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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
十一日目:悪党、戦争に巻き込まれる
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十日目(5):悪党、めんどくさい話を聞く

「あぎ、ひ、が、ぎ……!」

 洞窟の中。

 振動に揺れる、いまにも崩れそうなそこで、老人が奇声を上げている。

 不愉快だ。

 そして、愉快でもある。

 醜い生き物が醜態をさらすのを見るのも、時には悪くないものだ――特に、それが己に悪意あるものである場合には。

「お、お、おまえ、おまえは、一体、何者だあああああ!?」

 面白いほどうろたえて、老人が叫ぶ。

「そう、驚くこともあるまい。おまえが俺を呼んだのだろう?」

「だ、誰が貴様なぞを呼ぶか! 儂が呼んだのは、もっと、」

「もっと古ぼけた、役立たずのでかい塊だったようだな。

 まあ、魔王とはいえ――」

 嘆息。

「知界年代があれだけ古いと神と一緒だな。つまらぬ。

 ……まあ、斬りごたえは悪くなかった」

「き、貴様あ、何者だ!?」

「同じ問いを何度も繰り返すな。おまえは愚図か?」

 罵倒する。

 彼の動揺など知ったことではない――が、その気持ちを推測すること、それ自体は容易だ。

 あるいは、かのカイ・ホルサの後継めに悪意(・・)あらば、この種の悪党はそれを鋭敏に察知し得たのやもしれないが。

 かの幻豪(・・)を以てしてもこちらを完全には封印し得ぬ(・・・・・・・・・)とは、予想していなかったのだろう。

 それでも、なんらかの暴発に対処するため、幾重にも対処用の魔術が張られていた。

 おそらくは生来の用心深さから来る保険に次ぐ保険。それらを、

「ただの神威(カムイ)一撃で、ことごとく消し去っただと!? なんの冗談だ!」

「ほほえましい言葉だ。

 たしかにまあ、神威(カムイ)とはいえただの神の御業。神であるだけなら魔術師には下す手段も多様にあろうが――」

 俺は口の端を上げて、言う。

戦神(・・)の呼称。甘く見積もったな? 爺」

「…………!」

「とはいえ、余興としてはなかなかだった。褒美をくれてやろう」

「褒美?」

「ああ。復活の祝いも兼ねてな。本来は名のある戦士にしか見せぬ技だが――」

 言い終える前に、老人は背を向けてこちらから逃げ出した。

 だがそんなものが――距離(・・)ごときが、我が攻撃への防御になるはずもなく。

「見せてやろう。数多の戦士どもを葬った我が神威(カムイ)秘神断裁(セバリング・シング)!」

 ごう、と周囲の空気がうなり、そして。

 ぱしゅ、と小さな音を立てて、老人の姿がかき消えた。

「……む?」

 急速に、興が醒めていく。

「攻撃を受けると同時に発動し、転移して逃げる魔術か。

 つまらん小細工だ。そんなものが通用すると思ったか」

 おそらく転移した先には、まっぷたつになった老人の死体が転がっているだろう。

 だが死体を確認できない、首級を誇れないという状況が、ひどくいらだたしく思えた。

 ――ふと。

 なぜ自分はここまで苛立っているのだろうと、独白。


『貴様こそ、バルメイス神を――』


「……ああ」

 不愉快の正体に行き当たる。

 それはそうだろう。よりによってこの俺を――

「意趣返しの時だったか。なるほど、なるほど」

 俺は獰猛な笑みを見せて、つぶやいた。

「そうさな。奴の旧知の魔人ども、それからあのクソ生意気な依り代。連中を片端から素ッ首並べて奴に突きつけてやれば――少しは、我が溜飲も下がるか?」



 ――かくて彼は進撃を開始した。

 その先になにが待つのか、自分でも理解しないままに。



-------------------------



『は?』

 声が唱和する。

 岩巨人の里の食堂である。久々に全員集まって食事でも、ということになったのだが、その最中にとんでもないことを言い出したヤツがいたのだ。

 おかげでみんな、一様に『は?』という顔をして固まっている。

 というか、

「……なんであんたまで固まってるんだよ、サフィートのおっさん」

「うるさいぞ小僧。聞いていなかったからに決まっておろう」

「発言の趣旨を伺ってよろしいですかな、スタージン神官」

「もちろんでございます」

 テンの言葉に恭しく一例して、そいつ――スタージンは説明を始めた。

「よろしいですかな。まず、サリ・ペスティ様は魔物にとりつかれて過ごすという異常事態に、数年もの間、身を置かれていたわけです」

「まあ、元に戻ったけどな」

「ええ。ライナー様のご活躍、流石でございました。

 それで、問題はその後です。荒行をこなされたサリ様は、当然のようにその結果を身につけられておられるのです」

「ああ、神格を得たって話か?」

「さよう。サリ様は神話にその身を刻み、特別な存在となられました」

 スタージンはうなずいた。

「聖者レベルでもそれは偉業。ましてやサリ様の神格は、亜神の上位格に相当するほどのものでございます。

 現状、生存しておられる亜神というのは非常に稀少でございまして、手前方といたしましても相応の処遇をしたい、と考えた次第です」

「それで、ファトキアに連れて行く――と?」

「その通りです。

 かの地にて聖者としての正式な認定を行えば、以後、なにをするにしてもサリ様には都合がよろしいでしょう」

「俺は反対だぜ」

 言ったのは、バグルルだった。

 柄にもなく、真剣な顔でサリを見ている。

 だらーっと聞くともなしに聞いている感じだったコゴネルが、それを聞いて身体を起こした。

