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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
三日目~五日目:悪党、洞窟をさまよう
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五日目(2):悪党、逃げる

 洞窟の奥にて。

「あうー、このどーくつじめじめして嫌いー」

「我慢しろ。仕事だろうが」

「ったってさー。なんでこんなヤバい仕事やんなきゃいけないわけー?

 あのじーさんさ、ぜったいヤバいって。いまのうちに逃げといたほうがいいよ、ミスフィト」

「我慢しろ、プチラ。

 ……というか、既に受けた依頼だ。キャンセルは利かんぞ」

「ううー。最初から強く反対しとけばよかったー」

「金払いはいい相手だったからな。その分、多くを要求されるのは仕方のないことだ」

「あー、それはそうだねー。前金見たときには思わずあたしもニヨニヨしちゃったのよ。

 って、そのせいでこのザマだけどね。世の中、おいしい話には裏があるんだよねえ」

「少し黙れ。プチラ」

「およ? なになに、敵?」

「……どうやらそのようだ。

 出てこい。隠れているのはわかっている」

 声を掛けられ、吐息。

「――心外ね。

 わたしは隠れたつもりはない。あなたたちが鈍くて気づかなかっただけでしょう。ミスフィト」

「げ、この声は……」

「サリ・ペスティか。

 奇遇だな、と言いたいところだが――実際には、どうも予知されていたようだな」

 つぶやいて、ミスフィト――蒼の獣人は半身に構えた。

 蜃気楼(ミラージュ)のミスフィト。

 幻影使い(イリュージョニスト)であり、その視覚効果を用いた格闘戦を得意とする、異端の魔人だ。

「うげげー。ホントにサリじゃん。

 やだなー。こういうめんどい相手とは戦いたくないんだよー。見逃してくれないかな」

「馬鹿を言ってないで戦闘準備をしろ、プチラ。

 この相手は遊べる人間ではない。それはわかっているだろう」

「へーへー。でもさー、いくらサリでも一人で来るのは不注意だと思うなあ。

 ほら、なんというかさあ。これ、2対1じゃん? みたいな」

 にへらーと笑いながら、単分子剣モノフィラメント・ブレードを抜き放つ虹小人の少女――プチラ。

 金剛殺しダイヤモンド・ブレイカーとも言われるその硬剣を用いた容赦のない殺戮に定評のある、強大な魔法剣士だ。

 わたしはそんなふたりを見て――こくん、と、首をかしげた。

「2対1……?」

 同時に。

「わ……!?」

「な、に!?」

 わたしの命を受けた短刀総計28本が、周囲の床から一斉に浮き上がった。

「2対29、の間違いでしょう、プチラ。

 たったふたりで、わたし――『千手観音(サウザンドアームズ)』に勝てるつもりかしら?」

「うげげげげ。本気と書いてマジだ。どーしよミスフィト」

「無駄口を叩くな。

 ……いかにサリ・ペスティと言っても、28本を同時に操りながら通常の技能は発揮できまい。勝負のしどころはある」

 静かに言って、じり、とミスフィトは半歩だけ間合いを詰める。

「そう。退く気はない、か。

 なら、こちらも本気で行かせてもらう」

「プチラ、来るぞ!」

「うえーん、だから嫌だって言ったのにー!」

 暗闇の中。

 人知れず、死闘が始まった。



------------------------------



「えーい、超スーパーロイヤルゴージャスデリシャスハイパーウルトラ……ちょっぷー!」

「うわ!?」

「くっ!」

 叫びながら放たれた蹴り――から放たれた、なんだかよくわからない光線が、ぎりぎりかわした俺とジロロの横をすり抜け、天井にぶち当たって大爆発。

 ――うわあ。当たってたらコナゴナだよ、アレ。

「気を抜くな! 来るぞ!」

「ていやー、超必殺ゴッドファイヤーデリシャスるんるんハンマーぱーんち!」

「ぐわ!?」

 ばこーん、と常識外れな爆音がして、鎧をべこっとへこまされたカシルが身体ふたつ分くらい吹っ飛ばされる。

「く、くそっ! こいつ、本当に人間か!?」

 が、即座にカシルは復帰。タフだ。

 相手は余裕の笑顔で、

「あれあれ、もうバテたのカナ? 体力ないなぁ」

「くそ――バケモノめが!」

「そのせりふはよく聞くけどねー。そう言ってから、長く生き延びたひとはあんまり多くないよ?」

「魔女! どうして戦わないのです!? あなたの魔力の使いどころでしょう!?」

「――――」

 ジロロの叫びに、しかしセンエイは無言。

 そして答えたのは、なぜかフレイアだった。

「無茶言わないでよねー。彼女も、ちゃんと働いてるよ?」

「なんだと?」

 フレイアは、のんきな笑みを浮かべて言った。

「あの子は知っているんだよ。わたしが使える、最強の術をね。で、それを封じるために待ちかまえているわけ」

「そこまで知って、なぜこっちを狙い撃ちにしない? 私を殺せば貴様の目的は達成されるだろう」

「まあねー。けど、それなりに強いんだよこの子たち。順番に行こうと思ったんだけど、つい手間取っちゃった」

 センエイの言葉にけらけら笑って、フレイア。

「てーことでさ。もうそろそろ、決着つけてもいいかなとは思ってたんだけど。

 意外と早かったね。ねえ? ストーカーくん」

「まあ……いちおう、ね。なんとか追いつけた」

 答える声は、後ろから聞こえた。

「シン……か?」

「遅いぞシン! おまえ、どこほっつき歩いていやがった!?」

 センエイが怒鳴る。

 シンは小さく肩をすくめて、

