194.管理人? 探し③
俺は勧められたモンスターは全て購入する事にした。
理由としてはいくつかある。
まずは圧倒的コストパフォーマンスの良さだ。
キレーファが言っていた通り維持費がかからないのは、購入時の安さだけでなく俺の従魔になった後のメリットも絶大だ。
アールヴ皇国の屋敷はしばらく放置する事になると思うので、食べ物を与える必要が無いという利点は計り知れない。
次に、モンスターたちの方が乗り気という事だ。
先に上げた通り、屋敷はしばらく放置する事になると思うので、必然として従魔達との接触も少なくなる。
この事をモンスターたちに伝えた。
するとシルキーを始め、俺から離れていったはずのオーヴすら迷っている素振りを見せている……らしい。
俺にはフラフラしているようにしか見えないが……。
キレーファに確認すると、苦笑しながら教えてくれた。
まずシルキーであるが、元々プレイヤーにテイムされていたらしい。
しかし、主人との相性が悪く信頼度が下がり契約を破棄。
逃げ出したシルキーをテイマーギルドで保護したものの、元の主人との再契約を拒否。
強引に契約すると周りに悪影響を与える存在に変異する恐れがあった為、元主人を説得してテイマーギルドが買い取ったそうだ。
その主人というのがかなり過干渉だったらしく、次の主人は放置してくれる人を望んでいるらしい。
オーヴについては人間恐怖症ぎみなのと、戦闘を始めとした作業を求められない事が大きいという。
というのもステータスが絶句する程低かったのだ。
NAME「」
種族「オーヴ」LV7 種族特性「心霊」「浮遊」「発光」
HP 5
MP 10
筋力 1
耐久力 1
俊敏力 1
知力 5
魔法力 2
スキル
「牙術 LV1」
レベルに対して、ステータスが驚きの低さである。
霊象モンスターのステータスは振れ幅が大きいとしても、悲しい程の下振れである。
スキルすら救いがない。牙を持たないオーヴでは「牙術」を発動できないはずだ。
キレーファに確認すると、このオーヴは動物型のモンスターが元になったのではないかという。
霊象モンスターは元になったモンスター、もしくは人物のスキルを引き継ぐ事があるそうだ。
「生前ないしオーヴになってから人に追い回されたのでしょう。だから、あまり人が得意ではないのね」
それでも自分がとても弱い事を自覚しており、テイマーの庇護が必要という事か。
これ程低いステータスでは戦闘に参加させる事も困難なので、レベルアップも至難の業だろう。
コットンの育毛を持つモンスターの様に素材を供給する事も出来ないので、メリットらしいメリットが無い。
強いて言えばオラズ・テイマーの様に、契約するだけで意味のある上位職くらいか……。
キレーファはその辺りも考慮して、俺にこのオーヴを勧めたのだろう。
ファントムについては住人の持ち込みらしく、泣き虫過ぎてどうしようもない性格だと言っていたそうだ。
テイマーギルドに来た時に確認したそうだが、かなり戦闘が苦手らしい。
少しでも自分より強いモンスターが近づいてくると、驚いて逃げ出してしまうほど臆病なのだそうだ。
「どの子も戦闘力も無く性格的にもナイーブだから、今回の様にやや距離のあるような関係の方が良いと思うわ。……あなたとなら、うまくやれそうだしね」
確かにこれ以上ない程、好条件かもしれない。
今回の為に用意されたと錯覚してしまうほどに。
というか、ウッドドールの事を考えると、本来こういう性格のモンスターはここにいないはずではないだろうか?
