185.終結
方針を決めた俺は従魔達の元へと向かう。
遠目で見てもわかるが、俺が抱き上げていた時より明らかに子フェンリルの数が多い。
どうやら先程集まった群れ以外からも、子フェンリルが集まってきたようだ。
従魔達は俺が近寄っていくと、遊んでいた子フェンリルを引き連れてやってきた。
しかし、多くの子フェンリル達はその場で寝転がって動かない。
遊び疲れたのか、後から来て状況を把握していないのか……。
逆に足をプルプルさせながらもこっちに来ている子フェンリルもいるので、寝転がったままの子フェンリルは縁が無かったと考えよう。
従魔についてきた子フェンリルの中で、先程もいた子達に残ってもらう。
すると、従魔の周りにいる銀毛の群れから5匹の子フェンリルが残った。
ここにいる子フェンリルは、特に意気込みのある子フェンリルたちが残ったと言える。
この中からテイムする子を決めたいと思う。
俺は子フェンリル1匹1匹と面談してみる事にした。
甘えるようにすり寄ってくるもの、得意なスキルを披露するもの。様々なアピールをしてくれる子フェンリル達。
その中で俺が気になったのは2匹。
1匹目はエラゼムと一緒にいた子フェンリル。他の子フェンリルが疲れた顔を見せる中、未だ元気に俺の周りを走り回っている。
全体的に元気溌剌だった子フェンリルだが、その中でも輪をかけて体力がありそうだ。
もう1匹は、逆に足をプルプルさせている子フェンリル。
体力は他の子フェンリルに比べて少なそうだが、面談した時に精霊魔法を披露したのだ。
最初に光るベールのようなもの出した時は何をしたのかと思った。
フェアラスさんに確認したところ、ハイエルフの得意とする光の精霊魔法だという。
俺はフェアラスさんにフェンリルの食性について問う。
フェアラスさんが言うには、個体差はあれど小食だそうだ。体の小さな子フェンリルならなおさらだという。
基本的に肉を好むものの、雑食性で果物や魚も食べるらしい。
……2匹なら養えるかな?
俺は気になった2匹を抱き上げる。
その場でテイムしてもいいのかもしれないが、獣人たちから許可を取ってからテイムしたい。
フェアラスさんと相談して、一度集会場に戻る事にする。
それなりに時間をかけてフェンリル達と交流していた為か、他のプレイヤー達や獣人の代表者達が集会場のホールで談笑していた。
俺が中に入ると、室内にいる全員の視線がこちらに集中する。
まぁ、俺の腕の中にいる子フェンリル2匹にだが……。
俺達を確認した者たちの反応は様々だ。
アングロドさん達ハイエルフは微笑ましそうに、獣人達は複雑そうな顔をしている。
他のプレイヤー達は羨ましそうにしている者、興味津々な表情で子フェンリルを観察している者が半々といったところだ。
プレイヤーを代表して、ヤクさんが俺のいない間の事を教えてくれた。
全パーティーの報酬が決まった頃、事前に話し合いをしていた獣人達も集まって全体の報告会になったらしい。
当然、俺がフェンリルをテイムしに行った事も伝えられる。
獣人達は自分たちのいない間に、プレイヤーが神獣をテイムする許可を出した事にやや複雑な表情になりながらも既に提案されていた事だったので特に反発する事は無かった。
アングロドさん達ハイエルフと同様に、獣人達は神獣の意思を尊重するらしい。
反対したところで、増えすぎた神獣を獣人達だけでは抱えきれないという問題もある。
それなら皇国からお墨付きをもらっているテイマーに任せようと判断したようだ。
心情と現実に挟まれて、あのような表情になったのかもしれない。
……とりあえず、この2匹をテイムしても良いようだ。
俺がハイエルフや獣人にテイムの許可を取ると、まだテイムしていない事に驚かれつつも承諾してくれた。
俺は抱えていた子フェンリル2匹を下ろし、テイムする。
≪フェンリルジュニア ♀のテイムに成功しました。名前を付けてください。≫
≪フェンリルジュニア ♂のテイムに成功しました。名前を付けてください。≫
≪パーティーの上限を超えてモンスターがテイムされました。新しい従魔をマイエリア・ルームに転送する事ができます。
転送しない場合はログアウトまでに自分の持つエリア・ルームもしくはテイマーギルドに預けてください。
※パーティー上限を超えた状態が長時間続くと、新しい従魔から信頼度が下がっていきます。≫
……忘れていた。現在俺はフルメンバー、それ即ちパーティー上限だ。
パーティー上限でテイムした場合、新しい従魔を自分のルームないしエリアに転送できる。
