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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
二日目:悪党、宝探しをする
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二日目(15):決戦! 草原の覇者・弧竜-3

「サリ!」

(くそ、言わんこっちゃないっ……!)

 必死で走る。

「ライ氏、危険だ!」

 こっちに気づいたらしく、シンが制止の声を上げる。

 無視。

 そのまま地を駆って、落ちてくるサリの真下に滑り込んだ。

 どんっ。

 落ちる身体を受け止める。

「サリ、おい、生きてるか!?」

「……ぁ」

 よかった。少なくとも死んではいない。

 背中にかなりひどい火傷を負っているみたいだし、衝撃でいくつかの骨が折れているようだが、意識はちゃんとあるみたいだ。

 と、視界の隅に、なにか不気味なものが映った。

「……げ」

 竜は、まだ生きていた。

 背中から腹にかけてをすっぽりと失っていたが、その欠けた部分に透明な管のようなものがいくつもできていて、そこを血が流れている。

 ――魔力で、無理やり生命をつなぎとめている。

 そいつは憎悪に満ちた目でサリをにらむと、とどめを刺すために地面をこちらへ這いずってきた。

「させるかよっ!」

 サリの身体を地面に降ろし、剣を抜く。

 剣の帯びる白光が、夜の草原を圧して輝いた。

 警戒したのか、竜が前進を止め、こちらを威嚇するようにうなる。

「……だ……め」

 と、サリが小さくつぶやいた。

「いまはしゃべるな。傷が悪化するかもしれない」

「……だ、め……ライ、いま戦っちゃ……あ、あ……!」

 サリの赤い片目がにぶく光り、その表情が苦しげにゆがむ。

「だめ……見えるの……未来は、まだ変わっていない……! ライ、逃げて……殺される……」

「聞き分けのないやつだな」

 はぁ、とため息。

 と、弧竜が吠えた。

 ぎぃがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

「――!」

 間近で聞いて、全身が総毛立つような恐怖を覚える。

 ……勝てない。

 これはまともな生命じゃない。原初の刻から最強の代名詞であり続けた竜族という種の、恐るべき長老格だ。

 それを、肌で実感する。

「けどなっ!」

 恐怖を振り捨てるように。

 向かい来る竜に向かって、俺も吠えた。

「できっこないと最初から諦めるな、ってのが、クラックフィールド家の家訓なんだよっ!」

 ぎああああああっ!

 竜の吠え声。

 それに合わせて、俺も駆けだした。

「うらあああああああっ!」

 駆け寄る俺を見て、竜は腹の打撃腕を伸ばし、こちらに向けて打ち付けてきた。

 でたらめに繰り出されるそいつらを、ひとつ、またひとつと打ち払い、たたきのめし、ねじ伏せていく。

 だが、相手の攻撃はそれだけではなかった。

 身をひねるようにして勢いをつけ、竜の身体が90度近くまでひねられる。

 その尻尾が、上空から打ち下ろすようにして、俺にのしかかってきた。

 この質量を受け止めるのはさすがに無理だ。横に大きく飛びのく。

 が、着地しようとしたその軸足を、打撃腕が払った。

「な、しまっ……!」

 即座に、いくつもの打撃腕が一斉に俺を襲う。

 かわせない。

(う、うわっ……)

 もうだめか、と覚悟したその瞬間、竜の腹部に一本の矢が突き刺さった。

 ばちぃ! と快音がして、竜が苦悶のうめき声を上げる。

 その隙に立ち上がって、俺は矢の飛んできた方向を見た。

(この攻撃は、リッサ?)

 思ったそのとき――俺は、竜が自分とおなじ方向を向いていることに気が付き、戦慄した。

 吐息を吐こうとしている。

「リッサ、逃げろっ!」

 叫ぶが、間に合わない。竜は口を開き、その口から赤い光がこぼれ出て、

 ――そこに、数十もの光の束が降り注いだ。

 ばちばちばちばちっ! という、霰が降るような音とともに竜の表皮が傷つき、またも竜がくぐもった悲鳴を上げる。

「見ろ! 竜が生命維持に大量の魔力を使っているいまなら、ふつうの術でも十分に通用するぞ!」

「よし。全員、全力で竜を攻撃! ライ氏を援護しろ!」

 シンの言葉とともに、先ほどに数倍する規模の攻撃魔術が竜を乱打し、竜は絶叫して身悶えた。

 ――いける。

 この状況なら、勝てるかもしれない。

「よっしゃあ! やってやるぜ!」

 叫んで、俺はまた突撃した。

 打撃腕を払って近寄り、剣を腹に向けて思い切りよくたたきつける。

 ざく、と、にぶい手応えがして、剣が腹に食い込んだ。

 ぎぃおおおおおおおおっ!

 痛みに逆上したのだろう。竜が、大きく飛び跳ねた。

 そのまま俺のところに落下して、押しつぶそうとする。

「ライ、逃げてっ……!」

 サリが叫ぶ。だけど――逃げられるスピードじゃない。

 だったら、

「いちかばちか……やってみっか!」

 さっきグリートから教わったとおりに、力の集積をイメージする。

 二回目だから、慣れたのだろう。すさまじいスピードで光が剣へと収斂していった。

「食らえ! この、ライナー・クラックフィールドの必殺奥義っ!」

 向かってくる竜に対して、吠える。

 剣を上に掲げ、

「……っらあああああああああっ!」

 集まった光を、襲い来る竜の身体にたたきつけた。



 それは、光の奔流だった。

 強烈な白光が、竜の胴体部に側面から突き刺さり、爆ぜるようにして抜けた。

 衝撃で、竜の身体がふたつに分かれて吹き飛ばされる。

 そして。

 今度こそ、完全に竜は起き上がってこなかった。



------------------------------------



(未来が、変わった……?)

