165.聞き込み
「ぶははははhhh……」
「な、何事?」
俺が無事スキルを発動させてエイコンの実を手元に引き寄せると、突然アートが笑い出した。
何か物音が聞こえた以外、異常が見られない俺は状況がわからず首を傾げる。
ある程度、笑いが収まったらしいアートが目じりに溜まった涙をぬぐいながら、声をかけてくる。
「……あーはっは、笑った! 笑った! す、すまん。予想外の事態に思わず笑っちまった」
「えーっと。どういう状況?」
「ちょっと、待ってろ!」
アートは俺の質問に答えることなく、部屋の奥から鏡を持ってくる。
「これの前でもう一回やってみてくれ」
「……わかった」
俺は首を傾げつつ、もう一度空間魔法を発動させる。
すると……。
「はぁ!」
「ぶはっ」
俺は鏡に映っている自分に起こっている事に絶句する。
アートは再びツボに入ったのか、噴き出していた。
鏡に映しだされていたのは、アニメや漫画で見るような文字だった。
その時の雰囲気や迫力を表現する時に使われるような「ゴ ゴ ゴ」みたいな文字が、俺の背中に現れている。
それは正に主人公が決めポーズをとるようなエフェクトが表示されていた。
「イヤー! こんなに大袈裟な演出をして、やっていることが、木の実を引き寄せるだけかと思うとなー」
「……このスキルはネタとして面白いけど、デメリットしかなくないか?」
一応、他のスキルでは発動しないようなのは不幸中の幸いである。
敵と相対する時に自分の行動を伝えるようなエフェクトが出てしまうのは、デメリット以外の何ものでもない。
「いやー、これが意外と有用な使い方もあるんだ。まぁー、他の客のスタイルに関わる話になるから詳しくは言えないが……」
「ふーむ。それで? 何を確かめたかったんだ?」
「それはな。本来このアーツは装備などを対象として付与する物なんだが、お前のスキルだと従魔の一部みたいになるだろう? ちょっとどんな反応を示すか試してみたかったんだ」
本来は剣や杖などに付与する物らしく、装備を使ったアーツを使用するときなどに任意のエフェクトを発生させるもののようだ。
俺の背後に現れた漫画的表現の他に、キラキラの光が舞い落ちるものや武器の軌道を残像として残すエフェクトなどもあるらしい。
「とりあえず、約束通りその月長石はウイングにやるよ。笑って悪かったな」
「別に謝ってもらうほど怒ってはいないよ。まぁ、貰える物はありがたくもらうけど。ちなみにエフェクトを解除することはできる?」
アートは俺の手にあるグリモを見た後、首を横に振る。
「どうやら従魔に装着されている時は、俺のアーツの対象にできないようだ。今外せるならここで解除できるぞ」
「(`・ω・´)ゴ ゴ ゴ」
「うーん。解除するのにも結構魔力使うからなー。空間魔法もそれ程使う機会ないから、ひとまずこのままでいいかな」
どうやらグリモも気に入ったようなので、ひとまずこのままにしておくことにした。
外すのは、新しいフォローオラズを装着する時でいいだろう。
今度こそ話は終わったようなので、明日の集合場所を決めた俺はアートの工房を後にした。
ログイン時間もそろそろ限界だったので、この辺りでログアウトすることにした。
……………………。
次の日、下校後に再びログインした俺は1人、皇都ルナで聞き込みを行っていた。
付き添いはハーメルとグリモのみである。
協力者となったアートをコペルさんに紹介する事も考えたが、アートの予定が合わず見送りになったからだ。
とりあえず、総合ギルドは後回しにする事にした。
アートの話では司書ギルドの依頼を受ける事ができた俺は、他のプレイヤーに詰め寄られる危険があるからだ。
……まぁ、最終的には協力を頼むことになるだろう。
あの後、他のフレンドにも協力者になってもらえないか相談したが、アールヴ皇国から遠い場所にいたり、予定があり協力できないと返答をもらった。
