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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
十一日目:悪党、戦争に巻き込まれる
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十一日目(4):悪党、頭を抱える

「――ほう」

 それまでがむしゃらに走ってた足が、止まる。

 大きな空洞。

 前にもここに来たことがある。

 もう6日も前。奴の本性が暴かれ、その野望がついえた地。

 その場所に――性懲りもなくまたこいつがいるというのは、また皮肉なものだ。

「ひ!? な、わ、なんだああ!?」

「貴様だったか、チリギリ・カミルヘイム。

 そうだな。目撃者をすべて消して宝器だけ持ち帰れば、後の言い訳はどうとでもなる。甘い判断だが、貴様ならそんなことを企てても、おかしくはない」

「か、カシル・ヴァロックサイト……! なぜだ、なぜここにいる!? 貴様は我が狼の侵攻を集落の前で食い止めているはずで、」

「ああ、それか。なんだか狼の主力は北側にいるようなので、そちらに兵を割こうと思ってな。しかしそのまま行くのも芸がないと思って――」

 ひょい、と肩をすくめる。

「こう、防御に必要な最低限の兵だけを残して、正面を突破してから大きく迂回して狼どもの背後に回ろうとしたのだがな。それで、ここに来た」

「ば、馬鹿な……!」

「この際だ。これ以上ややこしくされるのもなんだし、悪いがここで貴様には死んでもらおう」

 じゃきっ、と剣を構える。

「き、貴様あ! 雇い主を裏切った上に、手に掛ける気か!?」

「ああ、それか。悪いが雇い主はもう替わったんでね。昨日の味方は場合によっては今日の敵。傭兵の掟だ。あきらめろ」

「ひ、た、助け……!」

「死ね!」

 踏み込んで一撃。

 ――ぢぃんっ!

