白魔道士マルス対魔王フェンリル
「俺の相手は貴様か。八裂きにしてやる。」
魔王フェンリルは、前足の鋭利な爪で地面を引っ掻く。
「お前に出来るかな? (早く倒さないと。セトさんが心配だ。)」
マルスは、剣先を魔王フェンリルへと向ける。
「ほざけ! 【銀狼の風】!」
魔王フェンリルの大口から、銀色の風が発生し、地面を抉りながらマルスへと突き進んで行く。
「お返しだ。 【結界魔法:反射】!」
マルスは、自分の前に結界を展開し、銀狼の風を跳ね返す。
「何!?」
魔王フェンリルは、マルスによって跳ね返された銀狼の風を横へ跳躍して回避する。
跳ね返された銀狼の風を避け切った魔王フェンリルが、マルスへと再び目を向けるが、そこにマルスの姿は無かった。
「居ない?」
「何処を見てる?」
魔王フェンリルは、自分の耳元で囁く声にハッとなり、直ぐに前に動き出す。
しかし、次の瞬間、魔王フェンリルは自身の胴体を斬られてしまう。
「……どうなってやがる!?」
素早い回避行動を取った魔王フェンリルの傷は浅かったが、マルスの動きが全く見えなかったことに魔王フェンリルは動揺していた。
「どうした? 随分余裕が無くなっているじゃないか。」
マルスは、大幅なレベルアップにより、魔王との戦闘でも落ち着いて戦うことが出来るようになっていた。
「調子に乗るな! 【銀狼の竜巻】!」
魔王フェンリルは、先程よりも上位の技を放つ。
巨大な竜巻は、地面を深く抉り、周囲に強風をもたらしながら突き進む。
魔王フェンリルは、この技なら先程の様に跳ね返されないと考えていた。
「ハッ!」
「ガゥッ!?」
魔王フェンリルは、足を斬られて悲鳴を上げる。
先程よりも深く斬られた傷は、魔王フェンリルの機動力を奪う。
「どうなってやがるんだ!? ……貴様何をした!」
魔王フェンリルは、自分の攻撃によりマルスを見失っていたのだ。
その間に、マルスは転移魔法でフェンリルの近くに転移していたのである。
「教える義理は無い。(冷静さを失って貰った方が好都合だ。)」
マルスは、丁寧に教えるつもりはなかった。
命のやり取りをしている相手に、手の内を晒す必要はないからだ。
「だったら、避けられない攻撃をするだけだ! 【銀の災害】!」
魔王フェンリルは、自身を中心に巨大な竜巻を発生させると共に、その竜巻には紫電が迸っていた。
正に、災害と呼ぶに相応しい威力の技である。
「がはははは! これなら貴様が如何に速かろうと近付けまい!」
魔王フェンリルは、徐々に銀の災害の範囲を拡大していく。
(かなりの威力だな。喰らったら痛そうだ。何か突破口はないか?……ん?)
マルスが、魔王フェンリルの攻撃の突破口を考えていると、魔王フェンリルの身体に葉っぱが舞い落ちるのを目にした。
(あそこか!?)
「残念だが、その攻撃には穴があるな。」
マルスの髪が強風で激しく靡いているが、マルスは余裕の笑みを崩さない。
「穴だと? ふざけたことを!」
魔王フェンリルは、マルスに自分の技に穴があると言われるが、自分の技に絶対の自信を持っていた。
「でっかい穴が空いてるじゃないか。」
マルスは、不敵な笑みを浮かべる。
「ならば、破ってみるがいい!」
マルスの言葉に怒りを露わにした魔王フェンリルは、目を見開いて言葉を荒げた。
「行くぜ。【転移魔法:瞬間移動】。」
マルスが言葉を放つと共に、その姿が消えてしまう。
「何だと!?」
魔王フェンリルは、マルスの姿を見失わない様、細心の注意を払っていた。
それなのに、マルスを見失ったことに魔王フェンリルは驚きを隠せない。
魔王フェンリルは、辺りを見回すがマルスの姿を捉えることが出来ない。
「そうか!? 姿を消しているんだな!」
魔王フェンリルは、マルスが透明になっていると判断した。
その為、発動している銀の災害の威力を高めていく。
姿を消しているだけなら、いずれ攻撃が当たると考えたからである。
「さぁ、姿を現せ!」
魔王フェンリルは、マルスの姿を探す。
しかし、いくら探してもマルスの姿が見つかることはない。
何故なら、マルスは姿を隠しているのでは無く、転移したからである。
魔王フェンリルの上空へと。
そう、自身を中心に銀の災害を展開していた為に、魔王フェンリルの上空だけは、ぽっかりと穴が空いていたのである。
(上ががら空きなんだよ!)
「【力の剣:建御雷神】!」
マルスの殺気に気が付いた魔王フェンリルが、空を見上げた。
しかし、気が付くのが遅過ぎた。
マルスの剣が魔王フェンリルの胴体を両断する。
「ば、馬鹿、な。」
魔王フェンリルは、切断面から血を流しながら、自身を斬り裂いたマルスを見据える。
「読みが外れて残念だったな。」
「ち、ちぐしょーー!」
最後の断末魔を上げて、魔王フェンリルの瞳から生気が失われた。
マルスはフェンリルの死体を後にし、未だ戦いを繰り広げているセトの応援に向かうのだった。
まだ戦いは終わりませんよ!




