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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
二日目:悪党、宝探しをする
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二日目(5):悪党、ミーティングをする

 で、俺は魔人たちの馬車まで到着した……のだ、が。

(…………)

「なんだ、これ」

 まあ、馬車と言えば馬車だ。

 けど、その周りに張り巡らされている数多のツタみたいなものはなんだろう。

(ちょ、ちょっとさわってみようかな……)

 つんつん。

 ぴくっ。

 つんつんつん。

 ぴくぴくっ。

(お、なんか面白いぞ)

 つんつんつんつんつん。

 ぴくぴくぴくぴくっ。

 つんつん、つん、つ、つつん。

 ぴくぴくっ、ぴくっ、ぴく、ぴぴくっ。

「ほー、これは興味深い……」

「楽しんでるかな?」

「ああ。なかなか楽しいぞ」

「ははは、それはどーも。これ栽培するの、けっこう大変だったんだよ」

「へえ、じゃあやっぱ外見どおり植物なんだ。でも自分で動ける植物なんて珍しいな」

「そうかい。まあ、冥土の土産に見ておくのもいいだろうさ」

「……なあ」

「なにかな?」

「あんた、なんで俺ののどに短剣を押し当ててるんだ?」

 のどに当てられた、ひんやりした感触に冷や汗を浮かべながら、聞く。

「やだなぁ。それじゃまるで、私が君のことをいままさに殺そうとしているみたいじゃないか」

「ちがうのか?」

「ちゃんと遺言しゃべるまでは待っててあげるよ。私は寛大だから」

「あ、あはははははは……」

 ごつん、と背後でにぶい音がして、のどの感触が消える。

「ライ、死んでない?」

「ん。おおむね間に合った」

 見下ろすと、だいたい20代前半と思われる背の高い女が、こめかみのあたりを抑えてうずくまっていた。

「うう~、痛いよぉ~」

 かなり手加減なしでぶん殴られたらしい。女は、涙目でほおを押さえながら、

「ぶったぁ~、サリが本気でぶったぁ~」

「……センエイ、自業自得」

 サリの言葉は鋼のように冷たい。

 センエイと呼ばれた女は、情けない顔で俺のほうを見ると、

「私はただ、潜在的なライバルをひとり減らしておこうと思っただけなのにぃ……」

「……なあ、サリ」

「なに?」

 俺はため息をつきながら、

「身の危険を感じるから、帰っていいか?」

「だめ」

「だめ、ったってなぁ……」

 センエイを指差す。

「こんなのが徘徊しているところ、ぜったい近寄りたくないんだが」

「失敬だな君は。私を指示語で呼ぶのはやめたまえ」

「うるさい黙れ馬鹿。おまえには聞いてない」

 きっぱりはっきり言って相手を黙らせ、俺はふたたびサリのほうを向き直る。

「どうしてもって言うなら、せめてこいつを隔離してから参加したいんだけど。それじゃだめか?」

「それもだめ。仲間外れは、よくない」

 言ってサリは、むっとした顔でこちらをにらみつけているセンエイを横目で見て、

「ライはわたしが守る。それではだめ?」

「…………」

 ――なんか、照れる。

「い、行こっか」

「うん」

「サリぃ~、待ってよぉ~」

 怪しい声を上げながら追ってくるストーカーは放っておいて、俺たちは馬車の入り口に向かった。



「……うわ」

 馬車のなかは外観から想像していたよりは広く、そして想像以上にとんでもなく散らかっていた。

(うげぇ……足の踏み場、ないじゃんかよ)

 というか、このべたべたと床に貼ってある大量の護符はなんだろう。

 天井にも、床にも大量に貼ってある。……厄除け?

 けど、魔人がタタリを恐れるなんて聞いたこともない。

(うう……なんか、酔いそうだ。この光景)

 気分転換に外を見よう……と思ったら、窓のところをツタが覆ってて、これはこれで気持ち悪い。

 と。そこで気づいた。

 馬車のなかの全員が、こちらを見て沈黙している。

 ……すごく気まずい。

(と、ともかくしゃべらないと――)

