二十三日目(3):悪党、方針を立てる
キスイと俺が交互に説明し、それが一通り終わると、センエイは大きくうなずいた。
「なるほど。外ではもう、事件は解決したことになっているわけだ」
「まあ、そういうこったな」
「世界剣が折れていたとは私も知らなかったな。たしかにそれなら、グラーネルはもうなにもできないだろう」
「そうなのか」
「ああ。で、本題だ。たしか、私の見知らぬ美少女のためにライくんを血祭りに挙げるという話だったが」
「おまえひとの話ちゃんと聞いてなかっただろ!?」
「ははは人聞き悪いなあ。ちゃんと聞いてるよ願望込みで。
でも、ぶっちゃけた話どうやって行くんだ? 炎獄回路への道には、あの白雪が立ちふさがっているわけだが」
「う……」
「確かに厳しいだろうね」
と、これはシン。
「彼女の能力は広範囲で強烈だ。
追ってきた直後ならともかく、いまはたぶん彼女も本腰を入れて巣を張っているだろう。そうすると、グラーネルたちみたいにうまく逃げてごまかすといった策も取りづらい」
「おまけにシン、おまえまでいるしな」
「……なんだよ。秘術を使わなければバレないだろ。関係ないね」
「そういや、アレとシンってどういう関係なんだ?」
なんか話の流れ的には関係がありそうなんだが、その関係を俺は知らない。
なので聞いたのだが、センエイはきょとんとした顔で、
「なんだ。聞いてないのか?」
「なにを?」
「いやだから、白雪ってのはロックした神を絶対ぶっ殺すマシーンで、そいつは二千年間カイ・ホルサって神様をロックし続けていて、そのカイ・ホルサの力を引き継いでるのがシンだって話だよ。だからシンの必殺技に、あいつは引き寄せられるんだ。
……教えないで来たのか、シン?」
「必要ある情報かわからなかったからね。
必要あると思えば、そのときに話せばいいと思っていたよ」
しれっと言うシン。
センエイはそんなシンをふん、とにらんで、
「まあいい。ともかく、このままじゃどうにもならんだろ。打開策が必要になると思うが」
「うーん……しかし、打開策と言ってもなあ……」
俺はそういうのに詳しくないから、どうこう言えない。
と、サリが口を開いた。
「センエイ」
「なに?」
「協力してくれない?」
センエイははっはっはと陽気に笑った。
「もちろんじゃないかサリ。私が、ライくんを蹴落とせるチャンスを逃すと思うかい?」
「待てやコラ」
それは断じて協力とは言わない。
「冗談はともかく、私は当然力を貸すよ。
でもそれだけじゃダメだ。正攻法でいま氷雪原野を渡る方法は、私にだって思いつかない」
「でも、あなたにはなにか案がある。そうでしょう、センエイ」
「まあな。
そこのオルトロス兄弟の力を貸してもらおう」
「オルトロスたちに白雪を倒してもらうのか?」
「アイヤー、それは無理アル!」「死んじゃうでごわす!」
即座に悲鳴を上げるオルトロスたち。……顔と図体の割に気が弱いよな、こいつら。
「ライくんは短絡的だなあ。力を貸してもらうったって、物理的なものだけとは限らないっつーの。
実はな。正典第五領域、炎獄回路に行く道はもうひとつあるんだよ」
「それは」
キスイがびっくりしたように息を呑む。
「外典第五領域、無間岩塊……ですか」
「お、キスイくんは物知りだな。
その通り。かつて、三途大河を渡りきれなかった罪人の魂が迷い込むと言われていた、広大な心の迷路。フィーエン・ガスティートが橋を作ってからは無人となったそこは、確実に炎獄回路に続いているはずだ。
オルトロスには、そこへの道に案内を頼む」
「で、でも……そんなところ、通れるんですか?」
リッサが言うと、センエイは肩をすくめた。
「わからん」
「…………」
「そんな目で見ないでくれよリッサくん。
わたしだけじゃなく、誰だってわからないんだ。無間岩塊は二千年前に閉ざされて、それから先に通った者のいない魔境だ。
かつて魂たちはそこで迷いながら罪を浄化し、やがて道を見つけて炎獄回路へ至り、転生の輪へと加わることを許される――その程度の伝承しか、私だって知らないんだよ」
「勝算は? それと、迷った場合の帰還方法は?」
と、これはカシル。
センエイはそっちをちらりと見て、
「帰還方法は問題ないだろう。命綱的なアイテムはここの倉庫にあったはずだ。それを使えばいつでも無事帰還できるさ。
問題は、勝算のほうだが……これについては、私よりオルトロスのほうがよく知ってるんじゃないのかね」
「アイヤー。見抜かれてたアル」
「実は、無間岩塊については、定期的に調査に行っているでごわす。だから途中までは、地図ができているでごわす」
「おお、そうなのか」
見え始めた希望の光。
「ただ……」
「ただ?」
「途中、強制的に一人ずつ進まなければならない地点があるでごわす。
おいどんたちが行くと、胴体をふたつにぶった切られてしまうので、痛くてしょうがないでごわす。なので、そこから先の情報はないでごわす」
「胴体をふたつって……」
それで生きていられるあたり、やっぱ上位の竜ってすげえんだな。
「ともかく、途中でバラバラになるリスクを考慮しても、行ける成算は十分アルよ」
