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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
二日目:悪党、宝探しをする
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二日目(14):決戦! 草原の覇者・弧竜-2

「ハルカはレーヴァティンの召喚準備! 他は全員、この場を死守しろ! ハルカに近づかせるな!」

 シンの号令とともに、一斉に魔人たちが動きはじめる。

 弧竜は彼らの動きに気づいたのか、威嚇するように大きく吠えた。

 その口に灯る、小さな光。

「コゴネル!」

「わかってるって! そら!」

 声とともに、ぶんっ……という音がして、彼らの前に半透明の障壁が現れる。

 直後、弧竜の吐いた吐息が障壁に突き当たった。

 爆発。

「っ、打ち消された!? 一撃でか!?」

「二撃目が来るぞ! 早く!」

「ちょ、ちょっと待て、対応が間に合わないっ……!」

 弧竜の口がかぱっと開き、そこから赤いかたまりが顔を出す。

 きぃおおおおおおおっ!

 吠える。

 それと同時に、弧竜は彼らに向けて炎の弾丸を打ち出した。

「ミーチャ、頼むっ……!」

「さんかく~☆」

 空中を進む炎の軌道が、くい、となにかに引っ張られたようにねじ曲がる。

 どんっ!

 関係ない場所に着弾して、炎は爆散した。

 弧竜のほうは、どうやらそれで吐息は効果なしと見切ったらしい。代わりに宙に浮き上がって、こちらに向けて滑空を開始した。

「! 突進してくる気か!?」

「早っ! ちょっと待て、私の召喚準備はまだ整っていないぞ!?」

 まるで地を這うように低空を滑空しつつ、弧竜がこちらに迫る。

「炎岨よ! 古き約款に従い、我が敵を撃て!」

 コゴネルの呪詛とともに、彼の放った呪符が無数の炎の矢に代わり、竜の胴体を乱打する。

 だが、相手はまったく意に介する気配もなかった。効いたかどうかすら疑わしい。

「おいおいおい! なんつー堅さだよ!?」

「くっ、こうなったら僕が……!」

「おぉっしゃあああああああっ!」

「バグルル!?」

 大剣を大上段に構えたバグルルが、弧竜の突っ込んでくるタイミングに合わせて剣をたたきつけた。

 ずどんっ!

「っつぁっ……」

 バグルルが苦悶のうめき声を上げる。

 その、剣を持つ手から血がにじみ出している。無茶な圧力に耐え切れなかったせいだ。

 だが、弧竜もまた、そこで停止していた。

 その頭部はバグルルの大剣によって傷つき、血を流している。

 ぎぃぃぃぃぃっ!

 空中高く、弧竜が舞い上がった。

「バグルル、大丈夫か!?」

「ああ、まあな。

 けど、剣がひん曲がっちまった。あとでサリに直してもらわんとダメだなこりゃ」

「ったく、無茶しやがる。心臓止まるかと思ったぜ」

 弧竜のほうは、あいかわらず空に浮いてこちらをねめつけている。

「今度は、なにをする気だ?」

「わからない。けど、こっちへの攻撃をあきらめてはいないと思う――」

 そのとき、はるか上空から、ぎぃああああああっ! という悲鳴のような怒号が響いてきた。

「! まさか、落下してこっちを押しつぶす気か!?」

「はん、トカゲの分際でなかなか頭が回るじゃないか。ま、遅いけど」

 言って、センエイは呪印を組んだ。

「呪われた獣の王よ、我が敵に破滅を与えよ! 出でよ、ヴォルド・テイミアス!」

 ごう、と瘴気が空間から流れ出し、そして――



(知ってる。その光景を、わたしは知ってる。

 このあと、大規模な召喚原理で足止めしてから、レーヴァティンの方向付け解放ディレクショナル・リリースで弧竜を打ち倒す。

 けど彼らは知らないはず。その後の展開までは――)

 草原を疾る。

 つま先だけを使って地面を蹴りつけ、またつま先だけで着地し、またつま先で蹴りつける――全力疾走。

 疾走しながら、わたしはなおも考える。

(ぜんぶ、わかっている。このまま放っておけば、なにが起こるのか)

