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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
十四日目~二十一日目:悪党、聖地を守る
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十四日目(2):悪党、誓いの頭突きをする

 朝、プロムの家にて。

「要するにですね。陸路からトマニオに入るのは、さすがにおすすめしないということなのですよ」

 地図を広げて、プロムが説明した。

 大陸西部の情報が大量に詰まった古地図だ。たぶん栄光の時代(ブランクス)のものだろうが、ものすごく精巧に作られている。

 そしてその地図を見ることで、俺は初めていま旅しているあたりがどのあたりなのかを知ることができた……のだが。

(俺の故郷、この地図に載ってねえぞ)

 そんなに小さな街ではないと思っていたのだが、書かれている様子が見当たらない。

 まあ、そもそも字がほとんど読めないので、どこがどこだかもわからないのだが。でもヴァントフォルンとか、ファトキアはさすがにわかる。書かれてる字の大きさが違う。

 俺たちが旅してきた道は、この地図の中だと中央北よりの、ほんのちょっとの区間でしかなかった。

「世界って、広いんだなー」

「ライ。ちょっと会話に集中して」

「お、おう」

 リッサに怒られ、あわてて集中力を取り戻す。

 聖地トマニオは、地図の南東のほうにある。ファトキアから南にある内海――地図には「我らの海」と書かれている海、いまの言葉では「白の海」と呼ばれる場所の、ちょうど東端にある街だ。

 街の東側にはすぐ山脈が広がっていて、通行を妨げている。

 自然、陸路から行こうとするとルートは、北か南に限られる。

 そしておそらく、敵は北側からそのルートを通行中。おそらくは、トマニオ北にあるメギド砦で戦闘があるだろうが――

「その戦闘に間に合わせるために、えっちらおっちら歩いていたら間に合いませんよ。それに、魔王の影響で魔物も増えてますし、安全な経路がありません」

 というのが、プロムの説明なのだった。

「とすると、海路か?」

 俺が聞くと、プロムはむー、と眉を寄せた。

「難しいでしょうねー。船は知り合いに頼めば手に入りますが、ここからだと大陸を迂回していかなければなりませんし。

 ファトキア付近からなら近いですけど、そのためにはやっぱり陸路でファトキアに行く時間がかかりますし、私のコネも使えないので船を出してもらうのも一苦労でしょうね」

「んー、じゃあ……」

「空路、という手も、ありますけどねー」

「空路?」

「ええ。ここの厩舎につながれている暗黒天馬クレイジー・カタストロフちゃんをですねー」

「その名前聞いて空路選択する人間がいるのかコラ」

「ははは臆したか。まあ無理もなかろうよ。貴様ごときが、天馬などという畏れ多いモノに乗れる道理も無し」

「スライデンー? あなたもたしか乗るのをかたくなに拒否ってましたよねー?」

「話を進めましょうプロム様。空路も駄目だとなれば、もはや手は皆無と思いますが」

 ずばっと姿勢を整えて言うスライデン。

 ……なんか、この主従のやりとりにも慣れてきたなぁ。

「そうですね。ともかく、まともなやり方でトマニオに近づくのは難しい、ということです」

「となると……旅立ちの門、ですか」

「旅立ちの門?」

 スライデンの言葉に、聞き返す。

 なんか、そんな言葉を前に聞いた気がするんだけど。

「なんだっけ、旅立ちの門って」

 リッサに尋ねると、

「テンさんが前に言ってたでしょ。聖典世界への通路よ。

 ……現存しているものを見るのは、ボクも初めてだけど」

「ええ、まあここは骨董品の保管庫みたいなものですから。

 正典第二領域、無の砂漠(イメンス・サハラ)への直通門です。時間が歪むので通るときに数日経過しますが、そこから一時間足らずで無限図書館(タームレス・レコーズ)にたどり着けますから――」

