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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
八日目~九日目:悪党、人助けをする
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九日目(3):悪党、捕まる

「つまり、この集まりは、この街をどうにかしようとする有志の会合だってことか?」

 俺は、話をそう総括した。

 マキノはうなずいて、

「そういうことだ。暴動を起こして事態を悪化させるのもまずい。かといって領主様の言うとおりにしてどうにかなるとも思えない。じゃあどうするか。それを考える会だ」

 と言った。

 ……なるほどなー。

「で、にーちゃんこそ、なんでこそこそ俺をつけ回してきたりしたんだよ。こんなとこまで」

「同居人が怪しい行動してんだ。一応確認するのは当然だろうが」

「だからって、牆壁(しょうへき)の窓に取り付いて中を見るまでしなくてもいいだろうに……」

「牆壁? なにそれ? 城壁じゃねえのここ?」

「城壁は街と街の外を区切る壁。牆壁は街の中を区切る壁だ。ぜんぜん違うよ」

「そうなのか……そこまででっかい街だったのか。知らなかった」

「昔は都だったんですよー」

 にこにこ笑って、フリイとかいう使用人? が、言った。

「…………」

「おや? なんでわたしを見てるんですー?」

「いや。うさんくさいなって思って」

「あははー。うさんくさい侵入者にうさんくさいって言われましたー」

 のほほんと言うフリイ。

 いまどういう状況かというと、縄でぐるぐる巻きにされた俺が、マキノとフリイから尋問を受けているというところである。

 尋問と言いつつ、質問しているのはもっぱら俺だったりするのだが。

 マキノはなんだかんだ身内に厳しくできないタイプだし、フリイは……なんだろう。根本的に会話が通じるタイプじゃない気がする。

 なんでこのふたりなんだろうと思っていると、

「『良い警官・悪い警官』法ですよー」

「……?」

「はい、拷問の際によく使われる方法ですー。『いいひと役』と『悪いひと役』を用意して、悪いひと役が拷問することで、相手がいいひと役にぺらぺらと機密をしゃべってしまうという方法なのですよー」

「この場合、マキノはどっちなんだ?」

「いいひと役ですよー」

「じゃあ、おまえは?」

「いいひと役ですよー」

「…………」

 ダメだこいつ。やっぱり会話にならん。

「結局、どういう組織なのかカケラもわからねえよ。なんで使用人が拷問役やってんの?」

「フリイさんは城仕えなんだ。

 俺たちの仲間、兵士たちが多かっただろ? そういうことさ。俺たちは反体制組織じゃない――だからこそ、領主様と完全には対立しないように調整役が必要だってわけだ」

「マキノはなに役なんだ?」

「俺は下っ端だよ。今回尋問役なのは単に、にーちゃんと面識があったからだ。

 で、にーちゃんはいったい何者なんだよ。フリイさんと面識がないってことは領主様のスパイってわけでもないんだろ。ボケたふりして俺に近づいた理由はなんだ?」

「なんだ、って言われてもなあ……」

 うまく説明できる気がしない。

「つうか、おまえらなににどう対処する気なの?」

 と、ごまかしてみる。

「死海ってのが広がってきたのが原因で、いろんな悪いことが起こってるんだろ? だったら根本的にもう、移住するくらいしか方法がないんじゃねえの?」

「だから時間稼ぎだよ」

「なんの」

「領主様が、ちゃんと近隣の街と交渉して、我々を受け入れてくれる都市を見つけるまでのさ」

「ですよー」

 ……ああ、なるほど。

 たしかに、現実的に解決策と言える方法は、それしかないかもしれない。

「疫病は、これはまあどうしようもない。俺たちじゃ触れないしな。領主様の遅延儀式とやらが効くのをアテにするしかないし、たぶんアテにならん。

 けど、魔物の方は違うだろ?」

「そりゃあ、そうだな」

「俺たちでも退治できる魔物なら、なんとかできるかもしれない。領主様はなぜか、兵士たちに魔物退治には荷担するなっつってるみたいだが――それに反発した兵士たちが中心になって作った自警団が、俺たちってことだ」

「なるほどなー」

 俺が相づちを打ったところで、ばたんと扉が開いた。

「魔物が出たぞ! 南地区だ!」

「! いま行く!」

 言ってマキノは扉に向かって走りながらこちらをちらりと見て、

「にーちゃんはここで待ってろ!」

 ばたん! と扉が閉まって、静かになる。

 …………

 ……

 さて。

(じゃあ、ちょっと本気出して動くか)