 幻覚のなかで見た、あの死骸。

 おぼろげな印象だったが、だれの死体であるかは一目でわかった。

 ライナー・クラックフィールド。

(魔人たちが弧竜を止められなかった場合、彼がだまって事を見守っているはずはない。ぜったいに、前線に出てくる。

 そして。前線に出てきた場合、もう止められない。確実に彼は死ぬ)

 それは絶対の真実。

 自分がどうあっても防がなければならない、終末の幻想エスカトロジック・ファンタジアだ。

(させない)

 だから、わたしは未来を変えなければならない。

 方法は至ってシンプル。普段はやらないことをやればいい。

 戦闘に最初から参加はせず、ライに釘を刺すことに専念したのがそのうちのひとつ。

 あとは、ライが戦う気になる前に弧竜を打ち倒してしまえば、それで済む。

(できるかな……?)

 難題だ。タイム・リミットが限られている分、ただ打ち倒すよりずっと難しい。

 そんなトライアルを――よりによって。あのような老獪な竜相手に行うなど、馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない。

 ……それでも。可能だと、自分は信じている。

 神官の言葉を思い出す。短時間にあの秘儀(ミラクル)は連続して使えないと、彼女は言った。

『だから、チャンスは一度だけ。それでもいいって言うなら、やってみるけど――』

 心臓が、ばく、ばく、と乱雑に跳ねる。

 ぎりぎりの死闘。自分で意識できるほど、緊張も不安も強い。

 だけど。

(たいしたことはない。いつだって、わたしの戦いはそういうものだ)

「はぁっ……」

 吐息。

 そして、わたしは眼帯の紐を解いた。


 視界が、赤熱する。

 全身が、強大な魔力に侵されてゆく。

 その炙られるような感覚に身を焦がしながら、わたしは目を大きく見開いた。


「ああ――」

 立ち止まる。

 もう、あとほんの数歩で、戦場に届く距離。

 視線の先で、弧竜の放った炎の吐息に直撃され、ヴォルド・テイミアスの頭部が砕け散った。

「ハルカ!」

「わかっています、シン」

 優雅に――彼女はいつも優雅だ――言って、ハルカはその手の先に灯る赤い玉を空に掲げる。

 荒れ狂う魔炎剣レーヴァティンの、方向付き核ディレクショナル・カーネル

 おりしも、難敵を撃ち滅ぼした弧竜が、こちらへのダイブを続行するために身構えたところだった。

 彼女が叫ぶ。

解放(リリース)!」


 瞬間、赤の奔流が一条の槍となって竜を直撃した。


「やった!」

 歓喜の言葉。

 それを聞いてから、わたしはすっ、とみんなの数歩前に進み出た。

「……って、サリ!?」

「おい、どこへ行ってたん――」

 聞こえてくる声を無視して、空の光景を注視する。

 炎に焼かれ、弧竜が悲痛な雄たけびを上げた。

 その竜鱗が、炎の力によって一枚、また一枚と、ゆっくり溶け崩れていく。

 だけど、わたしは見逃さない。

 赤い視界は、見えざるものを見る。いまのわたしには、竜を取り巻く魔力の流れが、はっきりと見えた。

「受け流してる……魔力で、炎の逃げ道を作っている」

「なんだって!?」

 ぎり、と歯をくいしばる。

 効果はあった。けれど、これだけじゃ竜は死なない。

 だから。

「あああああああああ!」

 ずん、と周囲の空気が黒く染まる。

「うわっ!」

「ひゃあっ!?」

「うおおっ!」

「さんかく~☆」

「うあああっ……!」

「……な」

 一切の手加減もなく。

 微塵の容赦もなく。

 ストレートな、殺意を。

 全力で、弧竜に対してぶつけてやった。


 竜がこちらを見た。


 ぐぐぐぐぐ、と、炎に包まれたその顔がゆがむ。

 笑っている。

 ふつうの人間が直撃されればまず間違いなく絶命するほどの悪意にさらされながら、竜は平然とこちらを見返している。

 かまわない。

 わたしに注目して、他の場所に攻撃する気をなくしたならば、とりあえずはそれでいい。

 竜の周囲から、炎が消えていく。

兵装(システム)千手観音(サウザンドアームズ)構築(セット)

