37.手紙の中身
ログアウトした俺は春花と夕食を作りながらこんな話をしていた。
「どうだったの? 委員長さんとのデートは?」
妹がニヤニヤ聞いてきたので俺は遠い目をして言う。
「あれをデートと言うなら俺は誰とも付き合えないな……」
「な、なにがあったの! お兄ちゃん!」
俺の発言に何かを感じ取ったのか春花が確認してくる。
「夕食の時に詳しく話すよ」
俺は夕食中に事の顛末を春花に伝える。完全に愚痴だ。
「な、成程。それはお疲れだったね。お兄ちゃん。」
「自分でビルドを勧めてしまった手前。それを否定できなかったし、何より委員長があんな豹変をするとは思わなかったよ」
「でも、リアルでまじめな人ほどゲーム内でははっちゃけることもあるからな~」
まさに委員長はそういうタイプだったわけだ。
まぁ、任務は完了したんだ。
またのんびり過ごすことができるはずだ。(切実)
再びログインした俺は従魔たちの状態を確認する。
どうやら前回の疲れは残ってないらしい。
俺は門番に声をかける。
「すいません。ファーストから来たのですが、ここを通過したいのですが」
「ふむ、ならばギルドカードを提示しなさい」
俺は門番に言われた通りギルドカードを見せる。
「問題ないな。通って良いぞ。ようこそ! 迷宮都市ラビンスへ」
お礼を言いながら門をくぐるとファーストとはまた違った町並みがあった。
いきなり武器や防具が陳列された商店街がずっと先まで伸びていた。
その先やたら大きな建物がある。
おそらく総合ギルドだろう。
ネットで見た情報によると、ここのギルドは総合ギルドを中心に特殊なギルドを除くすべてのギルドが同じ建物の中にあるらしい。
ちなみにテイマーギルドは特殊枠に入るので別の建物だ。
とりあえず総合ギルドに向かってみる。
ファーストでは主に人族や獣人が多かったが、ここは様々な種族が混在していた。
おそらくプレイヤーが沢山混じっているのだろう。
見た目ではほとんど判断できないが。
ギルドに着いたがやはりでかい。
さすがに沢山のギルドが一か所に集まるにはこれくらいは必要か。
俺は中に入りカウンターに向かう。
「すいません。ダンジョンについて聞きたいのですが」
「おや? 初見さんですか、久しぶりですね。わかりました。説明させていただきます」
ダンジョンのルールについてはこうだ。
1.ギルドカードにダンジョンランクの登録をすること。
2.ダンジョンランクは攻略したダンジョンの難易度でアップする。数は関係ない。
3.初級ダンジョンを攻略できなければ他のダンジョンに入ってはならない。
4.ダンジョンごとに法則がかなり違うのでしっかり確認してから挑戦すること。
5.基本はパーティー単位の攻略だが、なかにはレイド(複数のパーティー)での攻略が必要なものがある。
6.ダンジョンによっては他のパーティーと鉢合わせることがある。
7.ダンジョン内でテイムした魔物は手放すとき必ずテイマーギルドに連れていくこと。
主に必要そうなところはこんなところかな。
俺はギルドカードを取り出して職員に提示する。
すると、いつもの紙が出てくるかと思ったらギルド職員がカウンターに水晶を置く。
ピカッと水晶が光った。
「はい。これで手続きは終了です。ここは手続きの回数が他の場所と比じゃないくらい多いので契約は簡略化されているのですよ」
なるほどと思いながらギルドカードを確認する。
ギルドカード
総合ギルド E
テイマーギルド F
司書ギルド D
ダンジョンランク F
ギルドランクとは別にダンジョンランクが追加されていた。
おそらくFランクというのが総合ギルドのFランクと同じ位置付けなのだろう。
説明を聞き終えた俺はあるものを取り出す。
皆さんは覚えているだろか、ナンカのクエストで報酬とは別にもらった手紙だ。
「すいません、ギルド職員宛にこの手紙を預かったのですが届けていただけませんか?」
そう言って先ほどまで説明してくれていた人に渡す。
宛先を確認したギルド職員はバックヤードに向かい。
「ダナンディーさーん。出番ですよーーー」
そう声をかけた。
するとしばらくして細身だが筋肉質のイケメンが現れる。
この人がナンカの父親かな?
「やあ、何の用かな?」
「これあなたの奥さんからの手紙です」
ギルド職員は俺が渡した手紙をナンカの父親らしき人に渡す。
しばらくダナンディーさんは内容を確認していたがちらりと俺たちを確認する。
そして納得したような顔をしたかと思ったら
「手紙の内容は読んだかい?」
そう聞いてきたので。
「いえ。ただこれをあなたに渡せば便宜を図ってくれるとしか」
「そうか。ならついてくるといい、話はそこでしよう。ここだと他の人の邪魔になる」
確かにと思った俺はハーメルたちを連れ、ダナンディーさんについていく。
カウンター近くの階段を降り、到着したのはコロシアムのような場所だった。
いろいろな人が剣の撃ち合い等の訓練をしていた。
「ここは地下の修練場だ。君にはここで初心者コースを受けてもらう」
どういうことだ?
俺が首を傾げているとダナンディーさんは続ける。
「この手紙には君がナンカの出したクエストを受けてくれたことが書いてあった。それについては礼を言うよ。ありがとう」
「い、いえいえ。俺にも都合がよかったので受けただけですよ」
「そうか、そう言ってもらえると助かる。そして続きだが、うちの家内が見るに君はあまり戦闘が得意そうではなかったと」
うぐっ、確かにそうだ。というかほとんど戦闘らしい戦闘ができていない。
……本当はここに来るまでに経験するはずだったんだが。
「その反応は図星のようだね。あれは元ギルド職員だからね、相手がどういうタイプの人間かある程度分かるくらいには目が鍛えられているんだよ」
な、成程。それなら俺の戦闘経験の無さは見ればわかるかもしれない。
「そこでここで鍛えてあげてほしいという事だった。本来ならこの初心者コースを受講するためには料金が発生するんだ。しかし今回は特別無料で、できるように手配しよう」
どういうものか詳しく聞いてみる。
ラビンスに来た時点で戦闘が不得手だったり、新しい戦闘スタイルに変える人などが受ける訓練らしい。
有料で戦闘系スキルの習得に付き合ってもらえるとのことだ。
ただし、ギルド職員の伝手があれば時間が空いてる時に格安でしてくれるらしい。
「今回はうちのナンカがお世話になってしまったからね。その格安になった料金も俺が代わりに払っておこう。1つ新しいスキルの習得に付き合うよ」
どうやらダナンディーさんが初心者コースの担当官みたいだ。
今さら手紙をなかったことにもできないし、何よりせっかくナンカの母親が気を利かせてくれたのだ。
「わかりました。初心者コース受けてみます」
俺はそう答えるのだった。