Gクラスをこなすもの
マルスが冒険者デビューを果たします!
マルスが最初に向かったのは、『腰のマッサージ』依頼を出していた、オーバという老婆の家だ。
家と言うより、屋敷に辿り着いたマルスは、入り口脇に立つ門番へと声を掛ける。
「あのーー、『腰のマッサージ』依頼を受けた、マルスと言う者です。」
「おお。ギルドから連絡は受けている。よろしく頼むよ。」
門番に思いっきり背中を叩かれたマルスは、屋敷の中へと入る。
使用人に案内されると、一人の老婆がベッドを起こした状態でマルスを見る。
「あら? 随分可愛らしい子が来たのね。あなたがマルス君?」
(か、可愛らしい? 俺としては、この年齢で可愛らしいは複雑なんですが。)
「はい。ギルドの依頼を受けたマルスです。」
「早速、マッサージをお願い出来るかしら? 最近、腰が痛くて、碌に歩けないのよ。」
マルスは、オーバにうつ伏せになるようお願いし、腰に手を当てる。
オーバは、既に使用人である上級白魔道士の回復魔法を受けているのだが、症状が改善されなかったのである。
その為、依頼を受けた冒険者が腰の治療を出来るとは考えていない。
だから、Gクラスの依頼として『腰のマッサージ』を出したのである。
少しでも痛みが取れれば良いと言う思いと、新人冒険者の顔を見る為に。
「腰のマッサージの依頼でしたが、回復魔法を使用してもよろしいでしょうか?」
マッサージがあくまで依頼内容だったので、魔法はいらないと言われてしまったら、マッサージをするだけになってしまう。
「マルス君は剣を持っていたけど、白魔道士なのかしら?」
「はい。」
「珍しいわね。なら、お願いしようかしら。」
ただマッサージを受けるよりも、痛みが和らぐだろうと、オーバは回復魔法の使用を許可した。
「始めますね。【回復魔法:大天使の癒し】!」
強力でいて、とても優しい光がオーバの身体を包み込む。
「どうですか?」
マルスは回復魔法を終えて、状態を尋ねた。
オーバは、ベッドに両手を着くと、そのまま身体を起こして立ち上がる。
「な、治ってる!?」
オーバや使用人は、まさか腰が治るとは思っても見なかったので、驚いてしまう。
「上級白魔道士でも直せなかったのに、何をしたのかしら?」
「最上級の回復魔法を掛けました。元気になられて良かったです。」
マルスが何てことないように答えたが、マルスの発した言葉に、オーバも使用人も自身の耳を疑ってしまう。
「また、何か調子が悪かったら言って下さいね。」
マルスは報酬を受け取ると、オーバの屋敷を後にした。
▽
「次は、買い物の依頼にするか。」
マルスは、依頼主であるカートがいる孤児院へと向かった。
コンコン
「はーーい。どちら様?」
玄関から顔を出したのは、30歳代の女性だ。
「ギルドの依頼を受けて来たマルスと言います。買い物の依頼を出されましたよね?」
「ああ!? 受けてくれたんですね。助かります。」
買い物に、何故手伝いが必要なのか理解出来なかったマルスだが、店に着いて、その答えを理解する。
「えーーと、こんなに買うんですか?」
マルスの目の前には、大量の食材が山積みされていた。
何故、こんなに買う必要があるのかと言うと、孤児院には多くの子供が生活しており、大量に食材を買う必要があるからなのだ。
「ちょっと、買い過ぎちゃいました。……お願い出来ますか?」
カートは、何往復かしてもらってもいいので、運んでもらえればとマルスへお願いする。
「問題無いですよ。」
「私も一緒に運びますね。」
流石に買い過ぎたと反省しているカートが、そう申し出たのだが。
「大丈夫ですよ。転移しますので。少し手をお借りしますね。」
「え?」
マルスは片方の手をカートと繋ぎ、反対の手を山積みにされた食材に添え、転移魔法を発動した。
カートが驚いている間に、マルスが転移魔法を発動し、カートとマルスの前には、孤児院が建っていた。
「えーー!?」
「着きましたよ。」
「な、な、なな、な、どうなってるの?」
「これで依頼達成ですね。」
カートは何が起きたのか全く理解出来なかったが、一瞬でこれだけの荷物を運べたので、気にしないことにした。
一瞬で運んでくれたお礼として、報酬に加えてリンゴを一つ貰ったマルスは、昼食代わりにリンゴを平らげる。
「さて、次は引越しの依頼だな。」
▽
引越し依頼を出したアリの家に辿り着いたマルスは、依頼内容の確認を行う。
「えっと、アリさんが王都の西側に引っ越すんですね。」
