251.上司の話②
「内容の変わる本の事だが、人員確保はできているかな?」
「一応、時期に目途がついたので声をかけている状態です」
俺の返答にノーディエ顧問は満足したようにうなずく。
チェーンクエストの最後。
レイド戦はそれなりの人数がいれば、そこまで難しくないそうで高レベルのメンバーが揃えば力押しも可能らしい。
ただし、レイド戦に挑戦できた人物が少なく、特殊なクリア条件がある可能性は否定できないとの事。
調査をするのであれば、長期戦を視野に入れた編成が良いと勧められた。
もし、新発見があれば追加報酬も出るそうだ。
「追加報酬については司書ギルドとしてもそうだが、個人的な依頼をしたトーザからも出るだろう。サンプルの少ない事象だからな。情報は高く売れるはずだ。……さて」
ノーディエ顧問は立ち上がると固まった体をほぐすように軽くストレッチした後、椅子に座り直す。
俺にも勧めてきたが、特に疲れていなかったので遠慮した。
「では鍵についてだな。それを使う場所はこの大図書館にある」
そんな語り口から始まった話は以下の通りだ。
・職員は部屋に何があったか聞いてはならない。
・鍵は危険図書が納められた部屋の一角で使用する事ができる。
・鍵を使って部屋に入る事ができれば、その先にある物は全て入った人物の物になる。
「全てですか?」
「そうだ。そういうルールっていうより掟に近いか? まぁ、これまでに何人かその部屋に入ったが誰も文句言わずに帰っていったな。形のないものなのか、複製されるものなのかもわからん。職員は確認ができないからな。入った者のほしい物が出てくるともっぱらの噂だ」
どうやらこの鍵と部屋については、プレイヤー達が現れる前から存在したらしい。
いつの間にか知らない区画ができており、偶に鍵を持ってくる人物が現れるようになる。
そして上層部の中で、一部の人間に掟のような物が引き継がれるようになった。
起源は不明ということになっているらしい。
ノーティエ顧問の言い方的に心当たりはありそうだが、話す気はないと態度が物語っていたので突っ込まない事にする。
どういった人物が持ってきたか気になったが、この様子では答えてはくれないだろう。
「ちなみにウイングには関係ない話だが、鍵を持っていても説明を受けていない奴はその部屋に入る事ができないらしい。数人試した奴もいたが、結局話を聞きに来たと記録が残っている」
どういう理屈か不明だが、話を聞かずに部屋を探してもそれらしいものは見つからないそうだ。
そもそも危険図書の部屋なので、あまり探るような事ができないというのもあるが、どういうわけか自力で探そうとすると辿り着けないらしい。
そこまで話し終えたところで、顧問の懐辺りから金属を打ち合ったような甲高い音が鳴る。
顧問は懐に手を突っ込み懐中時計と思わしき物を取り出す。
「あ~。そろそろ時間だ。ひとまず話すべき事は話したと思うが、最後に聞きたい事はあるかね?」
「そうですね……。その部屋に入る為の条件を満たした後の流れを聞きたいです」
顧問は顎に手を当てて少し考えるような素振りをした後、口を開く。
「トーザ達から相談を受けた時に確認したが、戦いが終わった段階で条件は達成される見込みなんだろう? おそらくギルド側で調整が終わり次第、声がかかるはずだ。後は案内に従えばいい」
「わかりました」
話し合いを終えた俺はノーディエ顧問と共に部屋を出る。
部屋の外には落ち着かない態度で待っていたと思われるトーザさんが右往左往していた。
トーザさんは、俺の姿を確認すると走り寄ろうとしたが、顧問が一緒であると思い出して急ブレーキする。
「おや……ノーディエ顧問。話し合いはどのようになりましたか?」
「はぁ。話すべきことは話した。基本的には俺に提出した予定で進めてくれ。何か問題が発生した場合は、都度調整するんだぞ」
そこまで話して辺りを見渡すノーディエ顧問。
おそらく男性職員がいない事が気になったのだろう。
トーザさんもそれに思い当たったのか、説明を始める。
どうやら、人数が必要な作業が発生しトーザさんと男性職員に応援要請があったらしい。
両方いなくなるのは問題なので、男性職員だけ応援に向かったそうだ。
「何かトラブルか?」
「トラブルというよりうれしい悲鳴らしいです。未発見の書物が大量に持ち込まれたそうで、運搬と見分に人手が欲しいそうです」
隣で聞いていた俺としてはうれしい半分、複雑な気持ち半分である。
読める本が増えるのは素直にうれしい。
しかし、先ほど話し合いの中にあったアールヴヘイム関係の話を思うと激務に立ち向かう職員を不憫に思う。
「トーザ。話し合いは終わったから、お前もその応援に向かえ。ウイング。ブラッシュアップした資料と各ギルドの転移陣などの使用許可証を含む必要な物は後日届けさせる。今日は解散だ」
俺をおいて2人は大図書館の出口へと向かっていった。
取り残された俺は、大図書館を出てマイルームへと向かう。
従魔達と交流しつつアイテムを整理した後、ログアウトする。
……………………。
「瑠璃ちゃんは参加できるけど、クランとしてはそんなに参加できないって。せいぜいパーティー1つ分の人数が限界らしいよ」
夕食をとりながら、春花と参加人数の確認をする。
春花のクラン『お気楽』から約20人。
瑠璃さんのクランから6人。
俺のパーティーが1人と6匹、ただしグリモがいるので5匹みたいなものだ。
ここまでで約30人。
少なくとも後10人はほしいところだ。
春花からクラン以外の人にも声をかけようかと提案されたが、それなら自分の知り合いに協力を頼んだ方がいいだろう。
装備の作成依頼も兼ねて生産職の面々に声をかけるとして、ゲーム内で知り合った人物を中心に声をかけるつもりだ。
現実世界の知り合いは同級生ばかりで、受験勉強中なので難しい。
あるとすれば、同級生に紹介されたプレイヤーだろうか。
俺はだれを誘うかを思案しながら、夕食の片づけをするのだった。




