163.孤児院での話
「私が話せる事は以上になります」
「そうですか……」
結局、司書ギルドでもらったレポート以上の事を聞く事は出来なかった。
“話せる事”という事は何か知っている事はあるが、事情があり話せないようだ。
おそらく、プレイヤーにも同じ事を言ったのだろう。
院長の知っている事を聞き出そうとして強引な手段をとった結果、事件解決から遠ざかる。
揉め事を起こしたプレイヤーは焦っているだろうな。
周りからのバッシングでストレスを蓄積している事だろう。何をしでかすかわからない。
これ以上、皇都の治安が悪化すると本格的に図書館の再開が遠のいてしまう。
……思ったよりも時間が無いかもしれない。
「最後にお聞きしたいのですが、前任の院長はどちらにいらっしゃるのでしょうか? 今回の重要参考人については前任の方の方が詳しいと思うので、話を聞きたいのですが」
「…………そうですよね。これについては他の方にも言っているのですが、皇族の方々から口止めされています。何でも、これまでの功績に酬いる為に静かな場所で慰安旅行を楽しんでいると」
……その言い回しは皇族の人が言っていたのだろうか?
重要参考人達に対しても同じ事を言ったのなら、確かに皇族に不信感を持ってしまいそうだ。
院長もそれがわかっているから、とても言いづらそうにしていた。
これ以上の情報は出てこないだろうと判断した俺は、院長にお礼を言って席を立つ。
院長も席を立ち、鍵のかかった扉を開けてくれる。
すると、何時からいたのかは知らないが、数人の子供が部屋の前に集まって来ていた。
「おやおや、どうしたのかな?」
「先生は何もされなかった?」
「ああ、彼は話を聞きに来ただけだったから、前のようなことは何もなかったよ」
ほとんどの子供たちは院長の言葉をそのまま信じたのか、ほっとしたような雰囲気が子供たちの中に流れる。
しかし、先程俺と院長の会話に割って入って来た子は未だに懐疑的な視線を俺に向けてくる。
「前に来たプレイヤーも似たようなこと言ってたけど、怖いことしてきたよ!」
「そうだね。でも、それはプレイヤーの人ばかりでは無かっただろう? それにあの木を飾り付けてくれた人もプレイヤーだっただろう? あのお兄さんも信じられないかな?」
「あっ! いや……そういう事じゃなくて、アートにーちゃんはいいやつだよ」
ん? 今、聞き覚えのある名前を聞いた気がする。
「今、アートって言ったかな?」
俺が院長と話している子供に声をかけると、その子供は驚いたような顔をして院長に抱き着く。
「あっ! すまない。知り合いの名前が出たからつい声をかけてしまった」
「……アートにーちゃんの知り合いなのか?」
「えーと、その“アートにーちゃん”という人は名乗るときにアートの後に何かついてなかった?」
俺が聞いた質問は、隣にいた院長が答えてくれた。
「そうですね。確かアート1128だったかな? “アート イイニワ”とでも覚えてくれと言っていたような」
「あー、それならたぶん知り合いですね。彼には装飾品の作成を依頼した事があるんです」
「成程、彼の知り合いですか。それなら司書ギルドがあなたに依頼をしたのも頷けますね」
どうやらこの孤児院にある木をクリスマスツリーにデコレーションしたのはアートだったようだ。
俺と院長がアートの話をしていると、周りの子供たちが騒ぎ出した。
「アートにーちゃんはあのおっきな木をクリスマスツリーにしてくれたの!」
「その後も、時々遊んでくれたよ!」
「アクセサリーもらった!」
成程、どうやらアートはウィンタークエストを終えた後も、時々この孤児院に来ていたようだ。
院長だけでなく子供たちからもかなり信頼されているらしい。
「でも、最近来てくれないよね」
「兵士さんが言ってたけど、プレイヤーの人は孤児院に来ちゃダメなんだってー」
「けど、この人は来てるよ?」
俺は院長の方に視線を向ける。
「今、アートはこちらにいらしてないんですか?」
「ああ、子供たちを守るためとはいえ、プレイヤーなら許可証が無いと近づけない事になっているからね。私が許可証を出せればいいんだけど、その権限は無くてね」
「ふむ」
とりあえず、協力者の一人は決まりかな?
