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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
三日目~五日目:悪党、洞窟をさまよう
30/103

五日目(1):悪党、馬鹿と出会う

 ばったり。

 遭遇は、まさに唐突だった。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 むに。

 目の前にいるキスイっぽいのの頬をつまんでみる。

 ぐにぐにぐに。

「いひゃい、いひゃいれふ~~」

「ほっぺたは実在する。てことは、幻像の線はナシか……」

 ――殺気。

 とっさにその場を飛び離れる。直後、ずがんっ! という音がして、俺とキスイの間の地面にハンマーが突き刺さった。

「キスイさま、ご無事ですか!? ああ、おいたわしいっ」

「殺す気か、てめえはっ!」

 直撃していたらとりあえず無事でない打撃に冷や汗が出る。

 女はハンマーを大きく掲げ、びしぃっ、とこちらを指差した。

「だまらっしゃい! この裏切り者っ」

「裏切り……者?」

「そうです。その女と結託してキスイさまのだいじなほっぺに破廉恥ないたずらを――」

「待てこら、誰が破廉恥だっ!」

「ていうか、なんで私がほっぺにいたずらするために奴と結託しなければならないんだ?」

「正論ではあるが……とりあえず、そういうことにしておけば勝手に敵がひとり減るわけだし、黙って見ていたらどうかね」

「その方針は賢いとは思うが。なぜ貴様がそれをそそのかす? 魔女」

「ライバルを減らすいい機会だからな。ライくんには可哀想だが、ここはひとつあきらめて散ってもらう方向で」

「勝手に散らすなっつーかこいつを止めろバカたれー!」

「あ、あのう……とりあえず、みんな落ち着きましょうよ」

「ああ、おいたわしやキスイさま――こんな、ちんぴらごろつきどもに包囲されてしまうなんてっ。私だけはいつでもあなたの味方ですからねっ」

「いいからとりあえずどいてください、ジロロ」

 こめかみを押さえながらキスイは女を押しのけ、カシルの前に立った。

「あなたは、先ほどの戦士の方ですね」

「左様。名はカシル、家柄名はヴァロックサイトであります、『生贄』」

 ひざまずいて、カシル。

「ヴァロックサイトの君よ。なぜわたしを狙ったのか、お答え願えませんか?」

「我が雇い主の命令です」

「雇い主――?」

「カミルヘイムの君です。彼は『生贄』を帝国へ取り戻したいとのことです」

「それでいきなり戦争を仕掛けたのですか。女王(クイーン)の意思を無視した振る舞いは感心しませんね」

「返す言葉もありません。

 が、我が雇い主にはまたべつの言い分があるやもしれません。それに私は、雇い主に反対する権限がありません」

「……そうですか」

 目を閉じて、キスイ。

「どちらにしても、わたしは現状であなたたちを信頼できません。いったん里へ帰ります」

「致し方ありません」

「そして、あなたも来てください。ヴァロックサイトの君よ」

「捕虜、というわけですか」

「いいえ」

 ほほえんで首を振る。

「あなたには交渉の仲介役になってもらいます。あなたの雇い主と、わたしたちとの」

「それは――」

「岩巨人族が無駄に争い合うのは女王(クイーン)の意に沿いません。

 協力していただけますね?」

「……承知しました。『生贄』」

 驚いたことに、あっさり話がついてしまった。

「なんだよ。さっきと違ってずいぶん聞き分けがいいんだな」

「おまえと『生贄』だけであればこうは行かなかっただろうがね。三人が相手では勝ち目がない」

「ほうほう。話の通じる相手で助かるね」

「……話っつーか、武力だけどな。どっちかと言うと」

 まあ、とりあえず危機は脱したようなので、それについては文句の付けようもないが。

「さて、それじゃあさっさと帰るか。

 集落までどれくらいかかる?」

「一日くらいだな」

 待て。

「そ、そんなに遠いのかよ?」

「行きは集落にあった《門》が使えたんだがなぁ。ああいう設置式転移装置はたいてい一方通行だから。

 そっちは? おまえも《門》を使ってきたようだが、帰る方法とかはないのか?」

「無理です。残念ですが」

「そうかい。

 外だったらオオワシでも呼んで乗っていくこともできるんだが、洞窟じゃあなぁ。ハルカめ、飛ばしすぎだっての」

 頭を掻きながら、センエイ。

「ともかく、今日は歩けるだけ歩きましょう。それで、疲れてきたら野営するということで」

「あいよー」

「ああ、キスイさまが野宿なんて……よよよ、おかわいそうに」

「……まあ、べつにいいけどさ」

「む。なんですかそのあきれ顔は。誠意がありませんね?」

「いやおまえ恐いからとりあえずハンマーしまえっての!」

「すきありっ」

「ひゃややややや?? あ、あの、センエイさんちょっとそのっ」

「あー! なにやってますかこのヘンタイ女っ」

「……にぎやかな道中になりそうだな」

「というか、俺はもう疲れてきた……」

 ため息をひとつ。



 揺すられて、目が覚める。

「交代」

「あぁ――わかった」

 あくびしながら起きる。

 センエイは、その場でごろりと寝転がって、そして寝息を立てはじめた。

 ……早いよ。

(まあ、疲れていたのはわかるけどさ)

 見張りのローテーションはジロロ→センエイ→俺だから、この後は休みなしだ。

 まわりを見回すと、キスイを抱きかかえるようにして眠るジロロが見える。

(……あれ?)