「ええ。結婚して新居に住むんです。」
部屋には、多くの荷物が纏められていた。
「折角来てもらったんですが、荷台は借りれたんだけど、馬車が借りれなくて、引越しが始められそうにないのよ。」
アリが言うには、馬車が立て込んでいて、夕方まで借りることが出来ないとのことだった。
「んーー、この荷物を一度魔法で仕舞っても良いですか? 向こうの新居で取り出しますので。」
「え? それってどういうことですか?」
マルスは口で説明するよりも、実演した方が早いと考え、手に持っていた剣をアリの目の前にかざす。
「【空間魔法:収納箱】。」
突如目の前から剣が消えた為、アリの目が見開かれる。
「え!? 消えちゃった!? どこにあるの?」
「異次元空間に収納したんですよ。この魔法でアリさんの荷物を全て収納して、新居に運ぼうと思うのですが、いいでしょうか?」
それなら馬車の費用が掛からないで済むと、アリは即答した為、荷造りしてある荷物を全て収納箱に収め、新居で、全ての荷物を取り出した。
「これで全部ですね。大丈夫そうですか?」
「……はい。ありがとうございました。マルス君のお陰で安く済んだわ。」
マルスは、報酬に上乗せされた額を受け取り、アリの新居を後にした。
次にマルスが向かった、草むしりは、支援魔法大天使の羽を使って、高速草取り機と化したマルスが大活躍し、全ての草をむしりとった。
また、害虫駆除の依頼は、上級の結界魔法聖域結界を発動し、一気に害虫を追い出すことに成功し、逃げ出した害虫を全て駆除することに成功した。
どちらも、マルスの対応に大満足しており、上乗せの報酬を支払う。
▽
「最後はスライムの討伐だな。王都の西側にスライムが多数出没している。数が増えると面倒なので、適当に数を減らせって書いてあるな。」
指定されたエリアに行くと、スライムが群れをなしていた。
「あれ? スライムってこんなに集まることあるんだっけ?」
スライムは、最下級のモンスターとして有名であり、マルス自身も何度もスライムは倒したことがある。
しかし、これだけの群れとなっているスライムと遭遇したのは初めてのことだった。
因みにだが、このスライムは、ベタベタしており余り可愛くは無い、目も口も無いのだが、相手のことを体温で感知している。
また、捕食するときは、身体全体で相手を覆い、吸収しようとするのである。
「攻撃魔法があると、纏めて倒せて便利なんだけどな。」
マルスは、剣を振って一体ずつ仕留めて行く。
すると、スライム達がマルスから距離を開け、一箇所に纏まり始める。
「なんだこれ?」
スライム達から光が放たれ、光が弱まると、そこには一体の大きなスライムだけが残されていた。
(あれは、ビッグスライム? 始めて合体するとこを見たよ!)
マルスは始めてスライムが合体するところを見れて感動しているが、通常のGクラスであれば、喜べる状況などでは無い。
ビッグスライムの実力は、戦士の職業を持つ者が単体で戦うなら、レベル30は必要となる強敵だ。
ビッグスライムが飛び跳ねて、マルスへと攻撃を仕掛ける。
しかし、マルスはビッグスライムの攻撃を避けて、カウンターとばかりに剣を振り抜く。
ビッグスライムは、身体を両断されて、地面に体液を撒き散らして絶命した。
「纏まってくれたお陰で、楽に処理出来たな。」
立ち去ろうとするマルスの目は、キラリと光る物を捉える。
光に気付いたマルスが、ビッグスライムの亡骸に近付くと、綺麗な空色をした石が落ちていた。
「何だろうこれ?」
マルスは、拾った石が何だか分からなかったが、一応持って帰ることにしたのだった。
▽
「まさか、本当に全ての依頼をこなしてくるなんて。」
リナは、驚きを通り越して呆れていた。
全ての依頼をただ単にこなしただけでなく、依頼主全てが最大評価を付けていたのである。
「それに、このスライムジュエリーはどうしたんですか?」
「だから、スライム達が合体して、倒したら出て来たんですよ。」
「はぁーー、Gクラスが単独で、ビッグスライムの討伐なんて、聞いたこと無いですよ。それに白魔道士ですし。」
「そう言われても。」
「優秀な方が冒険者登録をしてくれて、喜ばしい限りですよ。今回の依頼達成で、マルス様はFクラスに昇格となりました。これからも頑張って下さいね。」
こうして、マルスは華々しい冒険者デビューを果たしたのだった。
新たにブクマ、評価をしてくださった方、ありがとうございます!
明日は、朝のみ投稿する予定ですm(__)m