140.修行の合間に
7/30 水路について少し修正しました。
8/2 主人公が図書館によらなかった理由について加筆しました。
次の日、朝からログインした俺はシャーロットさんの工房の中だった。
辺りを見回してみるがシャーロットさんはおらず、工房の中央に置かれたテーブルにいくつかのグループに分けられた宝石が並べられていた。
おそらく昨日俺が集めた鉱石だろう。
丁寧にグループごとに説明書きが残されていた。
どうやら、使えるかどうかだけではなく大きさによって使える従魔の大きさがあるようだ。
大きな従魔にはその体に合った大きさの鉱石を装着しないと効果が無い。
俺が採ってきたものでは最大で5mくらいのモンスターが限界のようだ。
今のところ俺の従魔にはそれほど大きな体躯のモンスターはいないので問題はなさそうであるが……。
俺が来たことを察したのか、木人形に連れられてシャーロットさんがやってきた。
俺はシャーロットさんに判別してくれたことのお礼を言いながら、疑問に思ったことを聞いてみる事にした。
「俺が拾ってきたものの中に使用できないものは無かったんですね?」
「……そうだね。原石の段階では使えないと判定されるものはほとんどないんだよ。だから、ウイングにはすべての鉱石を持って帰ってきてもらったの」
確かに大きい鉱石でもひびが入っていたりすると、小さい従魔用の部類に仕分けされたりはしていた。
しかし、テーブルに並べられた鉱石の中でエンチャントできないと判断された鉱石は一つも無かったのだ。
「……ここから使えるように研磨していくのが大変なんだよ」
「こういう作業って他人に委託する事ってできないんですか?」
こういった作業は専門の人に委託した方が完成度は高いはずだ。
オラズ・テイマーの職業スキルに研磨に関するものが無かった以上、宝石の加工までは誰かに委託してもいいはずだ。
シャーロットさんの隣に佇んでいる木人形の額に付いている緑色の宝石を見ても、そこまで特別な加工が施されているようには見えない。
「…………それ自体は可能だよ」
「やっぱり、そうなんですね」
「……私は基本的に自分で作るけど、最高品質の鉱石や宝石を手に入れた時は懇意の職人に委託するかな? だいぶお金はかかるけど……」
俺も最初から外部委託するつもりは無いが、今後は細工師なんかの職業についているプレイヤーに頼むことになるだろう。
餅は餅屋に頼んだ方が、いいものに仕上がるのは間違いない。
今度、ハーメルの装備を受け取るときにミーシャに紹介してもらおう。
「……それでは今後の予定について説明します」
シャーロットさんはそう言った後、今後の予定について説明してくれた。
今後、この工房で鉱石を研磨して魔石晶従魔術でエンチャントできる状態に仕上げる練習をするという。
安定して最低限のエンチャントができるような研磨ができるようになったら最終試験に移行するとの事。
合否の結果は連続で10個の鉱石を研磨してエンチャントできる状態にできれば合格だそうだ。
状態の確認はシャーロットさんが行ってくれるらしい。
最初という事で、まずシャーロットさんが手本を見せてくれた。
俺と一緒に取ってきた鉱石を一つ取り出し研磨用の魔道具の前に座る。
スイッチを押すとやすりの部分が回転しそこに鉱石を押し当てて成型していく。
その手つきは正に熟練の職人といった所作で、あっという間に真っ黒な鉱石は見事な光沢を放つ円形に仕上がっていった。
確かカボションカットとか言ったか?
