2 起きたら謎の施設
―――はっ!!!
……………………………
……暗い。
どこだ?…ここ。
目が覚めると、俺は一人でしか寝れないほどの、狭いベッドのような物の上に横たわっていた。
空中には緑色に輝くホタルのような粒がまばらに舞っている。顔の近くに舞っていたのをよく凝視してみてみると、粒のようなものはなく、小さな光だけがその場に浮遊している。
とりあえず、起き上がろとして頭を上げる。だが、ガン!と音がして額に軽い痛みが走った。何かにぶつかったようだ。
「いってっ……」
よくみると、目の前のには透明なカバーのような物があった。それは丸みを帯びた形状をしていて、この小さなベッドのようなもの全体に、覆いかぶさっていた。
―――カプセル?
SF映画の研究所にありそうな。人が入るカプセルのようなものじゃないか?これ…。
………………………
……なんだこれ。まるでわけがわからんぞ。ここどこだよ。てか、さっきのはなんだ?夢か?夢オチなのか?いや……妙に現実感あったし、夢じゃないような…。
てか、このカバー開くのか?出られないとか洒落にならないんだけど。
もう一度起き上がろと、目の前のカバーを手で押してみる。
―――開いた。
意外にもあっさり開いた。
周りを見渡すと自分が寝てたの同じようなカプセルいくつもある。すべて開いていて自分以外の人はいない。
それに、暗くてはっきり見えないが部屋の中には、葉が生えていない木のようなものも見える。よくみると、部屋の至るところから木のようなものが壁や床を突き破って出てきていた。
………落ち着け。状況を把握しないと。まずここは研究所かなんかの施設ってことでいいよな?で、なんで俺はここにいるんだ?
―――わからん。この研究所関連のことで知ってることなんて何ひとつ思い出せない。
あれだ。さっきの夢だ。あのやたらと現実感のある夢。夢だと思ったけど、たぶんあれは…夢じゃない。そんな気がする。てか、夢と過去の出来事の区別もつかないとか俺やばくないか?
あれが現実だとしたら、今のこの状況も無関係とは思えないよな。たぶん、あのまま地上に落下したけどなんか生きてて、よくわからん流れでこの謎の施設にいるってことかな。
情報が少なすぎるため、このくらいの程度しか推測できない。
もうひとつ気になることがある。家族のことだ。
あのワーム型の化け物に襲われて飛行機は大破。乗客や乗組員は全て上空10000メートルに投げだされた。俺はなんでか生きてたけど、家族がどうなったかはわからない。生き残ったのは俺だけで他はみんなは地面に叩きつけられた。なんてこともありえる。
俺がなんで生きてるのかわからないけれど、家族には無事に生きていてほしい。
父さん……。母さん……。
妹…の………………!
妹の名前…………なんだ?
あれ?父さんに母さん……の…名前……。
名前が……思い出せない?
―――おい。なんでだよ。いくらなんでも家族の名前忘れたとかないでしょ。……そんな……ほんとに思い出せない……。
あれ?じゃあ俺の名前は?
え~と、名字……名字は……。
―――加藤?