「な……にっ!?」

「悪くない。未熟だが澄んだ一撃だ。女戦士」

 その、男は。

 まるで空間からにじみ出たように、その場に現れていた。

「驚いたな。上司がこれだから甘く見ていたが、意外なことに部下は一流の戦士だ。嬉しいぞ、岩巨人」

「貴様、バルメイスか!」

「然り。

 そういうおまえの名はなんだ。戦士の礼として聞こう」

「名はカシル。家名はヴァロックサイトだ」

「ヴァロックサイトか。心した」

「心するがよい。そして、そのまま死んでもらう。

 生きて抜けられると思うなよ、戦神!」

 がしゃがしゃがしゃ、と周囲の兵達が一斉に槍を向ける。

 バルメイスはそれを見て、心底愉快そうに笑った。

「なにがおかしい!」

「魔法使いめ。逃げたと思えば、おびき出されたのは俺の方ということか。つくづく、油断ならん相手だった。

 それに貴様らも、よく準備している。あらかじめ魔法使いどもに命じて精霊の加護を武器に仕込んだか。確かに、神格の加護は精霊相手には効果薄だ」

「――見抜いたか」

「見抜かぬはずもない。

 周到な準備の礼として、本来ならば相手をしてやりたいところだが……」

「待て! 逃げるな!」

 がきぃ、と空間に剣が止まる。

「!?」

「ちと、数が多すぎてな。貴様ら程度の格の相手に我が神威(カムイ)を披露するのも不愉快だ。ここはひとつ、こやつに相手をしてもらおう」

 空間からうなり声が聞こえる。

 それはやがて、うっすらと形を成し、白銀のたてがみを持つ大きな獣として顕現した。

「光狼……ではない! なんだ、これは!」

「ふふふ、見切ったか。

 気を付けろ若きヴァロックサイトよ。それは妖精のように見えるがな、れっきとした魔王(・・)の一種だ」

「な、にぃ――!?」

「楽しんで遊んでこい。……では、この男は預かっていく」

「くそ、待て! 取って返せ、卑怯者!」

 声はむなしく、空洞に響くだけで。

 そして、獣が牙を剥いて吼えた。



-------------------------



「帰ってきたよー」

「おー。ご苦労さん。リッサ、それにハルカ」

「ごくろうさまーっ」

「ごくろうさまですー」

「ひしひし♪」

「あ、あはは……どうも、ごくろうさまでした」

 岩巨人の里の中。

 どうも神や大巨人にとっては、神力の高い生き物は目印になるらしく、俺やキスイは目立って仕方がないそうだ。

 だから、マイマイとミーチャ(あとグリート)を念のためにこちらに残しつつ、非戦闘員が避難する間は囮として里の奥にいるようにと言われていたのだが。

「残りのみんなはどうした? リッサ」

「後片付けしながらこっちに向かってる。

 そのうち来ると思うけど……敵を警戒しながらだから、遅くなるかも」

「そうか。……その様子だと、かなり激しい戦闘があったみたいだな」

「まあね。途中までは危なかったよー。

 なんか、敵の本陣をカシルさんが突いたおかげで、あわてて退却していったみたいだけどさ」

 という結果を見るに、あまり有効には働いていなかったらしい。

「こちらの打撃は思ったより深刻です、少年」

「……いや、深刻なのはわかったけどさ。ハルカ」

「なにか?」

「その、獣はなんだ?」

 ハルカの身の丈を軽く超える巨大な六足有翼の獣を見て、言う。

「飛雲蜘蛛と言います。高名な召喚獣です」

「……こっちまで持ってきたのかよ」

「消すと再召喚は無理ですから。もう少しは戦えるので、出したままにしておきます」

 疲労した顔で言う。

「召喚まで使ってしまうとは思いませんでした。切り札を使った以上、だいぶ追い込まれた状況です」

「うーん、そうかあ。どっかしら、計画を変更するべきなのかな?」

「それは不可能だと思いますが――時に。センエイはどこに?」

「え?」

 言われてみれば、だいぶ前から姿を見ていない。

「さあ。どこいったんだろう、あいつ」

「そうですか。

 いない以上、どこかで戦ってでもいるのでしょうかね」

「一人で?」

「彼女はいつも一人です」

「無茶なヤツだな……」

「アレは無茶の塊ですから。今更止めても仕方がありません。

 それより少年。準備は整っていますか?」

「え? いや、行けることは行けるけど、次はキスイじゃないのか?」

「その予定でしたが、変更します。この分だと二人を分けてもア・キスイが狙われるだけですから。

 それよりは、あなたが移動しつつ囮になり、その間にべつの道からア・キスイに避難して頂くのが妥当かと」

 ――要するに。相手に標的にされそうなのは、このふたりなのだ。

 だから次からが本当の戦い。

 相手がなにを狙っているのかはわからないが、おそらくその大きな目標のひとつは、俺の首だろう。

 故に。俺を移動させて相手をおびき寄せ、そこで決着する。

 本来ならば最初にキスイを避難させておきたかったのだが、

「わたしがいれば、狙われる可能性は上がりますから。戦えないひとの避難を優先しましょう」

 という言葉によって、それは見送られたのだった。

「しかし、避難といっても、どこに行く気だ?」

「ええと、ジロロの知り合いのところだそうです。とっても強いひとだとか」

「……あいつのぉ?」

 すごくうさんくさいんですけど。ていうか逃げたい。とても。

「なんですかその口調。実は信じてませんね?」

「うわ!? い、いつからいたんだテメエ!?」

 ていうか、音もなくハンマー持って後ろに立つのはやめて欲しいですジロロさん。怖いから。

「で、どういうヤツなんだよそいつ」

「ふふん、秘密です」

「おーい。やっぱ作戦変更しようぜ-。うさんくさいし」

「えー」

「なんだよその不満そうな口調は。嫌なら、さっさとそいつの正体を言えばいいだろ」

「むう。まあいいでしょう。ビックリするキスイさまが見られないのは残念ですが」

「この非常事態にそういうことを企むのはやめてください、ジロロ。

 それで、どのような方なのですか。それは」

「ふふん、驚きなさいっ。私のビッグでストロングでデリシャスな知り合い、その人は……!」

「その人は?」

「ずばり、竜母様ですっ」

「待てやコラ」「待ちなさい」

「はい?」

 即座に突っ込んだ俺とキスイに、ジロロはハテナ顔を浮かべた。

「……ナーガか。ナーガだな? あの砂小人モドキの超弱そうな竜母」

「なな、なんてこと言うんですかあなたはっ!? ていうかどうしてナーガラジャさまの名前を?」

 なんてこったい。

 本気で頭を抱えているキスイを横目に、俺はため息をついた。

「あー、ハルカ。本気で作戦変えたほうがいいんじゃないか?」

「却下します」

「えー」

「……というより、代替案などありませんから。その竜母にすべてを賭けるしかないでしょう」

「最悪だな」

「あ、あはは。でも竜母さまですし、きっとあれでも頼りになるんじゃないでしょうか」

「本当にそう思うか? キスイ」

「あ、あは、あははは……」

 いや、笑みがひきつってますよキスイさん。

「大丈夫だって。たぶんなんとかなるなる」

「おまえはそうやって、いつもどうして気楽なんだ? リッサ」

「深く考えてないからじゃない?」

「自分で言うなよ……」

 まあ、でもたぶんそれが正解。

 考えたところで、俺たちにはもう、あんまり多くの手段は残っていないのだ。



-------------------------



「くそ、くそ! なんであんなヤツに……畜生!」

 醜い生き物が、わめいている。

 どうやら、あの女戦士にしてやられたことがよほど悔しいらしい。

(まあ、無理もない。無能の下にいる有能というのは、いつの世も火種だ)