どうやら、これが初心者用として教えられる形状らしく修行ではこれを練習していく事になるそうだ。
早速、魔道具の使い方を教えてもらい自分で鉱石を研磨してみる。
しかし、力加減が難しく削りすぎたり凹凸が残ったままだったりとなかなか思うように加工できない。
俺は想像以上の難しさに、今後の不安を覚える。
こうして、俺の第2の課題は始まった。
…………………………。
≪従魔カレルがレベルアップしました。≫
≪従魔グリモがレベルアップしました。≫
≪従魔エラゼムがレベルアップしました。≫
≪従魔グリモの練度が一定に達したため、スキル「火魔法」がレベルアップしました。≫
≪従魔カレルの練度が一定に達したため、スキル「水術」がレベルアップしました。≫
≪従魔ハーメルの習得度が一定に達したため、スキル「暗殺術」を習得しました。≫
≪従魔ヌエの習得度が一定に達したため、スキル「睡眠」を習得しました。≫
≪従魔カレルの習得度が一定に達したため、スキル「睡眠」を習得しました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「採掘」がレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「鉱物知識」がレベルアップしました。≫
≪司書のレベルが上がりました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「細工」がレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「採掘」がレベルアップしました。≫
≪熟練度が一定に達したため、スキル「細工」がレベルアップしました。≫
・
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・
そこからは昼夜問わず、採掘と研磨の日々だった。
最初の日に研磨の練習をしたもので合格ラインを超えたものは無かった。
その後も鉱石のストックが無くなっては初心者の炭鉱に潜り鉱石を集め、再び研磨の練習を続けた。
うまくいかないときはドヴェルグ連邦国にある図書館で鉱石の詳しい性質まで調べる事もあった。
残念ながら、ここの図書館にはチェーンクエストの本もなく、鍛冶と鉱石の本ばかりなので読書を楽しむのは難しい。
そんなある日。
いくつか合格ラインの研磨ができるようになってきたが、いまだ連続で合格ラインの研磨ができたことは無い。
少々疲れてきたのでログイン1回分の休憩をもらう事にした。
俺はシャーロットさんにお願いして一度魔物使いの国へ戻る。
従魔達の様子を見に行ったが、やはりハーマンさんに太刀打ちできないようで地面に倒された姿勢のまま爆睡していた。
俺はハーメルが暗殺術を覚えた経緯について聞いてみたが、「私が心得ていましたので教えたまでですよ」という事らしい。
ハーマンさんのお店を後にした俺は街中を散策していた。
図書館で時間をつぶしても良かったが、ここにある図書館は魔物に関する知識に関するものばかりということらしい。
首都の大図書館にも同じ本が所蔵されているうえ、魔物に関する伝承・物語なども多く所蔵されているらしい。
おそらく首都には長期滞在することになるので、必要な情報以外は首都に到着してから読もうと思っている。
しばらく街中を散策しているが、特に目新しい物は見つからなかった。
これまで立ち寄った町もそうだが、パラティにある施設や家は従魔のために大きなスペースが確保されていることが多い。
その為か、建物自体の数が少ないので時間をかけずに見て回ることができる。
気づけば街の外壁辺りまで来ていた。
こちら側は首都方面の門があるエリアだ。
首都の周りは水堀のようになっており、水棲のモンスターの停留所になっている。
そこから周辺の街に水を配っているらしい。
外壁から水路が伸びているので、これが首都から伸びている水路だろう。
水路の上には雪が積もらないため、踏み外して転落することは無いだろう。
「____……!」
引き返そうとした俺の耳へかすかに声が聞こえてくる。
辺りを見渡したところで1か所、違和感を覚える場所があった。
今はウィンターイベントの影響で、一面銀世界になっている。
そのため地面はほとんど真っ白な状態なのだが、壁から水路が出てきている辺りに灰色の物体が大小2つ転がっていた。
最初は大岩でもあるのかと思ったが、それならば上に雪が積もっていないとおかしい。
俺はゆっくりと外壁に近づいていく。
「キューー、キュ!」
「ギュ、ギュー……」
灰色の物体はどうやらアザラシのようなモンスターだった。
どうやら親子のようで、雪の上に転がり悲しそうに鳴いている。
衰弱しているようで大きな声は出せないようだ。
「キュ? キューー!」
「ギュー……。ギュー!」
どうやら、俺の存在に気づいたようで親らしきアザラシは子をかばうようにして俺の前にやってくる。
しかし、子どものアザラシは俺に興味があったのか親アザラシの制止を振り切ってこちらまでやってくる。
「キューー!」
俺の足元までやってきた子供アザラシはうるうるした瞳で俺を見上げてきた。
≪ウィンタークエスト アザラシ親子を救え!! が発生しました。≫
≪クエストを受けますか? YES/NO≫
……どうやら休憩中にとんでもないフラグを引き当ててしまったらしい。