(そんなはずはない。わたしが見る未来を変えられるのは、わたしだけのはず……)

(それ以外に、そんなことができるとすれば……)

(あの剣の、力……なの?)



------------------------------------



「サリっ!」

 駆けつける。

 サリの呼吸は浅く早く、重体であることは見た目からも明らかだった。

「ライ……よかった、生きていて……」

「だからしゃべるなってば。ああもう、だれか手当てのできる奴は――」

「はいはい、邪魔者はどいたどいた」

 センエイが割って入った。

「サリ、意識はある?」

「……ある」

「そっか、よしよし。じゃあちょっと傷の状況を見るから、痛いけど我慢するように」

 言って、センエイは手馴れた調子でサリの身体を調べ始めた。

 と、ふとこっちを振り返って、

「言っておくが、合意の上でサリに触れてらっきー、とか思っているわけじゃないぞ、私は」

「……そんなこと思っていたのか?」

「いやだから思っていないんだってば」

 聞いてもいないのに、なぜか力説する。

「どうでもいいから、早くサリを見てやれ」

「へいへい。……と言っても、もう終わりかな。肋骨数本と右腕の骨、あと背中の火傷。意外と軽傷だね。マントに防御術かけてた?」

「かけてた」

「そうか。ま、サリの回復力なら、全快するのにそれほど時間はかからないんじゃないかな。回復するまでちゃんと安静にしているように」

 言いながら、センエイはてきぱきとサリの怪我への応急処置をすすめていく。

 どうやら思っていたよりは軽傷らしい。ちょっとほっとした。

 と、

「ライ!」

「おわっ!?」

 がばっ。

 いきなりリッサが抱きついてきた。

「やった! やったよライ! ボクたち、竜を倒したんだよっ!」

「ちょ、ちょっと、落ち着け、落ち着けっての!」

「ばっかやろ、これが落ち着いてられるかって! すげえ、本当に竜を倒しちまったぜ!」

 いつの間にか、あたりはお祭り騒ぎみたいになっていた。

「うおお、すっげー! こいつぁお宝の山だぜ、こんちくしょう!」

「ぴっかりまるまる、ひしひし~♪」

「こらこら君たち、抜け駆けは許さんぞ。どうせ宝の山は逃げないんだから、落ち着いて待ちたまえ」

「お宝……って、なんだ?」

「弧竜の死体だよ」

 シンが解説してくれた。

「竜鱗と背骨はほぼ原型をとどめたままだし、内臓もいくらか無事なまま残っている。加工して運べばたいした儲けになるだろう。

 まあ、ライ氏の殺し方がうまかった、ってことかな。今回はお手柄だったね」

 言って、ぽんと肩をたたく。

 ……なんか、釈然としない。

 浮かない顔に気がついたのか、シンが首をかしげた。

「どうしたんだい、ライ氏?」

「いや……竜を呼び込んだのは俺の行動に原因があったわけで、それで誉められても、ちょっと……なあ」

 普段なら大威張りで自慢するところなんだけど、さすがにサリが大怪我を負ったこの状況でそれは気が引ける。

「なに、自分で決着をつけたんだから、文句を言われる筋はないさ。ちがうかい?」

「そうそう、おわりよければすべてよし、ってねっ」

「……どっから湧いて出た、マイマイ」

「あ、マイマイ。君は明日の朝ごはん抜きね」

「えーっ、なんでぇ?」

「魔人の掟は、自分で解決できない揉め事は起こさない、だよ? それを破ったんだから、罰を受けて然るべきだね」

「うーっ、そんなのひどいよーっ」

「まあまあ、いいじゃねーか。それに、俺らだってこいつの行動を監督する役を新入りに押し付けて放っておいたんだから、責任がないとはいえないだろ?」

「そうそう。ペイ、いいこと言うわねっ」

「だから、こいつの分け前ゼロくらいで許してやろうぜ」

「ちょ、えーっ!? なにそれ、それってどういうことぉ!?」

「ぐはは、よかったじゃねえかよマイマイ。損しないで済んだぜ」

 周囲が、どっと笑った。

 気がつけば避難していた隊商ももどってきており、あたりは本格的にお祭りムードに包まれている。

 俺は、さっき自分で吹き飛ばした竜を見た。

 その胴は完全に両断され、もはや生きていないのは明らかだ。

(なんか、とんでもねー剣拾っちまった気がするなー)

 ……いや、まあ値段の時点でとんでもないのはわかってたけど。

 ふう、とため息をついて、俺はふと足元の地面に目をやって、

「――あ」

「きゅう……」

 いつのまにそこにいたのか、目を回して気絶したグリートの身体を思いきり踏みつけていた。



-------------------------



「ふむ――

 手前の出番は、なかったな。いや、よかったよかった」

次回、三日目~五日目は、9月末更新再開予定です。


【追記】(2017/09/17)

今日から更新再開します。

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