イリスの妬きもち?
朝日が昇る少し前、マルスは目を覚ました。
「日課になってるから、起きちゃったな。」
ダンジョン挑戦に向けて、体調を万全にして臨もうという話になっており、日課の朝の鍛錬は行わない予定だったのだが、長年の習慣が身に染み付いていたマルスは、いつも通り目を覚ましてしまったのだ。
マルスは、起きた身体を再びベッドに落とすが、全く寝れそうにはなかった。
「朝、身体を動かした方が、調子が良い筈だ。」
マルスは、自分を納得させる言い訳を口にして、クレイを起こさないように、ゆっくりと部屋から出て行く。
マルスが、宿屋の入り口前に辿り着くと、サーシャが店の清掃を行なっていた。
「おはようサーシャ。」
「おはようございます。朝食にされますか?」
朝から明るい笑顔で挨拶するサーシャ。
(お父さんや、幼馴染のことが心配だろうに、サーシャは強いんだな。)
マルスは、健気に笑顔を浮かべて客の対応をするサーシャを、心の中で凄いと感じていた。
「朝食は、仲間が起きてから一緒に食べます。ちょっと、朝の鍛練をしようと思いまして。」
マルスがそう答えると、サーシャはマルスが帯剣していたことから、素振りでもするのだろうと判断し、宿の横のスペースが空いていると、マルスに教えたのだった。
マルスは、サーシャにお礼を述べて、教えられた空き地で準備運動を行う。
「さて、ランニングから始めるかな。【支援魔法大天使の羽】。」
マルスは、いつも通り最上級の支援魔法を施し、速力を強化して走り出したのだった。
マルスが、ランニングをしていると、迷いの森に向かおうとしているグループを見つけた。
そのグループは、昨夜食堂に居た、若い男女のグループだ。
「おはようございます。」
「ん? ああ!? 同じ宿に居た方ですね。おはようございます。」
赤髪の男性も、マルスのことを覚えており、挨拶を返す。
「マルスと言います。皆さんは、今からダンジョンに向かわれるんですね。」
「ロートです。はい。ダンジョンでレベルを上げて、早く上位の冒険者になりたいですから。」
赤髪の男性は、ロートと名乗り、握手を交わす。
ロートは、Cクラスに満足しておらず、もっと有名になりたいと考えていたのだ。
「何やら、ダンジョンで失踪者が多いようなので、気を付けて下さいね。」
「らしいですね。そちらも気を付けて下さい。」
ロート達は、マルスに別れを告げて、ダンジョンのある迷いの森へと歩を進める。
マルスは、ロート達を見送ると、ランニングを再開し、宿へと戻る。
「あら? お帰りなさい。走ってらっしゃったんですね。」
サーシャは、マルスの為に用意していた水を差し出した。
マルスはお礼を言って、コップを受け取り、渇いた喉を潤した。
「鍛錬は終わりですか?」
「いえ。これから、素振りなどを少しやります。」
「そうですか。朝から凄いですね。それに、先程の走りも凄い速かったです。」
マルスの素の能力値でも、速力はかなりのものなのだが、それに支援魔法を加えていたことから、凄まじい速さになっているのだ。
その後、マルスは素振りをしていたのだが、サーシャはしばらくその様子を眺めていた。
マルスの無駄の無い動きは、舞を踊っているような動きであり、その動きにサーシャは見惚れていたのだった。
「私、剣術とか詳しく無いんですけど、とっても綺麗な動きでした!」
サーシャは、興奮気味にマルスに話し掛ける。
余りにも興奮していた為、マルスとの距離もかなり近く、マルスが目線を下に向けると、サーシャの谷間が良く見えてしまう程の距離だった。
「あっ!? マルス、おはよ……。」
そこへ、丁度マルスを探していたイリスが登場する。
「お、おう!? イリスおはよ……。」
イリスの声に反応したマルスは、イリスの方へ向きながら挨拶をしようとして、途中で言葉を止める。
いや、止めざるを得なかった。
イリスからは、異常な程の魔力が溢れていたのだから。
勿論、殺気も。
「【火魔法地獄の炎】!」
イリスは、右手の人差し指をマルスに向け、指先だけに魔力を集中し、威力を一点に高めて、マルスだけに当たるように発射したのだ。
「ちょっ!? 【結界魔法大天使の守護】!」
マルスも、イリスと同じように、最上級の結界魔法を通常展開する範囲よりも狭めて、強度を高めて展開した。
イリスの魔法を防いだマルスは、冷や汗を流す。
「い、イリス?」
無言のイリスが、マルスへと詰め寄ってくる。
マルスはその迫力に、少しずつ足を後退させる。
「あ、さ、か、ら、何をしていたのかなぁ?」
イリスは、物凄く機嫌を損ねた顔でマルスに詰め寄る。
「鍛錬していただけだよ?」
「朝から何の鍛練をしていたのかなぁ?」
(お、おかしい!? 俺は事実を言っているだけなのに、何故か疚しいことをしていたかのような状況になっている!?)
「す、すいません。剣の鍛練を見ていたら、余りにも綺麗な動きだったので、私が興奮してしまって。」
サーシャがイリスに必死に説明したお陰で、イリスの怒りが治る。
「あら? そうだったの。そうならそうと、言ってくれればいいのに。ほら、皆んなが朝食を待っているわよ。」
(うおぃ!? 俺の話は、聞く耳持たなかったよね?)
イリスは、マルスに言うだけ言って、先に宿へと戻ってしまった。
「愛されてますね。」
苦笑いを浮かべながら、サーシャがそう口にする。
「だね。」
(イリスの妬きもちは、洒落にならないな。)
マルスは、イリスに勘違いされると、危険だと認識したのだった。
本日もありがとうございました( ^ω^ )
2019.7.22 間も無く総合評価1,000PTになりそうです(°▽°)!




