ物とは珍しいのぅ?どれ……」
ぱくりっ…………
クワッ!!!
「う~ま~い~ぞ~!!!」
渾身の叫び声が上がりました!
「この濃いソースに、なんじゃこの白いタレは!?それに、中はトロトロ、外はカリッと良い食感に、これはタコか?歯ごたえあるアクセントが素晴らしい!」
おおっ!食レポみたいにコメントしてくれているよ♪たこ焼は庶民のみんなが大好きな食べ物だからね!
「シルクード領の新しい名物料理にしようと開発したばかりだよ♪」
そう言ってシオンは特製のたこ焼用の鉄板に小麦粉を溶いたものを流していき、少し焼くと細い針でクルクルと器用に廻していった。
「ほほぅ?味もさることながら、この作り方も面白いのぅ?」
周りを見渡すと、自分が叫んだ事もあるが、珍しい料理に人が集まりつつあった。
「美味しい」と、次々に購入の列ができて少女は楽しそうにどんどん『たこ焼』を作っていく。ワシは食べたあと屋台側で少女をしばらく見ていたが、流石に5~8歳ぐらいの少女では体力に限界があると思い手伝いを申しでた。
「ふぅ、えっ?手伝ってくれるんですか?」
「うむ、しばらく作り方を見ていたから大丈夫じゃ。お嬢ちゃんも少し休むがよい」
目の前の少女は御礼を言って、ワシがたこ焼を作れるのか見届けた後、売り子に徹した。
「お爺さん上手いね!」
「これでもAランクの冒険者じゃった。野営などの料理もお手の物じゃ」
ワシはこの『たこ焼』を食べるのも良いが、作るのも楽しくなってやめられなくなった。
しばらく作ると材料が無くなり、本日はお開きとなった。
「お爺さんありがとう!」
「いや、こちらが好きでやったことじゃ。気にするでない」
こうして、奇しくもシオンと謎のお爺さんは出会ってしまった。たこ焼を作る仲間として。
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