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破壊の神が住む世界で  作者: 天照サナイ
1/11

1 プロローグ

―――やることがない


今の自分は、暇を潰す娯楽アイテムを全くと言っていい持ち合わせていない。唯一の携帯は残りエネルギー0%、充電器は忘れてきた。

窓の外を見ると何にも遮られていない太陽の日差しが照りつける。そして下には見渡す限りの雲の海。今自分は、家族旅行の帰りで飛行機の中にいる。


「フライト時間が約2時間で、離陸して約1時間。あと1時間かぁ……長げぇ」


残り1時間。今の自分はほんとうにやることがない。隣にいる妹は離陸して30分ほどで寝てしまい話相手もいない。

―――寝るしかない。普段学校の授業中でもしてるように、妹だって寝てるし。

少年は静かに目を閉じ、妹を見習って惰眠を貪ることにした。



「―――なんだ……これは」


少年が惰眠を貪ることを決めたとのほぼ同時刻、操縦席でこの道30年のベテラン機長が呟いた。

西暦2262年、自動操縦技術の向上により離着陸から全ての操縦がオートパイロットで行われてる。また、レーダーの技術の向上も凄まじい。航空中の進行方向の気象状況などを観測するウェザーレーダーは、電波の反射から目標物の距離や方位を探知するものである。たが今世紀のレーダーは、目標物の動きや反射強度からそれがどのような物体または状態なのかを、判別可能なまでに進化していた。例えば、一匹の鳥がレーダーの射程範囲に入れば、その鳥の名前だけでなく雄か雌かの判別すら可能としていた。

しかし今、そんな超高性能レーダーが写し出す画面には、雲の下に解析不能と表示された超巨大な影が写っていた。


「レーダーの故障ですか?解析不能なんて見たことないっすね」


「…この影以外は正常に解析できてる。…これは緊急事態なのかもしれん」


まだ若くどこか楽観的な副操縦士に対して、なにかの危険を察知したのか、解析結果を見て機長は顔をこわばらせた。

過去には解析不能の結果が出ることはたびたびあった。しかしそれは悪天候などによる電波の送受信の不良がほとんどであり、現在のものは、そのような問題も克服されている。にもかかわらずこれほどまでに巨大で解析のできない影が写るなんてことは、故障であってもありえないのである。

機長が顎に手をあて考え込んでいると、突然管制塔から通信が入ってきた。


「な…715便。…前方3800メートル先27000フィートに『超巨大生物』が停滞中。右へ60°旋回し、避けて飛行せよ!」


「……超巨大生物?どーゆうことだ」


「数分前に滋賀県あたりに超巨大な化け物が出現した!すぐにその場から離れよ!」


「……715便了解」


管制官の口調には驚愕と若干の焦りの色がまじっていた。


―――超巨大生物?この影のことか?…ありえない。こんな巨大な影が生き物だとでもいうのか?


「…機長。今超巨大な化け物って言ってましたけど…え?マジで言ってんすかね…?」


「わからん。だがレーダーにも謎の巨大な影写っている。指示どおり、右へ60°旋回だ」


『超巨大生物』とゆう、空の上ではほぼ確実に耳にすることがない単語を聞き、二人ともまだ状況がよく飲み込めていなかった。

半信半疑ながらも管制塔の指示どおり舵を切ると、今度は先ほどよりも慌てた様子で、また管制塔から通信が入ってきた。


「715便!!超巨大生物が動―――――――――――ただ――――――のばら――――よ!」


「こちら715便。電波状態が悪く、よく聞き取れなかった。再度通信を乞う」


「――――――超巨―――――――動き出―――――――――――ちにそのば―――離れ――!!」


「なんだ?……電波障害か?」


通信の向こうにいる管制官が必死に何かを伝えようとしているが、ノイズが酷く聞き取れない。「動き」と聞こえた気がするが、まさか超巨大生物が動き出したのか?

無線機からかろうじて聞き取れた言葉を頭の中で組み立てていると、前方の左側の雲が物凄い勢いで膨らみはじめた。


直後、とてつもない突風…いや衝撃波が715便を襲う。



「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


「なんだ!?何が起きてっ!?」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


機内には悲鳴が響き渡り、突然のことでパニックに陥る者もいた。まさに機内は阿鼻叫喚な状態となった。


「うわぁぁ!が、ぐ…!!一体何が起きてんだ……」


少年もまた突然の衝撃で目を覚ます、

隣の妹はこの異常な事態に恐怖し泣き喚めいていた。


「うわぁぁぁぁん!!!」


「芽衣!大丈夫だ!何も心配ない。兄ちゃんがいるからな!!」


泣き喚く妹を必死になだめていると、窓の外を見た妹が突如言葉を失い、目を見開いた。


「芽衣…?どうした…?何を見て―――」


少年は、目を見開く妹の視線の先が気になり、後ろへ振り返る。だが、その先に広がる光景みて、少年もまた言葉を失った。


―――最初に見えたのはとてつもなく巨大な柱だった。先端に向かうにつれて鋭く尖った形状をしており、内側に向かって刃のように反っている。()()が十数本、超巨大な円形状に並んでいた。


ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!!


