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神様の剣と懲りない悪党(旧作)  作者: すたりむ
二日目:悪党、宝探しをする
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二日目(13):決戦! 草原の覇者・弧竜-1

 べぎめしゃごりごりごりぐきょっ!

「きゅうぅ……」

「……なかなか豪快に着地失敗したな、おい」

「ご、ふっ……そういう、おまえはなんで……無事……」

「あいにくだが『頭から地面に突っ込んではならない』ってのがクラックフィールド家の家訓なんでな」

「か、家訓は……関係……な……ぐふぅ」

 息を吐いて、それきりなにも言わなくなるサフィート。

 軟弱な奴だ。そもそも、浮いているからって油断しているほうが悪い。

 どうも定員オーバー気味だと思って、墜落する前に体勢を整えておいた俺の勝ちだったな。ふっ。

 と。

「ライ氏!」

 シンの声。

 いつのまにか、魔人たちがみんなすぐ近くに来ていた。

「どこに行ってたんだ! みんな心配して――ああ、いや、いまはいい。それより、なにが起こってるのかわかるかい?」

「ああ。なんか、地下にあった洞窟が、弧竜が大暴れしたせいで崩れだしたって――」

 きぉおおおおおおっ!

 ちょうどそのとき、弧竜の吠える声が周囲に響き渡った。

「……あれだけ無茶やって無事なのかよ、あいつは」

 てか、鼻先で自分の吐息が爆裂したはずなんだけど。

 現実離れした光景だった。

 崩壊し、地下へと崩れていく地面。その地面を見放した宝石虫たちがいっせいに飛び立ち、光の吹雪を現出させる。

 その光景の奥、爆発の影響で真っ赤に燃え焦げる大地に、屹立した竜が吠え声を上げる。

 その目が、ぎょろりとこちらを向いた。

(……?)

