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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
六日目・七日目:悪党、悪夢と出会う
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七日目(5):悪党、いつものように逃げる

 そして、ライとサリは去った。

「くそ、俺たちも追うぞ……っ」

「待てやコゴネル。状況を冷静に見渡せ」

「だがよおっ!」

「俺は剣が壊れかけ、おまえとハルカは魔力切れ、ミーチャはもうちょいならなんとかなりそうだがテンが負傷中。この状況であのレベルの魔獣と化したサリ相手に、なにができる?」

 バグルルの言葉に、コゴネルはぎりりっ、と歯を食いしばる。

「……どうも。足手まといで申し訳ありませんな」

「いや、テン。あんたを責める気はないよ。悪かった。

 だが……くそっ。いくら魔物の暴走っつっても、サリがあそこまでになるなんて聞いてないぞ。なんだあれは?」

「心当たりがないわけじゃねえ。ハルカ、おまえはどうだ?」

「――いえ。

 憶測で物を言う気にはなれません、バグルル。さしあたりは、我々もゆっくり離脱しましょう」

「そうだな……あのゴレム以外のヤバいもんがないとも限らん。まずは安全を期して地上へ――」

『帰れると思うか?』

 コゴネルの言葉に応えた声は、誰もいない場所から聞こえてきた。

「なんだ!?」

「! 気をつけて下さいコゴネル――あのライナー少年の投げた剣は、未だ生きています!」

『然り……!』

 烈風のような神気が吹き寄せる。

『馬鹿者めが、我を捨てるとは……思い知らせてくれたいが、まずは身体がなければ話が始まらん。

 雑兵ども、その身体、ひとつもらい受けるとしよう。なに、ひとつあれば後はいらん。残りは皆殺しだ』

「っ、この状況で神退治かよ……! 冗談じゃねえぞ」

 コゴネルはうめいたが、

「いや、その必要はないよ。コゴネル」

 ――続いて涼やかな声が、この広間の入り口から響いた。

「……シン?」

 バグルルが、鋭い顔になった。

 コゴネルは一瞬だけバグルルの顔を見て、

「シン。……ひとつだけ答えてもらおう。いまのおまえは敵か? 味方か?」

どちらでもない(・・・・・・・)

 即答。

 シンは、特になにも負い目がないという表情で、ひょうひょうと言った。

「どちらでもないよ、コゴネル。勅命は下り、僕は君たちの仲間ではなくなった」

「じゃあ……」

「が、向こうさんの取引条件は、そこの剣の回収(・・・・・・・)でね。ちょうど君らと敵対していたようだし、幸いにも僕は、君たちとは戦わなくてよいらしい」

「…………」

『いま、なんと言った? 木っ端魔人が』

 声は、不機嫌そうに響いた。

『この俺を回収すると言ったのか。もちろん、新たな宿主となるという意味ではないのだよな?』

「そりゃあそうだろう。そんなことになったら、取引相手に渡せない」

『どうやってやる気だ!?』

 ごう、と再び、神気が場を揺るがせる。

 だが、シンは平然とした顔でそれを受けた。

「べつに難しいことでもないだろう?

 君を黙らせて、呪術でくるんで持っていけばいいだけだ。その程度のこと――サリではないが。真儀解放(クシャトリヤ・ブート)すら必要ないね」

『貴様、このバルメイスを愚弄するか!』

「貴様こそ! バルメイス神を(・・・・・・・)僭称するな(・・・・・)、残滓ごときが!」

 シンの一喝に、コゴネルはうめいた。

「え? マジで? あれ、バルメイスじゃないのか?」

「そういうことです、コゴネル」

 答えたのは、ハルカだった。

「トマニオの聖典はご存じでしょう? そこの託宣によって、バルメイス神の死は(・・・・・・・・・)確定している(・・・・・・)