その下から、雲を突き破り轟音を上げながら現れたのは、視界を埋め尽くすほどの超巨大な壁だった。


「な……なんだよ……ありゃぁ……」


上空10000メートルに巨大な壁!?…ありえない……っ。

少年は目の前の現実離れした光景に戦慄した。


壁。それは白に近い灰色をしており、現在進行形で上へ向かってぐんぐんと伸びている。だが、少年に理解できたのはそれだけだった。飛行機の窓の大きさでは、対象が巨大すぎて全貌が全くつかめず、壁と表現するほかないのである。

飛行機の中の、右側に座る乗客には壁が現れたことすらわからなかった。壁が左側に現れたため、左側に座る乗客が窓を占領したからである。

左側に座る乗客は、みな絶句していた。理解の範疇を越える出来事が目の前でおこっているのだから。ただ、生物としての本能が告げていた。――あればヤバいと。

いまだ全貌が掴めないその超巨大な壁に、乗客の心には恐怖とゆう感情が蝕みつつあった。



操縦席にいる二人もまた驚愕していた。機長は驚愕のあまり目と口を見開き、副操縦士に関してはなかばパニック状態である。


「………っ!!!しっかりしろ!!とにかく全速で離脱するんだ!!!!」


「うぁっ!?…うぅ…え?…は…はい!!」


こんな状況ながらも機長は冷静さを取り戻し、副操縦士を一喝して指示をとばす。

―――これが超巨大生物か!?あまりにも大きすぎる。

機長も内心パニックのような状態に陥りながらも、機体を急加速させる。急加速の影響で、乗客や乗組員の体にGによる負荷がかかるが、そんなことはどうでもいい。とにかく一刻も早く()()から逃げなければ。

715便は通常の航空では到底出さないようなスピードで距離を取り始めた。


場面は変わって客席。壁からそれなりに距離を取れ、やっとその姿がみえてきた。


「………う、うそだろ。なんだよあの化け物は…。でかすぎんだろ……!!?」


乗客たちもやっと壁の正体を目にする。


―――その姿はまるで、ヨーロッパ神話などに登場するワームのような姿をしていた。先端の口とおぼしき部分には、先ほど見た柱――おそらく牙が、十数本ほど生えている。


でかい。とにかくでかい。


―――天災。いや、そんな生ぬるいものではないのかもしない。人類が総出でかかっても勝ち目がないような。あの圧倒的な存在感は、まるでこの世の終わりだとを具現化したかのような、そんな存在に思えた。


乗客は、茫然自失といった状態であのワーム型の化け物を眺めていると、奴はゆっくりと体をくねらせこちら側に口を向けてみせた。


「うわぁぁぁ!!お、おい!!こっち向いたぞ!!?」


「あ、あいつ!なんか……なんかするつもりじゃあ!!?」


乗客の予感は的中する。

ワーム型の化け物の口の奥で光が収束し始めた。収束した光の塊は口の中でみるみるうちに膨張していく。

刹那。その光の塊が弾けるように、超巨大な光線となって715便へ襲いかかった。


「機長!!!後方に超高エネルギー反応が!!!?」


「回避だ!!!回避ぃぃぃぃぃ!!!!」


ドゴォォォォォォォォォォォン!!!!!


超巨大光線は無慈悲に襲いかかり、715便へ直撃―――はしなかった。

機長の判断による急旋回で機体が右に反れ、直撃は免れた。だが、飛行機の後方部分は斜線上から回避できず尾翼から客席の後方部分が融解した。

その衝撃で機体は吹き飛ばされ、装甲板がベキベキと外れ、やがて機体は空中分解した。


百人近くの乗客や乗組員たちが、なんの装備もなしに空中へ投げだされる。


「父さん!!!母さん!!!芽衣ぃぃぃぃ!!!」


「兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」


みな一様に悲鳴を上げながら地上へ落下していく。


―――死にたくない。

少年は死の恐怖に怯えながら落下していく。

死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。

うそだろ。こんなわけわかんねーことで俺死ぬのかよ。


目を瞑るとこれまで出来事ふつふつと浮かび上がる。ああ、これが走馬灯か。


死の間際にみる走馬灯なんてただの現実逃避だ。そんなこをしてる暇があるなら、生きるために全力を尽くせ。


こんな言葉を何かの漫画でみた気がする。じゃあ、なんの装備もなく上空10000メートルで空中に投げ出されたら、どう全力を尽くせばいい?そんなの決まってる。―――なにも出来ない、だ。

空中で身動きが取れず、役立つアイテムもない。終わった。終わるしかないんだ自分は。


死ぬのはこわい。とてもこわい。でも何もできない。諦めるしかないんだ。

少年は自らの生を諦める。死を受け入れた。受け入れるしかなかったのだ。


―――自分の死の瞬間なんて見たくない。

そう思った少年は、恐怖で奥歯をガチガチと鳴らしながらも、迫り来る死を前に目を瞑ったのだった。














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