「ライナー・クラックフィールドの名において――剣よ、来いっ!」

 ばしゅう、と俺の手から光が漏れて、……縄を切る前に消えた。

「ありゃ?」

 俺のもくろみと違う。

 かっこよく縄を切って、さっそうと魔物退治に出かけるつもりだったのだが。

 まあ、ちょっと切れ目が入ったから、なんとか力を入れれば縄を切ることはできそうだが。

「でもそれだと魔物と戦えませんよねー」

「うどわっ!?」

 俺は思わずのけぞった。

 後ろから声をかけてきたのは、間違いなく、

「フリイ? あんた、出ていかなかったのか」

「あはは、そういうのはちゃんと確認してから動くべきですよー」

 にこにこしながら言うフリイ。

 ……おっかしーな。人の気配が完全に消えたと思ったから、動き出したのに。

「まあいいや。そんで? わざわざ残ったってことは、俺に用なんだろ?」

「そうですねー」

「なんの用だ? 見ての通り、俺は縄ひとつ切るのにも苦労している身なんだが」

「そうですねー」

「いや、会話しよう。な!」

「そうですねー。じゃあとりあえず動きますか」

 言って、フリイは懐から、ものすごくでっかいナイフを取り出した。

 いや、ナイフというより、もはや剣?

 俺の肘から指の先まで以上の長さがあるぞ、この刀身。

「なんでそんなナイフ持ってるんだ?」

「あはは、やだなー。そんなの暗殺用に決まってるじゃないですかー」

「そ、そう……念のために聞くけど、俺をじゃないよね?」

「おにーさんには暗殺するほどの価値がないです」

「その言い方は地味に傷つくんだけど」

「じゃあ暗殺します?」

「やめて。お願いします。やめて」

 プライドをかなぐりすてて俺は土下座した。

 フリイはナイフでぷつり、と俺の縄を切ると、

「じゃあこのナイフ、持っていくといいですよー」

 と、暗殺用ナイフを差し出してきた。

「……いいのか?」

「どうせ魔物を倒すつもりなのでしょー?」

「まあ、そうなんだけど……

 でも、俺、持ってる力がうまく引き出せなくて」

「そういうときは、依り代を使うのですよー」

「……依り代?」

「はい。おにーさんが最高のパフォーマンスを出せていたとき、そのときに近くにあったものと同じようなものを手に持っていればいいんですよー。そうすれば、ちゃんと力が安定して出せますー」

「なんでそれがナイフだと?」

「さっきの光の形、剣に見えましたからー」

 ……なるほど。こいつ、やっぱただものじゃなさそうだ。

 単に領主付きの使用人というだけじゃない。もっとなにか……

「ところで、魔物ってどういうのが出てるんだ? あんたなにか知ってるのか?」

 俺が言うと、フリイはうなずいた。

「あらかた雑魚ですけど、ひとつだけやばいのがいるんですよー」

「どんなふうにやばいんだ?」

「倒しても倒しても、近くの人間を依り代にして復活するんですー」

「それも、依り代なのか……?」

「たぶん最高のパフォーマンスを発揮できるのが、人間に取り憑いた状態なんでしょうねー」

 ……ビンゴ。おそらく、そいつが今回の元凶だ。

 このサリの精神世界に入ってだいぶ足踏みしたが、ようやく、とっかかりを見つけた。

「いま出ていったマキノたちの戦う魔物が、それである可能性は?」

「ないわけではないですけど……だとすると、やばいですよー。

 いままでそいつが出た区画、だいたい壊滅してますからねー。倒したときに近くにいる人間が片っ端から食われますから、手の施しようがないんですー」

「よくわかった。世話になったな」

「おや。それでも行くんですかー?」

「ん。そりゃそうよ。そうだとすればあいつら、いまごろ大苦戦だろうからな」

「……へたをすると、おにーさんも殺されますよー」

「大丈夫だって。やばそうだったら逃げるから」

 俺が言うと、フリイは小さく笑った。

 ……?

「どうしたんですー?」

「いや、なんでもない。じゃあ、この場はよろしくな」

「はいー。いってらっしゃいですー」

 フリイに見送られ、俺は部屋を飛び出した。

 ……しかし。

(なんだったんだ、あの笑みは?)

 フリイが一瞬だけ見せたそれが、どうも気にかかる。

 のんびりした雰囲気の彼女に似つかわしくない、邪悪な、それでいてなにか懐かしいような……

(まあいいや。気にしない!)

 俺はそのまま正面から出ることはせず、城壁――じゃなかった、牆壁の窓から身を乗り出し、そのままひょいひょいと登っていく。

 案の定、正規の兵士たちはいなかった。魔物を倒しに出動しているか、あるいは――かなわないと見て、避難してしまったか。

 そこから街を見回して、すぐ異変を見つける。

「あっちは――マキノの家の方か!」

 火事らしきものが起こっているその方向に、俺は飛び出した。



 そこは、異様な世界だった。

 燃える街。聞こえる叫び声。

 そこら中の建物に火が燃え移り、絶望に満ちた絶叫がこだまする。

 にもかかわらず。

(……なんで誰も出てこないんだ?)