「なんでだよ?」

「いや、ていうかお前も反対しろよコゴネル。理由はわかるだろ」

「だからなんでだよ。いいじゃん、あそこは金払いだけはいいし。待遇は悪くないだろうさ」

「バカ野郎、そういう安易な気持ちでホイホイ近寄るモンじゃねえだろ! プライド持てプライド!」

「それはサリに言えよ……」

 迷惑そうな顔で、コゴネル。

 テンがほがらかに笑って、

「ほほ、言いたいことはわかりますよ。

 つまり、ファトキア()に付いたと周知されるのがまずい、と言いたいのですね」

「む、まあ……それもあるけどよ」

「他に、まだなにかあると?」

「ふむ。――バグルル。あなたは、サリがそういう政争に巻き込まれること自体に我慢がならないのですか?」

「おう、そうだそうだ。それそれ。ハルカの言い方が正解」

 びし、とハルカを指さして、バグルル。

 コゴネルはため息をついて、

「……なんで他人に自分の感情を説明してもらってんだ、バカ」

「いやー、いい言葉が思いつかなくてな。つい」

「まあ、あんたがそういうの嫌いなのは知ってるけどよ。それをサリに押しつけるのはどうなんだ?」

「いや、だからだな――」

「あーすまん、さっきから話の展開について行けん」

 割り込む。

 こういうとき、神話とかを知らないと困るんだなーとつくづく思っていると、

「あ、あの、すみません。わたしもなんですけど……」

「あたしもあたしも! もう、オトナたちで勝手に盛り上がらないでよねっ」

「さんかく~☆」

「…………」

 案外、多くの人間が同じ立場だったらしい。

 キスイやマイマイもわからないってことは、アレだ。いわゆる大人の事情ってやつか?

 ペイがぽりぽり頭をかきながら、

「俺もよくわかんねーな。ファトキア側って、ファトキアの敵側がいるってのかい?」

「あなたがそれを知らないのは勉強不足だと思いますがね、ペイ」

「あーあー悪かったよ。で、とっとと説明してくれよクソじじい。どうせ説明したいんだろ?」

「ほほ、まあいいでしょう。ちょうどおいしい頃合いだと思っておりましたし」

 ぽん、とテンは手をたたいた。

「さて、まずファトキアですが、諸君はファトキアとはどういう場所だと思っておられますかな? たとえば、ライ殿はどうですかな」

「えっと、昔は統一帝国の都だったんだよな?」

「そうですね。他には?」

「ええと、たしか法皇がいるって聞いたけど――」

「そうです。神話の時代が終わってからも脈々と続く神殿、その中心に当たる箇所がファトキアですな」

「中心、なんですか?」

 リッサが、首をかしげて言った。

 俺はそれを聞いて、ああ、と思い出した。

「あー、そういや言ってたな、センエイが。ファトキアをトマニオより格上だと思ってるのなんて、この周辺の地方だけだって」

「……あ!」

 リッサも理解したようだった。

「つまりはこういうことか。権威争い(・・・・)、と」

「ほほ、その通りでございますよ。

 ファトキアとトマニオは、聖地としての権威をいまも争う身。そんな中、サリが先にファトキアに訪れ、あまつさえ法皇から祝福など受けたりしたら――」

「『ああ、あの亜神はファトキア派か』とみんな思う……と?」

「あー、そういうことか」

 ペイはそう言って、うなった。

 俺もなんだか微妙な気分になって、

「なんか典型的な政争だよな。神殿の連中、いつも偉そうにしてんのに」

「はは、バカを言うなよライくん。神殿ほど金と力が有り余っていれば政争なんて腐るほど起こって結果として腐り果てるさ。なあ、神官?」

「ははは、全くもって否定できませんなあ!」

「笑いながら言うなよ……」

 センエイと意気投合して馬鹿笑いするスタージンに、ジト目で言う。

 この性格だから出世できなかった、とはバグルルの言だが、そりゃあそうだろう。

 スタージンはこほん、と咳払いして、笑顔になった。

「ですがそれは杞憂というもの。なんだったらサリ様にはファトキア訪問の後、セレモニーとして大々的にトマニオを礼拝して頂きましょう。

 政治的にはそれでバランスが取れるはずです。事前に手配をしておけば上から横やりが入る心配もございませんし、問題は起こりません」

「む、むぅ。しかしなパズ」

 異論を唱えかけたバグルルだったが、

「聞いたところによれば、どうやら魔人の方々におかれましては仕事の手がかりがさっぱり消えてしまったとのこと。

 いったん大きな街に出て情報収集からやり直し、というのであれば、しばらく手の空く時間があるはずです。ですからその間にぜひ、と」

 たたみかけられ、う、とうめいて沈黙する。

 そう。

 例の、シンの師匠だったという魔術師のじーさん。そのじーさんの気配が、ちょっと前に忽然と消えてしまったらしいのだ。

 以前は漠然とではあるが気配があって、このあたりで悪さしているなー、というのがハルカやセンエイには感じ取れていたらしいのだが。

 いまはそれどころか、プチラとミスフィトみたいなじーさんの仲間だった連中まで、まったく連絡が取れない状況である。

 で、仕方がないので、魔人連中はいったん引き上げて出直そうという話だった。たしかに、ヒマになったと言えなくもない。

「ふん。――ま、どんな話をしたって、結局決めるのはサリなんだがね」

 つまらなそうなセンエイの言葉に、我に返ってサリを見る。

 さっきから一言も発していなかったサリは、重たそうに吐息して口を開いた。

「一日、時間が欲しい」

【告知】

思ったより早く完成したので、3月10日7時から更新再開します。

以降、火曜19時と土曜7時のパターンで投稿しますのでよろしくお願いします。

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