「そこの彼女の気配を見つけたのでね。追いつめようとしたんだが、かえって手間を食った」

「そうそう。けっこうしつこかったんだよぉ。わたし困っちゃった」

 てへへ、と舌を出してフレイアは言い、そして軽く笑った。

「それにしても――ただものじゃないとは思っていたけど、まさかキミとはね。ホルサの剣士」

「……気付いたか」

「そりゃ気付くよ。キミの先代、何人も殺してるもん。わたし。

 でも、いいのかな? キミ、真儀解放(クシャトリヤ・ブート)しないとわたしの相手はできないでしょ? それは白雪(スノウ・ホワイト)を呼び込むと思うけど」

「構わない。どうせ彼女の来訪は何日も先だ。そのときまでには全部終わっている」

 ぱちん、と鞘から剣を外す音がした。

 同時に、烈風のような神気がシンから放たれ、一直線にフレイアのほうへ向かう。

(うっ――わっ……)

 横を通られただけで怖気が走るほどの凶気。

 それを悠然と受けて、フレイアは笑った。

「恐いなぁ。ホントにやる気だよ、この子」

「覚悟しろフレイア・テイミアス。おまえの秘術はセンエイが封じている。勝ち目はない」

「おや、言うね。じゃあわたしも本気出しちゃおっかな」

「本気だと……!?」

「そうだよ。キミみたいに2000年前から進歩してないひとは知らないかもしれないけどさ。

 分割召喚(セパレイション)って知ってる?」

「分割?」

「そう。失敗召喚のときにみんながやっていることだよ。対象の一部だけを召喚する技。召喚相手はけっこう痛いみたいなんだけどさー」

「あ、あ、あ――!」

 悲鳴じみた声をセンエイが出した。

「わかるよね? そこの子は召喚予約を利用してわたしの召喚を邪魔しているけど、そこでリザーブされるのはせいぜい四分の一。

 残る四分の一はその子の召喚を邪魔するために取っておくとして、残り二分の一が――」

「ライ氏、ア・キスイを連れて逃げろ!」

「な、あ、え?」

 いきなりシンが上げた声に、立ちすくむ。

「早く、手遅れにならないうちに逃げるんだ! 形勢はいま、まさに逆転しつつある――!」

「わ、わかった!」

「え、ライさま――きゃっ!?」

 見ると、カシルが彼女を抱きかかえ、肩の上に乗せていた。

「このほうが速い。文句はないな?」

「いいでしょう。なにかあればこのジロロが対処します」

「ともかく走れ!」

 言葉に、全員がいっせいに駆けだす。

「さぁて、仕事だよ旦那! 冥府の底から出ておいで――!」

 ずしん、とした鬼気に背中を押されるようにして。

 無我夢中で走った。



「で、当然迷ったな」

「言うな……頼むから」

「方向を確かめずに走ったのは致命的ですね。せめて、前に来た方向に行けばよかったのですが」

 カシル、俺、ジロロ。

 全力戦闘の後の全力疾走である。三人はぜーはー言いながら、床にへたり込んでいた。

 なんとか逃げられたのはいいものの、これで本格的に位置不明だ。

「あのバケモノの気配にびびっちまって、なんにも考えられなかったからな……なんだあれ」

「おそらく、ヴォルド・テイミアスだろう」

 カシルが肩で息をしながら、言う。

 ジロロも必死で呼吸を整えながら、問うた。

「なんですか、それは?」

「『死霊の大王』と呼ばれる、恐るべき怪生物だ。

 あまりにも強大過ぎて、過去にひとりしか完全召喚に成功した者はなく、故にその成功した魔女は『花嫁』と呼ばれるようになった――と、聞いたことがある」

「それがあのフレイアとかいう魔女ですか……」

「まあな。

 名を聞いた時点で気づくべきだったな。齢1500の大魔女にはとても見えなかったが、あの強さは本物だろう」

 ぽん、と俺は手をたたいた。

「そっか。老人ボケ起こしてたからあんなにバカだったのか」

「いや、老人ボケかどうかは知らんが……まあ、恐るべきバカだった。あの魔人たち、きちんと逃げ延びられただろうかな」

「しぶとい連中だから大丈夫だろ。たぶんな」

「だと、いいんですけど……」

 言って、ジロロは首をかしげた。

「とりあえず、いまは我々の心配をしたほうがよいでしょう。どうします?」

「どうします……ったってなぁ。いま走ってきたほうへ戻るか?」

「追ってきたフレイアさんとはち合わせ☆――という、楽しい結果が待っていそうですね」

「とすると、多少迂回していくしかないが……」


 ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……

 ずしん、ずしーん、ずしーん……


「「「「…………」」」」

 キスイも含めて全員、沈黙する。

「いまの声……近くなかったか?」

「すっかり忘れていたな……そういえば。このあたりに巣があったんだったか、洞窟緑竜」

「なんだかわかりませんが、だいぶ差し迫った危機のようですね」

「え、え? え?」

 カシルはしぶい顔で聞き耳を立て、

「しかもこの音。単体じゃないな。複数で包囲している感じだ」

「シャレになってないな、それは……」

 そこで、ふう、とジロロがため息。

「やむを得ません。一体だけなら私でも時間を稼げますから、その間にみなさんは包囲網を抜けてください」

「死ぬ気か!?」

「まさか。

 だいじょうぶ。これでもけっこう強いんですよ、私」

 自信ありげに笑う。

 ちょうど、遠くに不気味な緑色の陰が姿を現したところだった。

「任せたっ! カシル、キスイを頼む!」

「了解した!」

「わ、わわ、ジロロ――!」

「頼みます、皆さん……!」

 かくして。

 またも不毛なマラソン大会が始まった。

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