表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
十日目:秘拳! パンダ暗殺拳の巻
60/103

十日目(4):秘拳! パンダ暗殺拳の巻-2

「さて、このあたりでいいかな、っと――」

「なにがですか、腐れ魔女」

「うお!? いつの間に背後に!?」

 ジロロの声に、思わず叫ぶ。

 相手はため息をついて、

「不審な動きをしているからと追いかけてみれば……地上まで来て、なにをしようとしているのですか。魔女センエイ・ヴォルテッカ」

「いやまあ、ちょっとな。

 ていうか、上のほうで爆音が連打してるが、そっちは放置していいのかい?」

「そちらはガルヴォーンの君あたりに任せています。深刻になったら出て行くでしょう。

 で、さっきの質問に戻りますが」

「ここでなにをしようとしているか、だったな。

 なに、単純なことさ。ちょっと上の戦闘を強制的に終わらす仕掛けをね」

「なにを呼び込むつもりですか?」

「ヤバいものさ。

 たぶん世界で2番目に強い、怪物中の怪物だ。あんたの身内にも、手を出すなと忠告しておいたほうがいいぞ」

「……できれば、呼ばないでもらいたいのですが。そんなの」

「悪いが、上の騒動を途中で切り上げさせる(・・・・・・・)にはこれしかないんでね。フレイア・テイミアスとサリ・ペスティ。うちらの界隈でもとびっきりのビッグネームふたりの戦いだ。直接介入じゃどーにもならん」