「え、えーっと、」

「あー!」

「…………」

 思いっきり、出鼻をくじかれた。

 出鼻をくじいてくれたストーカー女ことセンエイは、正面の大男をにらみつけて、

「こらバグルル、私の鋼呪帯を踏むなと前にも言っただろーが!?」

「おー、来やがったか、新しいの!」

「ひとの話を聞けー!」

「ちょい待て、新入りが来るなんて聞いてねーぞ俺は!」

「あたしもあたしもー!」

「さんかく~☆」

「ちょ、ちょっとみんな落ち着いて……」

「ふっほっほっほっほ! こりゃあまた、おいしそうな少年ですなあ!」

「あーそうかい。そういや腹減ったな。ここの飯少ないよ絶対」

「日々忍耐です」

「だからちょっとてめーら俺の話を――」

「とっつげきリポート! ねえねえ兄ちゃん、ちょっと聞きたいことが――きゃんっ!?」

「がっはっはっは! まーそんなところに突っ立ってねーで入れ、新入り」

「なにてめーが仕切ってんだ、バグルル」

「こ、この野郎! おい貴様、いい加減シカト続けられるとこっちも我慢の限界ってものがだな――」

「ひしがたひしひし♪」

「ああそのあの、ちょっとみなさん聞いてる? その、」

「こらペイ、あんたいま、あたしのこと蹴っ飛ばしたでしょ!?」

「聞けっつってんだろこのくそバカ野郎どもが!」

 ばんっ! と、音を立てて天井の護符がいっせいに吹っ飛んだ。

「煩い」

「「「「「「「「ごめんなさい」」」」」」」」

 サリの冷え切った言葉に、全員の声が唱和する。

「……すさんだ職場だ」

 俺は、天を仰いでそうつぶやいた。



 とりあえずお互いに自己紹介をつつがなく終えて、全員がその場に座り込んだ。

(えーと、男から順に、大男がバグルル、ダウナーなガキがコゴネル、太っちょがテン、その弟子の口の悪い痩せた男がペイ。

 女は、なに言ってるかわからん森小人がハルカ、チビがマイマイ。あと、よくわからんちっこいのがミーチャ、と。全部覚えたぞ)

