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破壊の神が住む世界で  作者: 天照サナイ
9/11

9 予感

カランカランと朝を告げる鐘の音が鳴っている。この鐘の音の意味も教えてもらい、鐘の音に合わせて湊は起床する


ここでの生活が始まって1週間がたった。


レイナの家での生活にずいぶん慣れ、少しだけだが家事を手伝ったりもしていた。湊的にはここに永住するのも悪くないとまで思っていたが、そううまくもいかないだろう。ともあれ、それほどにここの生活に慣れきたのだった。


だが、湊には少し気掛かりなことがあった。


「……やっぱ変だ。たった1週間で筋力がほぼ元通りなってる。……筋トレもしてないし、大量に飯食ってるわけでもないのに…」


体の回復が早すぎる。あの拒食症患者と勘違いされそうだった体が、たった1週間で失った右腕を除いて完全に回復しきっている。やはり自分の体はどこかおかしい。


「おかしいのは状況だけにして欲しいもんだ。治りが早いのは助かるけどさ」


考えるだけ無駄なのはもうすでにわかっている。今までなんども考えたがわかりっこないのだ。


「とりあえず朝食だ。リビングに行くか」


朝食。


「なぁ、もうだいぶ回復したし、そろそろ外での仕事も手伝いたいんだが」


「…そうですね。畑の手伝いくらいならすぐ出来るようになると思いますし、お願いしますかね」


「外に出るなら村長にも挨拶に行った方がいいんじゃないかしら?湊には行くあてもないのだし、まだこの村にいるのでしょう?」


外には出られるみたいだが、村長への挨拶も薦められた。当然か。よその村に住む以上そこのボスには挨拶をせねば。


朝食を終えた三人は、仕事のため家を出た。

巨大な木の側面にある階段を降りていく。すると、村から離れた所に小さな家がひとつあるのがみえた。


「あれは…?なんであれだけあんな遠いんだ?」


少し気になったが今はいい。とりあえず階段を降りて木の根元へ向かっていく。


木の根元へつくと行き先がわかれる。

エレナはまた森の外へ。レイナと湊は畑へ向かって歩き出した。


「いってらっしゃい。お姉ちゃん。気をつけてくださいね」


「レイナと湊もね。それじゃあ行ってきます」


「いってらっしゃいエレナさん」


手を振って去っていくレイナ。

森の外には人間が住む町があるらしいが、レイナさんは一体どん

な仕事をしてるのだろうか。


「先に畑へ行きましょう。それが終わったら村長さんの所へ」


「うん。わかった」


畑は村の外れにあって、レイナの家のだけではなく他の人たちの畑もある。木の板に名前が書いてあって、地面に刺してある。


「これがレイナちゃんの畑かぁ。いろんな野菜を栽培してるんだね」


「この森の環境はかなり特殊で、森の外では気候だとかによって育たない野菜もこの森では栽培出来るんです」


「……太陽の光も当たらず、野菜ごとの育つ環境も無視して栽培できるとか………この森ほんとどうなってんの」


「ふふ、すごいですよね。…詳しいことはわかりませんが、マナの光が充満してるからだそうですよ」


また出たよマナの光。この謎の光は一体なんなんだ。野菜の栽培の固定概念を無視して育てる効果があって、暗い森を照らす役割持つ光。万能すぎるだろう。


「あのさ、前から気になってたんだけど、このマナの光って一体なんなんだ?」


「マナの光はマナが具現化したものですよ。マナは知ってますよね?」


当たり前のようにきいてきた。この世界でマナという言葉

は一般常識レベルなのだろうか。俺は知らないが。


「いや、知らない」


「ええ!?マナを知らないんですか!?大陸全土で使われてる言葉なはずですけど…」


「あぁ、いや、その…世間知らずだからさ。………で、そのマナってのはなに?」


「マナは全ての生き物が持つエネルギーのようなものです。何もしなければただの不可視のエネルギーなのですが、術式を編んで発言させれば魔法なんかも使えますよ」


「魔法!?魔法ですか!!?」


「はい。……魔法も知らないんですね」


驚いた。ファンタジーだとは思っていたが魔法まで存在するとは。そんなものがあるなら、ぜひ使ってみたい。


「そ、その…魔法ってのは誰にでもできるのかい?」


「誰でもってわけじゃないです。その人個人が持つマナの器が、魔法を発動させるマナの量よりも小さい人もいますから」


「そうなのかぁ」