 服の中から、たくさんの短刀が出てわたしの周囲を覆う。

陣形(フォーム)天乃川(ミルキーウェイ)』、準備(レディ)

 それらが階段のように形を変え、空へ――あの竜の元へ続く道ができあがる。

 準備はこれで終わり。

 さあ――

 破滅へ挑む、戦いを始めよう。



-------------------------



「だぁぁ、サリ、ちょっと待てぇぇぇ~~~っ」

 ぜーはーぜーはー。

 飛ぶような速度で駆けていったサリを追って走り出したのはいいのだが、当然ながら追いつくはずもない。

(それどころか、筋肉痛が復活してきやがった……うう、踏んだり蹴ったりってやつか?)

 そのとき、ぴかっ、と戦場のあたりが光った。

「え?」

 次の瞬間、無音で広がった炎が、突如として竜を包み込んだ。

 がああああああああああああああっ!?

 竜の悲鳴。

「なんだ、やっぱり直撃しちゃったじゃないか」

 サリのやつがあまりにすごい剣幕だったもんだから、ついつい不安に思ってしまったが、心配する必要もなかったみたいだ。

 ほっと胸をなでおろす。

「まったく、人騒がせなやつだな……」

 安心したとたん、どっと疲れが押し寄せてきた。

 とりあえず、戦場のほうへと歩いていく。

 魔人たちも、もう勝負は決まったということですっかりくつろいで――いない。

「あれ?」

 なんか、様子が変だ。

 シンたちも、それからサリも、みんな一様に空を見上げて、押し黙っている。

 ここから見えるサリの横顔は、弧竜の焼ける炎に照らされて、赤々と……


 紅い、目が見えた。


「え?」

 サリが、眼帯をしていない。

 眼帯の下にあったのは、丸い、宝石みたいな、紅いモノ。

 あれが、目?


 瞬間、そのサリの身体から、どす黒い意志が放出された。


「なっ、あっ……!」

 一瞬、息が詰まる。

 感じた悪寒は、さっきのキモチワルイ死霊に対して抱いたものと似たり寄ったりだった。

 濃厚な、致死性の悪意。

「さ、サリ……!?」

 まるでにらみ殺そうとしているかのように、サリは空を見上げて押し黙っている。

 ふと、その口元が吊りあがった。

 笑っている。

 空の竜と呼応するかのように、彼女は心の底から愉快そうに笑っている。

 ああ。

 ああいう笑いを、見たことがある。


 ――てゆーか、マジギレしてませんか、サリさん?


 やがてゆっくりと。空に道があるみたいに、彼女は天に向かって歩いていく。

 呼応するように、空の竜も炎を振り払い、彼女を迎え撃った。

 ……って、竜、ふつうに生きてるし。

(戦う気なのか……って、それじゃやっぱり行かなきゃダメじゃないか)

 はぁ、とため息をつく。

 正直、竜相手になにかができるとも思えなかったが――それでも、これは俺が呼んだトラブルなのだ。

 サリがなんと言おうと、他人に戦わせて遠くから傍観しているだけじゃ、こっちの矜持に関わる。

(自分のことを自分で面倒を見ることもできないやつは、大悪党じゃないもんな)

 決心して、俺は戦場へと歩いていった。



-------------------------



 跳躍、跳躍、跳躍。

 遠隔操作したナイフを足場として空へ駆け上り、視線は常に竜を捕捉。

 吐息をぎりぎりまで引きつけてかわしつつ飛び上がり、

陣形(フォーム)迦具土(カグツチ)』、実行(ゴー)!」

 それまで足場になっていたナイフ達が赤く光り、一斉に弧竜へと襲いかかる。

 ばぢばぢばぢばぢ!

