191.エピローグクエストとジェイミーの進化
エピローグクエストがあるという事自体は人伝に聞いたことがある。
最初に話が出たのは、「新たなる可能性」というアイテムが公開された時だ。
運営は新たなアカウント作成に必要な「新たなる可能性」が、ゲーム内で入手可能だと発表している。
もし、ゲーム内で新しいアカウントを入手する権利を得るとして、そのタイミングは何時か?
最も可能性が高いのは、現在のアカウントでエンディングに相当する何かが起こった時だろう。
しかもあのタイミングで公表したという事は、誰かしらエンディングの条件を満たしたのではないか?
こういった話があちらこちらで飛び交っていた。
そんな時、一人のプレイヤーがエピローグクエストなるものを見つけたと掲示板に書き込んだ。
詳細は伏せていたそうだが、時を同じくしてゲームのホームページにも注意書きが追加されており騒ぎになったらしい。
俺には春花やフレンドから聞いていた程度しか知識が無い。自分が関わるとしたら、知識の国に辿り着いてからだと思っていたのだ。
まさかこんな実験とも言えぬ思いつきで、エピローグクエストの条件が開示されるとは思わなかった。
俺はジェイミーの進化先を確認する前に、ログに追加されたというエピローグの項目を確認する。
ログを開くと、ワールドレコードの下に新たな項目が追加されていた。
エピローグと書かれたそれをタップしてみると、新しくウインドウが開く。
新しく開いたウインドウには、「職業エピローグ:オラズ・テイマー」という項目だけあったのでタップして内容を確認してみる。
オラズ・テイマー “職業エピローグクエスト” 「悲願を成就する者」
達成条件
①カーバンクルを生み出し従魔とする。
②従魔としたカーバンクルを師事した住人に見せる。
クリア報酬
新規アカウントアイテム「新たなる可能性」
称号「到達者」
エピローグクエストの報告は数件しかないらしいが、早々に解放されたエピローグクエストはどれも絶望的なまでに難易度が高いらしい。
そのことから条件の開示が容易な程、達成難易度は高いのでは無いかというのがプレイヤー達の共通認識となっている。
その推論が正しいとすれば、誰でも思いつきそうな条件で解放された俺のエピローグクエストは、実験が失敗であると共にオラズ・テイマーとしてのエピローグは絶望的に難しい事を示していた。
俺としては本来の目的とは関係ないので、それ程気落ちするようなものでは無い。
ただ、実験できそうな材料がそろった為、試したにすぎないのだ。
また何かしら条件が揃いそうになったら試すくらいだろう。
思わぬイベントには驚いたが、気を取り直しジェイミーの進化先候補を確認する。
≪従魔ジェイミーは進化が可能です。進化先を選択してください。≫
・アシェンセイル・リーダー
・セイル・マジシャン
・セルキー・アンライプミル
一つ目は、ジェイミーの母親と同じ正統進化だろう。
ステータスは耐久力とHPに割り振られるようだ。
二つ目は魔法力・MPが強化されるパターンだ。水魔法・治癒魔法そして精霊魔法と、多くの魔法スキルを持っている為に発現したのだろう。
問題は三つ目、これは明らかに精霊魔法のフォローオラズを装着した事で発生した進化先である。
セルキーは伝承によって差異はあるものの、アザラシの魚人や精霊として描かれる事が多い。
見た目としては、透明感のあるアザラシ? という感じだろうか。
幽霊のように体が透けているわけではないが輪郭が曖昧になっており、なんとも説明しがたい見た目をしている。
進化先のステータスを確認すると、驚くほどの上昇幅となっている。
ただし、子フェンリル同様大幅なマイナス補正付きだ。
マイナス特性である「鈍足」は消えたものの、それ以上のマイナス補正が入る「幼体」が追加されている。
種族にあるアンライプミル(未熟)が示す通り、セルキーとしては不完全な種族らしい。
「幼体」という「幼獣」と同じ効果を持つ種族特性がついているようだ。
この進化先のメリットとしては、神獣にはやや劣るものの優秀な従魔を手に入れる事が出来る事。
デメリットも同じくフェンリルと同じくらいレベルアップに必要な経験値が多い事。
ただしジェイミーは一度進化しているので、さらに必要経験値が多い可能性もある。
俺は悩んだ挙句、ジェイミーからフォローオラズを取り外す。
気持ち的には、ジェイミーの名前の由来ともなっているセルキーに傾いている。
しかし、他のスキルでも特別な進化先が発生しないとも限らない。
ひとまず、最初の予定通り作っておいたフォローオラズを試す事にする。
今日はここまでという事で、ジェイミー達を労った後ログアウトした。
……………………。
≪従魔エラゼムがレベルアップしました。≫
≪従魔グリモがレベルアップしました。≫
≪従魔ベルジュがレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「盾術」がレベルアップしました。≫
≪従魔シラノの練度が一定に達したため、スキル「爪術」がレベルアップしました。≫
≪従魔シラノがレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「杖術」がレベルアップしました。≫
≪従魔ヌエがレベルアップしました。≫
≪従魔ヌエの練度が一定に達したため、スキル「遠見」がレベルアップしました。≫
≪従魔ハーメルがレベルアップしました。≫
・
・
・
魔石晶従魔術で、様々なフォローオラズをジェイミーに取り付けては進化先を確認する日々が続く。
MPの回復を待つ間は王都の図書館で読書をしたり、司書ギルドのクエストを受けたりしている。
ジェイミーを除いたメンバーで代わる代わるDランクダンジョンに挑戦する事もあるが、当然MPが空である俺は魔法スキルを使えない。
そこで久しぶりに貝殻の大盾を持ち出して、タンクのような立ち回りをしているのだが、これが意外とハマリ役だった。
というのも物理攻撃に対する耐性は、知力と耐久力が影響するからだ。
俺はどんな状況でも対応できるように、平均的にステータスを割り振っている。
だが職業司書により、かなりのSPが知力に割り振られていた。
しかも予定を超過してアールヴ皇国に滞在し、司書ギルドとワールドクエスト関連の作業に従事した事で、知力の数値が他のステータスと比べて倍以上となっている。
物理攻撃するモンスターがメインのダンジョンなら、Cランクのダンジョンでも問題なく戦闘できる程だ。
そして今日。最後のフォローオラズを試し終えた俺は、ジェイミーの進化先を決定した。
NAME「ジェイミー」 ウイングの従魔
種族「セルキー・アンライプミル ♂」LV20 5UP 種族特性「水棲」NEW「幼体」「脂肪」
HP 500(-100) 40UP
MP 520(-100) 250UP
筋力 25(-10) 18UP
耐久力 30(-10) 17UP
俊敏力 23(-10) 18UP
知力 38(-10) 27UP
魔法力 45(-10) 26UP
スキル
「水魔法LV5」1UP「水泳LV5」1UP「治癒魔法LV4」1UP「睡眠LV5」2UP「不動心LV1」「遠見LV3」1UP NEW「気配察知LV1」NEW「精霊術・光LV1」
散々引き延ばした挙句、セルキー・アンライプミルを選択した。
シラノとベルジュの育成がある時点で、長期戦は覚悟の上である。ゲームの仕様的にも、同じくらいのペースで成長する従魔が増える分には問題ないだろう。
これから本格的に従魔達の育成を行っていく事になる。
目標としては先輩組を全員3次進化まで、後発組を2次進化までさせておきたい。
それぐらい上げておけば知識の国への道すがらも、余裕を持って進めるようになるはずだ。
俺は気合を入れ直してから、マイエリアを後にした。