209.従魔達
俺の思い付きはアートの琴線に触れたらしく、快く引き受けてくれた。
ただ、それなりの数鉱石や宝石を加工してもらう必要があるので、しばらくはお預けとなる。
アートの工房を出た俺は露店で消耗品を補充した後、アールヴ皇国の屋敷で本の整理を始めた。
アートの工房を出た段階でそれなりの時間が経過していたので、残りのログイン時間をアールヴ皇国にある俺の屋敷の整理にあてる事にしたのだ。
ここの管理を任せている従魔達と共に、新たな本を収めていく。
とはいっても以前整理してからそれ程時間は経過していないので、十冊前後をしまった後は屋敷と従魔達の確認の方がメインとなった。
ここの従魔達はうまくやっているようで、協力して屋敷の管理に当たってくれているようだ。
だいぶ慣れてきた様子だったので、普段のメンバーと会ってみるか聞いてみる。
魔法生物の従魔はどちらでもいい様子だったが、霊象モンスターは未だ及び腰だ。
もう少し慣れてからにした方が良いかもしれない。
俺は屋敷での用事を終えたので、ログアウトする。
……………………。
「おお、ここの関所にプレイヤーが来るなんて珍しいな。最近は転移の扉で飛び回っている奴が多いのに」
「はは」
ドヴェルグ連合の国境。関所で出国手続きをしている時に衛兵からそう言われた。
どうやらドヴェルグ連合に土地を持つクランが、転移の扉を用いて運送業のような事をしているらしい。
運ぶのはアイテムばかりではなく、プレイヤーを運ぶこともあるようだ。
衛兵は仕事が楽になったと笑っていた。
俺は手続きを終えて、再びカレルに乗り移動を開始する。
≪従魔ヌエがレベルアップしました。≫
≪従魔シラノがレベルアップしました。≫
≪司書のレベルが上がりました。≫
≪従魔ハーメルがレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「指揮」がレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「不動心」がレベルアップしました。≫
≪従魔シラノの練度が一定に達したため、スキル「牙術」がレベルアップしました。≫
≪従魔ジェイミーがレベルアップしました。≫
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カレルの背で読書をしながら荒野を進む。
その間、時々やってくるモンスターの対応は従魔達に任せている。
任せているというよりは、勝手に対処してくれているといった表現が正しい。
旅の最中はあまり離れすぎない限り自由にさせている。
従魔達は好きな時に戦い、好きな時に休憩していた。
休憩する時はカレルの体内空間に入り、中にある食料を勝手に食べている。
一応全員が同時に休憩しないように指示はしているが、それだけだ。
俺はと言えばカレルの上で読書を楽しみ、魔力が回復する度に本の修復をしている。
時々従魔達が見つけた物を確認したり、話しかけてきたプレイヤーや住人との対応をしたりあまりやる事はない。
「クー……」
空を飛んでいたヌエが俺の近くに降り立つ。
流石に飛び続けるのは疲れるようで、時々こうしてカレルの上で休憩している。
「やっぱり、空を飛ぶ従魔を増やした方が良いか?」
「……クー……」
「悩んでいるみたい(-"_"-)」
以前は鳥系の従魔を増やそうとすると反対していたヌエであるが、負担が大きい為か本気で悩んでいるようだ。
一応アールヴ皇国の屋敷にいるマムラーとジャックも飛ぶことができる……というより常に飛んでいるわけだが、代わりをするのは不可能に近い。
そもそも戦闘に不向きであり、戦わなくていいという理由で俺の従魔となったメンバーだ。
相談しても拒否されるのが目に見えている。
「クー……」
「今回は頑張るって」
「ああ、よろしく頼む」
「クー!」
気が逸れた俺は読んでいた本をしまう。
羽根を休めているヌエと今も走ってくれているカレルを見ながら、従魔達について考える。
ヌエの能力は直接的な戦闘より搦め手を用いた特殊な戦闘スタイルになった。
特にナイトメアクレインとなり自らを囮にするような戦い方をするようになった事で、負担は増した。
ヌエは地上戦中に空から援護する事は得意だが、単体で空中戦をするには心もとない。
今は俺達が魔法により援護すればどうにかなる敵ばかりだが、接戦になると厳しいだろう。
カレルについては言わずもがな。戦い自体が難しい進化をしてもらった。
能力はとても便利で、俺としては助かっている。
しかし、仲間と共に戦うのは難しいのも確かだ。
本人(本サンショウウオ?)は戦闘に参加できない事は気にしていないようなので、このまま頑張ってもらいたい。
そして、ハーメルの場合攻撃力はほぼ無く妨害や偵察に特化しており、グリモは装備品扱いである。
こうしてみると古参の従魔程、特徴が尖っているような感じだ。
おそらく役割分担していた為に、育つ能力に偏りがあった為だろう。
逆に、特殊な進化をしたエラゼムやジェイミー。元から特殊なモンスターだったシラノやベルジュは多少得手不得手はあれど、比較的オールラウンドであると言える。
特殊なモンスターは基礎的なステータスの高さの為に、ある程度器用にこなせるのかもしれない。
逆に通常のモンスターは、プレイヤーの戦闘についていけるように尖っていかないと厳しいのだろう。
「クー」
「行ってくるって!」
「……行ってらっしゃい」
再び飛び立つヌエを見送る。
どちらにしろ、今すぐ従魔を増やすのは難しい。
この辺りにも鳥系のモンスターはいるのだが、単体だと弱いものが多かった。
分布的には鷹や鷲のような単独で狩りをするようなモンスターもいるのだが、そういったモンスターは縄張りのような物を持たないので、俺達に戦いを仕掛ける必要が無い。
探そうとしても逃げていくので、出会う事が稀だ。
ダンジョンなら関係なく襲ってくるが、近くにBランク以上のダンジョンは無い。
現在地的にラビンスへ戻るのも現実的ではないし、従魔を購入できるテイマーギルドも遥か先である。
後は確率の低いものばかりなので、考慮に入れる事は出来ない。
そもそも俺達の戦闘についていけるようになるまで育てないといけないので、時間がかかるだろう。
結局、知識の国まではヌエに頑張ってもらうのが一番という答えに辿り着く。
知識の国で目的を達する事ができれば余裕ができるはずなので、その時までは保留だな。
考え事に区切りがついた俺は、しまっていた本を取り出して読書を再開した。




