暴走〜バラキエルサイド〜
「力が欲しいか?」
暗い暗い独房の中、バラキエルは心の奥底に語り掛けるかのような声が聞こえた。
「……誰だ?」
バラキエルは、こんな地下牢に誰か面会に訪れたのかと思っていた。
バラキエルの問いに、返事は無かった。
「……父上か?」
バラキエルは、こんな地下牢に、自分に会いに来る人物は、自分の父親以外考えられなかった。
バラキエルの言葉に、返事は無い。
「幻聴か?」
バラキエルは、自分が先程発した言葉をおかしく思う。
こんなことを仕出かした自分に、父親が面会に来る筈なんてないのだと。
「俺は、死刑になるのか。」
バラキエルの処分について考えるが、死刑以外の選択肢は無いと冷静に判断する。
国の王女を攫ったのだ、それぐらいの処分が出て当然である。
「我が家も、爵位剥奪となるだろう。」
バラキエルは、育ててもらった父親に申し訳ないといった表情を浮べる。
「アイツさえ、アイツさえ現れなければ!」
バラキエルの脳裏に、マルスの姿が浮かび上がる。
「あのマルスとか言う奴さえいなければ、イリスは俺のものになっていたんだ! そして、この国のトップに俺が君臨する筈だったのに!」
バラキエルは、幼少期よりイリスに惚れていた。
自分の見た目は、最高傑作と言える程、整ったものだ。
そんな自分には、強く美しく、地位のある女性。
つまり、イリスしかあり得ないと思っていたのだ。
しかし、バラキエルは、イリスに一向に振り向いてもらえなかった。
それでも、バラキエルは、自分が公爵家の人間であることから、イリスを自分のものにする機会は訪れると考えていたのだ。
だが、イリスはバラキエルでは無く、マルスを選んだ。
「君は、何故あんな男を選んでしまったんだ!? 目の前に、俺という存在がいながら! 許さない許さな許さない! ……アイツだけじゃない、イリスも殺してやる。」
バラキエルの中で、イリスへの怒りが暴走する。
バラキエルは、地下牢の壁を何度も何度も何度も、殴り付ける。
バラキエルの拳は、自らの血で赤く染まっていく。
「力が欲しいか?」
バラキエルの耳が、再びあの声を捉える。
「力が欲しい! ここから出る力が! 奴らに復讐する力が!」
バラキエルは、その言葉に答える。
「ならば、手助けしてやろう。お前の本当の力を解き放ってやる。」
バラキエルは、その謎の言葉に何の疑問も感じていなかった。
ただ、復讐するための力が欲しい。
そう、本心から願っていたのだ。
コトン
バラキエルが音のした方へ目を向けると、小瓶が置かれていた。
「さぁ、それを飲んで、本当の自分を解き放つんだ。そうすれば、君の望みは叶う。」
その甘美な声に従い、バラキエルは小瓶へと手を伸ばす。
バラキエルは、躊躇うことなく小瓶の蓋を開けると、得体の知れない液体を、喉を鳴らしながら飲み干してしまう。
「そう。それでいい。」
謎の声は、バラキエルの行動に満足したような声色を発する。
「うっ!?」
バラキエルは、心臓を鷲掴みにされたかのような痛みを受け、地下牢の中を転げ回る。
「がぁ!?」
(どうなっているんだ!? 毒だったのか? 俺はこのまま死ぬのか?)
バラキエルは、苦しみながら、先程飲んだ液体のことを思う。
まさか、毒で殺されることになるとは思っても見なかったと。
オケアノス王国では、重罪人を死刑にする際は、首を切り落とすことになっている。
その為、この様な方法で死刑が執行されるとは、思いもよらなかったのだ。
徐々に意識が弱まって行く、バラキエル。
そして、意識が一時途絶えた瞬間、新しく生まれ変わった感覚に襲われる。
「ああぁーー!」
バラキエルの黄金の髪は、燻んだ色へと変色し、頭部からは鬼の様な角、背中からは漆黒の羽が生えていた。
「ふははっはははははは! 素晴らしい。最高の気分だ。」
バラキエルは、自らの内から湧き上がる力に歓喜する。
「ふん!」
バラキエルが地下牢の格子を殴り付け、破壊する。
この地下牢自体には、魔法を封じ込める特殊な素材が使われており、地下牢に使われれている素材は、かなりの強度の物が使用されている。
しかし、バラキエルは、その格子を素手で破壊したのだ。
攻撃力の高い職業の者でも、破壊不可能と言われる程の強度の格子を、上級黒魔道士だったバラキエルが、破壊したのだ。
「最高の気分だ。」
ここに、悪魔化したバラキエルが誕生した瞬間である。
次回 堕ちたバラキエル