 カシルの姿は――ない。

 困った。

「逃げた……か?」

「まさか」

「どわっ!?」

「静かにしろ。『生贄』が目を覚ます」

 後ろにいたカシルが、肩をすくめて言った。

「びっくりした……なんだよ。起きてたのか」

「ああ。

 実はだいぶ迷ったんだがな、逃げるかどうか。だが結局は、さっきまで当直をしていた魔女が恐くて、逃げられる隙がなかった」

「……恐い?」

 まあ、魔女だから強いし、どっかキレてるのは事実だが。

(あのバカが恐い……うーん)

 首をひねっていると、カシルは軽く笑った。

「まあ、理解できなければいいさ」

「なあ。ひとつ聞いていいか」

「なんだ?」

「あんた、なんのために戦ってるんだ?」

「給料」

「……即答かよ」

「切実な問題でね。貴族の家長は大変なのさ。一族郎党の面倒を見なきゃならん」

「あんた、貴族だったのか」

「そりゃそうだ。補足するとね、岩巨人で家柄名を持っているのはほとんどが貴族だよ。

 もともと、我々には人間みたいに、長い名前を持つ風習がないんだ」

「へえ……」

「それにしても、貴族ってのは義務が大きくてね。私の家のように没落していたりすると、金策に困ることもしばしばだ。

 だから、こうして傭兵のまねごとをしていたりする。雇い主が多少気にいらなくても文句は言えんよ」

「『生贄』の意にはそぐわなくても、か」

「そういうことだ。

 まあ、べつに問題はないだろう。なにも殺すわけじゃない」

「悪役のせりふだぞ、それ」

「そうだな」

 ……あっさり肯定されてしまった。

「ま、俺も大悪党を目指す身だし、えらそうなことは言えないけどな……」

「なぜそんなものを目指すのか、私には理解しがたいがね」

「うるせえな。小悪党目指すよりはいいだろが」

「だからなぜ悪党にこだわる?」

「善人の大物なんてろくなもんじゃない、っていうのがクラックフィールド家の家訓だからな。大物目指すなら悪党だろ」

「家訓ねぇ……家に縛られて自分の方向性を制約するのもくだらないと思うが」

「あんたが言うなよ」

「違いない。――はは、一本取られたか」

 苦笑。

「しかし……キスイも苦労してるな。ちびっこなのに」

「『生贄』だからな。重要人物というのはいつでも苦労するものだ。

 とはいえ、少々驚かされたが」

「なにが?」

「お年に似合わず、言説がしっかりしていらっしゃる。私の妹などとはだいぶ違うな」

「周囲にろくでもない大人がいるとしっかりするもんだよ、子供ってのは」

「またハンマーで狙われるぞ、そういうことを言っていると」

 くくく、とカシルは小さく笑って、

「とはいえ、それより先にひとつやっかいなことがありそうだな」

「ああ。……やっかいなこった」

 遠くから、ぼう、と近づいてくる鬼火を見ながら俺はうなずき、そして剣を抜いた。

 カシルも剣を抜き放ちつつ、大声で言った。

「全員、起きろ! お客さんだ」

「……ぐー」

「起きろ、魔女!」

「……すぴー」

「蹴り起こしたほうが早いんじゃないか?」

「そんなことしたらコロスよ?」

「つーか起きてんじゃねえかテメエ!」

「わはは、当たり前だ。ていうかこんな殺気受けて寝てられるかっての」

 ……む、むかつく。

「お客さんですか……」

「あ、あの。敵なんですか?」

 残りのふたりも、起きあがってきたらしい。

「正体不明です。魔物の類かもしれません」

「いやぁ、それはちょっとないんじゃないかなぁ」

 カシルの声に応えて、女が言った。

「ほら、人の姿してるっしょ?」

「……化けているかもしれん」

「むう、疑り深いね。そんなんだと男の子に嫌われちゃうぞ?」

「ならば名を名乗りたまえ。化けているのでなければ、それくらいはあるだろう?」

 センエイの言葉に、女はちょっと困った顔になった。

「んー、どーしよっかなー。教えてあげたほうがいいのかなぁ」

「いいえ、けっこう。撃退すればよいだけのことですから、貴女の名など知る必要はありません」

「わー、すごい自信。そこまで言われるとかえって教えたくなっちゃったなー」

 ジロロの言葉ににやりと笑って、女は髪をかき上げた。

「魔女、フレイア・テイミアス。『テイミアスの花嫁』って言えば、まあそれなりに有名かな?」

「は!」

 センエイが鼻で笑う。

「運がいいのか、悪いのか。サリ・ペスティの次はフレイア・テイミアスか。最近、そういうネタがどうにも多いね」

「あれ、ひょっとして信じてなかったりする?」

「いいや、信じるさ。騙りと思い込むには、おまえの殺気はリアル過ぎる」

「有名なのか?」

「割とな」

「にゃはは。そんなこと言われると照れちゃうね」

「で、その有名人がなんの用だ」

 センエイの言葉に、フレイアはふと首をかしげた。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……なんだっけ?」

「おまえ、バカだろ絶対!?」

「わー、いやいやいや、バカじゃないよ。バカじゃ。うん」

 あわてて首を振って、それからまた考え出す。

「んー、『貴様の戦闘能力が頼りだー』って言われたのは覚えてるんだけどぉ……なにやってくればいいのか、聞いた気がしないんだよねー」

「頭痛くなってきた……なんだこいつ」

「言説による精神攻撃とは……なかなか強者ですね」

「いや、あれはなにも考えてないだけだと思うが」

「うー、なんかバカにされてる気がするよー」

 困った顔をしつつ、フレイア。

 それから、ぽん、と手をたたいた。

「まあ、とりあえず皆殺しにしてから考えればいいよね。決めた決めた♪」

「なぁ……やる気がどんどん削げていくんだが」

「油断するな。来るぞ!」

「はーい。いっきまーすっ」

 そして。

 デタラメな戦闘が始まった。

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