「なるほど。聖典世界の正門からなら、即座にトマニオに出られる!」

 リッサの言葉に、プロムがうなずいた。

「そういうことです。たぶんこれが最短で、しかもいちばん楽に聖地にたどり着く道でしょう。

 砂漠の地図も用意してあります。無の砂漠(イメンス・サハラ)の気候は厳しいですが、一時間程度ならどうとでもなります」

 それでも砂避けの布くらいは持っていったほうがいいでしょうけど、とプロムは言った。

「なら、一刻も早くそれを使って移動しましょう!」

「待って下さい。最後に、もうひとつだけ」

「え?」

「リクサンデラ。あなた、祭神を替える気はありませんか?」

 言われて、リッサは首をかしげた。

「祭神替え……って、プロム様にですか?」

「いいえ。ライナーにです」

「へ? ――え、えっえええええええ!?」

「……?」

「あら、嫌ですか?」

「い、嫌っていうかなんていうか、え、でも、その、」

「生きている神の専属神官ですよー。しかも初回だから、確実に祭司の資格をゲットです。お得ですよー?」

 ふふふと邪悪な笑みのプロムに、動揺しまくっているリッサ。

「ら、ライぃぃ。どど、どうしよう」

「いや、俺に聞かれてもなにがなにやら」

「ふふふ簡単ですよライナー。彼女はこれからあなたに身も心も捧げて尽くすのです」

「や、やらしい言い回ししないでくださいっ! 単なる祭神替えの話でしょう!?」

「えー、でも関係が発展するのは時間の問題のような気がするんですけどー」

「っっっっっっっっっっ!!!!!!!」

「楽しそうだなー、おまえら」

「楽しくないのっ! ていうか、ひとごとみたいに言わないっ!」

「わわ、わかったから襟ひっつかんでかっくんかっくんするのはやめろぉ!」

 というか、なんのことかわからないことで振り回されても困る。

「えー、悪くないと思うんだけどなー。戦力的には超アップするし」

「う……で、でも! そもそも、どうやって祭神替えなんかするんですか。あれってたしか法皇様の許可が必要だし――」

「いらないです。ここに現役の大巨人がいますし」

「うあ」

 奇声を上げてリッサが沈黙する。

 ……結局、話の流れはわからなかったが。

「つまり、リッサの祭神……とかいうのを、俺にしようって話か?」

「はい。そうですよー」

「で、そうした後、リッサがやめようとしたらやめられるのか。それ」

「まあ、ライナーが許可すれば、いつでも」

「ならいいじゃん。リッサが後でやめたくなったらやめればいいし」

「い、いや、そういうものじゃないと思うんだけどなぁ……祭神って」

「少なくとも俺はそういうモンってことにしとく。それでいいだろ? リッサが気に入らなくなったら、飛び出せばいい」

 リッサは深く沈黙。

 その彼女に、俺は手を差し出した。

「ライ……?」

「悪いなリッサ。俺はこんな奴だから、結局そういう付き合い方しかできないと思う。

 気に入らなくなったら、この戦いの後にやめればいい。とりあえず、戦いの間だけでも手助けしてくれないか」

「――バカ」

「ふふふ見ましたかスライデン。この初々しさ! いやーもう堪らないって感じ?」

「時間が経てば経つほど戦況は不利になるかと思いますが。プロム様」

「おっと、そうでした。ではふたりとも、ちょっとこちらへ」

 手招きするプロムのほうへ移動する俺とリッサ。

「じゃ、ふたりとも私の手を取って」

「こうか?」

「…………」

「では。過去を司る大巨人プロムの名において、ふたりの祭神契約の儀を執り行いますよんっと」

「態度が軽すぎます、プロム様」

「えー、ライナー。あなたは病めるときも健やかなるときも彼女を愛し、共に生きようと……」

「それは結婚式です。プロム様」

「スライデンのケチ。あー、ともかく彼女を神官とすることを誓いますか?」

「なんだか不安だが……OKと言っておく」

「ではリクサンデラ。あなたは病めるときも健やかなるときも……」

「いや、そのボケはもういいから」

「ううう。しかたないちょっと短縮して、彼を祭神とすることを誓いますか?」

「は、はい」

「では誓いのキスでごー!」

「え、えええええ!?」

「ちょ、ちょっと待てやコラ! 聞いてねえぞ!」

「ふふふー抵抗しても無駄ですよふたりとも。誓うと言った時点で私の神的支配力は超☆浸透済みですから」

「な、に!? って、こら、か、身体が勝手に――!」

「あーーーーーー!」

 ごちんっ!

「ごがっ!?」

「きゃん!?」

 二人して頭をぶつけてひっくり返る。

「ありゃ? もしかしてかわされました?」

「すげえ痛かったけどなちくしょう! 覚えてろよテメエ!」

 頭を押さえながら、俺はプロムに言った。

 と、ゆらぁりと後ろから嫌な気配が。

「ライ……いまのはどういうこと?」

「お、落ち着けリッサ。ていうか強制キスをとっさに頭突きに変換して貞操を守った俺の瞬時の判断をもうちょっと褒めてもよくない?」

「そこまでして避けられるとそれはそれで傷つくよっ! おまけに、なに乙女の顔面に頭突きかましてくれんのよ!」

「ぐあっ!? ちょっとちょっとリッサさん超痛いからすね蹴らないで!」

 げしげしと蹴り飛ばされて、俺は悲鳴を上げた。

「まあまあ二人とも、そのへんにしてくださいよー。ほら、この大巨人プロムの顔に免じて」

「いや、おまえが全部の元凶なんだがな……」

(そこはちょっと同意だよね……)

「……ん?」

 いま、へんな声が聞こえたような……?

「あれ、ライ――?」

「おや?」

「あら、さっそく念話ですか? ふたりとも」

 プロムが言う。

「念話って――」

「ええ。言葉にしなくても祭神と会話できる、祭司の特権のひとつです。

 まあ、慣れてないと、不用意に思ったこと全部だだ漏れということになりかねませんけど」

「げ、それって」

「――ライー? いま、えらく不穏当な言葉の数々がこっちの脳裏をかすめたんだけどー?」

「ききき気のせいだろ気のせい。あはははははははは」

 反射的に浮かんだ様々なNGワードを隠して、俺はひきつった笑い声を上げた。

 つーか、そういう心臓に悪い特徴は早めに教えてください、プロムさん。

「他に特権ってなにかあるのか?」

「そうですねー。基本的にはリクサンデラがライナーの力の一部を呼び出して行使できることでしょうか。あ、あと召喚誓願ですかね」

「祭神を呼び出す術ですね」

「ええ。リクサンデラが呼び、ライナーが応じればいつでも、ライナーはリクサンデラの望む場所に呼び出されます。物理的制約とか関係なしに。

 城壁の向こうから呼べば城壁を打ち壊して、地底の底から呼べば岩盤を破砕してやってきますから」

「待て」

「はい?」

 にこにこ笑顔で説明するプロムに割り込む。

「……すっっっっごく不安なんだが。それ、俺は無事なんだろうな?」

「さあ? 私、召喚に応じたことないですからわかりませんね」

「よくわかった。リッサ、その能力は封印な」

「う、うん……」

「えー、便利なのに」

「俺にとってはちっとも便利じゃないわい!」

「ま、そのあたりは個々にあなたたちで調節してくださいな。

 そろそろ、行きましょう? 準備はできていますから」

 言って、プロムは先導して歩き出した。

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