二十一日目(3):決戦! 黄昏の魔王-2
ごぎゃめしがきばりががん!
という、すさまじい音が、前の方から響いてくる。
とんでもない戦闘が行われていることだけは、想像がつくのだが――
「ええい、うっとうしいっ」
「えいやー、金剛一撃斬、改っ!」
「どこ改良したのか言ってみろやオラぁ、ってあぶなっ!」
「ちっ、かわされたか」
舌打ちしたミスフィトと、剣を構え直すプチラ。
このふたりを相手にしているせいで、そちらに注目することすらできないのである。
(おまけに、気がついたらなんか、さっきよりだいぶ後ろに押し込まれてるし!)
「見損なったぜミスフィトのおっさん! あんただけは俺たちを裏切らないって信じてたのに!」
言うと、ミスフィトの耳が少し垂れた。
「……それはギャグで言ってるのか、それとも時間稼ぎか、どっちだ?」
「両方」
「どーでもいいけどなんでミスフィトなのよー。あたしは信じてくれてなかったの?」
「そもそもおまえ誰だったっけ?」
「だからプチラ様だっつってんだろーよ! ちっこいからってナメんなよオイ!」
「あー、そうだそうだ。ちびであることはステータスだ稀少価値だって胸張ってた負け犬だ。思い出した」
「なんか曲解されてるっつーかおまえが言うなちび!」
「なにをーっ!」
「やるかーっ!」
ガキの喧嘩をしつつも、俺はミスフィトから視線を外さない。
ちょっと油断するとこいつは幻像とすり替わって奇襲をしかけてくるのだ。油断できない。
味方の増援があればいいのだが、他の連中にもべつの奴が向かっている気配がする。増援は頼れない。
「ていや隙あり! 金剛一撃斬零式ー!」
「えーいもう面倒くせえ!」
相も変わらず大味なプチラの一撃を光剣で受けて、
「あ、あれ?」
ぐらりと身体が倒れかかって、あわてて踏みとどまった。
「おーし効いてきたよミスフィト! 金剛蛇の呪い、見たか!」
「神をも蝕む蛇毒の呪いだ。
悪いな小僧。こちらの呪毒に対策できなかったおまえの負けだ。ここから先は――もう、足は利かねえぞ?」
「あ、うあ、くそっ……!」
やっべえ大ピンチ。
「うっしゃあ思い知らせてやる! ほーれ一撃!」
「うお!?」
がつん、と先ほどまでとは比べものにならないほど重くなった(と感じる)一撃を、かろうじて受け止める。
だが、足がからまった。
「わ、たっ……!」
「そりゃそりゃー! 死んじゃえー!」
ぶん、と横から一撃。
あー、こりゃ死んだわ。とわりと気楽に考えて、
(ライ、危ない!)
「っと!」
次の瞬間、避けていた。
……あれ?
きつねにつままれた感じで、足下を見やる。
相変わらず、重くて苦しい。
だが、その重さとは比較にならないほどの速度で、確かに俺の身体が動いて――
「いいいいい、いったーい! なにこれ、なんなのこの矢!?」
「……あれ?」
見ると、プチラが肩に刺さった矢に文句を言っていた。
いや、刺さっているように見えるだけで、実際には血が出てるわけでもないのだが。不思議パワーかなにかで防いだのだろう。たぶん。
とはいえ。この距離で俺に干渉できて、かつ矢を撃てる奴、といえば。
「……リッサか!」
(できたよライ! 召喚請願を使っての精密高速移動! 回避と援護射撃はこっちでやるから、ライは攻撃専念!)
「わかった!」
「させるか!」
がきぃ! と俺の光の刃がプチラの目の前で、ミスフィトの拳に阻まれて止まる。
が、次の瞬間、舌打ちをしてミスフィトが下がる。下がったところに、即座に矢がびゅん! と飛んできた。
「よっしゃ、次だ!」
「こんの、なめんなちびすけー!」
がっきぃ! と、プチラの金剛殺しと、俺の光剣がつばぜり合う。
俺より背が低いプチラを、上から俺が押さえ込んでいる状況。リッサから見ると、俺の身体がプチラをかばっている状態だ。
(その態勢じゃダメだよライ! どいて!)