「切り上げさせる必要があるのですか?」

「ライくんが不安なんだよ」

 言う。

「アレの状況がまったくわからん。いつとんでもない暴走するかわかったもんじゃない。いまは戦闘から遠ざけさせないとやばいと思うね」

「……ふむ」

 ジロロは考え込み、

「確認しておきますが、あなたの解決法ならば、集落に被害を与えないのですね?」

「下手に触れなければな。

 というか、だから外に出てるんだっての。洞窟の中でやったら、さすがに安全は保証しねーぞ」

「……ふう。わかりました。

 本来ならキスイさまの許可を得て欲しいところですが、この場はラ・ジロロが特別に許可しましょう」

「ああ。事後にキスイくんにはあいさつに行くよ」

「それは却下。会わせません」

「なんで!?」

「当然でしょう。あの魔女にもいたずらの挙げ句に嫌われたようですね、あなた。心底変態ですね」

「ばばば馬鹿を言うな。私はサリに嫌われてなんかないぞ。ただ蹴られただけだ」

「……タフな精神してますね。迷惑な」

「うるせえ。

 っと、じゃあそろそろやるぞ。えー真儀、解放……っと」

 ぴん、となにかを弾いたような音が、あたりに響いた。

「終わり終わり。さ、逃げるぞ。この場にいたら殺される」

「はいはい。

 ……これでよかったのかしらね、本当に」



-------------------------



「ん……」

 ふと、顔を上げる。

 なつかしいものを見つけた気がして、自然と笑みがこぼれた。

 ……このあたりかと思ってたけど、そっちなんだ。

 ずっと探していたものを見つけて、ちょっと得意になる。

 喜びと、そしてちょっとだけ、不思議な悲しみがあった。

 ……へんなの。

 くすくす笑って、わたしは目を上に向ける。

 ようやく、あのひとに会える。

 あのひとに会って、それでわたしは――

「あれ」

 会って、なにをするんだっけ。

 思い出そうとするが、なかなかうまくいかない。なぜかその部分が、記憶からぽっかり抜け落ちたみたいだ。

 ……あれれ。

「あ、そっか」

 ぽん。手をたたく。

 会ったら、殺さないといけないんだっけ。

 迷いが晴れてキモチイイ。

 得意げになって、わたしはいつもよりほんの少し大きく、力を使おうと決めた。



-------------------------



『――レッサー・散打(ショット)!』

 声と共に左腕を振るヴォルドの、その姿勢を見た瞬間に横っ飛び。

 直後、避けた空間をなにかが横切り、かすめて通り過ぎた。

「くそ、なんだこの飛び道具!?」

『左のレッサーは広がり打ち抜く凶器。

 そして、右のジャイアントは一撃、打ち貫く魔弾!』

「!?」

 やばい鬼気を感じて、とっさに構える。

「ライナー・クラックフィールドの名において――いけぇ!」

『ジャイアント・(カノン)!』

 俺の剣から飛び出した光の波動と、ヴォルドの拳から放たれた衝撃波がぶつかり――そして、あっさり砕ける光の波動。

「うげ!?」

 あわててかわしたその横をすごい勢いで飛び、はるか遠くに着弾して爆裂。

 ……うわぁ。すっげえぞ、このパンダ。

 この必殺技、弱ってたとはいえ竜をぶった切った技なのに。力で押し返しやがった。

『ほう。こちらの威力を削ぐほどの剣光とは、なかなかやるではないか。

 ならばこれならどうかな!?』

 言って、パンダが華麗に宙を舞った。

「なにぃ!?」

『ふはははは、受けるがよいわ熊猫(パンダ)空中殺法72の秘奥がひとつ!』

「く――」

 俺はとっさにあたりを見回す。

 サリはフレイアと戦闘中。もう早すぎて目で追えるレベルではまったくないが、とりあえずこっちに手を出せる余裕もない。

 なら……

「俺がやるしかねえってことだな!」

『やってみろ少年! ゆくぞ、飛翔(トペ)――』

「はっ!」

 対抗して俺も、空に向かってジャンプ。

 向かってきたことにヴォルドはにやりと笑い、そして構わず技の名前を叫ぶ。

『――笹爆撃(ササシーダ)!』

「りゃああああ!」

 爆音。

 とんでもない振動と共に、パンダの形に地面がえぐれ飛ぶ。

 巻き込まれていたら即死だった。と思いつつ、俺もすたっと着地。

『驚いた……少年。貴様もまた、空を制するものか』

「まあね……」

 冷や汗をかきつつ、再びヴォルドと対峙する。

 サリの内面世界でやった、空中浮遊の応用。足下にバリアを展開して、それを足場にして空中ジャンプ(・・・・・・)して避けたのだ。

 ものすごい博打だったけどね。できる保証なかったし。

『面白い! 凡百の神とは一線を画している! よろしい、貴様は我が秘奥残り71をすべて披露するに値する強敵と認めよう!』

「うわーうれしくねー!」

 叫びながら剣を構えた、そのとき。

 ずーん……という振動が、遠くから響いてきた。

「ん、なんだ?」

『これは――何事だ?』

 ヴォルドも、異常を察して攻撃を止める。