誰でもってわけじゃないのか。いや、俺のマナの器が魔法発動より小さいと決まったわけじゃないし、まだ落ち込む所じゃない。


「レイナちゃんは魔法が使えるの?」


「はい」


「ほんとに!?……ちょっとだけ見せてもらったりとか出来ない?」


「ふふ、いいですよ。では野菜たちに魔法で水を掛けるので、見ていてください」


「はい。ガン見します」


魔法の披露とあって湊はソワソワしている。

レイナは魔法発動のため、数秒俯き両手を斜め上へかざす。するとそこに水が集まって来て、球状の形になっていく。


「……いきますよぉ」


場の緊張感が高まり、ゴクッと湊も唾を飲む。


水よ(アグアメンティ)!」


「…おおお!!」


レイナが呪文を詠唱すると、球状だった水が弾け野菜の方へ向かって雨のように降り注ぐ。

湊は初めての魔法に驚愕の声をあげた。

何も無いところ水を生み出し、使役する。これが魔法というものか。


「すげぇ!!!ほんとに魔法だ!!」


「ふふ、本物ですよ。当たり前じゃないですかぁ」


「今のは…その…難しい魔法なの?」


「いえいえ、そんなことはありませよ。初級魔法のひとつです。魔法について勉強すれば使えるようなる可能性は高いですね」


「おお、そっかぁ…俺も魔法について勉強しよーかな。いや、でも俺のマナの器がなぁ」


「そればっかりはやってみないとわりませんね。でも大丈夫ですよ。仮にマナの器が魔法発動分の量より小さくても、努力で初級魔法が使えるくらいまで大きくすることは可能ですから」


「そうなんだ。んじゃその…俺がいつか魔法を勉強するときは、その時は付き合ってくれるかな?」


「はい!喜んで!」


魔法を勉強するとき、レイナちゃんが付き合ってくれると約束してくれた。美少女が教えてくれるなんて感激だ。もういっそ魔法の勉強だけじゃなくて、男女としても付き合ってもらいたい。


「それじゃあそろそろ作業を始めますよ。今日は収穫する野菜もいくつかありますから、お手伝いよろしくお願いしますね?」


「ああ、もちろん。なんでもまかせてくれ!」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ルブルムの祠ですか?」


森の外を出てすぐ近くにある巨大な都市。王都。その城下町の酒場でエレナは働いている。屈強な冒険者や戦士たちがこの酒場を訪れ、酒を飲み、食い散らかし、バカ話をしている。だがその話の中には、冒険者が知る貴重な情報なんかも含まれており、酔っ払った客がついそんな情報を口にしたりもする。


「ああ、そうさ。400年以上も前に勇者によって封印された魔人ルブルム。そいつが封印された祠が、つい最近何者かに破壊されたって話よぉ」


「…何者かに破壊されたって…それ本当ですか?その祠はたしか王都内ではなくとも、すぐ近くにありましたよね。祠の管理は王都で担っているはずですが…誰がそんなことを」


「さぁな。定期的にそれの管理者が清掃したりはしてたらしいが。別に常に見張ってるわけじゃあるめぇし、壊すのくらい容易だわな」


「…封印された魔人ルブルムは大丈夫なんですか?大昔の魔人が復活とか、そんなの洒落になりませんよ?」


「は、別に気にすることじゃねーだろ。どうせ根も葉もない噂さ。第一、ほんとに魔人ルブルムが封印されてたかも怪しいしな」


「…まぁ、この手の噂はあてにならないことが多いですからね」


「そのとおり。……そんじゃねーちゃん次はビールくれビール。冷えっ冷えのやつな!」


「はい!ただいま!」


ほとんどは根も葉もない噂ばかりだが、たまに真実が隠されてることもある。だがレイナは、自分には大して関係のないことだと判断しすぐに忘れてしまう。それよりも…


「あの二人が心配だわ。なんか二人とも距離が最近近くなっているような気もするし。…湊。レイナに手を出したらただじゃおかないわ」


心配性な姉である。だがそれだけレイナを大切にしてると言うことだ。それに、なんだかんだ言って湊のことも信用している。よくレイナを邪な目で見ているが、真っ直ぐでいいやつだと評価している。


「もう、明日はレイナの誕生日ね。パーティー用の食材とも買っていきましょう。湊のバカにもちゃんと祝ってもらわなくちゃ」


明日にまで迫った妹の誕生日に準備をする姉。仲のいい姉妹だ。


「もうすぐ昼食の時間帯ね。客も増えるし、頑張らなくちゃ!」


昼間に客の量がピークを迎える時間帯。それに向けてエレナは気合いをいれたのだった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