(違う、逆にチャンスだ! このまま撃って、ギリギリで俺を横に移動!)
(けっこう難しいこと言うよね!)
言いながらも、リッサはこちらの狙いを了解したらしい。
リッサからプチラが見えないように、いまはプチラからもリッサが見えないのだ。
(行け!)
(ああもう、仕方ないなあ!)
矢が放たれる。
まだ、もうちょっと、いま!
(動かせ!)
(おっけー!)
ほとんど瞬間移動みたいな速度で、俺の身体が横にずれる。
「? ――わわっ!?」
ぎぃん! と、プチラの刃に当たった矢が四散して砕けた。
「うおおあぶねーっ! いま防げてなかったら内臓行ってたよこれ! あたしすげえ!」
「ってマジかよー!?」
「プチラ、限界だ! 退くぞ!」
「あ、はーい退く退く! プチラ様しっぽ巻いて逃げるの大好き!」
「こら待てやちびすけ! 形勢不利になったからって逃げんな!」
「へっへーんそんな挑発には乗らないよーだ! あと今度会ったら殺す!」
叫んで、プチラとミスフィトはその場を去って行った。
同時に、ずずずずず……と、魔王が後退を始める。
「……あれ?」
見ると、前の方の戦闘も終わっていて、サリたちがこちらに近寄ってきていた。
コーイが、口を開いた。
「敵が逃げ始めましたな。仕切り直し、というところでしょうか」
「そうみたいだな。けど、なにがあったんだか……」
「目的を果たしたからでしょうな」
「目的?」
コーイはうなずいて、
「時間稼ぎです。
聖戦士宣言の効果時間はあとわずか。これでは我々も、いったん退かざるを得ません」
「……そうか。はじめからそれが目的だったか」
俺は歯をくいしばった。
サリはそんな俺を、ちらりと一瞥して、
「とにかく、いったん退きましょう。ライのその呪いは深刻ではないけど、解いておくに越したことはないし。
幸い、相手が退いた以上、作戦会議の余裕くらいはある。仕切り直しの休憩時間、有効に使いましょう」
と言った。
そして訪れた、貴重な休憩時間。
いま、会議室にはコゴネル、カシル、コーイ、ドッソ、俺がいる。この五名で、今後の善後策を考えるという話だった。
コゴネルがぱん、と手を打ち合わせた。
「それじゃあ、会議を始めよう」
「現在の状況は?」
と、ドッソ。
問われたのが俺だと気づいたので、やぐらの上のリッサから視覚をもらう。
「動いてねえな。魔物たちも含めて、いったん撤退したらしい」
「こちらとしてもありがたい。いい加減、弓隊への矢の補給もとどこおりがちだったところだ。落ち着いて補給できる」
と、カシル。
俺は気になって、尋ねてみた。
「物資の蓄えは大丈夫なのか?」
「ああ。騎士どもが置き去りにしていったものが、大量にある。そして管理はサフィート殿に任せてあるから、心配はない」
「……そりゃ、安心だな」
なにしろあのがめつさである。ねずみにかじられる心配もないくらい、徹底して管理してくれるだろう。
コーイは考え込みながら、
「聖戦士宣言は少し休めばすぐにできるようになります。ですが……」
「いまみたいに、魔王本体に届く前に邪魔が入るのはまずい、か。なんとかならないものかな」
コゴネルの言葉に、むう、と全員が沈黙する。
たしかに、これは難問である。これまでアテにしていた戦法が、封じられてしまったのだ。
「そうだ。「宣言」のタイミングをずらして、先に近づいてから「宣言」すれば……」
「無理だよ、ライ」
「え、なんでだよ? コゴネル」
「イェルムンガルド外殻を処理できない。相手に近づく前にこっちの兵士が挽き潰されてしまう」
「そっか……」
「ならば必要なのは、「宣言」してから実際に戦うまでの時間の短縮、ですか……ふむ」
ドッソはしばらく考え込んで、
「ライナー殿をカタパルトで射出するというのはいかがでしょう」