 なんか、地面の底からなにかがやってくるような……


 次の瞬間、ものすごい轟音(・・)に俺は吹っ飛ばされた。


「だああああ!?」

 なにが起こったか、最初はわからなかった。

 きーん、と耳が痛い。

 音に吹き飛ばされた、というのは感覚で、実際は轟音と爆風が同時にやってきたのだろうが、いったいなにがあったのか――

 顔を、音の方に向けると。


 そこには、山ひとつ分(・・・・・)くらいあろうかという大きさの氷が、地面を突き破って空へと伸びていた。


 ぽかーん。

 馬鹿みたいに口を開けて、絶句する。

「えーと……なにが……起きて……?」

「な、な、な……」

 フレイアが、わなわなと口を開いた。

「なんてことしてくれるのよ!? 白雪(スノウ・ホワイト)なんて誰が呼んだの!? 馬鹿じゃないの!?」

「俺に言われてもわかんねーよ。ていうか、なにそれ?」

 聞いたことがない固有名詞だったので、サリに尋ねてみる。

白雪(スノウ・ホワイト)――聞いたことだけはある。大巨人の作った最強の殺神兵器(・・・・)で、とてもじゃないけど手が付けられない存在だとか」

「そっか」

 俺は言って、顔をフレイアに向けた。

「よかったなフレイア、殺しがいのある敵が出てきたぞ」

「ばばば、馬鹿言わないでよー! わたしがアレに何度挑戦して負けたかわかって言ってんの!?」

「……あ、挑戦はしたんだ」

「ていうか、こんな準備状況でかなうわけないじゃない! それにアレすごい厄介なのよ! 氷雪原野(コキュートス)の支配者だけあって、殺されたら即、転生の輪に送られちゃうんだから! 一歩間違うと復活できなくなるんだからね、それわかってるの!?」

「俺に言われてもな」

「うん、まあわたしには関係ない」

 サリはうなずいて。

「じゃあ、来るまでのサドンデスかしらね。

 ちょうどいい運動になりそうだし、もうちょっと遊びましょう、フレイア」

「じょ、冗談じゃない! 旦那、逃げるよ! サポートお願い!」

『承知!』

「逃がさない……!」

「あ、あ、え?」

 おたおたしているうちに。

 フレイアはその場を去り、それを追ってサリも姿を消した。

 後に取り残された俺は、ぽかーんとその場に取り残されるのみ。

「……えっと。

 それで俺はどうすれば?」

 つぶやいた、その直後。


 ものすごい氷の塊が、雨のように降ってきた。

「う、うわわわわわわ!?」

 避けるとかそういう次元じゃない。とりあえず伏せて頭をかばう。

 めちゃくちゃな量の氷が、あたりを蹂躙し尽くしていく。

 もうなにがなんだかわからないが、ともかくがんばって氷の来た方向を見て、


「――あ」

 瞬間、死を覚悟した。

 それは、そういうもの。

 宙に浮かぶ少女は、見たものに「ああ、これは死ぬな」と思わせるだけの『なにか』を備えていた。

 静かに、そのときを待つ。

 気がついたら、周囲に氷が降ってくることは、なくなっていた。

 彼女は、俺を静かに見下ろして。

「――――。

 あれ?」

 こくんっ、と、首をかしげた。

 そして、あわてたように赤面して、

「あ、えっと……

 すいません。人違いでした」

 ぺこり、と一礼して。

 そして少女は、ふらふらと宙をただよいながら、遠くへ消えていった。

 …………

「あー……

 結局、なに?」

 答えるひとは、誰もいなかった。



 なお。

 後で聞いたところ、案の定サリはフレイアを逃してしまったそうな。

 ……ま、助かったならいいか。

召喚獣紹介:

ヴォルド・テイミアス

『死霊の大王』という異名を持つ空飛ぶパンダ(・・・・・・)

謎のパンダ拳法を用いて戦い、全力を出せば竜ですら太刀打ちできないほどの暴威を誇る。

オーラによる遠距離攻撃や空中殺法に定評があるが、その本当の神髄は近接での素手喧嘩(ステゴロ)

左のレッサーで牽制し右のジャイアントで刺すオーソドックスなスタイルながら、足運びまで含めた総合力の高さで死神パンダ界の頂点まで上り詰めた経歴を持つ。


なお、嫁のフレイアにはてんで頭が上がらない模様。



【余談】

この話は何度も述べたように、本来はゲームの企画だったのですが。

このあたりを書いている間に僕の頭にあったのは、ヴォルドを使ったミニゲームの数々でした。

タイピング暗殺拳『パン打』とか、シューティング暗殺拳『パンダジーソーン』とか、いろいろ妄想しているのは楽しかったなあ。

誰か作ってくれませんかね。



【お知らせ】

『中林さんの天球儀』の方の執筆を再開する都合上、こちらはしばらく休みます。

次の11日目の公開はたぶん3月頃になります。よろしくお願いします。


【2018年1月20日追記】

すいません間違えて更新通知出しちゃいました。実際は更新してません!


【2018年3月4日追記】

3月13日以降更新再開予定です。

お待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