 それらは弧竜の鱗表面に当たって火花を散らし、竜は少しだけ痛そうな声を上げた。

「……っ、陣形(フォーム)天乃川(ミルキーウェイ)』、復元(リペア)

 すたん、と短刀に着地して、吐息。

(やはり、遠距離ではまともにダメージを与えられないか)

 兵装(システム)千手観音(サウザンドアームズ)

 常時携帯した総計28本の短刀を同時操作して戦う、わたしの専用武装だ。

 細かい相手と一対多で戦うにはよい武器なのだが、こういう強大な相手には火力に難がある。

 とすると、やはり『新月』による近接戦闘を仕掛けるしかないのだが――

(難しい、かな)

 弧竜は近接戦闘に秀でた竜だ。腹に生えた打撃腕は強靭で、その動きはすばやく、力は強い。

 だがそれでも、それ以外の選択肢はあまり多くない。

(まずは逆鱗か。それとも――)

 竜の下腹部、逆鱗と呼ばれる場所は防御の魔力が手薄なことで知られている。

 弓で狙うには絶好の箇所なのだが、いかんせん動きの速い弧竜では狙いが付けづらい。

 だが、近接攻撃ならどうか。

「はあっ……!」

 短刀を、とん、とん、とん、と乗り換えながら、一気に距離を詰める。

 弧竜はわたしをたたき落とそうと、ぐるりと後ろを向いて尻尾を振り回した。

 それを、下に用意した短刀まで落ちて回避。即、階段状に短刀を並べ、跳び上がって竜の下に潜り込む。

 手応えもなく相手を見失ってとまどったのか、弧竜の動きが一瞬止まった。

 その隙を突いて、わたしは短刀から打撃腕へ乗り移り、さらにそれを蹴って飛び上がりながら、『新月』を抜き、

「はっ!」

 ざくん。

 逆鱗の部分が切り裂かれ、竜の血液がわたしの服に落ちた。

 ぐああああああああっ!

 即座、怒った竜が打撃腕をむちゃくちゃに振り回し、右の打撃腕にわたしの胴が引っかかって激しく吹き飛ばされた。

「が、はっ……!」

 大丈夫。予想の範囲内。

 跳ね飛ばされる途中、わたしは弧竜の翼をつかみ、身体を無理やり弧竜の背中に引きもどした。

(よし!)

 狙い通り。うまく上側に回り込めた。

 弧竜は未だわたしが下側にいると思っているのか、尻尾と打撃腕をめちゃめちゃに振り回して暴れている。

 これでは逆鱗に近づくのは難しい――のだが、わたしの狙いはそっちではない。

 元より、逆鱗への攻撃だけで竜を倒すほどのダメージを与えられるとは、最初から考えていなかった。

 わたしは、素早く竜の背中側を移動し、

「はあっ!」

 ざくっ。

 首の付近。さっきのレーヴァティンによって竜鱗の消滅した部分に、『新月』が突き刺さる。

 がああああぁぁぁぁぁっ!?

 弧竜の咆哮。

 怒ったらしい。翼と尻尾が背中をでたらめに打ちはじめた。

 そのときにはもう、わたしは『新月』を手放し、竜の背を蹴って離脱している。

 わたしの役目はこれで終わり。

 あとは――



-------------------------



「理気を司る神ザイタイ・マークフェンケルの御力にて、宣言する――」

 タイミングは、いましかなかった。

 神光を放つ、例の短剣。それは夜の闇のなかで、この上なく鮮明に見える。

 射撃の的としては、申し分ない明るさだ。

「我は天に応ずる者、疑うは時の爪痕、隠したるは聖陰、行いは荒ぶる龍となりて日輪を食らう」

 一撃を外せば、それは致命的だ。敵を倒す方法がなくなるし、この丘に伏兵がいることを竜に悟られてしまう。

 吐息で狙い撃ちされれば、さすがに生きてはいられないだろう。だから、これは命がけだ。

 神官として、こんなところで命を賭けるのは正しくないのかもしれない。

 だけど。

(助けられる人たちを助けないなんて、そんなの、ボクじゃないよ――!)

「力は光のごとく、炎が再生するように、生命は再帰する……」

 弓を引き絞る手が、ぶるっ、と震える。

 気が付けば、額は汗でびしょびしょに濡れていた。

 落ち着かなきゃ。

 落ち着けば、当てられるんだから。

 ぎり、と歯を食いしばり、

 吠えた。

「い……っけええええええ、回帰テンポラリ・リインカーネーション!」

 放つ。



-------------------------



 ぎひぃぃぃぃぃぃぃっ!?