「確かにその傾向は強いわね。ただ迷宮都市という特異な環境のおかげか、この地域でテイムできるモンスターは多種多様。それこそ、この支部だけで従魔の売買が成立してしまうほどにね」
要はラビンスで入手困難なモンスターである霊象モンスターには需要があったのだ。
先ほど言っていたラビンスのモンスターは他の支部に人気とは、逆もまた然りという事だろう。
聞きたい事も聞き終えたので、購入手続きを済ませる。
今回はパーティー枠に余裕があるので、シラノ達のような事は起こらない。
無事契約も済んだところで、思わぬ問題が発生する。
ホラー小説から名前をもらおうと考えたが、俺が読んだ小説は日本を舞台にしたものが多く、西洋風の見た目である新入り達に合う名前が思い浮かばないのだ。
慌てて記憶の底からそれらしい名前を引っ張り出す。
NAME「リア」 ウイングの従魔
種族「シルキー ♀」LV11 種族特性「亡霊」「家屋」「非戦闘」
HP 100
MP 100
筋力 10
耐久力 10
俊敏力 10
知力 45
魔法力 15
スキル
「料理 LV3」「掃除 LV5」「逃走 LV2」
NAME「マムラー」 ウイングの従魔
種族「ファントム ♀」LV5 種族特性「亡霊」「非力」
HP 50
MP 150
筋力 5
耐久力 5
俊敏力 15
知力 15
魔法力 15
スキル
「隠密 LV3」「迷宮知識 LV1」「火魔法 LV1」
NAME「ジャック」 ウイングの従魔
種族「オーヴ」LV7
シルキーの名前はイギリスでメイド全盛期だった頃の女王様の名前から。
ファントムの名前は心霊写真を撮った人の名前。
オーヴの名前はハロウィンのジャック・オー・ランタンから取っている。
最初ジャックという名前はファントムにつけようと考えていたが、ファントムが女の子だった為オーヴの方につけた。
全員に名前を付け終わったところで、キレーファが声をかけてくる。
「心配はしてないけど、大事にしてあげてね。……管理させる建物がどれ程の大きさかわからないけど、この子達だけで足りないわよね?」
「そうですね。数が足りないというよりは、もう少し力のある従魔がいないと本の整理は一苦労だと思います」
今回購入した従魔達が非力なモンスターが多いというだけで、特別パワーのあるモンスターが必要というわけでは無い。
それこそ最初の目的であるウッドドールで、問題なく作業ができるはずだ。
「おそらくウッドドールを狙っているのでしょうけど、あなたが連れて行かないなら魔力供給の手段を考えないといけないわよ?」
「……確かに」
種族特性に魔法生物を持つ従魔は食事の代わりに、主人からMPをもらう。
しかし、従魔が主人からMPをもらえるのはパーティーにいる時だけである。
グリモやエラゼムは基本的に俺のパーティーを外れないので問題は無かった。
しかし、長期間俺と行動を共にする事が無いウッドドール(予定)では、勝手に魔力を持っていく事は出来ない。
俺が定期的に戻るか、供給源を確保する必要があるのだ。
「当然テイマーギルドではそういった物も販売されているわ」
こうなる事が読めていたらしいキレーファは、職員にある物を持ってこさせていた。
台車に載って登場したのは、大小様々な水晶である。
職員の説明によると、この水晶は空気中に含まれる魔力を集める性質があるという。
大きければ大きい程、集められる魔力も多くなるらしい。
そして、魔法生物がこれに触れる事で魔力の補給が行えるそうだ。
ウッドドールをテイムするとしても、1体から2体。
それに加えてエラゼムが待機する可能性を考えると、最低3体の魔力供給が必要だ。
ただ、今後従魔が増えないとも限らない。その事を考えると5体くらい賄える水晶が理想か?
そもそも、種族によって必要な魔力の量が違う。単純な数値では測れないな。
という事で、目の前にいる専門家たちに相談する事にした。
俺の要望を伝えた結果、両手で抱えるほどの水晶をお勧めされた。
ウッドドールは多少の差はあれ、それ程魔力を必要としないそうだ。
しかし、エラゼムはそれなりに魔力が必要な事を考慮し、これくらいあれば多少の余裕はあるだろうとの事らしい。
このまま購入という流れになりそうだったが、職員に「テイムが成功してからでいいのでは?」と言われて思わずキレーファの顔を見る。
「滅多に完売はしないけど、一応取っておくわ」
キレーファはそう言って口元に手を当てて笑っていた。
明日も投稿します。




