26.孤児院の子供たち
ログインしてみると、ゲーム内はすでに朝を迎えていた。
従魔たちと挨拶を交わした俺は、今日の予定を考える。
もう図書館は開いているだろうが、もう一つ予定がある。
モーフラさんに頼まれた孤児院のクエストだ。
押し付けられた感は否めないが、受けた以上クリアしておきたい。
場所に到着するころにはちょうどいい時間だろう。
今回は読書を後回しにして、クエストクリアを目指すことにしよう。
目的の場所は商店街を抜けて町のはずれにある古い教会だ。
ただしプレイヤーのリスポーン地点となる教会はまた別のところにある。
俺が教会に向かうと、何やら騒がしい声が聞こえてくる。
「こらー。ご飯はしっかり噛んで食べなさい! そこっ。野菜が嫌いだからって他の子たちに配らない!」
そんな声が聞こえてきたので苦笑しながら教会に入る。
すると、何人かの子供が気付いたのか甲高い声で騒ぎ出した。
「おにーーーちゃん、だーーれーーー?」
「なんのよーーーだーーーーーーー!」
「ダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「お客さんだよ。リエリアおねーちゃん」
そんなことを言いながら俺に突撃してくる幼児たち。
「ちょっと待ちなさい! あなたたち。お客さんに失礼でしょう」
そういいながら若いシスターが顔を出す。
「こ、これはこれは孤児院に何の御用でしょうか?」
一連の流れはなかったことにしたいようだ。
しかしこちらの微妙な空気など知ったことかと、子供たちは騒ぎ続ける。
そして俺の後ろにいたハーメルを乗せたヌエを見つける。
「トリさんだーーーーーーー」
「ネズミさんもいるーーーーーー」
「ワーーーーーーーーーーーーーーー」
子供たちが俺の従魔たちに群がる。
「待ちなさい! お客さんの従魔なんだから勝手に触ったらダメでしょう。あっ、すいません子供たちが勝手に」
「いえいえ、いいんですよ。そもそも子供たちの世話を手伝うために来たんですから」
「えっ、あの依頼受けていただけたんですか?」
モーフラさんにこのクエストを受けるよう勧められたことを伝えると、リエリアさんは額に手を当てる。
「またあの子は、職権乱用になるからそこまでしなくてもいいって言ってたのに」
「まあまあ、モーフラさんも幼馴染のリエリアさんが心配だったんですよ。それに俺の従魔も最近運動不足だったのでちょうどいいんです」
そういいながら子供たちに目を向けるとハーメル、ヌエそれぞれ分かれて遊んでいた。
ハーメルは子供たちに捕まりたくないのか、必死に逃げ回っていて、ヌエの方はなすがままな状態だ。
「ネズミさんのほうは嫌がっているみたいですが、それでいいんですか?」
「いいんですよ。最近ところ構わず寝ている状態なので、たまにはこういうのも必要です。それよりも朝食時にお邪魔してしまったようなのですが、ご飯は大丈夫ですか?子供たちに関しては俺と従魔が見ているので大丈夫ですよ」
そういうとリエリアさんはハッとした顔になって
「すいません。急いで片づけてきます」
教会のほうへ戻っていった。
1人になった俺のもとへ子供たちを連れたハーメルが走ってくる。
「チュウーーーー」
そして俺の肩によじ登る。
子供たちが俺の周りを囲って、あーでもないこーでもないと言いながらどうやってハーメルを俺の肩から降ろすか話し合っていた。
俺はそっとハーメルを摘み上げると子供の足元に降ろした。
驚いた顔で俺を見つめるハーメル。
俺は黙って親指を立て。
「グッドラック」
「チュウーーーーーーーーーーーーーーーー!」
また、子供たちとの追いかけっこに戻すのだった。
…しばらくしてリエリアさんが片づけを終えて戻ってくる。
「子供たちの面倒を見ていただいて助かりました」
俺は自分の口に人差し指を当て静かにとジェスチャーで伝える。
状況を察したのかリエリアさんは子供たちを目線で探す。
子供たちはというと遊び疲れたのか。教会そばの木陰で寝入っていた。
ハーメルは子供たちが疲れて寝始めると、何時かのようにエイコンの実を要求して満腹になって寝ている。
ヌエは起きてはいるが、子供たちに遊ばれて乱れた自分の羽を羽繕いしていた。
「こんなにゆっくり作業できたのは久しぶりです。ありがとうございます」
「こちらもクエストで来ているので気にしないでください。俺の従魔たちもいい運動になったでしょう」
「そういっていただけると幸いです。子供たちも楽しかったようですので、またクエストを受けていただけると助かります」
リエリアさんの言葉に一瞬、ハーメルが反応したきがするが気のせいだろう。
それに次からはさすがに追いかけっこさせ続けるのはかわいそうなので助けてやろう。
「わかりました。暇があったら受けてみることにします」
そんな会話をしていると子供たちが起きだしてくる。
「この度は本当に有難うございました」
そう言ってクエスト完了書を出してきたので受け取る。
「またねーー。トリさーーん」
「ネズミさんもまたねーーー」
「バイバーーーーーイ」
子供たちの別れの挨拶に手を振りながら、俺は孤児院を後にするのだった。