 まだ夜中とはいえ、火に照らされた大通りに誰もいないのを見て、思う。

 まあ、その分走りやすくはあるのだが。

 うまいことに、火の手はまだマキノたちの住む家のほうには届いていなかった。

 おそらくは魔物と戦っているであろうマキノたちと合流する前に、まずエフを確保しておくべきだろう。

 そう思った瞬間。

「うわ!?」

 ごう、と、脇の民家からいきなり火の手が上がった。

 そしてそこから黒い魔獣のようなものが、俺に向かって駆けてくる!

「やらせるかっ!」

 ばしゅう! とナイフからほとばしる光が魔獣の身体を捉え、真っ二つにした。

 が、それは――すぐに、真っ二つになった人の姿に変わる。

(……最悪!)

 いちばんヤバいのといきなり出会ってしまったことに毒づきながら、俺は男の死体を観察する。

 すると、そこから黒い煙のようなものが出てきて、俺に向かって押し寄せてくるのが見えた。

「させるかあっ!」

 ばしゅうううっ! と剣の光がほとばしり、煙は一瞬びくん、と震えると――近くの建物に飛び込んだ。

 悲鳴が上がる。

 そしてすぐ、魔獣は身体を取り戻し、路地に出てきた。

(俺の力があれば、取り憑かれることはなさそうだが――くそ、これじゃキリがねえな!)

「にーちゃん、こっちだ! 早く!」

「マキノか!」

 俺は声に従い、近くの建物に飛び込む。

 ばたん! がつん! ばき、ばんっ!

 魔物が入って来れないのを確認して、一息。

 マキノは用意しておいたとおぼしき素材をバリケードとして積み上げながら、

「にーちゃんのバカたれ! なんで追ってきたんだよ!」

「そりゃこっちの台詞だ。戦士はともかく、おまえはなんで飛び出てきたんだ? 戦力になるタマじゃねえだろ」

「それはそうだけど――」

「あ、馬鹿、伏せろ!」

 言って俺はマキノを捕まえて、地面に伏せる。

 ごうっ! と音がして、黒いなにかがその上を通過した。

「……一体だけじゃねえぞこれ。何体いやがる!」

「嘘だろ、バリケードがあるのにどうやって!」

「決まってんだろ、最初からこの建物にいやがったんだ!」

 言いながら俺は、ざっくりと魔物を切り伏せる。

 倒された魔物が霧状になって、おそらくはこの住居の住人だったであろう死体を残して、マキノに向かって吹き上がったところを、

「ライナー・クラックフィールドの名において――食らえっ!」

 光がなぎ払い、霧は絶叫を上げて消滅した。

「……これ、本体じゃねえな。あらかじめ作っておいた分身ってところか」

「じゃ、じゃあ、俺が引きつけてるこいつ以外にも魔物が!?」

「ああ。それも、どれが本体かもわからん。全部同じ能力を持っているかどうかも……」

「エフが危ない!」

「あ、馬鹿!」

 マキノは窓から飛び出し、あわてて俺も後を追う。

 もうマキノの家はすぐ近く。

 路地を2回曲がったらそこにエフが出ていて――それを、黒い魔獣が襲っているのが見えた。

「エフっ……!」

「おらあっ!」

 悲鳴を上げるマキノの後ろから、俺は剣の光を射出して魔獣を吹き飛ばす。

 それがいけなかった。

 魔獣の形をしていたものは、もう、依り代を捨てていた。俺の光は依り代の死体にだけぶち当たって、吹っ飛ばしただけ。

 そして魔獣の本体である霧は――エフに、まとわりついていた。

「エフーっ!」

 マキノの悲痛な叫び声。

 が。

 次の瞬間に上がった悲鳴は、人間のものではなかった。

「……え?」

 きょとんとする俺の目の前で。

 エフに取り憑こうとした魔獣の霧は、みるみるうちに弱っていき、あっという間に消滅してしまった。

 影も形もない。

「エフ! 無事か!?」

「あう……」

 なにが起こったのかいまいち把握していない顔のエフに、飛びつくマキノ。

 俺も、正直、事態についていけていなかったが、

「まあ、なんとかなった……のか?」

「そうだな」

「!?」

 突如として聞こえた声に、ぎょっとしてあたりを見回す。

 すでにあたりは、兵士たちに包囲されていた。

 彼らは槍を構え、一様に俺たちを動けないように見張っている。……どうやら、例のマキノたちの集まりの仲間じゃなさそうだ。

 そしてそれを指揮する、黒仮面の騎士。

 彼は呆然とする俺たちを無視してエフに近づくと、ひざまづいた。

「お探ししておりました、聖女様。――お迎えに上がりましてございます」

ちょっと校正の時間がなかったので、もしかすると後で編集します。


【2017年12月26日、追記】

夜のままであることがどこにも記述されていなかったので、一部修正しました。

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