 苦笑する。ならばさっさと処刑してしまえばよいものを、それができないあたりも無能故か。

「貴様も貴様だ! あんな使えるヤツがいるんなら、どうして最初から私によこさなかったのだ!」

(さて、我がそろそろ行動するべき時間になってきたが――)

「なんとか言え、このぉ!」

「ん? ああ、どうした。あまりにくだらないので聞き流していたが、なにかあったのかな」

「き、――」

 岩巨人が立ちすくむ。

 こういう殺気に触れたことがなかったのか。その顔が、みるみる蒼白になっていった。

 ……おそらく、初めて。

 この男は、自分が近づいてはいけないモノに近づいてしまったことを、悟ったのだろう。

「魔王を渡さなかったのは、貴様はその程度で十分仕事ができると思っていたからだ。だが、予想外に無能だったな」

「ああ、あ、あああ、……」

「やむを得ぬ。それはくれてやるからせいぜい必死で足掻け。俺はもう、自分の仕事に戻る」

「ま、待ってくれ! またあいつらが来たら……!」

「その魔王がいれば、自分でどうとでもなるだろう? 甘えるな、愚図めが」

 吐き捨ててその場を去る。

 背後から聞こえる雑音は完全に無視して、心のなかでつぶやいた。

(先の魔女戦で力を使いすぎた。少々時間を置かねばなるまいが――

 その程度で逃げられると思うなよ。下等生物め)



-------------------------



「波状攻撃だ! 相手を休ませるな! 気を抜くと一瞬で呑まれるぞ!」

「カシル様! 右手側よりさらに狼が大量に来ます!」

「……っ、わかった! 予備の二番隊をそっちに当てろ!」

 指示を飛ばしつつ、心の内で舌打ちする。

(あの腐れ外道の神野郎、よりによってこんな化け物を残していきやがって……!)

 おかげで、こっちの作戦はめちゃくちゃである。

 当該化け物の戦闘能力も正気の沙汰とは思えなかったが、それよりも際限なくヤツのまわりに沸いて出る光狼の群れが凄まじい。

 ちょっと気を抜くと、大量の狼たちに囲まれてあっという間に劣勢になる。

 それを防ぐためには攻撃を続けるしかないが、すると前線は魔物本体の攻撃に常にさらされることになる。

 結果として、被害は増すばかり。軍のほとんどをこの場に集中させてようやく保っているというのが現状だった。

 ふと、副官のほうを向き直り、尋ねる。

「ア・キスイは?」

「もうそろそろ、里を出ようという頃合いかと」

「仕方ないか。このままではジリ貧だからな。

 ……だが、これでは戦力をあちらに割くことはできない」

「状況は伝えてあります。あちらにも優れた戦士達がいるのですから、それを信頼しましょう」

「そうだといいのだがな……」

 ふと思う。あの人間の少年のほうは無事なのか。

(あっさりくたばってくれるなよ、ライナー・クラックフィールド。貴様のような馬鹿がいなくなるのはつまらん)

 心の中でつぶやいて、

「いまだ、第三隊進め! 攻撃の手を緩めるな!」

 結局、身動きが取れない自分に歯ぎしりした。



-------------------------



「ア・キスイ?」

 部屋の外から、声をかける。

「ア・キスイ。お時間です」

 返事はない。かわりに、どたばたとうるさい足音が部屋の中から聞こえてくる。

「ア・キスイ――」

「ああもう、急かすでないドッソ! わらわはいま忙しいのだ!」

「…………」

 事情は把握した。しかし。

「ですがお急ぎを。神の軍勢が攻めて来ます」

「わかっておる。わかっておるから考えておるというにっ。ああもう、地図、地図はどこかっ」

「失礼――」

 部屋に入る。

 キスイは、机のあたりをひっくり返して調べている。

「ああもう、もっと詳細な地図はどこにいったっ。あの娘、わらわが出したものを勝手に片っ端から片づけよって。どこにあるかわからなくなるではないかっ」

「ア・キスイ。地図でしたら、ここに」

「む。苦しゅうない。

 ……というか、何故貴様はタイムリーに地図を携帯しているのだ。わが大臣よ」

「戦士のたしなみに御座います」

「そうか。見上げた心構えよの。

 ――おお、これだこれだ! これぞ我が求めていたものよ!」

「御意」

「ふむ。よろしい。初めには勝算の思いつかなかった戦いであったが、どうにかなりそうだ。

 ドッソ・ガルヴォーン!」

「はっ」

「貴様に密命を与える。張り切ってこなせ」

「――畏まりました。我が全力を賭して、必ず」

【現在の戦況】

カシル……攻め入った先でチリギリと遭遇するも取り逃がし、魔王本体と交戦開始

ライ……おとり作戦に従って敵を集めつつ、魔人たちと共にナーガの住処に移動開始

キスイ……ライと同様だが、なにかをドッソに命じた模様

サリ……まだ移動中

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