冒険者学校〜実力のお披露目〜
白魔道士マルスの実力を見せつける時です!
「それでは、これより試合を開始します。殺す事は禁止です。危なくなれば、私が止めに入ります。」
エイル先生は、特にアザゼルの方に目を向けて注意を促す。
試合は、大怪我をしない為に、木製の物を使用することになっている。
マルスは、一本の木剣を選択した。
「上級槍術士の実力を見せてやる。一撃で終わらせてやるよ。」
アザゼルは、木槍を選択し、矛先をマルスへと向けて構える。
「始め!」
エイル先生が、手を上から下へと振り下ろす。
アザゼルが合図とともに駆け出して、マルスへと突きを繰り出す。
マルスは、正面に構えていた木剣の腹部分を槍の先端にぶつけて、突きの軌道を逸らす。
「何!?」
今の一撃を回避されると思っていなかったアザゼルは、驚愕する。
(いやいや、何!? って、あんな単調な突きを喰らう訳が無いだろうが。)
その後も、アザゼルが何度も攻撃を繰り出すが、その全てを回避する。
「逃げてばっか、いるんじゃ、ねぇ、ぞ!」
アザゼルは、自分の攻撃が全くヒットしないことに苛立ち、攻撃が大振りになり始める。
(上級職でもこんなもんなのか?)
マルスは、避けてばかりいるのに飽きて、反撃に転じる。
「く、くそっ!? 俺が白魔道士如きに!」
マルスの攻撃がアザゼルの身体に、幾度と無く命中して行く。
(魔法使うまでも無いんだけど。)
観戦していたクラスメイト達は、アザゼルが決して弱いとは思っていない。
それでも、マルスの相手になっていないと理解する。
「糞が! 【槍技:疾風突き】!」
アザゼルの槍が、先程までの攻撃とは比べ物にならない程の速度で突き出される。
「おっと!?」
それでもマルスは、対応して見せた。
「絶対に認めない! 【槍技:槍雷】!」
槍が稲妻を纏い、先程の疾風突きよりも更に速い突きが繰り出される。
「【転移魔法:瞬間移動】!」
先程よりもかなり速かったため、マルスは槍を避けるのに瞬間移動を発動した。
視界が切り替わり、マルスの目の前には、アザゼルの背中がある。
「!?」
いきなりマルスが消えたことで、アザゼルは混乱していた。
「終わりだ!」
マルスの木剣が、アザゼルの首筋に添えられる。
「そこまで! 勝者マルス!」
エイル先生の宣言により、マルスは木剣を下ろす。
「き、貴様、一体どうやって俺の槍雷を避けやがった!?」
アザゼルは、自身の槍雷に絶対の自信を持っており、それを如何にして避けられたのか、理解出来なかった。
「かなりいい技だね。思わず転移で避けちゃったよ。」
「は?」
マルスが避けた方法を答えると、アザゼルは訳が分からんと言った顔をしていた。
周りで観戦していたクラスメイト達も、驚いていた。
「成る程ね。転移魔法は、移動手段としての利用が主流だけど。今みたいに戦闘中に使う方法もあるのね。」
エイル先生は、マルスの瞬間移動に感心していた。
「んーー、白の賢者の私でも、戦闘中に使うのは無理そうね。転移魔法はかなりの集中力がいるし。」
エイルは、自らが最上級職業の白の賢者であると口にした。
「エイル先生って、白の賢者なんですね。確かに、転移魔法は集中力が必要ですけど、慣れれば戦闘中でも使えますよ。」
「かなり修行が必要そうね。まあ、接近戦をやる白魔道士の人は、マルス君以外いないんじゃないかな。」
(白魔道士でも戦えるのにな。)
試合に負けたからなのか、アザゼルは何も言わずに立ち去ってしまった。
こうして、マルスの実力をクラスメイト達は知ることになったのだった。
ふと、一人の男子生徒がマルスへと近付く。
マルスへと近付く者は、身長180センチにガッチリした身体付きの男だ。
「ねぇ。もしかして、マルス君の生まれって、ティターン村?」
「どうしてそれを? ん!? もしかして、クーちゃん!?」
「やっぱりマルス君だったんだね! 生き延びたんだね。」
「クーちゃんこそ、よく生きてたね!? 皆んな死んだものだとばかり思っていたよ。」
「たまたま、親の仕事で村を離れていたんだ。村に帰った時には、もう誰も残ってなかったよ。」
十数年振りの再会に、二人は感動していた。
人口の少ない村で、唯一の同い年だった二人は、とても仲が良く、双子の兄弟の様に過ごしていたのだ。
マルスが幼くして修行を始めた頃に、クーちゃんことクレイオスもセトに憧れて修行していたのだ。
「また一緒に過ごせるんだな。」
「そうだね。」
二人とも、小さい頃の呼び名では恥ずかしくなり、マルスとクレイと呼ぶことにしたのだった。
▽
学校は、全員が寮生活を送ることになる。
一人に一部屋与えられる為、寮の大きさや数はかなりの数になっている。
「ふぅーー、初日から疲れたーー。」
マルスは、ベッドにダイブして、身体を伸ばす。
コンコン
(誰だ?)