「保証するでごわす」
「なるほど。それじゃあ、その案で行くか」
めどは立った。
後は、実行するだけだ。
「じゃ、準備もあるからしばらく休みとしよう。
あらかじめ、さっき指示しておいたからな。オルトロスが部屋を用意してくれてる。案内してやるから、一晩休んで英気を養うといいさ」
センエイはそう言って、席から立ち上がった。
夜。
「きれいな星だなー」
窓の外に広がる空を見ながら、つぶやく。
聖典世界に夜があるのかと最初は驚いたが、センエイ曰く「気分の問題」らしい。来ると思えば来るし、来ないと思えば来ないとか。
……気分で来る夜ってのも微妙だな、と、思わなくもない。
「さて、と」
とりあえず、どっか行こう。まだ眠るって気分じゃない。
「ようライくん、散歩かい?」
「おー、センエイ」
まさかこいつにばったりでくわすとは思わなかった。
「今日はサリのストーキングとかはしていないんだな」
「ばばばばば馬鹿を言うな。私がいつサリのストーキングをしたって言うんだっ」
「してないのか?」
「むしろいましてる。ふははお部屋監視装置ゲットだぜー」
謎の機械を高らかに抱えて高笑いするセンエイ。
……まあ、こいつはこういう奴だ。
しかし、
「なんかおまえ、気づいたらこの城乗っ取ってないか? 機能は使いこなしてるわ、部屋は用意させるわ」
「ん? ああ。おなじことをオルトロスたちからも言われたな。無視したけど」
「…………」
いいのか、オルトロス。竜王の権威ボロボロなんだけど。
「で、そのお部屋監視装置ってのはなんだ。場合によっては破壊するが」
「ふふんすごいぞこいつは。映像から音声から位置情報からぜんぶずらりとゲットできるスグレモノだ。
たとえばキスイくんはカシルと一緒にくつろいでるとか、リッサくんは私が運んできたでかい神官のお見舞いに行ってるとか、そういうのがぜんぶわかる。んでサリは――あれ?」
がちゃがちゃと装置を動かしながら、センエイ。
「おいこりゃどういうことだ。サリの情報がどこにも出てこないぞ!」
「そりゃご愁傷様。……まあ、邪悪な装置ではありそうだが、それならべつにいいか」
「よくなーいっ。ああちくしょう、ライくんのいない状況でサリに夜這いをかける絶好の機会なのにっ。なぜにこんなアクシデントがー!?」
絶叫するセンエイ。
……こいつも変わらないなあ。まったく。
「ん、なんだいライくん。柄にもなく沈黙しちゃって」
「いや、呆れてただけ」
「はっはっはそうかそうか。もっと褒めろ」
「カケラも褒めてねえよ」
「ときに、ライくん」
センエイは少しだけ、姿勢を正した。
「昼間の話で少しだけ気になったんだが……ライくんは、結局なにしに行くんだ?」
「なにしに……って?」
「まあ私なら、美少女からの呼び出しとあればたとえ火の中水の中聖典世界の中とは思うわけだが」
「俺はまったく思わない」
「だろうな。だからなんで行くんだろうと思って」
「いや、俺はどっちかって言うとバルメイス目当てなんで」
「ライくん……実はホm」
「違うわっ!」
「ふむ。だがまあ、相手はたぶんライくんを殺す気だぞ?
それでもあえて行くのか?」
「行くんだ。行って、殴り倒してやる」
「その後は?」
「とりあえず、舎弟にしてやろうと思って」
「……ほお」
「なんだよその反応は」
「いやべつに。まあ、ライくんらしくはあるな、と思って」
そう言って、センエイは笑った。
「まあ、私としては、この旅行でライくんとサリとの仲が進展したりしなければどうでもいいんだが」
「まだ言ってるのかおまえは……言っておくが、俺を排除したところでサリがおまえになびくとは限らないんだが、それはわかってるのか?」
「ふふん」
「……なんだよ」
「なにを言っても無駄だ。私はライくんと違って大きなアドバンテージがある」
「それは、なんだ?」
「なにしろ、依頼を一緒に受けているからな。結果報告には一緒に行かねばならん。
神になったライくんが聖地とかで神の生活に忙殺されているうちに、私はサリと一緒に旅三昧ってわけだ。
そしてライくんのいないサリの寂しさ、これを埋めるのがこの私っ!
ふはは、行ける、行けるぞ! 今度こそサリの心は私のものだぁー!」
「煩い」
ごきゃげりゅっ!
「ぎょへー!?」
「あ、サリ」
ていうか、このパターンも久しぶりだなあ。
「う、ううう、な、なぜサリがここに……」
「へんな機械が監視してたから、隠行で隠れつつセンエイを探してた」
「な、なんでそれだけで私が犯人に!?」
「あんな精度の機械を操作できるひと、ここにはセンエイしかいないでしょ」
「ぐふう」
「ライ。とりあえず、これはもらっていく」
「あ、どうぞ。ご自由に」
「ううう、お、覚えてろよライナー・クラックフィールド! この次は必ずぅぅ!」
言いながら、センエイはサリにひきずられて去っていった。
「…………。
そういえば」
センエイこそ、なんで俺たちを手伝ってくれるんだろう?
そんなことを、ふと、思った。
決戦は明日。
仄暗い地下の果て、炎流れる洞窟の奥にある塔の上で、俺とよく似たあいつが待っている。
それに俺は、――応えてやりたいと、思っているのだ。




