6 出会い
二人の間に何とも言えない空気がながれる。
湊の『天使だ』という発言により、レイナが顔を赤らめ俯いてしまったからである。
レイナは天使ではないが、湊には自分を暗闇から救いあげてくれた、金髪の美しい天使にみえた。
意識がはっきりしてきた湊は、今自分が置かれている状況について、キョロキョロと周りを見渡し、情報を分析し始める。
レイナが恥ずかしさでもじもじしてる中、湊は得られた情報と目覚める前の記憶から、自分が気絶していた所をこの少女が助けてくれたのだと推察する。
―――先ほどみた、研究所で幼馴染が闇へ去っていく映像は夢だったのか。だが、あの光景は、何故か見たことがある気がする。
夢のことは今は後だ。とりあえず、この天使のような美少女に、今の状況を聞かなければなるまい。そして、あわよくば仲良くなりたい。
「あの……君はここで何を?」
「は!…す、すいません。少し混乱してしまいた!」
『天使だ』という言葉で混乱するとは、ずいぶんな恥ずかしがり屋さんである。
「えっと……大丈夫……?」
「はい……。大丈夫です。………とゆーかそれはこっちのセリフですよ!」
少し気を使って言った言葉を逆に返される湊。状況的に考えて、倒れていたのは湊の方なのだから当然た。
一言突っ込みを入れた後、レイナは優しく聞いてくる。
「大丈夫ですか?お兄さんここで気絶していたんですよ?…それにその右腕も」
「助けてくれたの?」
「助けるだなんてそんな、私はただ呼び掛けただけですよ」
そう言ってレイナは鞄の中を漁りはじめる。
湊は冷静に彼女の様子をみていた。
彼女の受け答えから、とても謙虚な性格だということが窺える。まさに男子の憧れとも言うべき存在であろう。
そんなことを考えていると、レイナは鞄から粉末状の物が入った小瓶を取り出した。
「これは?」
「万能薬ですよ。病気はもちろん、疲労回復にも効果があります。とりあえずこれを飲めば、村まで歩いていけますよ」
「村?村っていうのは?」
「お兄さんは空腹で倒れていたんですよね?村まで歩いてちゃんとした食事を取らないと。このままじゃ死んじゃいますよ」
いく宛のない俺に村まで案内してくれるらしい。非常に助かる。この娘は本当に天使だ。
その粉末状の薬を口に含み、彼女がくれた水で流し込む。水を飲む瞬間少し恥ずかしそうしているように見えたが、気のせいだろうか。
「ありがとう。こんな見ず知らずの相手にここまで優しくしてくれて」
「そんな大層なことはしてませんよ。それに……。私も小さいころ、お兄さんと同じような経験があるんですよ。外の世界が見たくて、行商人の馬車に忍び込んだことがあって。誰も頼れる人がいないまま、行商人の行き先であるを王都を、ひとりでさ迷い歩いたんです。そのとき空腹で倒れた私をある人間の方が助けてくれて。そしてこの森まで送り返してくれたんです」
「…優しい人だったんだね」
「…はい」
人間の方と言っていたが、もしかしてこの娘は人間ではないのだろうか。ここは異世界、耳が尖っているからエルフとかそんな感じの種族なのかもしれない。
この娘が俺に優しくしてくれるのは、人間へ対してへの恩返しのようなものなのだろう。
薬が効いているのか、体がかなり軽くなったように思える。
「ありがとう。薬のおかげかだいぶ体が軽くなったよ。これなら村まで歩いていけそうだ」
「もうですか?万能薬はいい薬ですけど、こんなにも早く効果でるものではないはずなんですが」
「え?そうなの?」
「…万能薬にはこの森で取れた薬草が多く使われてますから、薬草に含まれるこの森のマナが、お兄さんととても相性がいいのかもしれませんね」
『マナ』。また無視できない異世界あるある用語が飛び出してきた。もはやこの世界は完全に異世界らしい。
「遅くなりましたけど私の名前はレイナです。見てわかると思いますがエルフ族です」
やはりエルフだったか。エルフは若々しく美しい外見の者が多いなんて言うけど、実際にこうして見ると本当に綺麗だ。
「レイナ。レイナちゃんだね。俺は加藤湊。こんなんでもふつーの人間さ。よろしく」
「カトウミナトですか不思議な名前ですね。それでは加藤くん!これから私が村まで案内しますよ!」
むむ?俺は『レイナちゃん』って名前呼びなのに、レイナちゃんは俺のこと名字で呼ぶ感じなのか?加藤の名字の人を『加藤』って呼ぶのは少なくないかな。出来れば名前で呼んでほしかった。
名前の呼び方に少し距離があるような気がして、内心トボトボとしている湊。
そんな湊の様子とは対照的に、明るい様子で肩を支えてくれるレイナに少しときめきながら、二人は村へ向かって歩きだした。