イリスを狙う者
マルスは、アイテール校長先生が呼んでいたとの伝言を受け、校長室へと向かっていた。
そして、校長室へと辿り着いたマルスは校長室をノックする。
コンコン
……。
「あれ? 返事がないな。」
マルスは、その後も何度かノックをするが、部屋の中から返事は返って来ない。
「どうしたのマルス君?」
そんな時、エイル先生がマルスへと声を掛けた。
「校長先生が俺を呼んでいたと聞いたのですが、部屋にいらっしゃらないようで。」
「え? 校長先生は、今日は学校に来ていないわよ。」
「え? でも、至急の話があるからって聞いたんですけど?」
「そうなの? 校長室に来るように言われたの?」
「はい。そうです。」
「……ちょっと分からないわね。校長室に来るように言ったのなら、校長室に居るはずだし。」
「そうですよね。」
「それに、マルス君を呼び出したいなら、私を通す筈よ。私はそんな話は聞いていないから、何かの間違いじゃないかしら。」
仮に、校長先生がマルスを呼んでいた場合は、エイル先生がマルスへと伝えてくれることになり、マルスは校長先生の部屋の前を後にする。
アイテール校長先生に呼び出されてしまったが、結局アイテール校長先生に会えなかったマルスは、早足でイリスの待つ校舎裏へと向かう。
マルスの足は、徐々に歩く速度が速くなり、マルスは急ぐ気持ちを抑えられず、駆け足となる。
(あれ? イリスが見当たらない。 まだ着いてないのか?)
校舎裏に辿り着いたマルスは、周囲を見回してイリスの姿を探す。
「やっぱりまだ来ていないのかな。」
マルスは、自分が校長先生に呼び出された為、長引くと考えたイリスが時間調整をしていると考え、校舎の壁へと寄りかかる。
そして、目線を下に落としたマルスの目に、ある物が止まる。
「これは?」
マルスが見つけて拾い上げた物は、イリスが使うのを見たことがあるハンカチだった。
流石に、王女の持ち物だけあって、上等な素材で作られたハンカチは、肌触りが他の物とは比べ物にならない。
「なんで、イリスのハンカチがこんなところに。」
(もしかして、イリスはこの場所に来ていたのか?)
イリスのハンカチがこの場に落ちているのに、イリスの姿が見当たらないことを不審に思うマルス。
「あっ!? いたいた! マルス様!」
そこに登場したのは、マルスの見知らぬ女子生徒だった。
「君は?」
「私は、1年1クラスのシャールと言います!」
「えっと、俺を探していたの?」
「はい! これを渡して欲しいと、バラキエル様に頼まれました。」
そう言って、シャールという女子生徒がマルスへと手紙を手渡す。
「ありがとう。」
「い、いえ!(うわぁ、マルス様をこんなマジかで見られるなんて、私、死んでもいい。)」
「ところで、バラキエルって誰のこと?」
「バラキエル様は、3年Sクラスに在籍している方です。この国の公爵家の嫡男の方なんですよ。この前の代表選にも選ばれてもおかしくない実力をお持ちの方なんです。」
(そんなお偉いさんから、何で俺宛に手紙が?)
マルスは、手渡された手紙の中に入れられた便箋を取り出す。
『偽りの英雄マルス、イリス王女を返して欲しければ
、訓練場へ来い。』
「え?」
(なんだよこれ? まさか、バラキエルって奴に、イリスが連れて行かれたってことか!?)
マルスは、手紙を放り出すと、直ぐに訓練場へと向かうのだった。
マルスに置いてけぼりにされたシャールは、マルスが落としていった手紙を拾い上げる。
「えっ!? 嘘!?」
シャールは、手紙の内容を目にして、浮かれた気分が一瞬で沈んだ。
そして、シャールも訓練場へと向かうのだった。
▽
マルスが、アイテール校長の下へ向かってから、イリスは校舎裏目指して歩き出す。
(マルスの話って、一体なんなんだろう?)
イリスは、マルスの話の内容について、考えを巡らせる。
校舎裏に辿り着いたイリス。
そんなイリスに近付く影があった。
「やぁ、イリス王女。今日も大変お美しいですね。そろそろ、良い返事が聞きたいのだが?」
イリスの前に姿を現したのは、イリスの様な輝く黄金の髪を持ち、整った顔立ちをした男、バラキエル。
その出で立ちは、とても優雅であり、彼の纏う香りと甘い声は、女性を惑わせる。
そんなバラキエルの後ろには、彼に仕えている側近が2名控えていた。
「……バラキエルさん。何度も言うように、貴方とはお付き合い出来ません。」
イリスは、公爵家の嫡男であるバラキエルとは、幼い頃から面識がある。
表向きのバラキエルは、とても聡明で優しい人柄だ。
しかし、裏の顔は、残忍で冷酷なのだ。
幼き頃のイリスは、バラキエルが笑みを浮かべながら、小動物を魔法で撃ち殺している姿を目撃し、バラキエルの内に秘めた性格を知った。
その為、イリスは極力バラキエルと遭遇しないように過ごして来たのだが、冒険者学校の合同職業訓練では、1学年から3学年の黒魔道士が一緒に授業を受ける為、どうしてもバラキエルと会ってしまうのだ。
小さい頃は、事あるごとにバラキエルから言い寄られていたイリスだが、最近は特にバラキエルからのアタックが激しさを増し、イリスは困っていたのだ。
イリスが、しつこく言い寄ってくると、マルスに話していた人物が、バラキエルのことでだったのだ。
「まだ、そんなことを言っているのか。……それよりも、君が偽りの英雄と一緒に、食事をしていたと言う話が出ているが、俺の誘いは断るのに、何故あんな奴とは一緒にいるんだ?」
「……偽りの英雄とは、誰の方ですか?」
イリスは、怒りを露わにして問い詰める。
「ん? 知らない筈ないだろ? あの白魔道士のことさ。王都中で、奴は偽りの英雄と呼ばれているんだが、そんなことも知らないのか?」
「な、なんですって!?」
「白魔道士なんて、カス職業に生まれた奴が、偶々魔王を倒した時に、その場に居たってだけで英雄扱いとは、奴は英雄なんかじゃない。本当の英雄は、俺だなんだ! あんな奴、俺の足下にも及ばない!」
「貴方では、マルスに勝てません!」
「……。」
「マルスの方が、貴方より強い。それと、貴方を断る理由は、貴方よりマルスの方がずっと魅力的だからです!」
イリスの言葉を受けたバラキエルは、俯いたままイリスへと近付いて行く。
「こ、来ないで!?」
イリスは後ずさるが、直ぐ後ろは、校舎の壁だった。
バラキエルは、突如イリスに飛び掛かり、イリスの両手首を掴んで、壁へと押さえつけた。
「い、いや!? 離して!」
イリスが、バラキエルの拘束から逃げ出そうと暴れるが、バラキエルの力は強く、拘束から抜け出すことは出来ない。
「……【雷魔法:感電】。」
バラキエルの雷が、イリスの身体の中へ流れ込み、イリスの意識を刈り取る。
「イリスを運べ。俺は、奴を殺す。」
バラキエルは、幼き頃より自分に仕えている側近二人に命じて、イリスを運び出す。
「俺のイリスを、誑かした罪は重いぞ。偽りの英雄。」
バラキエルの表情は、イリスが幼き頃に見た、残忍で冷酷なものへと変わっていたのだった。
次回 イリスを救え!