 死んだ者が蘇るなど、外法でも使わぬ限りあり得ません。あれは、バルメイス神本体ではなく、それと似た現象(・・)に過ぎません」

『言ってくれるな、魔人如きが!』

 バルメイスが吠えた。

『そこまで吠える以上、命を賭ける覚悟はできているのだろうな! この俺の前に立って――』

「ないよ。そんな価値は君にない」

『…………』

 シンがあっさり言ったので、バルメイスは沈黙した。

「わかっているだろう? 君の存在を成り立たせていたのは、ライ氏と君との所有者契約(・・・・・)だと。

 そのライ氏が、剣を手放すと公式に宣言したんだ。あれは痛快だったな――おかげで、君の能力は、ひどく弱っている」

『黙れ』

「黙らせてみせろ」

 ぎぃん! とシンの付近で金属音がした。

 バルメイスは舌打ちして、

『……貴様、幻覚なのか? 手応えなくすり抜けるとは』

「まさか。これは本体だよ」

『ならば一体――』

「『秘剣』カイ・ホルサ。それが()()だ」

 シンは平然と言った。

「魔術師にして神たる異端。その余が残した唯一の遺産――カイ・ホルサの夢幻刀儀。貴様が見たものは、それだ」

『夢幻刀儀だと?』

「そうだ」

『馬鹿な! それは遡及打撃の別名だ! それを使って攻撃することならともかく、防御に使うなど――』

「我が夢幻刀儀は幻と現の境界を乱す(・・・・・・・・・)技だ。

 その技は普通に使えば、幻を本体ということにして斬り殺す――だが逆に、本体を幻にする(・・・・・・・)こともできるんだよ」

『…………』

「我は見えざる神殿の王子――名はシン・ツァイ。これと、よりによって幻と親和性の高い無地の燎原(ロスト・ヴァルハラ)でまみえた不運を嘆け、剣の亡霊よ」

『貴様、貴様ああっ……!』

 吠える剣を、目の前にして。

 シンは堂々と目線をそちらから切り、コゴネルに移して、笑ってみせた。

「そういうわけだ、コゴネル。

 ここは悪いが退いてくれ。ちょっと――荒っぽい仕事になるからね」

「……礼は言わねえぞ、シン」

「当然だ。僕は自分勝手にここにいる。

 ――さらばだコゴネル・アングストン。君の往く道に、栄光あらんことを」

「行くぞコゴネル! 撤退だ!」

「さんかく~!」

 テンとハルカを担ぎ上げたバグルルとミーチャに、コゴネルは叫んだ。

「うっせえなわかってるよ! いま行く!」



-------------------------



(よし、追ってきてる!)

 サリが入ってきた道。

 そちらに走り込んだ俺は、サリが普通に追ってきているのを見て、小さくガッツポーズをした。

 ここで追ってこなかったらどうしようと思ったが、ついてる。後は逃げ出してどうにかするだけ――

「って、速っ!?」

 すんごいスピードで追いすがってくるサリに、悲鳴を上げる。

 ――間もなく、あわてて回避する俺の上をサリの短剣がぶうん、と音を立てて通過した。

 サリはそのまま駆けて、ちょうど曲がっていた洞窟の壁に激突して、止まる。

(……そうか。サリが内部で抵抗しているから――)

 身体スペックはサリのままだけど、器用には操れないんだ。

「なら、十分望みはあるってこった!」

 走るの再開。全力で走り、また引きつけて、なんとか回避する!

 ――と思ってたら、飛んできた短刀に足を引っかけられてつんのめった。

「……なんのっ!」

 即座に前転に切り替えてやり過ごしたが、その間にもサリはものすごい速度で迫ってくる。

(くそ、あの遠隔操作の短刀も使えるのかよ!)

 こりゃあさすがにまずいか……? と思った直後。サリが大きくぶっ飛んだ。

「え?」

「逃げるんだろう? 加勢しておくぞ、小僧」

 なにもないと思っていた空間から出てきたのは、獣人のシルエット。

 そして、その横にすたっと降り立った、黒ずくめの小さな岩小人。

 姿を見るのは初めてだったが――

「どうやら状況に応じて、共闘できる相手で助かった。――時間を稼ぐ。逃げおおせろ、少年」

「トゥトか! 助かる!」

 俺は言って、

「そっちのおっさんも! 後でまたな!」

 走り出した。

「おっさんって言われるほど俺は年食ってねえぞ、ボウズ――!」

 後ろから抗議の声と、ざくん、ぎゃりん、という異様な交戦の音が響いてきた。

(……しかし)

 俺はちょっとだけ、疑問に思う。

 いや。まあ獣人のおっさんは、たぶん敵だったのだろうけど。

(この状況で共闘……? なにか、本格的に都合の悪いことがあったってことか?)