つまり、早期解決の為には現地で協力者を集める他ない。
ただし、放火を犯したと思われるクーデターの一派に協力しているプレイヤーもいるらしいので、慎重に人選しなければならない。
今回の聞き込みで人選に役立つような情報があればいいが……。
俺がやってきたのは皇都ルナの外周、中心部より鬱蒼と生い茂る木々がまるで外壁のように立ち並ぶエリアだ。
外部からの侵入を警戒してか、かなりの数の衛兵が辺りの見回りをしていた。
ここ皇都ルナは他の都市のように外壁が無く、周りは丈夫そうな柵で覆われている。
大きな木々が巨躯のモンスターの侵入を拒み、小さなモンスターはその木々を超えてやってくるので塀が意味をなさないからだ。
今は紛争中なのだから作ってもいいと思うが、皇族達は頑なに塀を作る事を拒んでいるらしい。
「おい! そこのお前! こんなところで何をしている!」
俺が塀の近くまでやってくる事に気づいた衛兵が、怒鳴り声を上げながら俺に近寄ってくる。
「怪しいものではありません。俺は司書ギルドの依頼で放火事件について調べている者です」
「何? 確認させろ」
「どうした?」
俺は近づいてくる衛兵にコペルさんからもらった許可証を渡す。
衛兵が許可証を確認している間に、他の衛兵もやってくる。
衛兵達は俺の持つ許可証を確認しながら、俺に聞こえない程度の声で相談を始めた。
「……これ例の…………」
「じゃあ、こいつは…………」
「…………そうに」
断片的に言葉は聞こえてくるが、話の内容を推測する事ができない。
そうして本人の目の前で、相談を終えた衛兵たちは俺に許可証を返してくる。
「確認は取れた。確かに司書ギルドの長、コペルの名により発行された許可証だった」
「そうですか。それで、ついでにお願いしたいのですが、お話を伺ってもいいですか?」
「……警備をしながらでいいなら、少しだけ話してやろう」
「ありがとうございます」
そうして、警備のために巡回する衛兵達に並んで歩きつつ、質問を始める。
「ここの警備はいつもこれ程の人数で行っているのですか?」
「ああ、もう俺が生まれる前からこんな感じだ」
「祭事の関係らしく、塀や堀を作る事が困難なので衛兵の動員数は多いんです」
別段、治安の悪化による増員は無いらしい。
「治安が悪化して衛兵が駆り出されているそうですが、他の方はどちらに?」
「そりゃあ、治安回復のために皇都内の巡回だろう」
確かに衛兵を皇都で見かける事は多かったが、増員したと言うほどには感じなかった。
あれで増員したというなら、以前が無警戒すぎる。
「追い出された獣人の方はどうしているのでしょうか?」
「さぁな? 国の事情で皇都から出てってもらう話だったから、お金か仮の住居をもらう事になっていたはずだ」
一応、出ていった後の補償はあったと。
「じゃあ、最後に……今回の放火事件で重要参考人と目される人たちの手掛かりは?」
「皇都を出たという情報以外は特にないな」
「脱出手段は?」
「あの放火事件の混乱に乗じてとしかわからん。少なくとも俺達の巡回区域ではないだろう」
最後の情報は参考にしない方が良いだろう。
多分、“姿が見えないから逃亡した”くらいの情報な気がする。
その後もいくつか質問してみたが、これ以上の情報は得られなかった。
ただ、衛兵達の回答が予め用意されていたものを話しているような印象を受ける。
NPCだからでは無く、そう話すように指示されているような感じだ。
衛兵に指示できるとしたら……これ以上、話を聞くのはやめておこう。
「質問に答えていただきありがとうございました。参考にさせていただきます」
「そうか……。終わりなら、俺達は巡回に戻る」
衛兵達にお礼を言った後、その場を離れる。
さて、次はどこに行こうか……。