同じく昼食の時間帯。畑仕事を終え、レイナと湊は村長の家に挨拶に向かっていた。

村長の家へ向かう途中に、村の中心に小さな広場がある。そこには、見慣れない大きなガラス製の入れ物があり、砂時計のような形をしていて中には水が入っている。


「なぁ、レイナちゃん。あれは一体なに?」


「あれは水時計ですよ。この村には太陽の光が届きませんからね。昼夜問わず同じ明るさのこの森では、時間を計る水時計が必要不可欠です。それがないと生活が成り立ちませんから」


「水時計かぁ。きれいだな」


「はい。もう200年ほど前からずっと使っているもで、12時間がたつと水が全部滴りおちます。そのときに、あの隣の塔にある鐘を鳴らすんです。滴り落ちたら時計を管理しているアルゴさんがひっくり返します」


「あー、なるほど。朝に鳴るあの鐘はこれのことだったのか」


「はい。それで、時計の向こう見えるあの家が村長のお家です」


「他のより大きいな。村長だもんな」


村長の家が見えて湊は少し緊張する。相手はこの村のボスだ。もし粗相なことをしたらどんな罰が下されるのか。まぁ、ここは温厚な村だし、そんなに村長が怖い人なわけでもないだろうが。

湊の緊張を悟ったのか。レイナが励ましの言葉をかけてくる。


「大丈夫だよ湊くん。村長さんはとっても優しいおじいちゃんですから」


「ありがとうレイナちゃん。気遣ってくれて」


「ふふ、いいえ」


そうしてるうちに村長の家の入口前に着く。


「村長さーん。レイナですー。いらっしゃいますかー?」


扉に取り付けてある鈴を鳴らし、村長を呼ぶレイナ。

少し間を置いて家の扉が開く。そして家の中からは、耳がとんがった白髪の老人が現れた。この村の村長である。


「おぉ、レイナちゃんかい。今日はどうしたね。…おや?そこの子はもしや、レイナちゃんが連れてきた人間の子かね?」


「あ、その…はい。加藤みな…いえ、湊加藤と申します。今回はその…自分のことを助けて頂きありがとうございます。それで、その…自分には行く宛もなく、住む所が見つかるまで、少し間この村に住まわせてほしいのですが……」


「あぁ、ええよええよ。行く宛もないとは大変じゃのぉ。それに右腕も失っておるなぁ。まぁ、立ち話もなんだ。うちに入ってゆっくりしていきなさい」


「あ、ありがとうございます!」


「よかったね!湊くん!」


「あぁ!」


よかった。ほんとに優しいおじいちゃんだった。正直内心びくびくだった。断られたら村を出なくてはならなくなる。行く宛のない俺にとってそれは、すなわち詰みだ。


村長の案内で家に入り、リビングへ入る。

三人は木でできた椅子に座り、最初に村長が口を開く。


「さて、湊くんじゃったかな?肌といい、髪といい、白いねぇ。そんな姿をみると、彼を思い出すのぉ」


「え?彼?彼とは、その…どなたですか?」


「もう400年も前のことじゃ。サイガと名乗る君のような少年が、突然この村に訪れたのじゃよ」


400年前って…。村長は一体いくつなのだろうか。エルフは長寿だって言うけどまさかこれほどとは。


話の内容よりも、村長の年齢について驚いていると、今度はレイナが興奮気味に口を開く。


「サイガって、あの勇者サイガですか!?この村に来たことがあるなんて知りませんでしたよ!」


今度は勇者。この世界には勇者がいるのか。なんとテンプレな。


「そうじゃ、彼もまたこの森の奥地からやってきた。当時は彼自身も自覚してはおらんかったが、彼は強大な力をもっておった。そして彼はやがて勇者となり、魔王を討ち滅ぼしたのじゃ」


…魔王まで出てきた。テンプレすぎて頭痛が痛い。


「じゃが、魔王を倒したあと勇者は行方不明になった。彼の血筋は確認されておらん。そんな中最近魔族の動きが活発化しておるらしく、巷では魔王復活なんか噂されておる。」


「魔王復活ですか…。穏やかではありませんね。その勇者サイガの血筋も確認されてないんじゃあ、魔王に対抗できる人もいないんでしょうから」


勇者と魔王というあまりにもテンプレな存在に困惑しながらも、湊は村長の話に真面目に答える。

すると、村長は湊の目をみて衝撃的なことを言う。


「儂はな…湊くん。魔王復活のときに、彼と同じように現れた君こそが第2の勇者となるんじゃないかとも思っておる」


今なんて言った?

―――第2の勇者?この俺が!?