転送しない事もできるが、長い時間パーティー枠を超えて従魔を連れ歩くとペナルティが発生してしまう。
ペナルティとは、アナウンスでもある通りパーティー上限を超えてテイムされたモンスターをそのまま連れ歩くと、テイマーとの信頼度が下がっていくというものだ。
特に戦闘に参加させた場合の減少は多く、契約が解除されるらしい。
ちなみに契約解除前提で戦闘を進めていくと、元々いた従魔達も不信感が募り信頼度が下がるそうだ。
とはいっても、現在の状態なら問題はない。
今、俺の状況的に戦闘の可能性は限りなく低く、もうすぐアバンデントに帰るところである。
ペナルティについて考える必要は無いだろう。俺は転送しないを選択して、名前を付ける事にした。
NAME「シラノ」
種族「フェンリルジュニア ♀」LV8
NAME「ベルジュ」
種族「フェンリルジュニア ♂」LV5
「これからよろしくな。シラノ! ベルジュ!」
「ウォン!」
「くーん」
テイムを終え、2匹に名前を付ける。
名前の由来は、主人公が月を目指す小説の著者からもらった。
北欧神話からとる事も考えたが、状況的にこちらの方もありかなと思ったからだ。
ステータスの詳細を確認したいところだが、話の途中なので後回しにする。
俺のテイムが無事に終わったのを見届けたヤクさんは話を再開した。
話はテイムの話から獣人とエルフそしてハイエルフの今後についてに移った。
アールヴ皇国に帰還後、皇太子と獣人のまとめ役の連名で“湖の先”についての報告を皇国全土へ発信する。
ハイエルフと神獣の存在。ハイエルフがエルフと獣人の関係修復を願っている事。獣人が奉っていた神獣が抱える問題。
ユグドラシルやアールヴヘイムについては、他の階層に住む住人の関係もあるので概要だけ伝えるそうだ。
しばらくは三日月の夜が来る度に儀式を行い、話し合いの場を設ける。
まだ詳細は詰めていないらしいが、古の盟約やかつてのアールヴヘイムとの関係を元に新しいルールを決めていくそうだ。
そのルールを踏まえて、祖先と神獣に押し付けてしまった問題をエルフと獣人が協力して解決に乗り出すと触れ回る。
流石に祖先と祖先の祀る神獣の問題を知れば、双方争いどころでは無くなるだろうという狙いもあるそうだ。
そこまでの話が終わった後、談笑へと移ったようだ。
ヤクさんの説明がひと段落したのを見計らい、皇太子が立ち上がる。
「今回の調査はとても有意義だった。エルフと獣人が手を取り合う事により邁進できるだろう。……これより我々は一度アールヴ皇国に戻る。一部早めに送られている者もいるが、光の民からの報酬は次回の儀式で与えられるはずだ。皇国側としての報酬も帰還後すぐに与えよう。……此度の助力心から感謝する」
この宣言の後、第二陣のメンバーはアールヴヘイムからアールヴ皇国へと帰還した。
後日、皇太子は予定通りアールヴヘイムの調査報告を獣人のまとめ役と連名で、エルフと獣人で神獣の問題を解決するという声明を出した。
これにより、未だエルフと獣人の間に蟠りは残るものの、協力し合わなければならないという空気が国内に広がる。
その流れに乗るように、皇国は獣人から数名を皇国の要職に就ける事を発表した。
これで燻っているかもしれない残党も、大義名分を失い動き辛くなっただろう。
一連の発表の後、皇太子……ではなく一度も見たことが無かった皇からエルフと獣人の和解宣言が出される。
これにより、長期に及んだアールヴ皇国のワールドクエストはクリアと相成った。
あくまで紛争が終結しただけで、復興もアールヴヘイムの問題も解決していない。
アールヴ皇国もプレイヤーも大変なのはこれからだろう。
≪ワールドクエスト アールヴ皇国 古の禍根 がクリアされました。ワールドレコードに記録されます。関連したワールドレコードの情報が開示可能になりました。≫
≪ワールドレコードの参加プレイヤー一覧の設定が未設定です。前回のワールドクエストで選択された『とある司書』に自動設定されます。≫
≪称号「アールヴ皇国特別文官」を取得しました。≫
≪称号「神獣を従える者 (フェンリル)」を取得しました。≫
≪称号「異世界渡航者」を取得しました。≫
≪上位職「国定司書」への転職条件を満たしました。司書ギルドに関係称号を提示する事で転職が可能です。≫
≪上位職「神獣使い」への転職条件を満たしました。テイマーギルドに関係称号を提示する事で転職が可能です。≫




