裏話 運営サイド③
abundant feasibility online 運営日本支部管理センター
アールヴ皇国のワールドクエストがクリアされた。
そこに至るまでの経緯とそれが齎した結果を見て、若い男が口を開く。
「何だかんだ言って、順当な結末を迎えましたね」
「ああ、どのルートに入ってもユグドラシルに向かう事ができるようにはなっているが、最も友好的な状態でアールヴヘイムに向かう事ができたわけだ。ここからはスムーズに話が進むだろう」
「ですね」
初老の男は満足げに頷いた後、参加プレイヤーの傾向を見てつぶやく。
「……最も早く始まるワールドクエストだったが、好感度重視のシナリオだった為か攻略組や検証・考察組と言われる連中は後回しにしていた傾向が強いな」
「最前線組からしたらアールヴ皇国は狩場としてうま味が無いですし、根掘り葉掘り聞いて回る検証班はアールヴ皇国の衛兵から警戒されてしまいましたから」
アールヴ皇国周りで出現するモンスターは攻略組と言われるプレイヤーからすれば、経験値と素材的においしくない。
治安が悪く情勢が不安定なアールヴ皇国で調査や検証をすると、住人たちの警戒心を強めてしまう。
ワールドクエストに関わろうというならともかく、ただ知りたいだけという理由で調査を行ってしまうと、攻略したいプレイヤー達から反感を買う恐れがあった。
もたらされる情報に感謝されたかもしれないが、あのピリピリしていた空気では失敗した時のリスクが高かっただろう。
何よりアバンデントで解放されている要素だけでもやれる事が多い今、おいしくもない環境に居続ければ、最前線組に置いていかれるのは必至。
転生したいエルフのプレイヤーでもない限り、アールヴ皇国を避ける攻略組や検証班は多かった。
「本来ならもっと長期化するクエストだった。ゲーマー達はそれを感じ取っていたのだろう。……あの司書プレイヤーは貧乏くじを引いたな」
「他のプレイヤーからしたら、まごう事なく救世主ですよ。彼のおかげでもう半年はかかったかもしれないクエストが終結したのですから……」
若い男はもしもの話を始める。
ウイングがあのタイミングでアールヴ皇国にいなかった場合、もっとクーデター側の規模が大きくなり拮抗した戦力でぶつかりあっただろう。
アールヴ皇国側が勝利しても損害が大きく、エルフ語の解明も難航したはずだ。
膨大な時間をかけた挙句、報酬もアールヴヘイムへの渡航権だけになっていたかもしれない。
クーデター側が勝利した場合は、アールヴヘイムの発見自体が困難なものとなっていた。
ただ、上記の2パターンになった場合は参加プレイヤーが大幅に増える見込みなので、報酬を受け取れる人数は多くなる。
土地を手放す住人も多くなるはずなので、プレイヤーが入手できる土地も増えた事だろう。
「どちらのルートでもハイエルフとの交渉は難航するから、種族進化はさらに難しい事態に陥るがな。……ん?」
「どうかしましたか?」
2人が他愛もない話をしていると、初老の男が作業しているディスプレイの隅が赤く点滅した。
内容を確認した初老の男は口角を上げる。
「あのプレイヤーには朗報だろう。“彼”から返信が来た。ゲーム内のログを送ってくれってさ」
「おお! それを考えると、今回の件に巻き込まれたのも無駄ではなかったのでは?」
「ははは、実感するのは当分先だろうがな」
そう言って初老の男性は、あるプレイヤーのプレイログを整理し始めるのだった。