 いま、自分が立っている場所を確認する。

 すでに街道と草原を分けるラインの内側に入っており、竜からは攻撃を受けないだろうという位置だ。

 大丈夫。

 大丈夫……の、はず、なんだけど。

「なんか、この世の終わりみてぇな光景だな」

「見たこともないくせによく言うよ、ったく」

「るせぇ、比喩だ比喩!」

「風情がありますねえ……」

「なあ、なんかおかしくないか?」

 漫才をやっている連中に向けて、たずねる。

「なにが?」

「なんであの竜、こっちのほうを見てるんだろう?」

「あ? そりゃあ……」

「適度に運動して腹が減ったから、ここにいる我々をおいしく頂こうということではないですかね?」

「……シャレになってないぞ、おっさん」

 テンの言葉に顔をしかめる俺。

 と。

「た、たたたた大変ですバルメイス様っ!」

「……そういや、おまえまだいたんだっけ、グリート」

 さっき思いきり地面に激突してた気もしたが、意外と丈夫だったらしい。

 コゴネルがその姿を見て、思いっきり眉をひそめた。

「おい、こいつは何者だ?」

「え? ああ、妖精。さっきそこで拾ったんだ」

 ひどくテキトーな説明をする。

「拾ったって、お前――」

「へえ、人語を発音できる妖精とは珍しいな。どれどれ」

 センエイが、ひょいっ、と後ろからグリートを抱え上げた。

「う、うわわああああっ!? な、なにごとですかあ!?」

「ふむ、やはり古代に生まれた個体だな。現在のものとは微妙に身体構造が異なる」

 つぶやいてから、きらきらした目でこちらを見て、

「時に、ライくん」

「ん?」

「これ、解剖していい?」

「ひ、ひあああああああああああっ!?」

 じたばた暴れるグリートを押さえつけて、センエイはにやりと笑った。

「まあまあ、落ち着きたまえよ妖精くん」

「助けてたすけてたーすーけーてぇぇぇぇ! 殺されるーっ!」

「はっはっは。なに、大丈夫さ。まったく痛くしないから。怖くない怖くない」

「……まあ、とりあえず痛くはならないよなぁ。死ぬから」

「こらこらライくん、オチを先にばらさないでくれたまえ」

「いやあああああっ! オチで殺されるのはいやああああっ!」

 至極もっともだ。

 まあ、とりあえずこっちもいまグリートを殺されるわけにはいかない。

「センエイ、ちょっと返せ」

「ちぇっ」

 言って、あっさりセンエイはグリートを解放した。

 ……まあ、もとから本気じゃなかったんだろうけど。

「うわああああんっ! ば、バルメイスさまぁっ!」

「あー、いいからちょっと落ち着け。グリート、さっきなにを言いかけたんだ?」

 泣きついてくるグリートをいさめながら、訊く。

「はっ!? そ、そうでしたっ! バルメイス様、大変なんですよぅっ!」

「なにが?」

「あ、そのう……実は、さっき崩れた要塞のなかに、対竜用の迷彩法陣っていうのが置かれておりまして……」

「迷彩?」

「周囲集落に迷惑をかけない、兼、要塞の門番代わりにするために、『草原の中しか見えない』ようにする呪いだったんですけど……」

「…………」

 俺は、もう一度さっきの竜のほうを見やった。

 相手はあいかわらずさっきの場所に留まっている。

 足元では例の触手がひっきりなしにひらめき、人形たちと激しく交戦中であるのがわかった。

 だが、その目はあいかわらずこちらを見ている。

 見ている、ということは、見えているということだ。

 つまり。

「要塞が崩れたから、迷彩も解けたってことか?」

「た、たぶん……」

 いや、なんか致命的にシャレにならないんですけど。それ。

「おや、わたしがさっき言ったことが当たりですかな?」

「嬉しそうに言うな、クソジジイ」

「師匠にクソジジイとはなってませんねえ、ペイ。まったく、いったい誰がこんなふうに育てたんでしょうね?」

「で、どうするよ? あの竜、こっちの隊商を狙う気満々だぜ?」

 バグルルのその言葉に、その場にいた全員の視線がシンへと集まった。

「こうなってしまった以上、選択肢はふたつ。逃げるか、倒すか」

「逃げ切れますかな?」

「時間稼ぎなしには、無理だね。だから、どっちにしても弧竜との交戦は避けがたい」

 しん……と、場が静まった。

 竜は、知られているあらゆる生物のなかでも、最強クラスの魔獣だ。

 それと戦わなければならないというのだ。沈黙するのも無理はない。

「悪い。やっぱ、俺が最初にマイマイの奴を止めておけばよかったんだよな。みんな、こんなことに巻き込んで済まない……」

 ――って、なんか誰も聞いてないし。

「へへへへへ……燃えてきたぜぇ。やっぱ戦いはこうでなくちゃな」

竜殺し(ドラゴンスレイヤー)か。称号としちゃあ悪くねぇな」

「砲撃で木っ端微塵にしてやるぜ……ひひひひひ」