「えぇ!?…いやいや村長さん!俺が勇者なんてそんなこと…」


「そうですよ!村長さん!仮にそうだとしても、湊くんにそんな危険ことをさせるわけには…」


「いやいや、失敬失敬。儂としたことが妙なことを口走ってしもうたわ。湊くんや、さっきのことは聞かなかったことにしておいてくれるかのぉ」


焦った。まさか俺が、第2の勇者として魔王と戦うかのような流れになるのかと。

流石にそんなことにはならなかったが、「じゃが」と村長は付け足す。


「君は普通の人間ではないな。儂の感がそう告げておる。……君がいつか強大な力を手に入れても、それを無闇に使ってはならんぞ。勇者サイガのように…彼のように戦いに明け暮れ、それで命を落とすようなことになってはならん」


「……はい。わかりました」


村長の目は本気だ。力を得たがために、戦いに身を投じて行く勇者サイガの姿をみていたのだろうか。

しっかりと答える湊を見て、村長は頬を緩ませる。


「よろしい。それじゃもう昼の時間じゃ。二人とも昼食はここで食べていきなさい」


「えぇ!いいんですか?その、ありがとうございます」


「私、村長さん家のご飯美味しいから大好きです。ありがとうございます!」


二人は村長の家で昼食をご馳走になった。



食後。


「またいつでも遊びにきなさいねぇ」


「はい。今日はほんとにありがとうございました」


「ありがとうございました。村長さん」


二人が背を向け帰ろとすると、村長が茶化す。


「二人ともお似合いじゃよ」


「な!?村長さん!?」


「違いますよ!私達はそんなんじゃ!」


二人とも顔を赤くして後ろを振り向くと、村長はもうすでに家の中へ入ってしまっていた。言い逃げだ。


「もう村長さんったら!」


「はは、まあ、優しい人でなによりだったよ」


「村長さんは優しい人なんですけど、たまにおふざけが過ぎることもあるんですよ。元気なのはいいことですけどね。……では、そろそろ帰りましょうか」


「そうだね」


村長の家でゆっくりし、かなりの時間がたった。水時計のメモリを見るともう10時になっている。この村での午前10時は夕方だ。


二人は、収穫した野菜を籠にいれて持ちながら家に向かう。その途中で湊はある視線に気付く。


「…なんだ?」


少し離れたところから、黒髪でエルフにしては濃い肌をした少年がこちらを凝視している。


「な、なんだ?こわ!」


「どうかしましたか?」


レイナは気合いていないらしく湊の様子が変化したことについて聞いてくる。

湊はレイナその少年のことを伝えようとしたが、目を離した隙にどこかへ消えてしまっていた。


「いや…なんでもない」


「?…そうですか」


赤い瞳を見開き、こちらを凝視していた。あれは一体なんだったのだろうか?


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


夕食が終わって今はベッドの上。相変わらず両親が使っていたベッドを借りている湊。許可を得ているとはいえ、少し罪悪感を感じる。


帰ってきたエレナには「湊。あんた、またレイナに手を出していないでしょうねぇ?」と問いつめられる。またってなんだまたって。日常生活ではレイナと行動をともにすることが多いため、エレナのジト目さんも、もはや湊には慣れっこだった。


―――今日1日で色々なことがあった。

本物の魔法みて、村長に挨拶に行って、第2の勇者なんて言われる。あとなんか黒髪の少年に睨まれる。我ながら内容の濃い1日だった。最後のはよくわからんが。


ともあれ、この村の生活に順応しつつあることはいいことである。村長には住む所が見付かるまでと言ったが、正直この村に永住する方向になんとか持っていきたいところだ。


そしてあわよくばレイナちゃんを嫁に貰いたい。欲張りすぎかだろうか。いや、レイナちゃんだって俺のことを悪くは思ってないはずだ。あれで嫌われていたら人間不信に陥るまである。


