2.ゲームの入手と事前準備
旧3.4です。
詳しく話を聞いてみるとβテスターの友達はせっかく3人招待できる権利があるのだからと家族の名前を使って3台確保したはいいものの、規約により招待用の機器は転売できず、悲しいかな親しい友達も重度のゲーマーであったため機器をすでに手に入れており、そちらへ渡すこともできなかったのだという。
3台ある内の2台は何とか行先が決まったが、残り1台が放置状態で家の中を圧迫していたようである。
「abundant feasibility online」はそのすさまじいデータ量のせいで既存のVR機器では対応できなかったため新しくVR機器を作る羽目になったのは有名な話である。
既存のVR機器は頭だけを覆うタイプが主流だったが今回「abundant feasibility online」の為に作られた機器は人1人入るカプセル型で、予備として持っているにしては大きすぎるし、すでに登録してある機器を持つ人がもう1つ登録することはできない。
財団のトップによる沢山の人にやってほしいという願いからそういう規制をしたらしい。
また機器が故障した時の対応も充実しているため、予備を持ってる意味もない。
そこに今になってほしいという話が来たのは渡りに船だったようだ。
移動する台車などもそちらで借りられるということになったので、身一つでそちらに向かう。
なぜ場所が分かるかというと、以前妹に頼まれてその子の家に荷物を取りに行ったことがあるからだ。
何を隠そうそのときの荷物も今回使うVR機器だったようだが。
指定された場所に向かうと妹の春花ともう1人女の子がいる。
「今回は引き取っていただきありがとうございます」
その女の子、山狩 瑠璃はすごいいい笑顔でそう言った。
「親にも早く処分しなさいと言われて困っていたんです。この素晴らしいゲームを使わないとはいえ捨てるなんて勿体なくて、ただ私が重度のゲーマーで交友関係もそういう繋がりが多くて……。みんな自分の分を確保した後でなかなか引き取り先が見つからなかったんですよ」
「そちらの事情は聞いてたけどこちらが譲り受けるのだから機器の原価くらい払うよ?」
俺がそういうと。
「いいです、いいです。私がズルして手に入れたけど最終的に困っていたものなので使っていただいたほうがいいです」
「わかった。有難く頂いていくとしよう。何か困ったことがあったら俺に相談してくれればできるだけ協力するよ」
「あはははは、お兄ちゃん。瑠璃ちゃんほんとに困ってたらしいから気にすることないよ」
「お前が返答することじゃないだろ」
「本当に仲が良いんですね。春花が言ったように気にしないでください。こちらとしても有難かったので」
少し雑談した後、俺たちの家に機器を運び入れた。
妹たちもゲームを始める前の準備があるということでその場で解散することになった。
瑠璃さんを送ると言ったのだが、
「台車をもって出てきたので沢山買い物してから帰ろうかと思います」
と断られてしまった。
家に戻ったあと自分も自室でゲームの準備を始める事にした。機器に電源、ネットワーク回線を繋ぎ中に入ってスイッチを入れる。電源が入ると同時に浮遊感に襲われ真っ暗な空間に飛ばされる。
≪個人登録を開始します、しばらくお待ちください。≫
機械的な音声がして目の前に砂時計が現れる。
機器に個人の生体データを登録することで登録者以外の人物の使用ができなくなる代わりに、個人専用として違和感なくゲームの操作ができるようになるそうだ。
≪登録が完了しました。続いてabundant feasibility onlineのダウンロードに入ります。≫
機器がこのゲームのために作られた関係上、機器さえ買えばソフト自体は無料でダウンロードできる。
ちなみに機器はこのゲームのために作られたが専用機では無いので他のVRゲームもダウンロードしてプレイすることもできる。
≪ダウンロードが完了しました。起動しますか?≫
そのセリフに俺は気負いなく答える。
「はい」
まぶしい光に包まれた後、目の前にはホテルのラウンジのような空間が広がっていた。