 そして、それからは大きな障害もなく。

 俺は、ふたたび洞窟の入り口まで戻ってきていた。

「てい、ジャンプ!」

 転移トラップをジャンプしてかわし、外へ。

「――

 どこだ、ここ?」

 森の中。

 見渡す限り、うっそうと茂ったなんだかわからない木、木、木……それらが、俺をぐるりと取り囲んでいる。

(幻覚、なんだろうな……さっきとぜんぜん違う光景になってるけど)

 問題は、だ。

「ええと、どっちに向かって幻覚を消せばいいんだっけか?」

 と。

 黒い風が、こちらを取り巻くように吹き抜け、一人の黒装束の男に変わる。

 ――岩小人の忍者、トゥト。

「申し訳ない。それほど時間を稼げなかった」

「げ。もう来たの?」

「ミスフィト――我が敵対する魔人が阻んでいるが、すぐ来る。

 なにか策があって逃げていたのではないか、少年? 聞かせてもらいたい」

「ああ。とりあえず、センエイたちと合流すりゃなんとかなるかと思ってな」

「……なるほど。一理ある。外法には外法師だ」

「でも、どっちが娑婆だったか覚えてなくてな。たしか、消えろって念じてそっちに走ればいいんだったよな?」

「消した直後に一瞬だが現実の光景が見える。その瞬間に、そちら側に向かって走り出すしかない」

「おい、限度があるぞ! なにか策があるなら急げ!」

 後ろから、ミスフィトのおっさんの声がした。

 俺は覚悟を決めて、念じた。

「幻像よ、消えろおおおおおおおおおおお!」

 瞬間。

 ばきばきばきばき……というにぶい音とともに、世界が唐突に崩れ出した。

「――!」

 あたりを見回す。

 空が割れ、森にひびが入り、大地が崩れ去っていくそのなかで、次第に視界に通常空間の光景がもどってくる。

 ……こっちか!

「だああああああああっ!」

 全力で走る。

 いったん崩れた幻影が、足下でどんどん再構成されていくのがわかる。

(間に合え――!)

 ただそれだけを願いながら、無心に駆け抜ける。

 そして――だんっ! と、固い地面に足が着いた。

「あ、おかえりー。ライ兄ちゃん」

「って、トゥトもか。それに――なんだ、もう一人いるのか?」

 マイマイとペイはのんきに言ったが、

「それどころじゃねえ! 後ろを見ろ、俺の後ろ!」

「へ?」

 後ろを見たマイマイが硬直する。

 トゥトとミスフィトの後ろに、禍々しい――すさまじい気配をまとったモノが、すぐそこに迫ってきていた。

 ペイがどなった。

「こぉらライ! てめーなに引きずってきやがった!?」

「サリだサリ! なんかすげー暴れてるんだって!」

「な……なんだってぇ!?」

 センエイはそんな光景を、面白くもなさそうに見ていたが。

「二番目かー。まあ、悪いとまでは行かないかな」

「なに言ってんだ?」

「この結果は、予想していた中で二番目にいい結果だって言ってんだよ。ライくん」

「…………。

 一番いいのは?」

「君がくたばってくれれば最善かなって」

「そんなこったろうと思ったよちくしょう!」

「まあまあ。生き残ってきたのは仕方ないとしてだ」

「仕方なくねえ! 僥倖だって言え!」

「覚悟を決めろよ、ライナー・クラックフィールド。決戦の幕は、まだ上がったばかりだ」

 思ったよりまじめなセンエイの顔に、言葉を飲む。

「おい……そろそろ説明してくれよ。あの異常な殺気をまとったサリは、いったいなんなんだ?」

「おや。そういえばこの場には、未熟者が多いんだったな」

 ペイの言葉にセンエイはおどけて、それから――宙に浮き上がり、無表情にこちらを見るサリを指さして、告げた。

「なら覚えておけ。あれはな、ああいう存在を、我々魔人たちは古来より『魔王』と呼んでいるのさ。ペイ、マイマイ」

【雑感】

この作品は最初の計画ではゲームの予定だったと、前に述べましたが。

基本的にはアドベンチャーパートを挟んでダンジョンアタック、を繰り返す予定でした。

なので弧竜の草原の洞窟やら、岩巨人の洞窟やら、今回やらとやたら洞窟が多いのですが……

ライ、よく見ると洞窟から毎回逃げてますね。そういう星の下に生まれたんでしょうかね。

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