「……正気か、あんたら」

 てゆーか、みんな目が怖いんだけど。

「そうだ。少し冷静になるんだ、君たち」

 意外にも、止めたのはセンエイだった。

「竜の内臓は高値で売れるんだぞ。木っ端微塵にしたら儲けが減るじゃないか」

 訂正。やっぱこいつも同類だ。

「なあ、あいつら止めなくていいのか?」

「いいんじゃないかな? どっちにしても戦うんだし」

「ほっほ。少年、諦めなさい。魔人など、しょせんは戦闘狂の集団ですよ」

「まるまるさんかく~♪」

「戦の風が吹いています」

 ……どうも、俺以外の全員がやる気満々みたいだった。

「魔術戦になる。全員、ハルカとセンエイを守る形で布陣。

 ペイとドクトル・テンはマイマイ達を馬車まで連れて行って、それから隊商を安全な場所まで避難させてください」

「俺たちが!?」

鋼鉄攻弾(カルバリン)は竜に有効ではなさそうだからね。ふたりは今回、裏方に回ってもらう」

「ふむ、よろしいでしょう。諸君のご武運をお祈りしておりますよ」

 手際よく魔人たちが準備を始めていく。

「なあ、俺は? なにをすればいい?」

 尋ねる。ここにいても足手まといにしかならなそうだ。

 シンはちらりと俺のほうを見て、

「サリがいないんだ。すまないけれど、探してきてくれないか?」

 そう言われてみれば、さっきからサリの姿が見当たらない。

「来るぞ! 全員、パーティーの準備は済ませたか!?」

「ライ氏、早く!」

「おう、すぐに連れてくるっ!」

 言って、俺は駆け出した。



 とは言ったものの。

「サリの奴、ほんとにどこに行ってるんだ?」

 こういうときには真っ先に駆けつけてもよさそうな奴なのに、なぜかどこにもいない。

 周囲はすでに、森へ退避しようとする馬車やらなにやらの群れでごった返している。人が多くて探すのも一苦労だ。

(てか、こりゃあ早く呼んでこないと、冗談抜きでシャレにならないぞ)

 背後からは、きゅぴーん! ずどーん! よーんよーん! という、ヤバい効果音がひっきりなしに響いてきている。

 怖くて振り返ることもできないが、激戦であることはまちがいない。

 焦った。

「サリー、どこだー!」

 大声でどなる。が、答えは返ってこない。

「あああああ、どこいったんだあのバカたれっ……!」

「バカはひどいと思う」

「だおあああああっ!?」

 いきなり後ろから話し掛けられて、飛び上がった。

「な、な、な、なな、」

「なー?」

「ななな、なー、な、なな、」

「なな、なー、ななな」

「なななな、な、なな、なー」

「ななな、なー」

 よくわからない言語でコミュニケーションを取り合う。

 うむ、なんか微妙に楽しいぞ。

 ……じゃなくて。

「いつからそこにいたんだよ、サリ?」

「さっきからずっと」

「声をかけろ、バカたれっ!」

「気づいてくれないから、悲しかった」

(こ、こいつは……)

 普段ならのーてんぐりぐりの刑に処するところだが、あいにく今日のところは時間がない。

「と、ともかく、急ぐぞサリっ」

「急ぐ?」

「ああ。弧竜のやつが襲って来やがったんだっ。もたもたしてると、あいつら全員黒焦げになっちまうっ」

 俺の言葉に、しかしサリは首を横に振った。

「って、どうした?」

「いま行く必要はない。もっとべつに、やるべきことがあるから」

「な、なんだよそれ?」

 す……と、サリの表情が変わる。

 あいかわらずの仏頂面のままだが、目に込められた力が違った。

 金属のような――それでいて強靭な意思を感じさせる、鋭い視線。

 たとえて言うなら、それはナイフの刃のよう。

「……サリ?」

 突然、沈黙した彼女に気圧されて、呼びかける。

 それには応えず、彼女はその視線を背後に向けた。

 つられて俺もそっちを見る。

 草原のあちこちに放たれた炎の明かりが、夜の闇のなかで行われている死闘をおぼろげに映し出していた。

 あの炎の下に、竜がいる。

 そして、魔人たちも。

「どっちが優勢だ?」

「弧竜」

 ……きっぱり言い切られてしまった。

「や、やばくないか? それって――」

 その言葉にサリがなにか言い返そうとした、その瞬間。


 冷え冷えする霊気が、周囲を覆った。


「! なっ……!」

 どくん。

 心臓が、跳ねる。

 信じられない――ありえない――考えられないほどの――強烈な――致死的なまでに濃い――悪意。

「か、はっ」

 全身をにぎりつぶされるような錯覚を覚え、俺はあえいだ。

 見えるわけではない――にもかかわらず、それが存在するということだけははっきりと理解できる。

 吐き気を催すほどの鬼気をまとった何者かが、竜の身体を受け止め、押し返しているのが『視え』た。

 きぃぃぃぃぃっ!