マルスが部屋の扉を開けると、そこにはイリスとフレイヤが立っていた。
「どうしたの?」
「一緒にご飯でもどうかと思ってね。もう済ませちゃった?」
「まだだよ。」
イリス達に誘われたマルスは、クレイを誘って1階にある食堂へと向かった。
(上手い! ヘラさんのご飯も美味しかったけど、ここの食堂のご飯も美味しいな。 美味しいご飯で良かったぁ。)
「それにしても、マルス殿の実力はかなりのものですね。白魔道士でありながら、上級槍術士をああも簡単に倒してしまうとは。」
「そんな固い言葉じゃなくて、普通に話してくれよ。俺は、小さい頃から修行してたからね。クレイも一緒に修行してたもんな。……そう言えば、何でみんなイリスを呼ぶ時に、様を付けてるんだ?」
それに、今も食堂に居る人達は、イリスの方をチラチラと見ている。
「え? イリスのこと知らないのですか?」
「え? イリスって有名人なの?」
マルスの返答にフレイヤは頭を抱え、イリスとクレイは笑っている。
「イリスは、オケアノス王国の王女様ですよ?」
「えぇーー!? イリスって王女様だったの!?」
(た、確かに最初に出会った時に、護衛の人が居たから、いいとこのお嬢様だとは思っていたけど。)
「えっと、俺も様を付けた方がいいかな?」
「付けなくていいわよ。今まで通りでお願い。」
(イリスがそう言うなら、いいか。 今更、様付けで呼ぶのも変な感じだし。)
「てか、王女様が冒険者学校なんて来るんだな?」
「オケアノス王国の民を守るのが王族の務めです。その為には、自分自身が強くなければなりませんので。」
「へぇーー、立派な考えの人が王様なんだな。」
食事を終えた俺は、イリス達と別れて自室へ戻り、就寝した。
▽
翌朝、マルスは日が昇るころに起床し、身仕度を整えて、寮を出た。
準備体操を済ませるマルス。
「よし。【支援魔法:大天使の羽】。」
自身に最上級の支援魔法を掛けて速力を強化したマルスは、日課であるランニングを開始する。
「【空間魔法:収納箱】。」
ランニングを終えたマルスは、異次元空間から剣を取り出して、素振りを始める。
ヘラに習ったことを思い出しながら、正確な素振りを行う。
「おはようクレイ。フレイヤ。」
マルスは、人の気配を感じ、近付いていたクレイとフレイヤに挨拶する。
「おはようマルス。」
「おはようマルス。綺麗な剣筋ですね。それで白魔道士なんて。」
フレイヤは、マルスの素振りを見て感心していた。
クレイとフレイヤは、マルスに倣って素振りを始めた。
暫くして、素振りを終えたマルスは、次に筋トレを始める。
「朝からハードなんですね。」
「そうですか?」
フレイヤの質問に、マルスとクレイは、腕立て伏せをしながら答える。
「おはよーー。」
新たに声がした為、マルスが視線を受けると、そこにはクラスでマルスの左隣に座っていた赤髪の女性がいた。
マルスは腕立て伏せを止め、立ち上がって挨拶を返す。
「自己紹介がまだだったね。私はミネルヴァよ。」
マルスとクレイ、フレイヤも自己紹介をした。
「……ミネルヴァさんって、素手で戦うの?」
マルスは、ミネルヴァが武器を所持してないことに気がつく。。
「同い年なんだから、ミネルヴァで良いわ。私は拳聖なの。」
ミネルヴァの言う拳聖とは、格闘家の最上級職業である。
「最上級職業!? 凄いですね!」
「んーー、職業が凄くても、私の実力が見合ってないから、まだまだよ。」
ミネルヴァは、学校に来れば自分が最強になれると思っていたのだが、マルスの試合を見て、職業に胡座をかいてはいけないと感じていたのだ。
「そうだ! 俺と組手やってもらえない? 格闘戦の訓練がずっと出来なくて困ってたんだ。」
(武器が無い時の訓練に、打ってつけの相手が見つかったぞ! そう言えば、クレイの職業を、まだ聞いてなかったな。 今度クレイとも格闘戦をやるとしよう。)
「……いいよ。」
こうしてミネルヴァとの組手が始まった。
▽
「良い修行になったよ。ありがとうミネルヴァ。」
「はぁはぁはぁ、こちらこそ。」
マルスには、まだまだ余裕があったが、ミネルヴァは一杯一杯になっていた。
「また後でね。」
マルスは、女性二人と別れて自室へと戻る。
「まさか、白魔道士の職業相手に負けるなんて。絶対勝ってやるんだから!」
ミネルヴァは、闘志を漲らせていた。
一方、イリスはと言うと、未だに部屋でおやすみ中であった。
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