 竜が叫ぶ。

 戦場から離れた、丘の上。そこから放たれた、光を帯びた一本の矢が、竜の背に突き刺さったのだ。

 その瞬間、世界がふたたび真紅で染まった。



 そう。

 一発撃っても効かなかったのなら、二発当てればいいのだ。

 神官に使ってもらったあの時間を遡行する(・・・・・・・)大秘儀(メジャー・ミラクル)があれば、ちょっと前に竜を焼いていた炎を復活させることができる。

 方向付けは、あらかじめ『新月』に呪化しておいた。

 これほどの至近距離でレーヴァティンが直撃すれば――さすがの弧竜も、とうてい生き延びられないだろう。



 自身の背中を焼こうとする業火に、竜は必死で抗った。

 だが、それも無駄なこと。

 しょせん、一介の竜と始原の炎ミスライック・フレイムでは存在の格が違いすぎる。

 存在したという痕跡を根こそぎ蹂躙され、侵食され、破壊される感触に、竜が悲鳴を上げた。

 轟、轟、轟、と狂ったような轟音とともに、竜の身体が削り取られていく。

 抜けた。

 背中から腹へと炎が貫通し、余波が地上へと降り注いで爆裂する。

 胴に大きな穴を開けられた竜は、そのままふらふらと地上へ落下していった。



 ……ふう。

 一息ついて、わたしは戦闘態勢を解いた。

 いったん気が抜けると、どっと疲労が身体にのしかかってくる。

 ともかく、疲れた。

 馬車に行って、ゆっくりと休もう。

 地面を見る。仲間の魔人たちが、こっちに向かって盛んに手を振っている。

 手を振っている……ちがう、そうじゃない。

 危険を知らせようとしている。

「!?」

 直後。炎が、わたしの背中に炸裂した。

魔術紹介:


1)『レーヴァティン』

系統:召喚術 難易度:SSS+++

聖典世界の果てにあると言われる恐るべき灼熱の地、炎獄回路ムスペルヘイム・サーキットより、その熱源たる「始原の炎」を召喚し、剣の形にして使役する召喚魔術。

なのだが、この魔術はその使用のための必要魔力が∞に発散していることが数学的に証明されており、生身の術者は本来「絶対に使うことができない」という、異様な特性を持っている。

そのため、現在の主たる使用法は、その召喚を途中で打ち切って暴走させ、攻撃魔術として撃ち出すことであり、ハルカの使い方もこの手法による。

主神クラスの神・大巨人も含めてあらゆる「生命」は、この魔術の直撃を受けた場合、なんらかの防御魔術や対策を打たない限り死は免れ得ない。現状、一般に魔術師たちに知られている最高位の攻撃魔術である。


2)『千手観音』(サウザンドアームズ)

系統:付与 難易度:E

『逆さ捻子の虐殺者』の二つ名を持つ大魔女、サリ・ペスティの主力兵装。28本の魔力付与済みナイフを遠隔操作し、足場にしたり攻撃したり身を守ったりする複合戦闘補助兵装である。

難易度が極めて低いことからわかるように、その正体は付与魔術の基本の基本、道具に魔力を付与させて遠隔操作する「端末」と言われる魔術に過ぎない。

たとえ見習いであろうと、付与魔術を勉強したことがある人間であれば、サリの『千手観音』を使用可能である。

のだが、その場合28本のナイフ型「端末」をもてあまし、単に一本一本をゆっくり動かせるだけである。この方面の熟達者ですら、端末は「腕で持ったのと同様に動かせる」レベルが限界であり、28本のナイフを同時にバラバラに動かすような所行は、28本の腕がある宇宙人でないと無理である。

この魔術がサリ・ペスティの代名詞たる所以は、サリの持つ以下の技能:

1)世界最高峰の魔法剣士としての腕前

2)世界最高峰の魔法鍛冶としての腕前

3)28本の剣と本体を同時・複合的に動かして戦える異能

がすべて合わさったが故であり、サリが使っている時に限り、敵対者は「29人の、世界最強クラスの魔法剣士が、世界最強クラスの魔剣を持って襲ってくる」という悪夢に巻き込まれることになる。

さらにこの魔術にはこれを凌駕する秘密もあるのだが、それをサリが使う機会は物語のこの時点では未だ、訪れていない。

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