42.初級ダンジョン2階そして失敗
俺たちが階段を降り切るとそこは一面の砂漠だった。
お日様が射しジリジリと照りつける。
俺は後ろを振り返るがすでに出てきた階段は無く、ここのフロアの階段を探すしかなくなった。
かなりまずい状況かもしれない。
どれくらい行けば次のフロアに行く階段があるか知らないが、暑さで脱水症状になる恐れがある。
脱水症状の状態になると水分を補給するまで行動阻害があるのと徐々にHPが減少していく。
麻のインナーシャツで多少、耐暑がついている俺や暑さが関係無いエラゼムは大丈夫だろうが、ハーメルとヌエはまずい。
とりあえず俺はウォーターボールで砂漠の砂を泥に変えてハーメルに泥術のアーツ、泥鎧を発動させる。これでとりあえずハーメルは大丈夫なはずだ。
しかしヌエに対してはどうしようもない。
俺たちは急いで階段を探す。
少し歩いたところで砂の中からモンスターが現れる。
サソリとアリのモンスターがそれぞれ1匹ずつ。
俺はヌエとハーメルに指示を出す。
「無理はするな。敵をエラゼムの前に誘導しろ」
指示に従いハーメルたちは敵をエラゼムの前に誘導する。
「バインド」
俺が敵に行動阻害をかけ、エラゼムが止めを刺す。
戦闘には勝利したもののあまり悠長にしていられない。
余裕があるうちに階段を見つけなければならないからだ。
その後、階段を探しながら何度か戦闘になったが焦るあまり集中できていなかったのか、何度か攻撃をくらってしまった。
シークレットクエストで手に入れたローブのおかげでダメージはなかったが、サソリ系のモンスターは攻撃時に毒状態を付与してくる場合があるので油断できない。
時々、ヌエのために水魔法のウォータボールをエラゼムの斧に当ててシャワーのように水を浴びせながら探索していく。
……………………。
俺の魔力が底をつき、ヌエがヘロヘロになった頃、ようやく次への階段を見つける。
そろそろ最初にもらったポーションを使わなければいけないかと思っていたところだったので助かった。
……この時の俺は完全に気が緩んでいた。
砂漠エリアのモンスターは基本、砂の中に潜んでいて不意打ちしてくるということを完全に失念していた。
俺が階段のそばまで来たとき砂の中から何かが飛び出してくる。
「チュウーーー!」
ハーメルが鳴くので振り返るとヌエが黒い影に体当たりされていた。
「ヌエ!」
「ク~……」
脱水症状の状態で予想以上にHPが減っていたのか、突撃を受けたヌエが起き上がることができない。
俺の不注意でヌエを死亡させてしまいそうな状況に一瞬反応できなくなる。
すると黒い影はヌエに止めを刺そうと突撃する。
「チュウーー!」
ハーメルが泥鎧を駆使して何とか攻撃をそらす。
泥鎧は剥がれたが何とか生きてるようだ。
ハーメルの声にハッとして鞭を取り出す。
「ハーメル! 一度俺の肩に乗れ!エラゼムはそのまま帰還用の転送陣へ」
ハーメルは指示に従って俺の方を目指す。
俺は初めて使う鞭で黒い影をけん制しようとするがうまく扱えない。
あたふたしながらヌエを抱きかかえる。
確認してみると状態に脱水症状と気絶があった。
それにHPがかなり減っている。後一撃くらってしまうと危ういだろう。
鞭をつかえていないが攻撃しようとしているのはわかったようで、黒い影は俺に標的を変える。
そして勢いよく飛んできたので何とか回避する。
もともとあまり狙いをつけずに飛んできたので、直撃コースではなかったのは運が良かった。
視界の端でエラゼムが帰還用の転送陣に乗ったことを確認し、ハーメルを肩に乗せ転送陣に飛び乗る。
すると転送陣が光りだし、一瞬で視界が切り替わる。
俺がダンジョンに入った時の門の並んでいるフロアのようだ。
慌ててあたりを確認してハーメルたち全員がいることを確認するとほっと一息つくのだった。
俺は総合ギルドのそばにあるベンチに腰掛ける。
ハーメルたちを休ませながら先ほどの失敗について考える。
やはり本で読んだ知識だけではわからないことも多い。
1階層で余裕だったので完全に気が緩んでいた。
油断はしないと言い聞かせながらかなり甘い考えで動いていたらしい。
2階層のモンスター自体は対処できないほどじゃなかったが、地形や気候の影響を甘く見ていた。
これを前情報無しでやるのは確かに難しそうだ。
俺は「気候知識」スキルの効果で多少砂漠に対して有利だったはずだが、それでもギリギリ次のフロアへの階段にたどり着くのがやっとだった。
準備不足だったとしてもこれが初級ダンジョンとは、かなり難しい設定だな。
この初級ダンジョンはどちらかというといろいろな準備をさせるためのダンジョンじゃないかと思う。
俺たちの場合、個人のレベルとお金が不足していたのが原因だが、普通の奴ならここで足踏みすることで情報収集の大切さや準備の大切さを学ぶのだろう。俺たちの場合、準備するものはわかっていてもできなかったからな。
極端に難しいフロアに当たらないように祈るしかなかったわけだ。
今回手に入れたアイテムがどれくらいの価値は知らないが、早めに売って準備を整える必要があるな。
まず、資料室で調べた時に見つけた各悪条件に対する対策アイテムでも探すとしようか。
そう考えながらベンチから立ち上がろうとしたその時。
「あれ、ウイングさんですか?」
なにやら聞き覚えのある声が聞こえてきた。