82.学校の再開とエラゼムの装備
エラゼムは幽鬼に進化してもらった。
種族特性も良いが、それ以上に俺が見た目も気に入ったのが大きい。
全身真っ黒な甲冑で兜には三日月を横倒しにしたような飾りが付いている。
まず、種族特性だが、鈍足が消えただけでもとても大きな強化だ。
これだけでも、この進化先を選んだ価値があるというものだ。
それに加えて、新たな種族特性である鬼気だ。
これは戦闘時、MPが徐々に減っていく代わりに、筋力が強化されていくという効果だ。
この戦闘時のという定義だが、どうやらエラゼムが攻撃を仕掛けてから、受けた相手が倒れるまでらしい。
相手が倒れるかMPが尽きると、強化もリセットされるようだ。
この特性を考えるに、普通のモンスターよりも中ボスやボスモンスターに有効だと考えられる。
ダンジョン攻略では大いに役立ってくれることだろう。
俺は明日から学校が再開されることもあり、ここでログアウトすることにした。
ログアウトした俺は、明日の準備を整えながらログイン時間について考えていた。
今後、学校が再開される影響で1日にログインできるのは、1回くらいになるだろう。
そうすると、プレイの仕方を考えなければならなくなる。
ラビンスと王都の間は馬車を使っても1回分のログイン時間を使う。
以前、やっていたファーストとラビンス間のように往復するのは難しい。
やるにしても1週間ごとになるだろう。読書を進める早さも考えないといけないな
読書のペースとダンジョン攻略のペースを考えながら、俺はため息をつくのだった。
……………………。
次の日、俺はいつものように朝食を取りながらニュースを見る。
いまだ「abundant feasibility online」以外に体感時間の延長に成功したゲームは無いという趣旨の報道がなされていた。
それと、「abundant feasibility online」のVR機器が今月末に追加販売されるらしい。
また騒がしくなりそうだな。俺がそんなことを考えていると。
「ほわーあ、おはよう。お兄ちゃん……」
「ああ、おはよう」
春花が眠気眼をこすりながらリビングにやってきた。
ギリギリの時間では無いのは良いが、夜更かしした影響で寝不足のようだ。
俺は妹の分のコーヒーを注いでおく。
「今後は学校があるんだから、今までのペースでゲームするなよ」
「わかってるよー。お兄ちゃん」
「ほら、コーヒーでも飲んで目を覚ましておけよ」
「ありがとう」
朝食を終えた俺たちは、学校に向かう。
……………………。
学校について席に着いた俺に冨士崎が声をかけてきた。
「おはよう、北条寺君。ゲームの件ではお世話になったわね」
「お、おはよう、冨士崎。いや、あれは俺にもメリットがあったことだから。気にしないでもらってかまわない」
「そう? それならいいんだけど」
どうも、冨士崎を見るとゲームの中でのリーンが脳裏にチラついて、冷や汗が出る。
しばらくすれば、治るだろうか?
冨士崎との会話も終え、鞄から宿題を取り出していく。今日は夏休みの宿題を提出することがメインである。
宿題を出し終わってすぐに先生が教室に入って来た。さて、夏休み明けの最初の授業だ。
……………………。
学校から帰った俺は、買い出しをして夕食の準備をする。
宿題の提出がメインとはいえ、授業はしっかり行われたので、家に帰るころには午後の3時を過ぎていた。
さすがにここからゲームを始めてしまうと夕食が遅くなってしまうので、食べ終わってからのログインとなる。
学校がある日は大体、同じような感じだろう。
春花は友人と寄り道してから帰ると連絡があったので、今は家にいない。
たぶん、ゲームの話で盛り上がっているんだろう。
夕食の準備を終え、自室で読書をしながら妹の帰りを待つのだった。
夕食を食べ終えた俺は自室に戻りログインした。
ログインした俺は手始めに、イトスに連絡を入れた。
理由はエラゼムの装備だ。最初に装備していた斧が消え、腰に刀が付いている。
どうやら、モンスターの一部という扱いのようだ。
前に装備していた斧もそうだが、一応装備という扱いのようだが着脱できず、別の装備を付けたら消え、外したら現れる仕様のようだ。
初級ダンジョンの攻略の時には、お金の問題で斧を新調してやれなかった。
今回はしっかり更新してやりたい。
イトスも今ログインしているようですぐに返信が来た。
しかし、イトスが作れないどころか、手に入れる事すら困難という内容だった。
イトスの話では、刀を作るためには特殊アーツである刀鍛冶が必要とのこと。
このスキルは持っている人が非常に少なく、ドンハールさんすら持っていないらしい。
では、なんでそのアーツの存在がわかっているかというと、どうやら俺の速読と同じパターンらしい。
リアルの仕事で刀鍛冶をしている人物がこのゲームをプレイしていたらしく、チュートリアルで鍛冶の練習を選んだそうだ。
その人物はナビさんのガイドを無視していつもの仕事の通りに刀を打った。
おかげで、特殊アーツと称号「才能を示す者」を取得できたらしい。
ただし、ナビさんの説明を聞かなかったため、「ナビさんのお気に入り」は手に入らなかったようだ。
刀鍛冶のアーツを取った人はその情報を隠すことなくしゃべったそうで、刀を打ちたい人皆が練習したらしい。
しかし、ほとんどのプレイヤーは覚えることができなかった。
俺がゲーム内で刀を見たことが無かったのはこの辺りに理由があるらしい。
この事態に刀を作りたい、ないし使いたいプレイヤーは運営に問い合わせた。
すると、運営から特殊アーツは自力習得の他にクエストで手に入れる事ができることが開示されたそうだ。今、刀に執着のあるプレイヤーを中心にクエストを探している最中なのだそうだ。
俺は仕方ないので、もともと持っていた斧の作成を依頼した。
斧のスキルはしっかり残っているので、斧を装備しても問題は無い。
しかし、見た目的には刀がいいので、どこかで手に入れておきたいところだ。
イトスとの話も済んだところで、俺はマイルームを出るのだった。