湊が今日1日あったことについて考えていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。


「レイナです。入ってもよろしいですか?」


「えぇ!レイナちゃん!?…ああ!……うん、どうぞ!」


突然のレイナの来訪に焦る湊。噂をすればと言うやつか。

湊がぎこちなく答えると、扉を開けレイナが部屋へ入ってきた。


「失礼します」


「あぁ、うん。こんな夜に珍しいね。……どうしたの?」


夜と言っても、この森は昼夜問わず明るい。が、こんな寝る前の時間にレイナがやって来るのは初めてだった。


「…こっちのベッドよろしいですか?」


「う、うん」


そう言って湊の隣のベッドに腰かけるレイナ。この部屋は昔両親が使っていて、ベッドが2つある。


隣ベッドに座ったレイナは、少し間を置いて口を開く。


「…少し湊くんとお話がしたいなと思いまして…」


「そうなんだ。えと…なんだい?」


二人っきりで話。まさか告白!?…なわけないか。そんな甘い雰囲気でもないし。何か大事な話なのだろうか。


「…今日の外での仕事のお手伝いは、楽しかったですか?」


「…うん。楽しかったよ。色んな見たことのない、初めてのものが多くて、すげぇ新鮮だった」


「私もです。外から来た湊くんは、その一挙一動が私にとってとても新鮮で、普段見ている景色も、湊くんが入ることによってまた違った色をしているように感じていました」


「…」


「お姉ちゃんとも仲良くなって、まだたった1週間ではありますが、私の中ではすでに湊くんは家族のような存在になりつつあります」


「俺が家族に…」


「…はい。でも湊くんは、村長さんに挨拶に行ったときに、『住む所が見付かるまで』と言いました。いつか湊くんが、他に住む所を見付けてここを去ってしまうと思うと、なんだか…胸が苦しくなってしまいます」


「!」


そうか。両親を失ったレイナちゃんにとって、家族のような存在になりつつある俺を、失ってしまうのが怖いんだ。もう二度と自分の前から家族が去っていくのを見たくない。そうゆうことだろう。


「……俺は別にどこにもいかねぇよ。第一行く宛もないし、探してくれる宛もない。」


「本当ですか?ほんとにレイナの前からいなくなったりしませんか?」


「…むしろ俺が、『ここに居させてくれ』って頼みたいくらいだよ」


「…よかった」


レイナは少し涙ぐんでいた。それほどまでに家族を失うっていうことに抵抗があるのか。両親の死がレイナの心に大きな傷つけることになったのだろう。


『安心させてあげたい』と湊は本気で思った。湊の左手がレイナの頭へ伸びる。左手がレイナの頭に触れた瞬間、レイナはビクンと驚く反応を見せたものの、湊の左手を受け入れた。


湊の左手がレイナはの美しい金髪を滑るように撫でる。そのまま数回頭を撫でる。サラサラの金髪の感触が心地よく、レイナはされるがままだった。


―――いとおしい。

今までは、ただ容姿がかわいいから嫁に欲しいとか、そんなことを軽く考えていた。

だが、今は違う。自分の心の弱さを晒し、本音で向きあってくれたレイナ。こんな完璧そうな娘にも、弱さがある。


そこが堪らなくいとおしい。いとおしい。いとおしすぎて何もかも壊してしまいたくなる。


………俺は今何を考えていた?壊してしまいたくなる?…バカな。


違う。そんなんじゃない。

いとおしいのは本当だ。だけど、だからって壊してしまいたくなるわけがない。意味がわからない。なんなんだ。さっきの心の底から湧いてきた()()感情は…


「あの…湊くん?」


「―――はっ!…はぁ……はぁ………」


「…どうしたんですか?いきなり神妙な面持ちをして…」


「ああ!いや、なんでもない。…それより、その…少しは安心した?」


「……はい。あの…ありがとうございます」


レイナは頬を赤く染め恥じらいながら答える。やっぱりレイナちゃんはかわいい。


「そっか。そりゃよかった。…んじゃ俺はそろそろ寝ようと思うけど、レイナちゃんは?」


「私も寝ますよ。…その…ここで」


「え?ここで!?」


レイナちゃんが隣のベッドで寝るだと?大丈夫なのか俺の理性。男はみんな狼なんだぜ?


「えっと…なんでここに?」


「一人で寝るのがさみしいんですよ。あんまり深く聞かないでください」


なんか少し思わせ振りなことを言って布団に潜るレイナ。


「…おやすみなさい」


布団に入ったままこっちを向き、顔赤くしながら言う。

恥じらいながら言う所がなんとも愛らしい。


そして、レイナは眠りについた。


―――家族か。

個人的には別の意味で家族になりたいけど。今はまだいい。これからがある。これから少しずつ仲を深めて行けばいいさ。エレナに邪魔されそうな気がしないでもないが。


明日もやることがたくさんだ。俺も寝よう。

湊は布団に潜り、これからのレイナちゃんとの異世界ライフに心踊らせながら、眠りについた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


朝。


いつものように、朝を告げる鐘の音で目を覚ます。

眠気まなこをこすり、布団からおきあがる。すると、目をこすった左手が真っ赤に染まっていることに気付く。


「これは………血? なんでこんなに……」


手に付いていた血を疑問に思いながら、レイナの寝る方へ顔を向ける湊。だが、そこには衝撃的な光景が広がっていた。


「あ…ああ!!あああぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」


―――血で真っ赤に染まったレイナが、隣のベッドに横たわっていた。

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