そうだ。加藤だ。そんな気がする。
そんで下の名前が……みなと。湊だ。
俺の名前は加藤湊だ。
自分の名前は覚えてた。でも家族の名前が思い出せない。そういば向かいに住んでる女の子の名前も。間柄はたしか幼馴染。……それくらいしか思い出せない。
なんだ。なんでだ。名前が思い出せないどころか、思い出とかそのあたりも、ほんの少ししか浮かんでこない。……記憶が曖昧だ。
俺に一体何がおきたんだ。
推測だが化け物に襲われた。そして、目が覚めたら謎施設に記憶喪失ぎみ…。
―――こわい。こわいよ。状況が全くわからないのもそうだけど、記憶がほとんどないのもこわい。自分に関する記憶が 名前以外にあんまりないから。自分が何者なのかわからくなりそうでこわい。
―――とにかく外へ。
こんな得体の知れない所には居られない。立ち止まってばかりではネガティブなことばかり考えてしまって気が狂いそうになる。
その場から起き上がろうとカプセルに手を当てると、自分の手が異常に痩せ細っていたことに気付く。栄養失調とゆうか、摂食障害でも伴ってるかのような手だ。今自分は病院の患者が着るような服を着ており、よくみると、そのズボンから出ている足首もまた痩せ細っていた。
うそだろ………。なんで…。
状況や記憶だけでなく、体までおかしくなっていた。
「………………くそっ!!!」
考えても仕方がない。
今はとにかく、外へ出るんだ。
そう決意した俺は、カプセルを出て、よろよろと歩きだした。
体の動きが鈍い。筋肉が無さすぎるせいか、体が重く感じうまく歩けない。本当は軽いはずなのに。
よろよろと歩き、なんとか廊下までたどり着く。廊下に来てからは、壁に寄りかかりながら歩いていく。こっちにも、木の枝や根のようなものがあちこち張り巡らされていて、相変わらず緑色の発光体も浮遊している。
「歩きづれぇ……」
壁に寄りかかりながらでないまともに歩くのも辛いこの体では、こんな状態の場所を歩くのは重労働だ。大した距離も歩いてないのにもう息がきれている。何故こうなったかはわからないが、虚弱体質すぎるだろう。
―――それにしてもあの化け物は一体なんだったんだ。
息もきれぎみだが、疑問が絶えないこの状況なため嫌でも考えてしまう。
あれは、いくらなんでもでかすぎる。上空10000メートルに突如姿を現したワーム型の化け物。上空10000メートルにいるとゆうのに羽が生えてるようには見えなかった。
……まてよ。あの桁違外れな太さ。雲から垂直に現れたってことを考えると……。
まさか…地上から雲の上まで体を伸ばして出てきたんじゃ!?もしこれが合ってれば、奴は最低でも体長10000メートル以上はあることにならねぇか!?
そんな化け物を簡単に仕留められるわけがない。奴はまだ生きていて、今もどこかの町や人を大量に破壊しているのかもしれない。
あんなの倒すなんて無理だ。生半可な兵器じゃ奴にはたぶん効かないだろう。それこそ核兵器とかでないと……!
―――そういえば…奴に核ミサイル打ってなかったっけ?
おかしい。なんだこの記憶。俺は奴に襲われて落下してから、初めて目覚めたんじゃないのか。じゃあこの、ほんの少しだけあるミサイル受けている奴の姿なんだ。
落下してから、あのカプセルで目を覚ますまでの記憶がない。にもかかわらず奴が攻撃を受けているビジョン。
―――ただの妄想だろうか。
何か引っかかる気もするが、今はいい。どうせ考えても答えはでないし。
しかし長いな。まぁまぁ歩いたはずだが、一向に出口がみつからない。この建物に関する記憶が無いから当然だが、今自分がどこを歩いているのかもわからない。いくら歩いても人がいる気配もない。この建物には俺しかいないのだろうか。
ガッ!
「うおっ!?」
考え事をして歩いていたため、足下が疎かになり、木のようなものにつまずいてしまった。
そのまま受け身もとれず転倒し、体に強い衝撃が走った。
「ぐっ!…いってぇ……」
痛みを感じながらも体をうつ伏せのまま起き上がろとする。だが両腕に力を入れているのにうまく起き上がれない。おかしい。左腕はしっかりと地面を捉えている感触があるのだが、右腕はなぜか力を入れても全く地面を捉えず、倒れ込んでしまう。結局うまく起き上がれず、倒れ込んでしまう原因の右腕の方へ目を向ける。
だが、目に写ったものは今の自分が置かれている状況など忘れてしまうかのような、衝撃的なものだった。
「―――う、あぁ!!あああぁぁぁぁぁああああ!!!」
―――自分の右腕がなくなっていた。