 弧竜が、悲鳴のような声を上げて吹き飛ばされる。

「な、サリ――あれ、なんだ?」

 かすれる声で訊く。

 サリはちらりとこちらを一瞥して、

「ヴォルド・テイミアス。死霊の大王。

 けど、あまりうまく召喚できてないみたい。瘴気の量が中途半端」

「あ、あはははは……」

 その中途半端な量でちびりそうになったことは黙っておこう。金輪際。一生。

 サリは、あいも変わらず鋭い視線で戦場をにらみながら、

「やはり、あの術でないとだめか……」

「なあ、サリ?」

「なに?」

「そろそろ、おまえがなにを企んでるのか教えてくれないか?」

 いいかげん、わけもわからず振り回されるのは勘弁してほしい。

「べつに、わたしはなにも企んでない」

「そうか? じゃあ、魔人たちがどういう作戦で戦っているのか、でもいいぜ?」

「知ってどうするの?」

「え?」

 サリは冷たい目で俺をにらみつけた。

「知って、戦いに参加するつもり? 冗談はよして。弧竜は、あなたみたいな未熟者が戦闘に参加して生還できるほど弱い敵じゃない」

 それまでのサリとは、うって変わったような辛らつな言葉だった。

「い、いやそれは、」

「ええ、たしかにライの剣は強力よ。けれど、弧竜の前じゃそんな力はとうてい役になど立ちはしない。この際、あなたは足手まといにしかならない」

「そ、そこまではっきり言わなくても――」

 思わず気圧されつつ、なんとか反論しようとする。

 サリは、ふっ……と表情を緩めて、

「ライ。お願いだから、だまって戦況を見守っていて。弧竜は――わたしが、確実に仕留めてみせるから」

 ……う。

 それは、危険な言葉だ。

 そんな、請うように言われたら――俺だって、強く主張することはできない。

 だけど、

(そんなに危険な戦いなら、なおさら気になるじゃないか!)

 それほど真剣な意図で訊いたわけでもなかったが、こうなったら意地だ。ぜったい聞き出してやる。

「けどさ。参考までに教えてくれるくらい、いいじゃないか」

「なんの参考?」

「え? えーっと、」

 とりあえず、思いついたでまかせを言ってみる。

「ほら、実戦での作戦の立て方を知っておけば、後々役に立つかもしれないし、」

「無駄。魔人の戦い方は攻撃と殺戮のための戦法よ。ライが隊商の護衛をするのに役に立つ知識なんかじゃない」

 瞬殺だった。

(え、ええい、負けるかっ)

「け、けどさあ、やっぱりほら、トモダチ同士で隠しごとはよくないってゆーか、そう思わない? な? な?」

 自分でもぜんぜん心にもないことを白々しく言いながら、なおも食い下がる。

 と、ふとサリが表情を変えた。

 見かけはさっきと変わらない仏頂面なんだけど、目がちがう。

 なんか、意表をつかれてびっくりしたような感じで、彼女は俺を見ていた。

「? どした?」

「…………」

 あ、なんかあきれたようにため息までつかれてるし。

 サリは、なんだか憮然とした表情でこっちを見やると、

「いいわ。教えてあげる」

「ほ、ほんとに?」

「どっちにしても、もうそれほど多くの時間はなさそうだから、手短に話すけど」

 言って、サリはふたたび視線を戦場へと向けた。

「ライの目だと、あの戦闘はどう見える?」

「え? そ、そうだなぁ……」

 視線を移すと、さっきの死霊と弧竜が空中でじゃれあっているのが見えた。

 が。

「なあ……あの死霊、押されてないか?」

「そうね」

「ひょっとして、実はけっこうピンチなんじゃないか? あれって」

「いいえ。あれは時間稼ぎをしているだけ」

 へ?

「ライ。そもそも、人間が人間を超えた相手と戦う場合、どういう戦闘手段がある?」

「え、えーっと、魔術とかか?」

「そう。魔法。あとは、神話の力を利用した秘蹟(ワンダー)も、場合によっては使える。

 魔人の場合、上級の秘蹟(ワンダー)はほとんど使用できないから、もっぱら魔法に頼ることになるの」

「はあ」

 なんか、話が見えないんですけど。

 こっちの戸惑いなどおかまいなしに、サリは続ける。

「魔法使いには4つの大きな系譜がある。それぞれ、四大使役(エレメンタラー)魔技手工(エンチャンター)幻影使い(イリュージョニスト)霊魂技師(ディアボロス)。それ以外の系統もあるけど、それは省略。