「待て」
「なにか」
「それ、俺の安全は計算してる?」
「……ふむ、考えてもいませんでした。確かに」
「頼むから考えてくれよ……」
このデカブツ、どうにも身体の頑丈さを自分基準で考えてるところがある。
「いや、待て。いまの案はなかなか面白い」
「って、テメエもかコゴネル!」
「ああ、いや、そのまま使うわけじゃねぇんだが。ライ、さっき、ポエニデッタ神官の召喚誓願を利用して、相手の目の前で高速移動したって言ったな?」
「あ、ああ。それはそうだけど……」
「それで行こう。敵陣のまっただなかに召喚してもらえばいい」
「それ、俺は安全なのか?」
プロムの説明といい、あの技術ってなんか不安で多用したくないんだけど。
コゴネルは肩をすくめて、
「俺は知らねえよ。現状、召喚誓願なんて使えるのはおまえらだけなんだから、実験してみるしかないだろ」
「実験って、なにを」
「そうだな。とりあえずこの会議室の端に立って、もう片方の端に召喚してもらったらどうだ? その感触次第だな」
「よ、よし」
言われるままに端に立つ。
(じゃリッサ、そういうわけなんでちょっとやってみてくれ)
(う、うん。わかった)
答えて、リッサが精神を集中させていく。
――と。
「う! わわわわわわーーーーーーっ!?」
ごかどがごきぼしゃごくぼけがきごごぐこかぐかぐがげきっ!
(ライ、大丈夫!? な、なんかすごい音が建物の外まで聞こえたけど!)
(お、俺は大丈夫だけど……)
すごい惨状だった。
召喚前にいた場所から、いま立っている場所まで。その間にあった机がぜんぶ、跳ね飛ばされてひっくり返っている。
(プロムにも言われてはいたけれど……こういうモノなのか)
ていうか改めて思うが、召喚ってふつう、もっとスマートなものじゃないのか。ワープとかそういうの。
コゴネルが結果を見て、
「すげえ。見事だライ」
「なにがだ!?」
「これだけ押しのけておまえが無傷ってのは、たぶん神話的な力で守られているってことだろう。うん、都合がいい」
「これなら、わざわざ最後の詰めだけで使う必要もないでしょう。通常兵器として十分利用できますな」
「ではライナー砲と名付けましょう」
「オーケー。最終戦までは封印な」
「「「なぜにっ!?」」」
「やかましい! こんなん、日常的にやってたら俺が保たんわい!」
ノリノリでしゃべっていたコゴネル、ドッソ、コーイを一喝する。
ていうか、どの程度までなら俺が無事なのかもわからないものを濫用しないでいただきたい。
「く、やむを得ん。ともかく魔王に到達する方法は確保したんだ。今回はそれでよしとしよう」
「ライナー砲……ぷ、くくく」
「笑うなカシルーっ!」
……こうして。
我々は、ついに切り札となる超兵器を開発したのだっ。
しくしくしくしく……
【ライナー砲について:補足】
本来なら、召喚請願能力というのはこういう能力じゃありません。もっとスマートに移動できます。
ライナー砲があんな移動方法である理由は、ひとえにライナーに「空間転移」という技術についての知識がないからです。ライナーの思いつく範囲の移動方法で、最も自然なものを選択した結果としてああいう移動になっているわけです。
【もうひとつ補足】
このタイミングで、なぜ敵が退いていったのか? については、実はこの後もあまり書かれないのでここに書いておきます。
簡単に言うと、フレイアの力不足です。
あれはあれで強大な魔術師ですが、さすがに彼女とヴォルドだけで、サリ+ドッソ+コーイという、世界最強レベルの戦士3名を相手にはできません。時間稼ぎが限界でした。
なので、限界ギリギリまで粘って、撤退するしか相手には選択肢がなかったのです。