全然ファンタジーらしくないなと思いながら受付嬢らしき人がいるカウンターに向かう。
カウンターに着くと受付嬢から声がかかる。
「この度は、abundant feasibility onlineをプレイして頂きありがとうございます。この場所ではゲームを開始するための初期設定をすることができます。」
そう言って頭を下げる。
「よろしくお願いします。設定“できる”ということはしないこともできるのですか?」
「可能です。その場合設定されなかった名前、種族、スキルはランダムで設定されます。
容姿だけはランダムにできないので設定が必須です。ランダムでしかでない要素はありませんのでメリットはありません」
詳しく聞くとどうやらリセマラできない仕様のため初期設定での運要素を排除したようだ。
「わかりました。それでは初期設定を始めたいと思います」
「かしこまりました。それでは始めさせていただきます」
受付嬢がそう言うと俺の目の前にウインドウが出てくる。
NAME「」
種族「」
戦闘職「」
生産・特殊職「」
スキル
「」「」「」「」「」
初期ステータスは種族依存なので初期設定に表示されない。
聞けば教えてくれるそうなので確認しながら、設定を行う。
そうして設定したステータスがこちら
NAME「ウイング」
種族「人族」 種族特性「器用貧乏」
HP 100
MP 100
筋力 10
耐久力 10
俊敏力 10
知力 10
魔法力 10
戦闘職「テイマー」
生産職・特殊職「司書」
スキル
「調教術」「隠密」「闇魔法」「言語」「読書」
見てわかるように自分で戦うつもりが皆無である。
種族を選択するときに受付嬢がβ版に無かった要素として、種族特性が追加されたと説明された。攻略が最優先というわけではないのでどちらかというとステータスの高さよりゆっくりでもいいからどこにでも行ける種族を聞いてみたら人族を勧められた。
初期ステータスが高い種族は種族特性でデメリットがつく上、行動制限まで付くものもある。それでは本を探しに行けない場所も出てくるだろう。
それに比べて人族の種族特性「器用貧乏」はこれといった補正がない代わりに苦手なものもないという特性である。強みは無いが弱点も無く覚えられないスキルもほとんどない。
そのためどんな状況でも時間をかければ対応可能である。
戦闘職テイマーはさまざまな方法でモンスターを懐柔、屈服させて使役し戦わせる職業である。使役・テイムスキルに補正が入り他の職業よりテイムしやすくモンスター・テイム関係のスキルを覚えやすい。
生産・特殊職である司書は知識スキルに補正が入る職業である。選んだ理由は見た瞬間にこれしかないと思っただけである。それ以外の理由は無い(断言)。
スキル「調教術」はモンスターを仲間にするときに使用するスキルである。
テイムの条件をそろえたり、戦闘中に使用することでモンスターを仲間にすることができる。
テイムに成功すると常に名前表示があるとともに「誰々の従魔」と表示されるようになるらしい。ちなみにテイマーじゃなくても覚えることができる。
次に「隠密」であるが文字通り隠れるスキルで戦闘をやりすごしたり、従魔の戦闘時邪魔しないようにするために選択した。
「闇魔法」も同様で、デバフや幻覚等自分が逃げやすくなるアーツを沢山覚えるので選んだ。
ゲームでは基本、PC、NPCとも共通語を使うという設定なのにそれでも「言語」というスキルが存在するのが気になったので取得した。
最後に本命スキル「読書」である。どうやら特殊職業「司書」は読書スキルにすさまじい補正が入るらしい。それだけで選んだ価値があるなと思うが、ゲーム要素にはあまり関係ないかもしれない。読書スキルがなくても本が読めるようなので今のところ、このスキルの意味はよくわからない。
しかし、読書のためにゲームを始める自分としては取らないわけにはいかない(断言)。
「お疲れさまでした。これにて初期設定は終了です。ゲーム開始は6日後になります。その日まで設定は変更可能ですので、いつでもお待ちしております」
こうして俺は準備を終え、6日後にゲーム開始日を迎えるのだった。