 全員の顔を見回したところで、シンが口を開いた。

「じゃあ、打ち合わせをはじめよう。まずは、例の魔物事件の続報についてだけど」

「バンイン回廊が使えないっつー話か。どうなった?」

「待ちたまえ、ペイ。今回は新入りがいるのだから、まずは議題を説明することからはじめるべきだろう」

「あん? 面倒だな。センエイ、言うからにはテメエがやれよ」

「冗談。こういうのはシンの領分だろ」

 センエイが肩をすくめた。

 一方で、大男のバグルルは頭を乱暴にかきむしりながら、

「おいおい。説明なんざ前もって聞いておけよ。というわけで、聞いてなかった新入りが悪い。パスだな」

「だからなんでてめーが仕切ってるんだよ、バグルル?」

「うるせえ! なんか文句あんのかよ、コゴネル!?」

「べつに。おまえみたいな脳味噌のない奴が嫌いなだけ」

「んだとコラ……いてっ。な、なにすんだよ、ミーチャ」

「さんかく☆」

「あ?」

「さんかく~☆」

「……なあ、センエイ。なにが言いたいんだ、こいつ?」

「君のだみ声が耳障りなんだろうさ。放っておきたまえ。シン、続きを」

「はいはい。えーと、ここから一時間くらい先にバンイン回廊というトンネルがあるんだけど」

 シンが俺に地図を見せながら言う。

「ああ。それで?」

「そこの奥のほうから、魔物があり得ないほど大量に出てきているので、通るのはちょっと危険かな、と」

「……それは、ものすごい異常事態なんじゃないか?」

「そう? べつに、日常茶飯事だと思うけどー?」

 と言ったのは、ちびっこのマイマイである。

 横のふとっちょ、テンがたしなめるように、

「それは、マイマイが魔女だから、いつも魔物と遭遇しているだけのことではありませんか?」

「えー? でも、あたしがバンイン回廊を通ったときは、だいたいいつでもすごい数の魔物がいるよ?」

「おまえ、そもそも一回しかあそこ通ってねーじゃんかよ」

「もー、細かいこと突っ込まないでよね、ペイ」

「まあともかく、多くの人には日常茶飯事ではないですよ。我々にはともかく、ね」

 言ったテンに、ハルカが口を開いた。

「ドクトル・テンは、この事態をどう考えておいでです?」

「わたしですか? まあ、なかなかおいしそうだとは考えておりますが」

「風情がありますねえ……」

「ほっほっほ。それほどでも」

「……なあ、センエイ。テンとハルカがどんな高高度なコミュニケーションを取り合っているのか、おまえわかるか?」

「無茶は言わないでくれたまえ、コゴネル。テンならともかく、ハルカの言動を解説なんて、私にできるわけないだろ」

「ああ、たしかに愚問だった。忘れてくれ」

「で、どうするんだよ?」

 とりあえず、このままだといつまで経っても話が終わらなそうだったので、強引に割り込んでみる。

「まあ、そういうわけで迂回路を探していたんだけど、そのために遠出していた仲間からの連絡がようやくきたわけで」

「トゥトからか?」

「他の誰からだってんだよ、ばかバグルル」

「……殺すぞ、ガキ?」

「はいはい、ケンカなら外でやるように。

 トゥトは、なんと?」

「まるまる??」

「迂回路を発見したのはいいんだけど、途中に岩巨人の集落があるらしいんだ」

「それはまた、困りましたね」

「あん? なんで困るんだよ。テン」

「このあたりの岩巨人は、人間とそれほど友好的な関係にはありませんから。交渉に失敗すれば厄介なことになりますよ」

「まあ、そりゃそうかもしれんが」

 うなるペイに、バグルルが陽気に笑った。

「なに、いざとなりゃあ力ずくで通ればいいだけの話だろ? 問題ないって!」

「嫌よ。疲れるもの」

「即答かよオイ。つれねーな。

 ……まあ、サリに言われなくても、俺だって本気でやろうとは思わねーけどよ」

「へー、そうだったのか? どーせ、また適当なこと言ってるのかと思った」

「うるせえぞコゴネル。いくらなんでも、ンな無鉄砲じゃねーよ。俺ぁ非公認のチンピラじゃねーんだし――いてっ」

 センエイが、バグルルの頭を呪符の束でひっぱたいていた。

「気にしないでもいいのに」

「けじめって奴さ。

 バグルル、サリの前でそういうことを言うのはやめろと言っただろう」

「ああ、そいつぁ無神経だった。わりぃ」

「えーと……展開がわかんないんだけど」

 ぴたり、と周囲の動きが止まった。

「あ……いや、なんでも、」

「わたしは公認魔女でないから、みんなが気を遣ってるだけ」

「サリ! ちょっと……」

「べつに、隠すことじゃないから」

 血相を変えたセンエイに、サリはあくまで冷静に言った。

 公認……と、言われても、

「魔人に、公認なんてあるのか? 俺、そのあたりぜんぜん知らないんだけど」

 言うと、みんながあっけにとられた表情でこっちを見た。

「な、なんだよ……」

「ま、まあ、たしかに普通のひとにはあんまり縁がないかもね……」

「あの資格取るの、けっこう苦労したんだけどなぁ。世の中そんなもんかね。やれやれ」

「なんか、やる気なくなっちまったなぁ。あーあ」

「まあまあ、みなさん落ち着いて。客人がとまどってしまうではないですか」

 言って、テンは事情を説明しはじめた。

「領主が、自らの領地を魔物に荒らされるのを嫌うのはわかりますね?」

「まあ、自分の儲けが減るからな」

「さよう。しかし、神殿との兼ね合い上、正規軍で魔物を取り締まるわけにはいきません。そこで、表向きは領主とは独立した雇い兵をもって、魔物討伐を行う必要があるわけです。

 一方、魔人たちも神殿から敵視されている以上、どこかから保護してもらえなければ危険でして。そういう理由で、たいていの魔人はどこかの領主と『契約』を交わして、活動しているわけですよ」

「それが、“公認”ってことなのか?」

「正確には、王と『契約』した人間を“公認”と呼ぶのですがね」

 そこで、テンはセンエイのほうをちらっと見て、大げさに咳払いをしてから、

「一般論を言えば、試験を経て『契約』を結んだ“公認”魔人のほうが、そうでないよりも信頼できる場合が多いですね」

「例外もいるがな」

 なぜか偉そうに言って、センエイはぽんとサリの肩をたたいた。

 なんとなく、わかった。が、疑問はまだ残っていた。

「なんで、サリはその資格、取らないんだ?」

 サリ、十分強いのに。

 サリは、なんだか憮然とした様子で、

「字、読めないから」

「頭悪いのか」

 ぽかりっ。と、センエイに殴られた。

「なんであんたが殴るんだっ」

「ふん、あたりまえだろうっ」

「あはは。まあ、サリは有名だからね。苦労して公認魔女にならなくても職には困らないし、いいんじゃない?」

 とりなすように、シンが言った。

 そこでコゴネルがぱん、と手を鳴らして、

「それで、そろそろ話を戻そう。トゥトの奴は、なんて?」

「ああ、そうそう。その岩巨人の集落と掛け合ってみるって。だから、もう少しそこで待っていてくれ、だって」

「え、それじゃ、出発は見送り?」

 シンの言葉にマイマイが反応した。

「うん。そうなるね。しばらく休憩だ」

「やったーっ!」

「なにがそんなに嬉しいのか知りませんが、よかったですね、マイマイ」

「うん! このあたり、雰囲気が明るいから気に入ってたの!」

「そうかい。君は幸せだな……」

「なんだよ? 妙に暗いな、センエイ」

「開けた場所は苦手だ。早く森のなかに入りたかった……」

「静謐なる森はすべてを浄化してくださいます」

「いや、べつに浄化されたいわけじゃないんだがな、ハルカ」

「あー、ちょっといいかい? その、見回りのローテーションについて、いまのうちに決めておきたいんだけど――」

「面倒だな。俺パス」

「コゴネル、態度悪いっ」

「……態度悪い」

「さんかく~☆」

「な、なんだよ……」

「まあまあ、ここはひとつこのバグルル様に免じて」

「おまえの恩を受けるのは死んでも嫌だ」

「なんだとてめえ!」

「難儀しそうだな、これは」

「……だね」

 言って、シンは苦笑した。

簡単に新キャラたちの紹介:

1)バグルル:筋肉だるま。大剣使い。荒っぽい。

2)コゴネル:バグルルの息子。反抗期。ダウナー。

3)テン:発明家。グルメ。

4)ペイ:テンの弟子。未熟者。

5)ミーチャ:謎生物。さんかく~☆

6)マイマイ:お子さま。実は二日目のキーパーソン。

7)センエイ:変態。サリ大好き。

8)ハルカ:森小人。なに言ってるかわからない。

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