妖精狩者《フェアリア・ハンター》
「おおい、そこの兄ちゃん!
せっかくの祭りだってえのに、しけた面してうろうろすんない! 待ち合わせた彼女にでも約束をすっぽかされたんか?
ははは、冗談々々! 何があったかしらねえが、うちの射的で気分転換していかねえか? ん? 射的だよしゃてき! ほら、鉄砲の玉で景品を打ち抜いたら、その景品がもらえるやつさ!
うちの射的は特別製でな、景品はみんな妖精なんだ! 薬で眠らされてるから、鉄砲の腕があれば訳ないさ。胸でも頭でも撃ち抜いて、あとは今流行のハーバリウムにでもすればいい。花の代わりに妖精の亡骸を飾るなんて、程よく残酷でお洒落だと思わんかい?
あ? 『良心が咎めないか』?
はは、おかしな人だねお前さん。妖精なんざ人間と別の生き物だ、見た目は人間らしくて綺麗でも、とどのつまりは牛や豚と変わらんさ。良心が咎めるなんて甘っちょろいことを言うねえ。
さあさ、ぱーっとぶちかましてみな! 当たらんでも少しは気が晴れるだろうし、当たったらおなぐさみ、妖精の死にたてをお持ち帰りだ! さあさ!!」
「そ……そうですか? それでは……」
おどおどと答えた金髪で長髪の青年は、渡された銃をすらと構えて屋台の亭主の眉間に一発、二発、とどめに三発。向こうざまに倒れこむ亭主、周りを乱れ飛ぶ悲鳴。
青年は翠と蒼のオッドアイで微笑みいわく、
「亭主、お前の持論しかと受け取った。なるほど、妖精の俺は、妖精に似た形でも牛馬と変わらんお前のような人間なんぞを、殺しても良心を咎めんで良い訳だ」
青年呵々と大笑し、ひらとその白き繊手を躍らせり。とたんに薬もて眠らされし妖精たち次々目覚め、ひらひらと無数に舞い散る星のごとくに乱れ飛べり。
してやったりとほくそ笑む青年の背中にも巨きなる羽根が生え、青年大騒ぎの人間たちをしり目に夜空に舞えり。花のように夜空に咲いた美しき青年、さらりと腕を伸ばして誇らしげに宣言す。
「さらば、愚かなる人間どもよ。我ら妖精を苛み、虐げし醜き人間どもよ。我はオスカー・オスカル・オセロット。妖精国の王子にして『妖精を狩る者を狩る』、稀代の妖精狩者なるぞ!」
刃閃くさまにて言い残し、妖精の王子と名のる青年は光振りまき闇に消え去りぬ。後には屋台の亭主の亡骸と、空になった屋台と人間と残されり。美しい生き物がてんでに逃げ去った後、その光景には一欠けの美しさも残されず。
地には醜きもの満ちみちて、美しきものは天に光る月と星ばかり。きらきらと醜きものを嘲笑うように光り輝きまたたくばかり……。(了)