俺は院長と共に孤児院の庭へと向かう。
「わー! 高い! すごい!」
「……」
「ははは、お腹タプタプだね」
「キュー!」
庭までやってくると、子供達と従魔達の声が聞こえてくる。
エラゼムは男の子を肩車していたり、ヌエは子供たちに抱き着かれていた。
砂場らしきところに寝そべっているジェイミーは子供たちにお腹を突かれている。
それがくすぐったい様で声を上げているが、声音から嫌がっていないことはわかった。
そして、グリモと言えば……。
「わー! 次はどんなお話かな?」
「おひめさまがでてくるおはなしがいい」
「(´;ω;`)ない」
「ないって!」
「え~」
なにやら、子供たちが大勢囲んでいる一角があり、中心にはページを開けたままにしているグリモがいた。
院長も気になったようで、自然とその集団の方へと足を運んでいく。
「盛り上がっているようだね。何をしているのかな?」
「あっ! 院長先生! この本凄いの!」
「かいてあることがかわるんだよ!」
「勝手に絵本が進んでくの!」
「(^▽^)ドヤ」
俺はグリモの顔文字を見て驚く。否、顔文字では無くその後につく文言を見て驚く。
今までグリモは記号や顔文字のみで意思の疎通を取っていた。
しかし今、2文字とはいえ明らかに文字による意思表現をしている。
「グリモ、どういうことだ?」
「(`・ω・´)みてて」
グリモがそう言う? とページの左に一行の文章が現れた。
現れた文章を子供たちは声に出して読んでいく。
グリモは子供たちが読み終わったのを見計らって次の文章を下に出現させる。
どうやら、勝手に絵本が進むとはこういう事らしかった。
内容を確認してみると、それは俺が図書館で読んだ小説の冒頭である事がわかる。
子供たちに配慮してか、内容は簡単な冒険譚の物を選んでいた。
しばらくして、グリモの左側のページがいっぱいになる。
今度は「右側に文章を表示するのかな?」と思った俺はそこで驚きの光景を目撃する。
グリモは右側に文章は表示させず、なんと文字や記号を使って小説に登場する主人公のような絵を作り上げた。
質問したいのは山々だが、子供たちが楽しそうに朗読しているので、終わるまで待つことにする。
……………………。
しばらくして、子供たちの朗読会が終わったのか、そこかしこで拍手が起こる。
俺は頃合いを見計らいグリモに確認を取る事にした。
「アスキーアートだっけか? いつそんなもの出来るようになったんだ? それに言葉まで」
「(^▽^)ドヤ さいきん」
「ほう」
詳しく確認してみると、俺が読んでいる本を学習していくうちに言葉の意味は大体覚えたという。
アスキーアートについては、俺が読む小説にあった挿絵を再現しようと努力した結果、以前ハルに教わった絵文字を利用する方法を思いついたらしい。
挿絵の無い部分も、魔物使いの国で読んだ魔物図鑑等から流用したとか。
……何気にハイスペックなことをするな。
ただし、未だ言葉の理解が不十分という事で、単語で片言のような会話になるらしい。
「もう帰っちゃうの?」
「えー、もう少し置いていってよ!」
「従魔達は僕たちが面倒みるよ!」
俺がグリモの成長に驚いていると、周りにいた子供たちが残ってほしいと懇願してくる。
その中に俺はいないが……。
「まぁ、司書ギルドの依頼があるから、また用事が出来たらその時に連れてくるよ」
「「「「「え~!」」」」」
「こらこら、ウイングさんにも事情があるんだ。困らせてはいけないよ」
「「「「「……はーい」」」」」
俺はガンデーさんと子供達に見送られながら、孤児院を後にする。
さて、次は……。
俺はメニュー画面からフレンドリストを開く。