 この四つの魔術系はだいたい平等に強い。けれど、単純威力で計算した場合、霊魂技師(ディアボロス)系がまちがいなく最強になる」

霊魂技師(ディアボロス)……って?」

「俗流に言えば、召喚魔術。この世に存在しないはずの存在を使役し、呼び出して戦わせる魔法。

 特に高位の召喚原理は極めて強力。他の系統では、とてもじゃないけど太刀打ちできないほど」

「高位の召喚原理……?」

「たとえばさっきのヴォルド・テイミアスだって、完全召喚に成功していれば竜なんか片手で打ち倒せる」

 ……おいおい。

「す、すげえ術なんだな……」

「うん、すごい。欠点も多いけど」

「欠点?」

「そう。霊魂技師(ディアボロス)の魔術には致命的な欠点がみっつもある。強力なわりに術者が少ないのは、そのせい。

 ひとつ目には習得の難しさ。個々の召喚原理はどれも独特な癖を持つから、長く訓練してきちんと把握しないとまともに召喚できない。

 ふたつ目に消耗の激しさ。どんな微細な召喚術でも、連続使用はほとんど不可能よ。術者の疲労が著しすぎる。

 最後に、単純に準備時間が長い」

 ようやく、俺にも言わんとしていることがわかってきた。

「オーケーわかった。つまり、あそこで戦ってるのは本命の召喚魔法を使うための時間稼ぎってことなんだな?」

 こくん、とサリはうなずいた。

「ヴォルド・テイミアスを呼び出したのは、たぶんセンエイだと思う。今回のチームで強力な召還を使えるのは、彼女とあとひとりだけ。

 残るもうひとり――ハルカが持つ最強の術、レーヴァティンが直撃すれば、弧竜だって無事ではいられない」

 つまるところ、

「要は、俺やおまえが手を出すまでもないから、黙って見とけってことか?」

 おおげさにサリが言うせいでびびってたのだが、杞憂だったらしい。

 だが、サリはまた首を振った。

「ライ。試みに訊くけれど、わたしがあなたの喉首を掻き切ったとして、あなたは生きていられる?」

「え、いや、そりゃ死ぬだろうけど」

「すると、そこからあなたはわたしがナイフを振るっただけで死ぬという結論は導けると思う?」

 ……えーっと、つまり。

「当たらなければ、死なない。そういうことか?」

「そう」

 サリは、また鋭い視線で戦場のほうを見やった。

「レーヴァティンがうまく直撃すれば、それでよし。けれどそうでなかったとすれば、苦しい戦いを強いられることになる」

「じゃあ、そのときはどうするんだよ?」

「それは――」

 と、そのとき戦場の一角にぽつっ、と赤い光点が発生した。

「時間切れみたい。ライ、あなたはここで待ってて」

「え、おい、ちょっと、」

 答える声が届くよりも、早く。

 サリの身体は、まるで弾丸のようなスピードで戦場に向かって駆け出していた。

「ちょ、ちょっと待てよ!?」

 あわてて追いかける。

魔術紹介:

『ヴォルド・テイミアス招請』

系統:召喚術 難易度:S

「死霊の大王」の二つ名を持つ大怪獣、ヴォルド・テイミアスを召喚して使役する魔術。

しかし、高位霊格の召喚であるため、通常の方法で呼ぶことはほぼ不可能であり、なんらかの形で妥協しないと最高ランクの召喚術者ですら呼べない。

今回の場合、センエイはまず召喚者の権限が一段階低い「招請」と呼ばれる技術を用い、さらに分割召喚と呼ばれる技術で一部の力だけを召喚しているので、かなり難易度は下がっている。それでも、このクラスの魔獣を呼ぶのはかなりの難行であり、センエイの術士としてのレベルの高さを表している。

余談だが、この魔術を正しく「召喚」の形で行使することができた魔術師は歴史上ただ一人しか知られておらず、その魔術師はこの偉業によって「テイミアスの花嫁」という異称を与えられ、恐れられている。

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